【完結】おおかみ☆せんせーしょん(ハーメルン移植版)   作:ブドウ冷やしんす

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ライプニッツの深い森

 

「それじゃ、最後の仕事片付けて来らぁ」

 

 

「よろしくお願いします!アルシェも気を付けてね?」

 

 

「うん、いってきます」

 

 

城門の前でフォーサイトを送り出すリおん。

 

呪歌の支援ありとはいえ、ドラゴンを倒してみせた4人ならば心配は不要だろうとリおんは思っていた。

 

 

見送りを終えたリおんは皇帝執務室へと戻る。

 

 

「行ったか」

 

 

「はい。彼らなら森の調査くらい問題なく(はた)してくれるでしょう」

 

 

「確か、お前の見立てでは『精霊種か何かでは』という話だったな」

 

 

「えぇ、湖からは毒物も検出されず、移動している動物たちも健康上は異常が見られなかったようですし、アンデッドが彷徨(うろつ)いている様子もない以上、森全体に影響力を発揮(はっき)するとしたら精霊くらいしか思いつきませんから」

 

フォーサイトを(まじ)えた事前ミーティングで、そのようにリおんは分析していた。

 

そう、レベル30〜40代の『この世界で一般的な強者であれば』(まと)()た分析である。

 

「ですが、ドルイド魔法を操る種族も色々いますし、何者かが悪意で召喚したモンスター、なんて可能性もありますので、そうした『集団』が相手だった場合に備えて軍を動員できる準備は必要でしょう。フォーサイトだけでは手が足りなくなる状況も考えられますから」

 

 

「そうだな。いくら強くとも数で来られてはキリがない」

 

 

 

……この時は、まだ『この世界の常識が通用する相手』であると疑いもしていない彼らは、そのように話し合っていた。

 

 

┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄

 

 

「久しいな、フォーサイト」

 

 

「よ、ザリュース。あれから異常なしか?」

 

 

前回と同じルート、強くなったフォーサイトはリザードマンの集落まで苦もなく辿(たど)り着いた。

 

(なお)、今回も森の賢王はニアミスだったらしい。

 

 

「……ヘッケランお前、腕を上げたか?」

 

 

「お、流石にわかるか。実は俺たち霜の竜(フロスト・ドラゴン)仕留(しと)めてな」

 

 

霜の竜(フロスト・ドラゴン)だと!? これ以上ない戦士の(ほま)れではないか!……見てみたかったな……その時の事を聞かせてくれ!」

 

 

「あぁ、もちろん!」

 

 

フォーサイトは霜の竜(フロスト・ドラゴン)の素材で一人一種ずつ装備を作った。

 

一種ずつに限定したのは、折角(せっかく)の支給品(ユグドラシル装備)を外すのが弱体化にしかならないためである。

 

単にチーム共通のトレードマークが欲しかっただけなのだから。

 

ヘッケランとイミーナは竜鱗で、それぞれグリーブと手甲を、ロバーデイクとアルシェは竜革で、サーコートとグローブを新調していた。

 

 

それ以外の素材については、帝国が高値で買い取ったり、リおんの提案でドラゴンステーキに使われ、記念の晩餐(ばんさん)で城の料理長は奮起(ふんき)した。

 

竜は捨てる部位がない。

 

貴重な素材が手に入って、フールーダや魔法省の職員達もホクホク顔だった。

 

 

それはそうと、ヘッケランが気になったのは、

 

「……なぁザリュース、横にいる植物系モンスターみたいのは?」

 

 

「む。植物系モンスターではない。日差しから肌を守るために少々(・・)着込んではいるが、リザードマンのクルシュ……俺の妻だ」

 

(ほこ)らしげながら少し照れ臭そうにザリュースは紹介した。

 

 

「なに嫁さんだと!? この色男め!」

 

ヘッケランは(ひじ)で小突くようにからかう。

 

冒険に(あこが)れた者同士、馬が合うのだろう。

 

 

植物系モ……いや、クルシュが(わかりにくいが)お辞儀(じぎ)して挨拶する。

 

「近く正式に婚姻の儀を挙げる事になっているクルシュ・ルールーと申します。皆さんの事は夫から聞いております。養殖技術の件でお世話になったのだとか。私からも深くお礼を」

 

食料問題で悲惨な経験をしたからか、礼に実感が()もっていた。

 

 

ヘッケランが「実際に知識を与えたのはリおんだが」と前置きした上で本人にも伝える(むね)を述べ、メンバーそれぞれ『よろしく』と挨拶していく。

 

 

と、ロバーデイクが意味ありげな笑顔で口を開く。

 

「いやぁザリュースさんが結婚ですか。これは負けていられませんね、ヘッケラン?」

 

 

「んな!? 今は別にいいだろうが!」

 

 

その雰囲気にザリュースも流石(さすが)に気付き、

 

「ヘッケランもしや!」

 

と、同じく挙動不審になったイミーナとヘッケランを交互に見て……

 

 

そのような感じに再会の一日目は(なご)やかに過ぎて行く。

 

 

 

……後に、自分達が如何(いか)なる現実に直面するか想像もせず。

 

 

┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄

 

 

翌日、リザードマンの集落を出たフォーサイトは、一路、北を目指して進んでいた。

 

 

ここからは完全に未知のエリアであり、流石のフォーサイトも慎重(しんちょう)に移動する。

 

雑魚モンスターに苦労する事こそないものの、意外な強者が潜む可能性も捨てきれない。

 

また、調査の目的である『異変』の主が移動しないとも限らない。

 

 

トブの大森林は山脈を挟んだU字型なので、相手が移動せず場所が特定できていれば真横から入るのが最も効率的なのだが、証言を得たリザードマン集落から辿るように調査するしかない。

 

 

魔法省で試作された量産型無限の背負い袋(インフィニティ・ハヴァザック)で物資は多めに持って来た上、リザードマンの集落で魚の燻製(くんせい)や薬草も入手できたのだから、慎重になり過ぎて損をする事もないだろう。

 

 

そのような行動方針が(こう)(そう)したか、イミーナが、

 

「待って」

 

歩みを止め、全員が警戒する。

 

 

フェイントのためだろう。直前まで視線を向けていた方向とは違う場所へ、イミーナは素早く矢を射った。

 

 

「ほぅ、わしの存在に気付くとはのぅ」

 

 

外したようだ。

 

イミーナが狙った場所の、木の陰からナーガが姿を現した。

 

それに呼応してか、周囲に蛇の気配。

 

 

「こんな奥地にまで人間とは、珍しい。おぬしら、何をしに来た」

 

 

「……森に異変が起きていると情報があって、調査しに来た」

 

意外にも理性的に対話から始めるナーガに、警戒はしつつも応対するヘッケラン。

 

魔法やマジックアイテムなどの可能性を除けば、ナーガという種が森全体に及ぶ影響力を有するとは考えにくい、と。

 

『異変の主』でなかったとしたら、無駄な戦闘で消耗(しょうもう)したくはない。

 

 

ナーガは油断なく(にら)みつつ、

 

「……ふぅむ、強者の気配は伊達ではない、か。よもや森の外に住む人間どもの中に気付く者がいるとはな」

 

 

「何か知ってるのか?」

 

 

「まぁな……わしは西の魔蛇と呼ばれる、森の西側の支配者なのじゃが、ここ最近、雑魚どもが流れて来て縄張(なわば)りを()らしおるでな。他におる森の強者といえば南の魔獣、東の巨人。奴らが何かしたのではと思い、見に来たというわけよ」

 

 

「なるほど……(南の魔獣……森の賢王、か?)アンタがここにいるって事は、南のヤツは違ったのか」

 

 

「あぁ、グの奴と違い話は通じる奴じゃが、縄張りの外に関心はなく、何も知らぬとよ」

 

 

「グ?」

 

 

「東の奴の名じゃ。トロールの一種らしく、トロールやオーガを従えておる。直情的で傲慢(ごうまん)、知性の欠片(かけら)もない。つまり今のところ奴が一番怪しいという事になる。そこで相談なんじゃが、わしと手を組まぬか」

 

ナーガは考えた。

 

(体の動かし方、恐らくは同じ竜から作った装備……こ奴らは強い。こちらに有利な森で、配下を使い潰したとしても、わしが死を覚悟するであろうほどには。

 

グに制裁を加えるなら、わしらだけでは手に余る。手間を(はぶ)けるなら悪くはない。

 

それで疲弊するなら、その時に食ってやろう)

 

 

このナーガは強者のプライドより狡猾(こうかつ)さを選らんだようだ。

 

 

これに対し、ヘッケランは

 

(どう考えても、後で油断は禁物だな。それにトロール? 精霊種の影響じゃなくて、単なる縄張りトラブルだったのか?)

 

とは思いつつ

 

「なるほど……こっちも無駄な消耗は避けたい。いいだろう。一応、名乗っておこう。俺たちは冒険者チームのフォーサイトだ」

 

 

「わしの名はリュラリュース・スペニア・アイ・インダルンじゃ」

 

 

()くして、魔蛇と取引を交わしたフォーサイトは、ナーガ達を引き連れ再び北上を始めた。

 

 

┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄

 

 

ナーガ達の存在が効いたのか、フォーサイトは順調に歩みを進めた。

 

 

ヘッケランがリュラリュースに(たず)ねる。

 

「グってヤツの(ねぐら)は、まだ先か?」

 

 

「わしも、実際ここまで来たのは初めてじゃが、聞く所によれば『枯れ木の森』の先なのだとか」

 

 

「『枯れ木の森』?」

 

 

「何でも、枯れた木ばかりの土地があるらしい。これは推測じゃが、昔この大森林にはダークエルフが住んでおってのぅ。何やら強大な化け物が暴れたとかで、森を出て行った。大方その化け物が暴れた跡地じゃろぅて」

 

 

「へぇ……その化け物ってのは?」

 

 

「さてな。ずっと西に住んでおるわしには、よぅわからん」

 

 

周りを警戒しつつ話を聞いていたイミーナが言った。

 

「見えてきたんじゃない? 『枯れ木の森』」

 

イミーナが示す先には、確かに枯れ葉の色が見えている。

 

 

ここを抜けた先か、と、全員が緊張感を持ち始めた時……

 

「……あのぅ」

 

 

「誰!?」

 

イミーナが弓を向ける。

 

 

「ま、待って待って! 戦いに来たんじゃないよ!」

 

 

そこにいたのは、

 

「……ドライアード?」

 

一体のドライアードが、木の陰から(のぞ)いていた。

 

 

「わたしピニスンっていうの。ピニスン・ポール・ペルリア。人間とエルフがいるから声をかけたんだけど、話を聞いてくれない?」

 

 

「一応、言っとくけどエルフじゃなくてハーフエルフ、ね?……話って?」

 

 

「昔ここに来た7人を連れて来てほしいんだ。若い人間が三人、大きい人が一人、年寄りの人間が一人、羽が生えた人が一人、ドワーフが一人なんだけど、知らない?」

 

 

それを聞きイミーナは、やれやれと言いたげにこたえる。

 

「……あのね? 近い種族だからって、みんな知り合いとかじゃないのよ。名前とか、どのくらい昔とか……そもそも、何で連れて来てほしいのよ」

 

 

「名前って言われちゃうと困るけど、昔、うーん……あれから太陽が、たっっくさん昇ったよ?

 

 

いや知らないわよ!!

 

 

リュラリュースが(しび)れを切らし、

 

「話にならん。無視してさっさと行くぞぃ」

 

 

しかしピニスンは(あわ)てて止めた。

 

「ま、待ってよ! 連れて来てもらわなきゃ困るんだ! 君たちだって大変な事になるんだよ!?」

 

 

不穏(ふおん)な一言に、ヘッケランは聞き返す。

 

「……そいつは、どういう意味だ?」

 

 

「世界を滅ぼせる『魔樹』が目覚めそうなんだ!」

 

 

とんでもない規模の話を持ち出すピニスンに、流石に(おお)袈裟(げさ)ではないかと思いつつも、

 

(俺たちは『森全体に影響するような異変』を調査しに来たんだ。こいつ、見るからに幼稚っぽいし、大袈裟に見えてるだけかも知れん。だとしたら、少なくともトロールよりは逆にピッタリな話じゃないのか?)

 

と考え、とりあえず聞いてみる事にした。

 

 

「ピニスン、だったか? その話、詳しく聞かせてもらおうか」

 

 

だがリュラリュースは苦言(くげん)(てい)する。

 

「おい、おぬし。今は」

 

 

それを(さえぎ)りヘッケランが説得した。

 

「まぁまぁリュラリュースさんよ、こいつの話が大袈裟にしたって、トロールと戦ってる背後で(みょう)なモンスターが目を覚ましたりすんのは嫌だぜ? 俺らは」

 

 

「むぅ……仕方あるまい。手短に頼むぞ」

 

 

「おぅ。で、ピニスン。その『魔樹』とかいうの、名前とか特徴とか教えてくれ」

 

 

「名前は確か……えっと、なんだっけ……ああ、そうそう! ザイトルクワエだ! ザイクロなんちゃらの一種とか言ってた!」

 

 

そこから始まった証言に、一行は困惑する。

 

 

(いわ)く、200歳以上であろうピニスン(リュラリュースの見立て)が生まれるよりも(はる)か昔に空から降って来たらしい、周囲から生命力を(うば)う、天を()くような巨木の化け物。

 

曰く、それが原因でダークエルフが逃げ出した。

 

曰く、『昔ここに来た7人』によって封印され、眠りに()いていたが、最近は触手を伸ばすようになってきた。

 

 

「アタシの本体の木も近いから、いつ枯れちゃうかと不安で……」

 

 

話を聞いたフォーサイト一同は緊張した面持ちで顔を見合わせた。

 

ヘッケランが言う。

 

「……当たりだろ、これ」

 

最早(もはや)トロールどころではない。

 

 

流石(さすが)にリュラリュースも『もしかすると』と思い、

 

「……どのみち、グの塒は『枯れ木の森』の向こうじゃ。念のため、手前も調べておくべきじゃな」

 

方針は決まった。

 

 

ヘッケランはピニスンに言う。

 

「俺たちは森の異変を調査しに来たんだ。お前の言う7人ってのは『十三英雄』かも知れないから、連れて来るのは無理だ。だから俺らが調べて、もし本当に手に負えないようなら国に知らせて、対策を考えるしかない」

 

 

「え、どうして無理なの!?」

 

 

イミーナが引き継ぐ。

 

「アンタには分かんないかも知れないけど、人間は200年も長生きできないのよ」

 

 

「そ、そんな……」

 

 

「とりあえず調べてはみるわよ。そんな化け物が暴れたら、私らの国も大変な事になるもの」

 

 

「……うん……わかったよ……手が見つかったら、アタシが枯れちゃう前にお願いね?」

 

落ち込むピニスンに、ロバーデイクが気遣(きづか)うように応える。

 

「えぇ。色々と教えてもらったのですから、善処はします」

 

 

一行は、『枯れ木の森』へと足を踏み入れた。

 

 

┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄

 

 

枯れた木々ばかりでモンスターどころか動物や虫さえいない『死んだ世界』を一行は進む。

 

 

不気味であるだけでなく、実際、いつどこから触手が襲ってくるかも知れない危険地帯。

 

 

自然と無口になり、警戒を(ゆる)める事なく歩き続けた。

 

 

そうやってしばらく進んだ時だった。

 

「む!?」

 

リュラリュースは何かを見つけた。

 

 

「どうした?」

 

と、ヘッケラン。

 

 

リュラリュースは額に汗を(にじ)ませ、

 

「……こっちじゃ。付いてこい」

 

 

その後に続き進んだ先には、木々が()(はら)われたような場所だった。

 

何やら干涸(ひか)らびた大型亜人種の死体が、何体か放置されていた。

 

 

「こいつは……」

 

ヘッケラン達が状況を(はか)()ねていると、リュラリュースが死体の一つを指して言った。

 

近くには大剣が転がっている。

 

「こいつがグじゃ」

 

腹には大きな穴がポッカリと空いていた。

 

「……はは、手間が省けたのぅ

 

そう言うリュラリュースだったが声は震えており、全く愉快そうではない。

 

「フォーサイトよ。ぬしらに出会した事を感謝せねばなるまい」

 

その意味を察したヘッケランは、

 

「……ピニスンに話を聞いて、正解だったろ?」

 

皮肉っぽく言っているが、こちらも空元気だ。

 

「あぁ、そうじゃな。教訓になったわぃ。とはいえ、その教訓を活かせるほど長生きできるか不安になってきたがのぅ」

 

 

グの死体を検分したアルシェが口を開く。

 

「多分、吸収(ドレイン)系の攻撃。……それも、トロールの回復が追いつかないほどの」

 

それを聞いたリュラリュースは顔を(しか)め、額に手をやった。

 

「グよ。馬鹿じゃ馬鹿じゃとは思っておったが……『貴様が与えた(えさ)』のせいで目覚めが早まったりしたら、本気で(うら)むぞ、わしゃ」

 

 

現場検証を終えたイミーナが解説する。

 

「恐らく、地中から突然『触手』が飛び出してきて薙ぎ払われたのね。首や背骨をへし折られた跡がある。グは大剣で防ごうとしたみたいだけど、吹っ飛ばされて木に激突……体勢が崩れてるところに一突き。他のやつは回復が間に合わなかったのか、恐怖で腰を抜かしたか、あっという間だったようね」

 

そこまで語ったイミーナは「それと……」と言いかけて、躊躇(ためら)いがちに問う。

 

 

「……嫌な事、言っていい?」

 

 

イミーナの様子から、間違っても『面白い冗談の(たぐ)い』ではない事くらい理解したヘッケランだったが、

 

 

「それでも、聞かなきゃ何も知らないで死ぬだけなんだろ?……言ってくれ」

 

 

「……触手の太さはグの腹を見ての通り。長さは、私たちが倒した霜の竜(フロスト・ドラゴン)トランジェリットと同じくらい、よ」

 

 

つまり『高々、手足一本』で、そのサイズ。

 

しかも『地上に伸ばした分だけで』である。

 

 

「……最悪だな」

 

 

リュラリュースは二重の意味で震撼(しんかん)した。

 

フォーサイトが、それほどの竜を打倒した猛者(もさ)である事と、その猛者をして『最悪』と絶望感を(にじ)ませる化け物が、自分達の森に眠っているという事実に。

 

 

「フォーサイトよ。国で対策を考えると言っていたな。勝算あるのか?」

 

 

ヘッケランが難しい顔で答える。

 

「俺らだけじゃ無理とは思うが、ブレインの旦那(だんな)やリオンがいれば、あるいは……」

 

 

「……おぬしらには、是が非でも生きて帰ってもらう必要が出てきたな。ぬしらほどの強者に護衛など不要かも知れぬが、わしの配下を森から抜けるまで貸してやろう」

 

 

「……そいつはありがたいね。一分一秒でも()しい。まぁ、まずは『魔樹』の本体を見てだけおくか」

 

気安い感じにも聞こえる言葉だが、その真意の半分は諦観(ていかん)である。

 

 

『十中八九、魔樹は手に負える相手ではない』と。

 

 

 

 

 

 

アルシェによる生命隠し(コンシール・ライフ)で存在を隠蔽(いんぺい)しつつ一行が(しば)し歩みを進めると、枯れ木が途切れ、開けた場所に出た。

 

 

遠く、目の前の光景にいる『ソレ』を呆然(ぼうぜん)(なが)め、ヘッケランが(つぶや)く。

 

「……スゲーよな、俺ら」

 

 

同じく呆然と眺めていたイミーナは、真意が(つか)めずヘッケランを見やる。

 

 

「俺ら『真の冒険者』は『(いなご)の群れ』を見つけるのが使命だった……その第一号の俺たちが、見つけちまった(・・・・)わけだ。てか……」

 

 

アルシェは、ヘッケランの言葉も聞こえていないように、血の気の引いた顔で『ソレ』を見続ける。

 

 

「……もう『蝗』って規模じゃねーけどな」

 

 

ロバーデイクは、思わず聖印を握りしめ、神々に祈った。

 

 

「『竜の群れ』だろ、これ」

 

 

ナーガ達はリュラリュースの手前、逃げ出しこそしないものの恐怖に震え、リュラリュースも(あきら)めからか表情が消えていた。

 

 

それら視線の先には、一切の生命が枯れ果てた更地(さらち)(そび)える、巨城の(ごと)き威容。

 

 

有象(うぞう)無象(むぞう)の区別なく()()くし、世界を滅ぼすであろう、文字通りの魔樹(・・)……

 

 

 

 

Zy'tl Q'ae(ザイトルクワエ)

 

 

 

 

┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄

 

 

フォーサイトは『もはや一刻の猶予(ゆうよ)もない』と、ナーガ達の協力により森を真東へ抜け、すぐさま帝都に向かった。

 

 

別れ際ナーガの一体に、調査用に携帯していた録音器(レコーダー)(リおんの発案で開発されたマジックアイテム)にザイトルクワエの事や『必ず対策を考えるから自分達が戻るまで刺激しないように』との(むね)を記録し、リザードマン集落へ届けてくれるよう(たく)して。

 

 

本来なら守秘義務違反になる行為だが、今や友人であるザリュース達に何も伝えず去るのは気が(とが)めた事もあり

『貴重な前線基地の一つになるかも知れない集落と禍根(かこん)を残さないため』

『万が一にも魔樹との接触を防ぐため』

と自分に言い訳して言伝(ことづて)を残した。

 

 

初め、集落はナーガの出現に蜂の巣を突いたような騒ぎになったが『西側の支配者からの使いであり、フォーサイトから預かった物を届けに来た』と聞き、緊張感は持ちつつも落ち着きを取り戻し、再生方法の説明と共に録音器(レコーダー)を受け取るザリュース。

 

 

その内容に再び波紋が広がり『愛する妻や互いを認め合ったライバル、兄や部族の仲間達、折角軌道に乗った養殖事業を、水泡に帰すわけにはいかぬ』と、先だって養殖について理解を得ようとした時と同様、部族間を走り回る事となる。

 

 

 

さて、一方の帝国……

 

 

リおんは情報省経由で『フォーサイト生還』の報を受け、皇城で首を長くして待っていたが、帰って来たフォーサイトは出発時やる気に満ちていた様子から一転、明らかに顔色を悪くしていた事で驚いた。

 

 

「お、おかえり。どうしたの?」

 

城門前で思わず問いかけるリおん。

 

 

ヘッケランは憔悴(しょうすい)した風に答える。

 

「すまん、一刻も早く陛下に報告したい。想定以上の『敵』を見つけた。今は休眠状態だが、俺らだけじゃ何もできねぇ」

 

 

只事(ただごと)ではないと悟り、リおんはフォーサイトをサエルアンナ達に任せ皇帝執務室へと走った。

 

 

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フォーサイトの報告に、沈黙が執務室を支配した。

 

 

十三英雄や魔神についての知識を有するフールーダが口を開く。

 

「……年代から言って十三英雄に違いないでしょう。十三とは言っても実際には、もっと人数は多く、人間以外の種族も含まれますからな」

 

 

それを受けジルクニフは、

 

「つまり何か。伝説に(うた)われる英雄達さえ手に余し封印までしかできなかった化け物が、我が国のすぐ横で目覚めようとしている、と?」

 

眉間(みけん)(しわ)を寄せ、頭を抱えた。

 

「……倒せるものなのか?」

 

 

ジルクニフが訊ねると、ヘッケランが補足する。

 

「難度で言えば、たぶん240以上、あのデカさ相手に苦戦する事も考えると……すんません、バカな冗談みたいに聞こえるから言いたくないんですが……400と言っても不思議じゃない」

 

 

「……はは、酒場の酔っ払いから聞きたかったな。全く笑えん」

 

 

再び、誰も何も言えなくなる。

 

 

……ただ、確かに執務室を沈黙が支配してはいたが、多くが困惑や絶望、諦観から来るそれである中、一人だけ沈黙の意味が違う者がいた。

 

 

もちろんリおんである。

 

何故なら、唯一その『レベル帯』を知っているのだから。

 

(レイドボスかよ!!!)

 

つまり、その魔樹に対抗できるとしたら自分を置いて他はなく……

 

(……行ってみるしかない、か)

 

「陛下! 僕ちょっと行ってきます!!」

 

言うが早いか、リおんは転移(テレポーテーション)のスクロールを取り出し発動した。

 

 

「おい! リオン!!」

 

「お主! 転移(テレポーテーション)のスクロールなど持っ」

 

ジルクニフやフールーダが止める声(ただしフールーダの場合はスクロールが理由であろう)も(むな)しく、リおんは虚空(こくう)に消えた。

 

 

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その日、いつものように教会(掘っ立て小屋)で祈りを捧げていたエンリ・エモットは、突然、目の前に現れたリおんに驚く。

 

「え!? リオン君!?」

 

 

「あれ、エンリさん?……あ、やべ、場所を間違えた」

 

テンパりすぎて転移先を間違えたらしい。

 

 

「突然どうしたの? それに今の、もしかして転移」

 

 

「ごめんエンリさん、今めちゃくちゃ急いでるから、また今度!」

 

リおんは教会から飛び出して行った。

 

 

「……なんだったのかしら」

 

 

 

 

 

リおんは教会を、カルネ村を飛び出すと、トブの大森林へ突っ込んで行く。

 

レンジャーでないとはいえ、レベル100吟遊詩人(バード)のリおんにとっては『普通の森』の木々など障害にはなりえない。

 

ガチビルドのカンスト盗賊(シーフ)暗殺者(アサシン)に比べれば遅いが、この世界で見れば異常なスピードで草木をすり抜け駆けて行く。

 

 

(ただでさえ急いでるってのに何でリザードマン集落に飛ばないんだよ僕は!!)

 

 

スタート地点の出遅れを取り戻すべく『ほぼ空を飛んでいるような状態』で爆走するリおん。

 

 

しかし、その行く手を(はば)むかの如く、(しげ)みから(むち)のようなものが襲いかかる。

 

 

だがリおん、鞭のようなものをむんずと(つか)み、

 

いるのはえだし邪魔だよバカー!!

 

ジャイアントスイングの要領で放り投げた。

 

 

ござぁぁぁぁぁ!?

 

何か巨大な毛の塊が木に激突。

 

見た事のない姿に、思わず足を止めたリおん。

 

 

「……え、何あれ。でかいジャンガリアンハムスター?」

 

 

本作やっと初登場、ご存知『森の賢王』である。

 

目を回した状態から復帰した賢王は、

 

なな、なんという力……降参でござるよ

 

服従のポーズだろうか、仰向(あおむ)けになって腹を見せた。

 

 

だが、うるうるした瞳を見てリおんが思ったのは、

 

(え、え、待って待って、これじゃトップアイドルともあろう僕が動物虐待してるみたいじゃん……それはマズい!!)

 

いや、あの、ごめん、ごめんね? いじめるつもりはなかったんだよ。今めちゃくちゃ急いでて、つい……」

 

 

すると森の賢王、

 

「急ぎの用でござるか! ならば(それがし)の背に乗ってくだされ! いざ忠誠の証を示すでござるよ!」

 

 

自分で走った方が速いだろうと思いつつ、リおんは

 

(でっかいジャンガリアンハムスターに乗るのか……

 

 

 

 

 

………………………………ファンシーでかわいいじゃん!)

 

乗った。

 

 

┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄

 

 

リザードマン集落は玉砕戦(ぎょくさいせん)直前のような、熱気と絶望が入り混じった混沌(こんとん)たる空気であった。

 

 

そこには今やリザードマン五部族は元より、ナーガ、ゴブリン部族、果ては宿敵であるはずのトードマン部族の代表までもが集結していた。

 

 

(もたら)された魔樹の情報。

 

帝国を信じて待つべきだ、いや最早(もはや)これまで玉砕戦だ、部族の誇りを示そう、と喧々諤々(けんけんがくがく)の議論が続いていた。

 

 

そんな時、見張りのリザードマンが駆け込んで来る。

 

 

シャースーリュー・シャシャが問う。

 

「どうした!」

 

 

「大型の魔獣が、ものすごい速度で接近して来ております!!」

 

 

それを聞き指示を出すよりも早く、集落の横を(かす)めるように走り抜ける。

 

 

それを各種族の戦士達が見る。

 

リュラリュースは見覚えのある魔獣だった。

 

「あれは南の……背中におるのは誰じゃ」

 

 

ザリュースが気付く。

 

「リオン殿!」

 

 

フォーサイトから聞いた名前にリュラリュースは驚いた。

 

「何、あれが!? 来て早々、ああも容易(たやす)く南の魔獣を(したが)えるとは……」

 

 

……ハムスターもネズミの一種である。

 

知っているだろうか。

 

丸っこいイメージのハムスターだが、全力で走る時は意外と長く伸び、スマートに見える形になる。

 

つまりリおんの思いとは裏腹に、その姿は……

 

 

戦士達は『白銀の魔獣を駆り、滅びを呼ぶ化け物に向かう勇者』に畏敬(いけい)の念を抱きながら、その背を見送った。

 

 

┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄

 

 

枯れ木の森を抜け、遠くにザイトルクワエの姿を認めたリおん。

 

(……目覚めたらマズいから看破系も使えないけど、間違いなくボス級じゃん。何であんなのがいるんだよ……攻撃力は分かんないけど、HPだけはレイドボスを想定するべきだよね)

 

本人としては、正直なところ一人でレイドボスを相手にするのは荷が重いと思っていた。

 

 

リおんは、あくまで吟遊詩人(バード)である。

 

いくら自分にバフを、相手にデバフをかければそこそこ(・・・・)強いとはいえ、流石にレイドボスが相手では千日手になり()ねず、場合によっては殺しきる前に魔力切れを起こすだろう。

 

 

(スクロールとかをジャブジャブ使う作戦で行くしかない、か)

 

 

リおんは流れ星の指輪(シューティングスター)を信用していない。

 

願いが(かな)うと言っても、様々なアイテムや魔法の効果がフレーバーテキストの影響で変質している『この世界』ではどんな形で(・・・・・)願いが叶ってしまうか分かったものではない。

 

 

であれば実戦で倒すしかなく、リおんは(かた)(ぱし)からスクロールやマジックアイテムを出して確認していった。

 

 

┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄

 

 

《皇帝執務室》

 

 

「おぉ、リオン! 帰ったか!」

 

ジルクニフは期待を込めた視線でリおんを迎えた。

 

 

しかしリおんは、今まで見た事がないほど神妙な表情で願い出る。

 

「……陛下……少し、お話が……」

 

 

その様子に、何か『良くないもの』を感じたジルクニフはフールーダや四騎士、ロウネらに目配せし退室させる。

 

各々(おのおの)、いつにないリおんの様子に困惑し、後ろ髪を引かれつつも出て行った。

 

 

彼らを見送り、それでもリおんは何かを躊躇うように視線を床に落としたまま、口を開かない。

 

 

「……どうした? リオン」

 

そっとジルクニフが問いかけると、リおんは……

 

 

 

「………………ごめんなさい、陛下……

 

 

 

 

 

…………………………あれは、無理です

 

 

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