【完結】おおかみ☆せんせーしょん(ハーメルン移植版)   作:ブドウ冷やしんす

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明日、笑顔の確率は

 

「……お前でも、勝てないという事か」

 

信じられないという表情でジルクニフが確認する。

 

 

「……いえ、勝つだけ(・・)なら、勝てるのですが……」

 

 

「?……勝つだけ(・・)、とは?」

 

 

「……魔樹と戦うのは国を守るため、生存圏を守るためで、戦う場所は、守るべきはずの大森林です。

 

魔樹は体力バカな上、周りから生命力を(うば)って回復までする植物系モンスターで、ドラゴンのように頭や心臓を(つぶ)せば死ぬわけではありません。

 

そして僕は、あくまで吟遊詩人(バード)です。バフやデバフでそこそこ(・・・・)戦えるとはいえ、神話に出てくる『正義の神』や『武の神』のようには、魔樹を封殺(ふうさつ)できるほど強くはなれません。

 

()り続ければ、いつかは倒せますが、それまでにどれだけ森の損害が増えるか……

 

場合によっては、倒しきる前に魔力切れを起こすかも。

だからスクロールとかに頼るしかないんですが……」

 

 

リおんは、いくつかのスクロールを取り出して見せる。

 

 

「これが、攻撃に使えるスクロールの全てです」

 

内容を説明するリおんだが、そのどれもが核爆発(ニュークリアブラスト)に代表される『広範囲型』の攻撃魔法ばかり。

 

これ以外は、アルシェに与えた生命発見(ロケート・ライフ)などのような補助魔法しかない。

 

そしてバフ・デバフ系の魔法など、その分野の最高峰に近いリおんが、わざわざ保有しているはずもなく……

 

「……使えば、森は壊滅します。森がなくなれば、生存圏も立ち行かなくなります」

 

 

使い勝手の良い敵単体向けの攻撃魔法スクロールは、すでに使い尽くしていた。

 

ユグドラシル最終日、ラストライブ後に熱狂的なファンを振り切るため、目(くら)ましに乱発したのだ。

 

『どうせ最終日だから』と。

 

まさか異世界に来て、ましてや今のような状況になるなど、予想しておけという方が(こく)な話だろう。

 

 

「だから、勝っても無駄なんです……」

 

沈痛な面持ちで、リおんは()(くく)った。

 

 

その、どうしようもないジレンマに「……そうか」とジルクニフは額に手をやった。

 

 

リおんは、さも『良い案が浮かびました』と言うように、笑顔で

 

「……そうだ陛下! 逃げましょう! メガフロート……畑も作れるような大きい船で国ごと逃げちゃいましょう! 設計の概要ならすぐ(まと)めますから「リオン」……」

 

しかし、その目には涙が浮かんでおり『いつも通り』を演じきれているとは言い(がた)かった。

 

それこそジルクニフでなくとも見破れるくらいには、リおんは追い詰められていた。

 

 

だからジルクニフは(さと)すように、

 

「……お前の知識や技術を信じていないわけではないが、私は『我々の運』を信じる事ができない。分かっているのだろう? もし逃げたとしても、その先『どこか』に辿(たど)り着けるのか?」

 

『こんな事態に直面しているくらいだからな』と言うかのように、皮肉げに笑う。

 

 

「……そ、れは……」

 

否定などできず、リおんは言葉に詰まった。

 

 

だからジルクニフは、

 

「他に手はないんだな?」「え?」

 

念を押すように()いた。

 

「本当に、他に打つ手は、ないんだな?」

 

その顔には『お前が思い詰めそうな事などお見通しだ』と書いてあった。

 

 

もちろん、それが分からないリおんではない。

 

「……いえ、でも、それは……上手くいくかなんて分かんないんですよ!? そんなの……」

 

心が揺れ、答えるのを(しぶ)るリおんを、ジルクニフは真っ直ぐに見つめ、言った。

 

リオン……『我々の運』は信じられないとは言ったが、私は、お前の事は信じられるぞ

 

 

「陛下……」

 

リおんは、躊躇(ためら)うように(しば)し、床に視線を彷徨(さまよ)わせた。

 

 

そして、

 

「……各国から強者を(つの)って、周囲から収奪(しゅうだつ)するのを妨害(ぼうがい)してもらい、僕が本体を……けど、それには当然『みんな』も含まれるわけで、誰か犠牲者が出るかも……」

 

 

蘇生アイテムなら、ある。

 

しかし、それとて数に限りはある。

 

 

犠牲者が出た場合、身内贔屓(びいき)をするわけにもいかない。

 

が、ならば参加者を制限すれば良いかと言えば、それでは戦力が不安になる。

 

ましてや成功するかも見通せない作戦で、苦痛や恐怖を伴う『死に損』などさせたくはない、と。

 

 

……この世界に来た多くのプレイヤーは、周囲との関わり方などの影響もあって『ゲーム感覚』に(おちい)りがちだったが、リおんの場合、逆に周囲との関わり方によって『ゲームではないのだから』という感覚の方が強い。

 

 

いくら政治的な考え方ができると言っても、親しい誰かを平然と犠牲にできるほど、リおんは合理主義にはなれなかった。

 

 

それに対しジルクニフ、

 

「命令を下すのは、この私だ」

 

嫌われ役には『鮮血帝』こそ相応(ふさわ)しい、と。

 

 

「……わかりました。やりましょう……であれば、僕は本来の姿で戦う他ありません」

 

そう言ったリおんは、一瞬で姿を変えた。

 

それは、リおんの本気装備。

 

金色のエポレットや飾緒(しょくちょ)が付いた純白の軍服風衣装がキラキラと輝く。

 

燕尾服のように延びる(すそ)には赤いチェックの裏地が見えていた。

 

(えり)はノッチドラペルに開いており、白いシャツの首元に(きら)めく赤い宝石のループタイがアクセントになっている。

 

「これが、僕の勝負服です。……驚かないんですね?」

 

意外そうに(たず)ねるリおんに、ジルクニフは何て事なさそうに言った。

 

「むしろ、そんな事だろうと思っていたさ。そう短い付き合いではなかろう」

 

『私を誰だと思っている』と肩を(すく)めた。

 

「……そう言われたら、そうですね。御見(おみ)()(いた)しました」

 

どこか無理矢理に、芝居がかった礼をして、

 

「改めて名乗りましょう。ナザリック41柱、リおん・がぶりール。『歌の神』に当たります」

 

「あぁ、そっちか。これは一本取られたな。王族でなく『神』と来たか。そうなると我ながら、随分(ずいぶん)(ひど)贅沢(ぜいたく)をしてきたものだ。神の歌声を毎夜独占とは、魔樹なんて災難に()うのも『(むべ)なるかな』だ」

 

ジルクニフも、何か空気を読んで(おど)けてみせる。

 

 

だがリおんは、その言葉に『過ごしてきた日々』を思い、気を落とす。

 

「……陛下。この姿を人前で見せる以上、勝っても負けても、僕は帝国を離れます」

 

 

「リオン…」

 

 

「これまで以上に求心力が必要な時、きっと僕は邪魔になります。だから」

 

 

(ほとぼ)りが冷めたら帰って来い

 

 

「……

 

 

私は、いつまででも待つ。お前が帰って来るまで、帝国を守ってみせよう

 

 

「………………へぃか

 

(うつむ)き、ただ静かに涙を流すリおんの頭に、手を置いた。

 

 

 

同日、帝国は周辺各国に対し

 

『トブ大森林に推定難度300の巨大モンスターを発見、それが覚醒した場合、各国に甚大(じんだい)な被害が予測される(ため)、連合を組み討伐隊(とうばつたい)を結成、派遣(はけん)したい』

 

と打診。

 

 

各地の亜人種に対してすら、支配下に置いた霜の竜(フロスト・ドラゴン)()り出し、使者として送った。

 

 

また、同時に次善策として『避難計画』を策定。

 

メガフロート建設は国力を一点集中しなければ間に合わないであろう事から、内容は周辺各国や南方の砂漠へ分散避難させるものだ。

 

 

この中で最も優先度が高い避難先はドワーフ王国と南方の砂漠。

 

生命に満ちた場所はザイトルクワエに狙われる危険性が高いと予想した結果だ。

 

 

ドワーフ王国への難民護送部隊には食料の他、避難先での営農を想定し大量の土壌改良材をヤギで運搬する予定、

 

(急に高山で畜産を始めるならヤギくらいしか耐えられまいとの判断から)

 

 

南方へは食料や土壌改良剤を積んだラクダの他、現地で定住を開始した時に備えた湧水の蛇口(フォーセット・オブ・スプリングウォーター)や、魔法省で研究・試作中だった量産型無限の水差し(ピッチャー・オブ・エンドレス・ウォーター)も配備予定となっている。

 

 

それ以外の方面に向かわせる難民と部隊は、ザイトルクワエに対する(おとり)である。

 

避難民の割り振りは無作為(むさくい)な抽選。

 

同じく囮として、国内に残す国民も一定数いる。

 

最早(もはや)、末期戦のようであった。

 

 

それでも、魔法省職員は『自分や親族が食べるわけではないかも知れない』にも(かかわ)らず粛々(しゅくしゅく)とフリーズドライ食品を作り続けたし、軍部は『万が一の暴徒鎮圧』に備えた。

 

それが唯一の道と信じて。

 

今までジルクニフが積み重ねてきた栄光と人望の証と言えよう。

 

 

……避難計画について、ジルクニフはリおんに伝えなかった。

 

選別するべき国民には、リおんのファンも多いのだから。

 

 

 

 

だが、そんな各々の覚悟を嘲笑(あざわら)うような事態が『魔樹とは関係なく』起こり続けるとは、誰も想像だにしていなかった。

 

 

┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄

 

 

今動かなければ(もろ)とも(しま)いだと何故わからん!!

 

ジルクニフは気付けに飲み干したワインのゴブレットを壁に投げ付けた。

 

 

『せめて今だけは日常を生きよ』と自由にさせているため、リおんはいない。

 

いないからこその激昂(げきこう)である。

 

嫌な覚悟をさせた手前、情けない姿は見せられない、と。

 

 

彼を怒らせたのは各国からの『返答』である。

 

竜王国が『聖堂騎士団を引き抜くのは勘弁してほしい』と泣きついて来たのは予想通りとしても、一番マシな返答は聖王国の『できるだけ早く結論を伝える』というもので、都市国家連合は『自分達への被害は少ない』と見積もったのか難民の受け入れ協力のみ。

 

王国に(いた)っては『薄々危機感を持っているランポッサ三世が、鼻で(わら)う貴族連中の顔色を(うかが)っている』のが透けて見える内容だった。

 

ただ流石にマズいとは思っているのか、エ・ランテルでの会談は申し込んできた。

 

 

(ハッ! どうせ貴族共に(くちばし)を突っ込まれたくないからエ・ランテルを指定したんだろうが!!)

 

 

そして、普段から関わりの少ない評議国の返答が遅れているのは理解できるものの、他ならぬ法国が奇妙な沈黙を保っているのが何より不可解であった。

 

 

(事ここに至って無反応なら、何が人類の守護者か!!)

 

 

むしろ使者としてドラゴンを送ったインパクトが大きかったのか、亜人達からは前向きな返答を得ていた。

 

(ただしクアゴアは『帝国からの要請』という事でヤケクソである)

 

 

読者諸君は、常々『王国貴族というのは何故これほどまでに(おろ)かなのか』と思っているのではないだろうか。

 

違うのだ。

 

殊更(ことさら)に王国貴族が愚かなのではない。

 

 

ヒトとは、そもそも愚かなのだ。

 

ヒトは快楽を好み、苦痛を嫌う。

 

それは生きる上で必要な反応であり、それ自体が悪い事ではない。

 

しかし、その事に自覚的でなければ、時に判断を誤る。

 

 

快楽 / 苦痛と言っても、それは快感や痛みという分かりやすいものだけではない。

 

自分が信じている価値観を否定されるのは苦痛であり、自分が見ている世界観の中で生き続けられるだけで快楽なのだ。

 

 

だから

 

『自分だけは大丈夫だろう』

 

『相手が異常なのだ』

 

根拠(こんきょ)もなく考えたがるものなのだ。

 

 

認知バイアスという言葉を聞いた事がある者もいるだろう。

 

つまりそれだ。

 

 

安易(あんい)に分かり(やす)い解決と結末を他所(よそ)に求めるが故、どこからか言い訳を無意識に見つけてきて、それに(すが)ろうとする。

 

その連鎖が起きた時、社会に『実際は存在しない巨悪』の幻影を生み出したりもする。

 

これら心理は、貴族社会に限った話ではない。

 

 

少し例え話をしようか。

 

君が、ある仕事で生活していて、ある時

 

『アンデッドに仕事をさせた方が生産性が上がり、人件費も削減できる』

 

という話になったら、君は反対するだろう。

 

『その分の生活費を配る』と言っても『ギリギリの額しかもらえないのでは』と反対するだろう。

 

金額を提示されても『後で減額されるか、増税されるに決まってる』と反対するだろう。

 

何も根拠がなかったとしても。

 

 

『冒険者認定制度』とて同じだ。

 

普通に発表したところで反対されていただろう。

 

だからこそジルクニフは、あれほどのセレモニーまでして『輝かしい未来』を演出しなければならなかった。

 

思い込みに関する快楽 / 苦痛とは、誰にでも身近な問題なのだ。

 

 

閑話休題。

 

 

そして、帝国に立ちはだかる試練は他にも待っていた。

 

 

┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄

 

 

《会談前日 エ・ランテル》

 

 

四騎士とブレイン、フールーダ、そしてリおんを(したが)えたジルクニフはエ・ランテルの貴賓(きひん)(かん)に宿泊している。

 

 

リおんの手前、(つと)めて余裕の表情を見せていたが、腹の底の怒りは消えていなかった。

 

 

諸々(もろもろ)の儀礼や手順、荷物の運び入れや部屋の整備が済んだ今は、(すで)に夜の(とばり)が下りていた。

 

 

明日以後の事について話し合っていると、

 

「……何だろ。(みょう)(さわ)がしい気が……」

 

「どうした、リオン」

 

 

 

 

突然、遠くから爆発音。

 

 

 

 

「何があった!?」

 

思わず立ち上がるジルクニフ。

 

 

と、部屋の外で警戒に当たっていたニンブルが(あわ)ただしく入って来て

 

「陛下!」

 

ジルクニフに耳打ちする。

 

 

 

「…………………………は?

 

憤怒(ふんぬ)とも驚愕(きょうがく)とも付かぬ表情で見返すジルクニフ。

 

巫山戯(ふざけ)るなよ』と。





これにて、『過去』編は終わりです。


以下、余談というか蛇足なので無視してくれても結構です。

本編で書いてない脳内設定ですが、吟遊詩人(バード)の呪歌で蘇生あるけど最上位の術で、アイドルのレベル取得すると取りこぼします。

広域即死の呪歌『絶死絶唱』というのも設定としては考えたし、リおん君は持ってる設定ですが異世界ではフレンドリーファイアのせいで『死にスキル』です。

ザイトルさんだと即死耐性くらいありそうだから、モモンガさんの『The goal of all life is death』くらいでなければ効かないでしょうし。

…最初、ザイトルさんでなく法国をラスボスにしたルートで「帝国を守るため」とリおん君が泣きながら歌い踊り法国兵士が死屍累々、なんてのも考えたんですけどね。

『これもう映像化するとしたら“意味不明なユグドラシル語歌詞”よりBGMとして“魂のルフラン”でいいんじゃね?』ってくらい「…命が、消えていく…」みたいな壮絶シーン。

身バレ防止に真っ黒ゴスロリ装備に青白いビジュアル系メイク、的な。

…ザイトルさんラスボスになって良かった。
かわいいオリ主が泣くシーン書くのはツラい(ヘタレ作者)
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