【完結】おおかみ☆せんせーしょん(ハーメルン移植版) 作:ブドウ冷やしんす
「おぅ、お疲れ」
「お、交代か」
いつも通りの夜、イゴルはオットーが交代に来て
「異常なしか?」
「異常なんてあると思うか? 平和なもんだ」
「そりゃそうだ。上は会談だ何だってピリピリしてるけど、こっちには関係ないしな」
「違いない! あっちの担当は
とはいえ、いつも以上にアレコレうるさく言われる
衛兵
だからこそ安心して所帯が持てた。
……オットーは相手が
子供ができたら大変だぞ、恋人気分でイチャついてられるのも今のうちだ、さっさと『こっち』に来い、などと思っていた。
「さて、それじゃ後を
最後に壁の上から墓地をチラと振り返ると、闇の向こうで何かが動いたように見えた。
「おかしいな、今は誰も見回りに出てないはずだが……」
「どうした?」
「いや、何か動いた気がしたんだ」
「おい、よせよ。
「いや本当に……」
イゴルがそう言いかけた時、
「……アンデッド、スケルトンだ」
黒の中から染み出すように、スケルトンが現れる。
しかし、それは一体だけに
「一体、二体……ゾンビまで出た!」
「おいおい、どうなってる!?」
「知らねぇよ! すぐに連絡を」
最後までは言葉にできず、腐った
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カジットは激怒した。
必ず、かの
カジットには政治がわからぬ。
カジットは、邪教の
死体を集め、
けれども(自身の計画の)邪魔に対しては、人一倍に
きょう未明カジットは開店準備の買い出しに歩いていた
「ぐふふ、
死の宝珠に力を込める。
「さぁ、まずは契約を
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エ・ランテルは混乱の
無理もない。
この世界のエ・ランテルには衛兵達の危機を救う『漆黒の英雄』など存在せず、ベテランのミスリルチーム『天狼』や、新進気鋭のミスリルチームで行く行くはオリハルコンへの昇進も
そのような状況から、不運にも数合わせで前線担当になった鉄級冒険者もいた。
ブリタも、その一人である。
(なんでアタシなんかが……他にも適任いるでしょうよ!!)
そんな恐怖を押し殺し、ガタガタ震えながら剣を振るう。
……そして、残念ながらそのような状態で生き残れるほど『この世界』は甘くない。
ブリタは死角からの衝撃に突き飛ばされた。
『え?』と思うと、
……自分がいたはずの場所で
「イグヴァルジ!」
「ば、きゃ、ろ……ボサっと、してんな……」
「アンタ、なんで……」
「へっ、ついだよ。つい」
腹を貫通されながら「チッ、衛兵共、槍を落としやがったな」などと悪態を
クラルグラのメンバーがイグヴァルジを必死にカバーしていた。
「おら、迷惑なんだよ……ここは任せて、さっさと下がれ」
「任せろったって、それ……」
「はっ! どうって事ねーよ。俺様を誰、ぐっ」
「……おもしれー。力比べ、だ!」
イグヴァルジが対抗すると、バランスを崩す
その
「大丈夫かよリーダー!」
相手が倒された
「……へへ、ざまーみろ、だ」
槍を引き抜いた。
大量の出血、目付きも危うくなってきた。
その様子にブリタは、
「これ! 飲んで!」
なけなしのカネで買ったポーション。
とっておきだ。
「……やめ、とけよ。俺みたいな
「うっさい! ぶっかけるよ!?」
無理矢理、口に突っ込んだ。
仕方なしに飲み干すイグヴァルジだったが、それでも完全には
「……そんな」
「……ありがとよ、ブリタ。さぁ引っ込んどけ」
「無茶だって! アンタが下がりなよ!」
「何言ってんだ、『虹』は反対側、俺らしかいねーんだよ」
「……女を守って死ぬ、か。いいね、最高に英雄じゃね?」
「イグヴァルジ……」
「生き延びろ。そんで、
「いや、お前達は見事に戦った。後は任せよ」
前に出ようとするイグヴァルジの肩に、分厚い
「
岩のような手からは想像も付かない
「あ、あんた、一体……」
「名乗るほどの者ではない。しがない旅の修行僧だ」
僧が言う。
「
そして、カッと目を見開くと
「かぁぁぁぁぁぁぁぁつ!!!」
「
踊り子風の女が言うと、
踊る、踊る、
「
フードを目深に被った
「今、楽にしてやろう」
そう言って発動したのは、彼が旅の中で身に付けたオリジナル魔法。
「
負属性の相手からHPを奪い取り、自己のHPやMPに変換吸収する術で、自己のエネルギーが上限の場合、一定時間内に限り『次に使う魔法』への
眼下では這い蹲っていたゾンビ達が
「
炎を撃ち降ろし、健在だったアンデッド達も含めて火葬にしていく。
「デイバー、分かるか」
「あぁ、墓地の方から不死者共を支配せんとする声が聞こえる。俺のように知性がなければ
「ならば行くまで。お前達、我らが
と、冒険者達に言うと何の
その後ろ姿を見送りながら、イグヴァルジは悟る。
『あれこそ、正に英雄』と。
(あぁ、俺に足りなかったのは
……どうでも良い話だが、この戦いの後、イグヴァルジはブリタと結婚した。
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混乱は行政区も同じであった。
ただし、パナソレイ・グルーゼ・デイ・レッテンマイアのような『都市運営に直接
貴賓館に滞在する貴族らは状況が分かっておらず、ペスペア侯爵がパナソレイに事情を聞きに行っているくらいのもので、他は静観。
ちなみにエ・ランテル入りしたのは国王ランポッサ三世の他は王派閥からブルムラシュー侯爵とペスペア侯、貴族派からリットン伯爵である。
レエブン侯爵、ウロヴァーナ辺境伯は王都の留守を任されている。
ボウロロープ侯爵ら貴族派への『目付役』である。
まぁ実際エ・ランテルは『城塞都市』であり、行政区は最も安全な中心部。
いざという時のために談話室へ集められているが、避難するにしても『 (ここ以上に安全な場所など) どこに?』という認識であった。
ただ、流石にランポッサ三世は気を
(街は今どうなっているのだ……)
一方、リットン伯は……
「まったく、どうなっているのですか。明日には会談だというのに。王の直轄領エ・ランテルでこの体たらくとは」
遠回しに『王の監督責任では?』と、ランポッサ三世の権威を
これに対しブルムラシュー侯、
「まぁまぁリットン伯爵。とはいえ都市長とペスペア侯爵は、まだ戻らんのですかな」
ブルムラシュー侯は帝国に内通する裏切り者で、いつも
『貴族派が2つ下げたところを1つだけ上げて見せ、王を
というような事をしてきた男。
だが今の帝国は休戦と同盟を望んでおり、会談では全面的に王を支えるつもりでいた。
あくまで『いつものブルムラシュー侯』を演じているだけだ。
ランポッサ三世は
「今は火急の時。事態の
というが、リットン伯
「それは
それでもランポッサ三世が、
「民に危険が及んでいるのだ。まずは必要な行動を考えねば」
と言えば、リットン伯は
「陛下はお優しいですな。しかしながら、
と冷笑すれば、ランポッサ三世が
「自分たちが全て見えていると考えるのは、いささか
と異を唱えれば、リットン伯
「我ら上に立つ者が『何も起きていない』と示す事こそ
……先程から周りの王派閥からはランポッサ三世を擁護する発言やリットン伯を批判する
この男、普段から自分の存在感を増す事に
そんな風に『議論は踊る、されど進まず』を地で行くやり取りを続けていると……
突然、窓を突き破って何か大きな塊が飛び込んで来た。
「ひぃぃ!」「な、何だ一体!」
一気に騒然となる談話室。
それは腐敗して
『ぅああ』などと
「なんでこんなものが」「衛兵は何をしていた!」
吐き気を
「おい近衛! 何をしておる!
「ぁ……はっ!」
剣を抜き
「いや、下手に触るのは……」
とランポッサ三世が言いかける、が
振り下ろされた切っ先が刺さった瞬間、それは爆発した。
腐臭と臓物と負属性エネルギーを
アンデッドの正体は何者かに投下された
貴族を中心に重軽傷者多数。
ブルムラシュー侯とリットン伯が近衛兵と共に死亡。
何より……
ランポッサ三世、
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その知らせをニンブルから聞かされたジルクニフは
だがそれは、ランポッサ三世を死に
「フールーダ、上空から様子を見て来い。ニンブル、レイナース、リオンを護衛しろ。リオン、事態の収拾に手を貸してやれ。それと」
ジルクニフはリおんに耳打ちする。
それを聞き、リおんは
「……よろしいので?」
ジルクニフは
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『虹』のリーダー、モックナックは追い詰められつつある事を自覚していた。
圧倒的に足りない味方の数と実力。
致命的にならないよう、疲労し始めたら交代を
だが、その交代
それでも愛する街のため、人々のため、ミスリル級の誇りをかけて戦い続ける。
自分が倒れるまで、
その不屈に天が味方したかの
戦場に、音楽が響き始める。
「ランポッサ三世陛下、敵アンデッドの奇襲により崩御されたり!
バハルス帝国、皇帝専属楽士リおん・がぶりール、主君の命により加勢します!!」
「野郎、
「墓に送り返してやる!」
モックナックも、バフで体に力が
「これなら、やれる!!」
ニンブル、レイナースらの加勢、エルフ三人の援護もあって、戦線は復活した。
リおんが受けた命は『帝国が助けたという既成事実』を作る事。
これに合わせて情報省の工作員も動き出す。
勝手に王の死を知らせるなど内政
『知った事か』である。
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《共同墓地 地下神殿のある霊廟前》
「カジット様」
弟子の一人がカジットに『侵入者』の接近を知らせる。
しかし、それは相手にも聞こえ
「……カジット? 貴様、ズーラーノーンのカジット・デイル・バダンテールか!?」
目深にフードを被ったローブの
正体を知られ、名前を出した弟子を
弟子は
「……だったら何だ。貴様らは何者だ」
「我が名はゼロ。お前に、
「何?」
「何故、こんな事をする」
「はっ! それを聞いて何とする」
「……ヒトは、望みによって動くものだ。これだけの事を仕出かすほどの何かが、お前にもあるのだろう。それを知りたい。
知らねば、本当の意味でお前を止める事ができんからだ」
「………………望み、か。あぁ、あるとも」
そう言ったカジットは、なんと弟子達に向け
「
「な、カジット様ぁぁ!!」「がぁぁっ!!」
「あやつらは強い。貴様らでは役に立つまい。我が
「……カジット、なんという」
自らの部下に対する非道に、怒りとも悲しみとも取れる声を漏らすゼロ。
「……ふっ」
さらなる負のエネルギーに、
「さて、わしの望み、だったな……それは、母の蘇生よ」
「……何」
母の死、早く帰宅しなかった自分への
「……この計画を始めてから5年、母を失ってから30年だぞ。わしを止める? ふざけるな!! 貴様に一体、わしの何が分かる!!」
叫ぶカジット、死の宝珠に力を込め、地中から
しかし素早く後ろに飛び散開、ゼロ達は回避に成功。
デイバーノックが悪態を吐く。
「魔法への完全耐性、か。俺は術者を狙うしかなくなったな」
それに対しゼロ
「いや。デイバー、エド、周りを頼む。手出し無用」
「このわしに一人で、だと? その判断を後悔させてやる! 行け、
これに対し、ゼロ
「……カジット、確かに俺にはお前の悲しみも絶望も、
手を合わせ、祈りを捧ぐ。
「お前を
全身の入れ墨が神聖な光を帯び始める。
ゼロの言葉に
「何の救いにもならん坊主の
潰せぃ!!」
「……俺の言葉など、
一度、道を
ならば拳で止めるのみ。
お前の母が、これ以上泣かぬようにな!!」
死を
「
おぉぉぉぉ! 聖拳、百連撃ぃぃぃ!!
オラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラ!!」
ゼロの
カジットも負けじと、
「
回復を続けるも追い付かない。
「ぬぅぅぅぅぅん!」
ゼロ、天高く飛び上がり一回転
「でゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」
流星の如く、落下速度を上乗せした必殺の一撃を
直撃の瞬間、聖属性の衝撃波と骨の破片がカジットをも含む周囲を
「ぐぁぁぁぁぁっ!!」
墓地に、
カジットは
「……貴様のような強者が現れるとは。ふっ、二体目は必要であったな。契約は
もう長くはないであろうカジットに、ゼロが語りかける。
「カジットよ。俺は、お前の願いを
悪とは、苦痛と力不足が生み出すもの。
もし罪があるとするならば、それは、お前の母を救えなかった故郷や、お前自身の力不足にあるのだろう。
お前一人の罪ではない」
「……」
「だが、仕出かした事が事だ。お前の魂は地獄へと導かれるのやも知れぬ。なれば、せめて一度だけでも母に会えるよう祈ってやろう」
ゼロは、ある信仰系魔法を
それを
その行為が奇跡を生んだのか、ゼロが放つ光の中に、カジットは母の姿を見た気がした。
「あぁ…………かぁ、さ……」
事切れたカジットの死に顔は、大事件の首謀者とは思えぬ
「で、これからどうするんだい?」
エドストレームが問う。
「この状況だ。まだ街には救いを求める者達がいよう。手を差し伸べるまで」
するとデイバーノックが現実的な指摘をした。
「街の中で目立つと、また追われると思うが。俺達は一応『お
それに対しゼロ、フッと笑い
「その時は、また逃げるだけよ」
などと話していると、霊廟の方から
「だ、旦那方。すんません、あの……」
「何だザック。そんな所にいたのか。どこへ行ったかと思っ……その子は?」
出て来たザックは、いっそ
攫われたンフィーレアである。
……
言えば間違いなく
「話しかけても、うんともすんとも言わないんでさぁ。どうしたもんかと……」
「デイバー、何か分かるか?」
デイバーノックが魔法で調べると、
「これは、何とも
叡者の額冠 について説明した。
「ズーラーノーンの秘密兵器、か?」
「だとしても不思議はないな」
「……デイバー。どう
「……確かに、俺は深淵を求めている。だが、コレもまた『ヒトが作ったもの』であろう? ならばコレ以上の何かをも、ヒトは作れるかも知れん。そう考えればコレは、この少年や、少年に連なる者達の未来を犠牲にするべきほどの物なのか……
デイバーノックは首を横に振った。
「決まりだな」
「しかしゼロ。無理に外そうとすれば彼が発狂するぞ?」
「ならば壊すまで。ヒトが作ったもので、ヒトに壊せぬものなど、ない」
そう言うと、ゼロは信仰の力を高め
「ぐれーたーぶれいくあいてぇぇぇぇむ!!」
拳を振り下ろした。
ンフィーレア少年の頭蓋骨を
……『某・剣客浪漫譚に出てくる“ 二重 ”の技のようだ』などと言ってはいけない。
また、ゼロの叫びは呪文名ではなく、神話に出てくる神の
「おぉ、流石だなゼロ」
「大したもんだね」
「フッ、これが信仰の力よ」
……そういう事にしておこう。
こうして、事件を終息させたゼロ一行。
……カジットの手から転がり落ちた玉を拾い上げ『にへら』と笑い、転移魔法で消えた老人の存在に気付く事はなかった。
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「爺、戻ったか」
ジルクニフに耳打ちするフールーダ。
「……そうか、良かろう。だが成功にせよ失敗にせよ、魔力が回復次第、直ちに戻れ。
エ・ランテルに、軍を駐留させる」