【完結】おおかみ☆せんせーしょん(ハーメルン移植版)   作:ブドウ冷やしんす

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轟々(ごうごう)と燃え盛る炎の中、技術開発局主任の雄ミノタウロスは、(ひび)割れた眼鏡を床に叩き付け、黒い『それ』に問うた。

「何故こんな事を! 我々に何の恨みが!?」

黒い『それ』は言った。

「質問を間違えているぞ」
「何?」
「逆に()きたい。お前は、昔のように人間を食べたいと言っている同胞を『野蛮な奴め』と鼻で笑ったりはしなかったか? 自分と考えが違うだけで『アイツはミノタウロスじゃない。きっとビーストマンの工作員だ』と見下した事はないのか? お前達は『本当の意味で』同胞を信じていたのか」
「…………」
「私は、ただ、ほらこの通り」

黒い『それ』は、手に持っていた設計図を火に投げ入れた。

「燃え残りがないように()べているだけだ。丁度、火が燃えていたのでね。この建物に火を付けたのだって君の部下だろ。忘れたのか?」
「………………」
「……お前達を殺したのは、お前達自身だ。故に、」

黒い『それ』は、(あわ)れむように、(あざけ)るように、憎むように、悲しそうに笑った怒り顔とでも言うべき複雑な表情で、言った。

「その殺戮者に、(かお)など、無い」

その言葉を最後に、『それ』の姿は掻き消えた。

建物が火災で崩れ落ちる轟音の中、ミノタウロスの慟哭(どうこく)が響いた。




幕間 バベル、あるいは無貌(むぼう)殺戮者(さつりくしゃ)

 

sideイビルアイ

 

 

《リおん転移の1年前 王都リ・エスティーゼ》

 

 

 

 

 

その日、私は情報収集ついでに街の様子を見て歩いていたのだが、嫌な奴の顔まで見るハメになってしまった。

 

 

「やぁ、イビルアイ」

 

 

黒いローブに黒い顔、そして恐らくは腹の中まで真っ黒であろう魔法詠唱者(マジックキャスター)、アルス・マグナス。

 

 

ツアーに協力する意思のある『ぷれいやー』……というが、表向きの態度ではないかと疑っている。

 

 

ツアーは友達だと言っているが、どうだか……私は信用していない。

 

 

コイツと知り合って、かれこれ90年以上……いや、もうそろそろ100年、か。

 

やれやれ、次に来る『ぷれいやー』はこんな(・・・)じゃなきゃ良いのだが。

 

 

そんな事を考えてたせいか、つい不快感を隠さない返事をしてしまった。

 

いつも通りに。

 

 

「……なんだ、お前か」

 

 

随分(ずいぶん)ご挨拶(・・・)じゃないか……おチビちゃん(・・・・・・)

 

 

なんだとコラー!!

 

 

いつも通り、ついカッとなった私は飛び()りをした。

 

 

そして、いつも通り(かわ)された。

 

 

おのれ、呼吸するように転移魔法など使いおって……

 

 

()けるな!!」

 

「蹴るなよ、そもそも」

 

「私に蹴られるような事を言うからだろ!」

 

「私にそんな事を言わせる、自分の態度(たいど)を改めたらどうかね。人を見て対応を変えているんでね、私は」

 

 

ああ言えばこう言う!!!

 

 

そんな私の怒りも、ヤツは意に(かい)さず、

 

「やれやれ、顔を合わせる(たび)にこれか。であるなら失礼させてもらうよ? これでも私は(いそが)しいのでね」

 

 

「待て!……忙しい? 貴様、また何か(たくら)んでいるわけではないだろうな!?」

 

 

「企む? あぁ、例えば聖王国でのアレか? なかなか良い大会だろ?」

 

 

む……天下一仮面武闘会か……

 

「……確かに種族間の軋轢(あつれき)緩和(かんわ)するかも知れない点は評価するが」

 

 

「(称号による影響の有無(うむ)を見たかっただけなんだが……) 「何か言ったか」いや、別に」

 

 

「……やはり、本当は裏の思惑(おもわく)でもあるんじゃないのか」

 

 

何かを隠すような言い方に、私は疑いの眼差(まなざ)しを向ける、が……

 

 

「今はドワーフのルーン文字を研究したいと思っているし、心配しなくとも、しばらくは聖王国には近付かないよ。というより近付けない、というべきか」

 

 

「何? どういう意味だ」

 

 

「おぉ! 聞いてくれよイビルアイ! それなんだが」

 

 

やばい、と思った時には遅かった。

 

何故コイツの愚痴(ぐち)なんぞ聞かねばならんのか……

 

 

(いわ)く、酒場で

 

『国のために働いているのに、性悪(しょうわる)だの腹黒(はらぐろ)だの、こっちの気も知らないで好き勝手に言って……』

 

自棄酒(やけざけ)を飲んでいた女に

 

『誰にでもできる事じゃない、他人が何と言おうと胸を張ったら良い』

 

ちょっかい(・・・・・)をかけたら簡単に釣れたのは良いが、いつの間にか彼女(づら)

 

人魚(マーマン)の文化を調べたいと

 

(何故そんな事を……)

 

いつものようにフィールドワークとして港で若い人魚(マーマン)の女に聞き込みを

 

(いつもそんな事してるのか……)

 

しようとしたら見咎(みとが)められ、浮気だ何だと言いがかりを付けられて何を言っても聞き入れられず、聖王国では思うような活動ができないと判断して這々(ほうほう)(てい)で逃げて来た、と。

 

 

()()

 

あっち(・・・)にいた頃から色々な人間で遊んで(・・・)きたが、ここまで迷惑を(こうむ)ったのは久しぶりだ」

 

などとナチュラルにドクズ発言。

 

 

安易(あんい)に火遊びなどするからだろうに。

 

完全に自業自得(じごうじとく)だ、バカめ。

 

 

「……と、まぁそういう事だ」

 

 

「知らん! そもそも、私が言っているのは……」

 

私は盗聴(とうちょう)防止の魔法を発動させる。

 

「……ミノタウロス国のような話だ。忘れたとは言わせんぞ」

 

 

するとヤツは肩をすくめ、

 

「私が何をしたと言うのかね。何もしてない(・・・・・・)だろう?」

 

(あざけ)るような顔をして続けた。

 

「……連中が勝手に『情報の受け取り方を間違えた』だけじゃないか」

 

 

……これがコイツの本性だぞ、ツアー!

 

 

私は怒りに震えそうになる声を(おさ)えて言った。

 

「……あぁ、そうだな。お前は(・・・)何もしなかった。

 

お前がしたのは、いくつかの醜聞(しゅうぶん)をバラまいた事だけ。

それも、事実だけをな。

 

ただし、背後関係や当人たちの()むに()まれぬ事情などを隠して、だ。

 

その結果はどうだ。

憶測(おくそく)がデマを生み、派閥(はばつ)争いを作り出し、ありもしない秘密結社の(うわさ)(ひと)り歩き、最終的には疫病(えきびょう)の浄化と(いつわ)った虐殺(ぎゃくさつ)紛争(ふんそう)だ!

 

お前は、それを(わら)って見ていただけだったな!!」

 

 

だが、ヤツは(すず)しい顔で

 

「だから何だね、人聞きの悪い。まるで火付けしたみたいに言わないでくれないか?

 

『作り出した』?

そんなもの、『最初からそこにあった問題』から本人達が目を(そむ)け続けていただけだろう。

それが表面化したに過ぎん」

 

 

「それで何人の奴隷たちが巻き()えになったと思ってる! 折角、人間が家畜から奴隷に格上げされた実績になったものを」

 

 

「さてね。

 

『実績』?

ハッ! それとて勝ち取ったわけでもなく『他者の都合』だろ。

 

全ての生命は、生まれる場所など選べない。

リスクなど、あらゆる存在に平等にあるのだ。

 

問題は、その中でどう生きるか、だ。

 

自分では何もせず、他所(よそ)に安易な結論を求めるような連中など、知った事じゃあないね」

 

 

コイツ、いけしゃあしゃあと!!

 

 

「それに、私は『友』の(うれ)いを取り(のぞ)いてやっただけだ」

 

 

コレだ。

 

きっとツアーは、自分が相談したせいだと罪の意識を……

 

そうでなければ、こんなヤツを『友達だ』などと(かば)うはずがない!

 

 

いつか問い(ただ)した時も、こちらに背を向け『モゴモゴ』言うばかり……あの時『飲み込んだ』言葉は何だったんだ!

 

私に『何を隠している』んだ!

 

……私だって友達だろう?

話してくれたって良いじゃないか……

 

 

いや、今はそんな事を気にしている時じゃない。

 

 

私はヤツを『キッ』と(にら)み付けて言った。

 

「それでも、他に方法があったはずだろ!」

 

 

しかし、私の言葉も態度も、ヤツには届かず。

 

「やれやれ、簡単に言ってくれる。それに、君は少々『素直(すなお)』過ぎる」

 

 

「……何?」

 

 

「本当に正しい事がしたいなら、少しは疑う事を覚えるべきだ」

 

 

「だから! 今、お前を疑っているだろう!」

 

 

「そうじゃない。疑うべきは『君自身』だよ」

 

 

「……な、何だと?」

 

 

「ヒトは皆、自分の考えを補強できる『立場』を好む。そこを足場にして、その上から見える景色で物を言う」

 

 

「それは……そうとも、分かっている。私は神じゃない。だが! だからこそ目の前の悪を見逃す訳にはいかないんだ!!」

 

 

だが、ヤツは……

 

「ハッハッハ! 違う、違うよイビルアイ! 目の前しか見ていないという意味じゃない!」

 

 

愉快そうな笑いから一転、嫌悪感を隠しもしない侮蔑(ぶべつ)の表情で言った。

 

「………………目の前すら見えていない(・・・・・・・・・・・)、と言っているんだ

 

 

「……な、」

 

『何故そこまでの感情をぶつけられねばならないのか』という、納得のいかない不満や戸惑(とまど)いに言葉を失った私に、つまらなそうにヤツが続けた言葉で限界が来た。

 

「……そんな事だから、いつまで経ってもおチビちゃん(・・・・・・)なのさ」

 

 

「……………………………………身長は、

 

魔法無詠唱化(サイレント)魔法抵抗難度強化(ペネトレートマジック)

 

関係ないだろぉぉぉぉぉ!!!

 

魔法の矢(マジック・アロー)!!

 

 

それでもヤツは『アッハッハ』と笑いながら、上空へ逃げつつ、()でるような手付きで次々と魔法を()なし、無効化していく。

 

 

……クソっ、飛行(フライ)なんていつ唱えてたんだ。

 

大体、食らったところでダメージなど無いだろ。

一発くらい当たれよ!

顔面に!!

 

 

腹の立つ事に、ヤツは高みから私を見下ろしながら言う。

 

「全く。言葉の(あや)くらい分かってほしいものだがね。身長の事だとは言ってないだろ?

 

……君みたいなタイプは恋愛には気を付けた方が良いよ。

 

良かれと思って殺そうとした怪物が、実は()いた男の家族かも知れないし、一目()れした(うるわ)しの騎士が、中身は骸骨かも知れないからねぇ」

 

 

「何を訳の分からん事を!!」

 

 

何が恋愛だ。

 

そんなもの、弱さを抱えた者たちの『気の迷い』に過ぎん。

 

 

いや、認めるのは(くや)しいが私より強いコイツが、いつまでも火遊びなどするくらいだ。

 

もしかしたら精神病の一種かも知れん。

 

『恋の病』とか言うものな。

 

 

おぉ、イヤだイヤだ。

 

そんなもの私は絶対に(わずら)ったりせんぞ。

 

絶対に、だ!

 

 

「いつまでも君と(じゃ)れ合っているわけにもいかないから、私は失礼させてもらうよ? そろそろ、我が友人達がこっち(・・・)に来るだろうし」

 

 

「な!? 何だと! それは」

 

私が問い質そうとした言葉を無視して、ヤツはニヤリと笑い、

 

「さらばだ、キーノ(・・・)

 

転移魔法で、今度こそ消え去った。

 

 

……チッ、あんなヤツに本当の名前など教えるべきではなかった。

 

少しでも信じた過去の自分を()じるばかりだ。

 

 

おのれ、アルス・マグナス……

 

いつか必ず化けの皮を()いでやるぞ!!

 

 

 

 

 

 

 

 

……その後、私は『街中で魔法を撃った』と衛兵に職質された。

 

 

迎えにきたラキュースに

 

「ウチの子がすみませんでした!」

 

と、頭を下げさせられた。

 

……私の方が年上なんだぞ。

 

 

 お ぼ え て ろ よ ア ル ス !!!





「 (モグモグ、ゴキュン……クルリ) 確かにあんな性格のヤツだけど (いつも美味しいお土産とか持ってきてくれる) 良いヤツなんだよ。いつか (アイツが君の分のお菓子も持ってきてくれたら) きっと分かってもらえると思うよ」
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