【完結】おおかみ☆せんせーしょん(ハーメルン移植版)   作:ブドウ冷やしんす

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帝国の食事情と衛生観。


疫病と料理と私

 

花火を打ち上げた翌日、建国記念式典は『予想外の』大成功となった。

 

 

貴族、平民の区別なく、前日の花火は皇帝ジルクニフの正統性を強烈に印象付ける結果となったのだ。

 

 

初めて目にする光の芸術に、皇帝を支持する者達は帝国の明るい将来を確信し、面従腹背(めんじゅうふくはい)の貴族らは皇帝の強大さを見せつけられたように感じ歯噛(はが)みした。

 

 

また、帝都に経済効果をもたらした事も大きかった。

 

花火の影響により、通常であれば営業を終了している時間でも各宿屋、酒場が繁盛(はんじょう)し、それに(ともな)い酒や食品、照明用の油など消費量が増加。

 

翌日の建国記念日においても、人の動きが活発になり、市場や商店が活況になった。

 

花火を見た見物客、売り上げが伸びた店の人間、皆、口々に「皇帝陛下万歳」と(たた)えた。

 

 

そのような状況では、反皇帝派貴族らは式典の場で余計な考えを(さと)らせるわけにはいかなかった。

 

本来であれば己の影響力を(にお)わせるなりして、皇帝の権威(けんい)を少しでも()ごうと動きたいところなのだが、下手に目立てば誰とはなしに白い目で見られ、場合によっては「叛意(はんい)あり」と看做(みな)され他の貴族から敵視、最悪は皇帝から粛清(しゅくせい)の対象にされ()ねないからだ。

 

(ゆえ)に大人しく「皇帝陛下万歳」という流れに同調せざるを()ず、それは事実上の敗北宣言であった。

 

 

「……というわけだ。リオン、お前のおかげで『愉快(ゆかい)な』式典となった。ついては何か褒美(ほうび)を取らせても良いぞ?」

 

 

苦虫を()(つぶ)したような貴族達を見られてジルクニフは上機嫌(じょうきげん)であった。

 

目に見える成果を出したとあって、側近らの態度(たいど)も初日に比べ軟化(なんか)しつつある。

 

これに対してリおんは吟遊詩人(バード)らしい礼をして言った。

 

 

「陛下のお役に立てたなら光栄でございます。それであれば一つ、お願いしたい事があります」

 

 

「うむ、言ってみろ」

 

 

「厨房の様子を見せて下さいますでしょうか」

 

 

「……ん? 厨房?」

 

まるで予想だにしていなかった願いに、流石(さすが)のジルクニフも首を(かし)げる。

 

 

確かに皇城の厨房ともなれば一応は機密に当たる。

 

何せ帝国で最も重要な皇帝の食事を作る場所なのだから。

 

とはいえ、褒美として見学を願い出る意図(いと)(はか)り兼ねた。

 

 

「何故そんな場所を見たいと?」

 

 

「……不遜(ふそん)な物言いに聞こえるかも知れない点は申し訳ございません。誤解(ごかい)であると先に釈明(しゃくめい)させて(いただ)きます。火薬の知識をお伝えした時に感じた懸念(けねん)がございまして」

 

 

「懸念?」

 

 

「僕が当たり前に知っている事で、帝国では知られていない事は多いかも知れないと思ったのです」

 

 

それは客観的に見て正解であるし、ジルクニフも感じていた事である。

 

遠い異国、魔境とさえ思える場所から来たリおんの知識は、帝国の役に立つかも知れない、と。

 

 

「陛下が仕事を任せる料理人の方々を(うたが)うような事を言いたくはないのですが、万が一にも陛下の健康に何かあったらと心配になりまして……」

 

 

リおんは昨晩(さくばん)、城の夕食を経験していた。

 

その際、確かにそこそこ美味しいとは思ったものの、リアルの実家で食べたお抱えシェフの料理と比べ、何か物足りなかったり、逆に雑味(ざつみ)のようなものを感じていた。

 

 

実際、これには理由がある。

 

この世界の料理、というより文化全般が『(いびつ)な進歩』を()げていたためだ。

 

言わずもがなプレイヤーの影響である。

 

本来であれば、この世界における人類文明は『まともに発展してこられた期間だけ』を()べるならば六大神が降臨した以降の600年間が精々(せいぜい)のところ。

 

中世ヨーロッパどころではない。

 

もしプレイヤーの影響がなければ、古代ギリシャやエジプトくらいの水準であったろう。

 

そしてプレイヤー達は、持っていた知識も経験も学歴も様々。

 

むしろ知識階級たる富裕層(ふゆうそう)は全体から見て極少数だ。

 

多くのプレイヤーがもたらした知識は大体が

『何となく』

『何かで知って』

『何かの創作物で見て』

といった具合に身に付けたものでしかない。

 

そんなあやふや(・・・・)な知識の産物を、中世ヨーロッパに届くか否かというレベルの世界で得ようと、足りない部分を経験則で補いつつ試行錯誤(しこうさくご)しながら、無理やり形にしたのが『今』という結果なのである。

 

何故『無理やり』に?

 

当然だろう。『神』が相手なのだから。

 

神が『何となくだけど、こういうものだよね』などと言ったら、例えやり方を知らなくとも、そのような結果にしなくてはいけないのだ。

 

 

……ちなみに、よく創作物などで描かれる『中世ヨーロッパ風』という文明は、現実の中世ヨーロッパとは()け離れたものであるという事は念押ししておきたい。

 

食生活で言えば、創作物ほど豊かでも多様でもない。

衛生観や栄養バランス等、読者諸君の現代知識から見れば『(あや)うい』部分が多々あるはずだ。

 

 

閑話休題。

 

 

当然ながら『神』だの『プレイヤー』だのという話を知らないリおんではあるが、それでも食事した際に感じた違和感は、漠然(ばくぜん)とした不安を(いだ)かせるには充分であった。

 

理想の為政者(いせいしゃ)として敬愛する皇帝が、自分も知っている程度の原因で「腹を壊して死亡」などという事態になれば()やんでも悔み切れない、リおんはそのように思っていた。

 

 

帝国の未来が危ぶまれる事が起これば、それは自身の父親の呪いかも知れないとすら……

 

(……そんな事になったら流れ星の指輪(シューティングスター)で、この世界に呼び出してでも100回殺す!)

 

……その前にジルクニフを(よみがえ)らせる方が先だろうに。

 

 

ちなみに流れ星の指輪(シューティングスター)だが、本当に持っている。しかも50個ほど。

 

何故そんなに? と言えば、ラストライブの『投げ銭』である。

 

使いかけ含めば、そのくらいの数にはなる。

 

それどころか『投げ銭』の中にはワールドアイテムすらあった。

 

 

『ダヴはオリーブの葉を運ぶ』

 

効果は『そのワールドで発生中のワールドアイテム効果を終了させる』というもの。

 

見た目は何の変哲もない鳩にすぎない。

 

使い方は、その鳩を空に放つだけ。

 

鳩がオリーブの葉を(くわ)えて帰って来れば『成功』

何も咥えず戻って来た場合『運営により改変作業中につき失敗』

もし(あやま)って何の効果も発生していないワールドで使った場合、そのまま鳩は帰って来ない。

 

見た目もエフェクトも『使いどころ』も微妙(びみょう)だが、ワールドアイテムには違いない。

 

何の効果も発生していない(と、本人は認識している)この世界では無意味なアイテムとはいえ、ただ手放(てばな)すのは()しいから手元に置いている。

 

指輪にせよワールドアイテムにせよ、常であれば『自分の人気も、そこまで来たか』と思うところではあるが、何せ最終日である。

 

『そのくらいの事は起きるだろう』と、自己評価には(つな)がらなかった。

 

とはいえ、それらを気安く使うつもりもなかった。

 

リアルでの歴史から『大きすぎる力は破滅の元であり、大きすぎる変化は思わぬ形でツケを(はら)わされる』と自戒(じかい)し、よほどの事でもなければ使わないと決めている。

 

 

リおんの言い分を聞き、ジルクニフは納得する。

 

一応、病気への耐性を与える一角獣の指輪(リング・オブ・ユニコーン)は装備しているものの、あくまで『耐性』であって、絶対ではない。

 

 

「なるほど。確かにお前から見れば改善点が見つかる事もあるだろう。ロウネ、案内してやれ」

 

 

「はっ」

 

 

「ありがとうございます陛下」

 

 

ロウネを同行させる意味は、もちろんワーウルフであるリおんに不信感を抱かれないためだ。

 

重い警備態勢(たいせい)の区画である厨房では、料理人達も警戒心を持って働いている。

 

よって、ジルクニフはリおんに『あくまで許可するのは見学のみであり、持ち込み、持ち出し、設備や備品へ()れる事はしないように』と言い含め、リおんも、これを約束した。

 

 

そして出て行こうとして、リおんが何か思い出したように立ち止まって言った。

 

「おっと、厨房に行くなら服装を変えないと」

 

当然のようにポーチのショートカット機能で『執事服』に着替えた。

 

 

ジルクニフは(ひたい)に手を当て(つぶや)く。

 

「……もう、何も驚かんぞ」

 

 

《3時間後》

 

 

ロウネは、内心頭を抱えていた。

原因は、目の前の光景である。

 

 

一人の(した)()料理人が、鍋の前でボヤいていた。

 

「……なんでこんな事に……」

 

 

口じゃなく手を動かせ。ほら、アクが出たぞ……そうじゃない。アクだけ(すく)え、アクだけ。スープを取りすぎだ

 

冷えきった目と口調で指示を出しているのは、リおんである。

 

 

簡潔に言おう。見学の結果、リおんがキレた。

 

 

調理環境は予想以上に悪かったらしい。

 

厨房は、肉の熟成保管や調理による臭気の発生や屠殺場(とさつば)(新鮮な肉を運び入れるため)の関係から、外に別棟として設置されている。

 

床は『血や(こぼ)れた汁が溜まらないため』として砂利(じゃり)()いてあった。

 

だが、キレたのは単に不潔(ふけつ)であるという意味ではない。

一応、卓上や器具は清潔には気を配っている。

 

『知識があれば、そうしないだろう』という部分が多すぎたのだ。

 

 

『盛り付けの際、鍋等をあまり長い距離を移動させるのは事故の元である』

『ネズミや害虫対策に、(たな)は床や壁から離して設置しなければ』

などという事だ。

 

 

いや、そこまでは良い。

 

眉間(みけん)にシワを寄せつつ、(だま)ってはいた。

 

彼の堪忍袋(かんにんぶくろ)の緒にクリティカルヒットしたのは、今、鍋の番をしている下っ端が、料理長から命じられた野菜の皮()きである。

 

やたら分厚(ぶあつ)く皮を剥いていた。

 

そして野菜クズは、そのまま()てるという。

 

 

……下っ端料理人の弁護をするなら、野菜の品質や調理法から

『口当たりを良くするため』または『皇帝陛下への献上品(けんじょうひん)であるから』

食材は贅沢(ぜいたく)に使わなくてはいけない、等々の、いわゆる『常識や伝統』から、当たり前だと思って実行したに過ぎない。

 

あくまで『真面目(まじめ)に』やった結果である。

 

 

とはいえ、ただでさえ『野菜を扱う場所と生肉を扱う場所が近すぎる』『(かまど)の位置が』『棚の設置場所が』『床』等々で限界に来ていた。

 

本物の食材が貴重(きちょう)であったリアル育ちには我慢(がまん)ならなかったのだ。

 

よって、爆発した。

 

 

厨房で、料理人に

料 理 ナ メ て ん の か コ ラ ぁ !!

宣戦布告(せんせんふこく)以外の何物でもなかろう。

 

 

普段の(おだ)やかな(それどころかジルクニフ相手には(おび)えすら見せていた)リおんの豹変(ひょうへん)に、ロウネは完全に停止。

 

それまで溜めていた不満点をぶちまけるリおん。

()せぎすで神経質そうな料理長が黙っているわけがなく「素人は黙っとけクソガキ!!」

 

あぁ、これはマズイとロウネが再起動を()たすも、時、(すで)(おそ)し。

 

完全にカチンと来たリおん。

 

自分の知識で(たた)(つぶ)す、色々な本を読み(ふけ)ったり、実家の厨房を(のぞ)きに行ってシェフに(けむ)たがられたりしてきたのは伊達(だて)じゃない、と。

 

そうは思ったものの、実践(じっせん)して見せようにもジルクニフとの約束を破るわけにはいかない。

 

(まだ彼は『プレイヤーの取得した職業レベルによる(しば)り』に気付いていない)

 

 

……ならコイツに作らせよう。

 

厨房内の設備や機材、食材……いや廃材で、下っ端に作らせた料理で「うまい」と言わせてやる。

 

 

そして先程の『光景』に(つなが)がったわけだ。

 

現在、下っ端は野菜クズと(くだ)いた骨を水と塩で煮込んでいる。

 

時折、アクや油を掬い取らせている。

 

この世界の料理人達は、これで何が起きるかを知らないため苦笑(くしょう)していた。

 

 

とりあえずジルクニフへの報告は必要だが、事態(じたい)を回避できなかった自身の監督責任(かんとくせきにん)もあると思ったロウネは、部下を呼んで報告を(たく)し、自分は()()きを見届ける事にしたのであった。

 

 

《執務室》

 

 

報告を受けたジルクニフの反応は、怒りではなく爆笑だった。

 

『アイツは私を楽しませる才能がある』と。

 

 

それと同時に冷静な分析もしていた。

 

『リオンの事だ、激昂(げきこう)したのは私を思っての結果だろうし、馬鹿ではないのだから負ける勝負はしないだろう』と。

 

 

(ゴミのような食材で料理長を負かす?……興味深い)

 

 

笑い終えたジルクニフは立ち上がり、

「……行くぞ」

 

「え? 陛下どちらへ?」

バジウッドが(たず)ねると

 

「決まっていよう。厨房へ……忠臣(ちゅうしん)が勝負というなら、一声かけてやらねばな」

 

冗談(じょうだん)めかして、そう答えた。

 

 

《再び厨房》

 

 

「陛下!?」誰かが気付く。

 

その声に厨房は騒然(そうぜん)となりかけるが、

 

「良い。仕事を続けよ」

ジルクニフの言葉に(表面上は)平静を取り戻す。

 

 

リおんは背後で起きたジルクニフの登場に、耳と尻尾を一瞬『ピンっ!』と伸ばしたが、すぐにヘナヘナと()れた。

 

 

(ヤバい……怒られる……)

 

 

それでも礼を失するわけにはいかないと、力なく()し目がちにジルクニフの下へ。

 

 

「……陛下、勝手な事をして(まこと)に」

 

(かま)わん」

 

「……え?」

 

「下らぬ理由ではないのだろう? 四騎士とて同じだ。私のためとあらば独断で(おろ)か者を()り捨てるくらいは許す。もちろん報告は必要だがな。ただし、勝手に負けるような奴に用はない」

 

 

意外にも許され驚くリおん。

ジルクニフは『側近である事』の権力や責任の重さを言外(ごんがい)に告げる。

 

 

「故に、私からお前に言う事は一つだ。リオン」

 

「はいっ」

 

「……勝て。私を失望させるなよ?」

 

その言葉に耳と目に力が戻る。尻尾もブンブン振れている。

 

「はい、陛下! 必ず!」

 

リおんの返事に満足したのか「ふっ」と笑い()って行くジルクニフ。

去り(ぎわ)にロウネへ「完成したらすぐに知らせよ」と命じていった。

 

 

やる気満々のリおんとは逆に、料理長は心中穏やかでなかった。

 

単なる使用人見習いだと思っていたら、皇帝陛下の側近だった。

確かに良く見れば、その服は素人目(しろうとめ)に見ても異様に仕立てが良い。

 

……下手をしたら、自分の首が(物理的に)飛ぶのではないか?

そのように思い始めた。

 

 

下っ端は顔を青くしていた。

何やら大事(おおごと)になってしまった、自分には()が重い、と。

 

 

「おい、少しは良い方に考えろ」

 

リおんが下っ端の様子に気が付き言った。

 

リおんは悪巧(わるだく)みをするような笑みを浮かべ、

 

「お前の料理で、料理長をギャフンと言わせるんだぞ? それは、とても痛快じゃないか?」

 

 

下っ端は、料理長から散々どやされてきた日々を思い出し、闘争心を感じさせる雰囲気(ふんいき)でニヤリと笑った。

 

 

《さらに5時間後》

 

 

料理長が異変に気付いた。

何だ、この『匂い』は。

自分達の仕込みではない。

間違いない。『あの鍋』だ、と。

 

 

あれから下っ端は鍋を変えて中身を()し取り、さらに煮込んでいた。

 

そこから立ち上る豊潤(ほうじゅん)な香り。

 

骨から出たダシや香味野菜を含む野菜クズから出た香りが渾然一体(こんぜんいったい)となり、料理長の嗅覚(きゅうかく)を刺激する。

 

料理人としての経験が『あれはヤバい』と警鐘(けいしょう)を鳴らしていた。

 

アレを口にしたら自分は……

しかし、味わってみたい。

 

自分の立場も人生も(しま)いになってしまうかも知れない恐怖と、料理人としての欲望が(せめ)ぎ合う。

 

 

それまで不動であったリおんが動いた。

 

下っ端に、一口分を小皿に取らせ味を見る。

 

ニヤリと笑い「consommé(完璧だ)」と(つぶや)いた。

 

 

それは『死刑宣告』のように聞こえた。

 

 

完成の報を受け、ジルクニフが四騎士に守られ再び厨房を(おとず)れた。

 

リおんが知識のみで現・料理長に(いど)む『御前試合』の様相(ようそう)

 

料理人達は緊迫感(きんぱくかん)に包まれる。

 

 

料理長の前に、下っ端が用意した一皿のスープが出された。

 

リおんが告げる。

「コンソメスープです、料理長」

 

何の具も浮いていない、()んだ琥珀色のスープ。

自分達が普段から作っている『煮込み料理』とは完全に別物であった。

 

料理長は確信する。

(終わった)

 

だが、好奇心には勝てない。

それに、どのみち逃げ場など無いなら、せめて最後に目の前の『未知』を確かめたい。

 

 

強い興味と諦観(ていかん)で、スプーンを手に取った。

恐る恐る掬い取り、口に含んだ。

 

瞬間、雷に打たれたような衝撃に(おそ)われた。

 

そこに、全てがあった。

 

目に見える形など何も無い。にも(かかわ)らず、肉や野菜の旨味(うまみ)凝縮(ぎょうしゅく)され、一つの料理として完成されていた。

 

長いキャリアの中で、こんな料理は『知らない』

 

さらに味わいたくなり、勝負も忘れて飲み進める。

 

 

最後の一口を終え、スプーンを皿に置くと、脱力するように項垂(うなだ)れ申告する。

 

「………………うまい

 

敗北宣言であった。

 

 

下っ端は感動したように目を(うる)ませ、リおんは『当然』と言わんばかりに勝ち(ほこ)った笑みを浮かべ、ジルクニフは好奇心に目を(かがや)かせた。

 

「勝負あったな。リオンの勝ちだ」

 

ジルクニフが宣言した。

 

料理長は砂利敷きである事も構わずジルクニフに(ひざまず)

 

「……陛下、どうかこの首をお()ね下さい。己の無知にも気付かず陛下に料理を出し続けた罰を」

 

「黙れ」

 

ジルクニフが興味なさげに(さえぎ)る。

 

「敗者に口を開く権利など無い。貴様への沙汰(さた)はリオンが決める。そのはずであろう?」

 

料理長は「……はっ」と答えたきり口を閉ざした。

 

 

「ところでリオン、こやつが(ひざ)をついた味に興味がある」

 

 

「……この場でよろしいので?」

 

 

「構わん。毒見も、ほれ、この通り済んでおるしな」

跪く料理長を(あご)で示しながらジルクニフが言う。

 

 

「畏まりました。……おい、陛下にお出ししろ」

 

 

下っ端は「……陛下が……俺の料理を……」などと顔を青白くし呟き、(ふる)えながら一皿用意する。

 

出されたスープを一口含むと、(おどろ)きに目を見開くジルクニフ。

 

これは敗北を認めるのも(うなず)ける……と、決して低いレベルの戦いではなかった事を確認した。

 

 

「ロウネ、本当に『あの材料』で、これを?」

 

 

「はい、陛下。他には何も」

 

 

「……文句無しの勝利だな。してリオン、こやつ如何(いか)にする?」

 

ニヤリと笑いながら問うジルクニフに、リおんは答えた。

 

「知識を叩き込み根性入れ直した上で職責(しょくせき)(まっと)うしてもらいましょう」

 

この決定に料理長が反応する。

「……生き恥を(さら)せと……」

 

 

「その通り。あなたは勘違(かんちが)いをしている」

ピシャリと言うリおん。

 

 

「……勘違い?」言葉の真意を訊ねる料理長。

 

 

「あなたは、初めから料理長でしたか?」

 

 

「……いいや」

下級貴族の家柄(いえがら)だが三男で、キャリア形成としては叩き上げだった。

 

 

「では、これまで(やしな)ってもらった分を無駄(むだ)にせよ、と?」

 

 

「そ、それは……」

 

 

「あなたには責任がある。そして今日、学んだはずです。知らない事は意外と多く、職責を果たすため時には変化を恐れてはならないと。それも無駄にするのですか? 後任を育てる義務もある。学んだ事を伝えるべきです」

 

 

「……」料理長は沈黙(ちんもく)した。

 

 

「あなた方も、です」

リおんは成り行きを見守っていた料理人達を振り返る。

 

「食材は、陛下から頂いた物。騎士達の武具も同じです。彼らが剣をぞんざい(・・・・)(あつか)っていますか」

 

四騎士を手で(しめ)して問う。

 

「戦時において陛下をお守りするのは騎士達です。

しかし、それ以外の時に陛下の健康を守るのは、あなた方です。

 

口に入る物は毒にも薬にもなります。

『自分達こそ、もう一つの近衛騎士団である』と自負(じふ)するくらいでいてもらいたい」

 

料理人達は、その言葉に思い直したのか身を引き締めた。

 

 

その様子を見ながらジルクニフは『こいつが口を開くと全てが舞台になってしまうな』と内心苦笑した。

 

 

 

 

 

その後、リおんから改善案を聞き取り、ロウネは報告書をまとめた。

 

後日、報告書を読んだジルクニフは具合い悪そうにしていた。

 

 

「……リオンに見せたのは正解だったな。もしかしたら自分は今まで……うっ……ネズミの(ふん)や害虫の死骸(しがい)を粉末にして料理と一緒に食べていたかも知れないとは」

ジルクニフの顔色は悪い。

 

 

リおんが答える。

「ですが一応、加熱調理は徹底(てってい)されていましたので、健康被害という意味では大丈夫かと思います」

 

 

その言葉に深い()め息をつく一同。

しかし、続く言葉に凍り付く事となる。

 

 

「とはいえ、疫病(えきびょう)などの危険性を考慮(こうりょ)すれば改善して(しか)るべきでしょう」

 

 

「……リオン、疫病とは? 何の話だ」

 

聞き捨てならない言葉にジルクニフは問うた。

 

 

「え? ネズミなんて言ったら、それはもう」

 

 

「ネズミが疫病に関係あると!?」

 

 

ジルクニフの様子に、理解が()い付くリおん。

 

「……てっきりご存知(ぞんじ)かと思い、あくまで『食の安全』という観点からしか報告していませんでした。疫病ともなると内容が(ふく)れ上がりますので」

 

 

ジルクニフは鬼気(せま)る感じでリおんの両肩を(つか)み、(のぞ)き込みながら言った。

 

「 詳 し く 話 せ 」

 

ロウネの二(てつ)が決定した。





ロウネさん…( ;∀;)
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