【完結】おおかみ☆せんせーしょん(ハーメルン移植版)   作:ブドウ冷やしんす

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老年期の終わり

 

「そのような事が、許されるとお思いか!?」

 

パナソレイは猛然(もうぜん)と反発した。

 

 

応接室のテーブルを(はさ)んで対面するジルクニフは、長椅子に背を(あず)け足を組み、時折(ときおり)、耳元をポリポリ()いたりしているが、(くつろ)いだ様子。

 

 

「王の同意もなく! 他国の都市に軍を駐留させるなど!」

 

 

ここには二人しかいない。

 

 

延々(えんえん)(まく)し立てるパナソレイ。

 

 

「この非常時に! 何を!」

 

 

彼は顔を真っ赤にさせているが、ジルクニフは聞いているのか、いないのか

 

 

「火事場泥棒よろしく、そのままエ・ランテルを取るおつもりではないのか!?」

 

 

どこ吹く風と(すず)しい顔。

 

 

「王としての矜持(きょうじ)は、お持ちでないのか!!」

 

 

ただ、(だま)って見ているだけ。

 

 

散々罵声(ばせい)()びせ、もはや出す言葉も()きたのかゼーゼーと肩で息をして(にら)むだけになったパナソレイ。

 

 

ジルクニフが、口を開く。

 

「……2年ほど前になるだろうか。私は、得難(えがた)い臣下と出会った」

 

 

何の話かと(いぶか)るパナソレイ。

 

 

「様々な知識、新しい制度……()(やつ)のおかげで帝国は多くの恩恵(おんけい)を得た」

 

 

誰の事だろうか、と内心で首を(かし)げる。

 

鮮血帝の主要な部下で『知識』というなら、フールーダかロウネ、しかし『2年前』という。

 

二人とも古参だ。

 

 

「その恩恵は私に余裕を与えてくれた。……いや、確かに多くの改革で頭を悩ませたが、抵抗貴族共との政争に比べれば……知っているか? 余裕がなくなると、ヒトは根本的な事さえ案外簡単に見失ってしまうものだ」

 

 

時期的にはブレイン・アングラウスだが、剣術ならさておき『知識』?

 

後は楽士のリオン……いや、まさかな、と。

 

 

「フッ、信じられるか? この私でさえ、政争に明け暮れるばかりに『本来の目的』を忘れ、政争が……権力の最大化と帝国の拡大こそが目的化していたのだ」

 

 

話の行く先は見通せないが、重要な情報収集にはなる、と、パナソレイは黙って聞く。

 

 

ジルクニフは組んでいた足を()き、預けていた背を起こし、(ひざ)の上で軽く両手の指を組ませながら、少しパナソレイを(のぞ)()むようにして話を続けた。

 

 

「貴殿はどうだ? パナソレイ都市長。貴殿がエ・ランテルのため粉骨砕身してきた事は知っているが、それが何のためか憶えているだろうか。

 

 

貴族とは、何を(もっ)てその地位や権力を許されている?

 

 

王とは、国家とは、何のために存在している?」

 

 

 

ここで、ジルクニフの指に力が()もり、(わず)かに震えだし、

 

 

 

「………………そこに生きる、

 

 

(たみ)の、

 

 

 

生命と幸福を

 

 

 

 

…………守るためであろうが、この()れ者が!!!

 

 

 

一転、身を乗り出して爆発したジルクニフに、パナソレイは狼狽(ろうばい)した。

 

 

王派閥? 中央集権?

大いに結構! 大賛成だ!

 

それで何だ?

お前達は今まで何をしてきた!!

 

貴族派の牽制(けんせい)

政治のバランスを取る?

 

ハッ! 物は言いようだな!

 

そのように言い訳して政局争いに終始しながら、ただ王の号令を待っていただけではないのか!?

 

 

号令を出せない王だと知りながら!!

 

 

狼狽した事もあるにはあるが、パナソレイは言葉を返す事ができなかった。

 

身に覚えがあり過ぎた。

 

 

確かに我が帝国の影響もあったろう。

 

だが、それも1年前までの話だ!!

 

ジルクニフはテーブルに(こぶし)を叩き付けた。

 

 

帝国は例年の『カッツェ平野』こそ継続していたものの、実は王国への分断策だけは停止していた。

 

いきなり休戦しては軍からの求心力に影響がある。

 

 

それ以降の我が国は『王国に物を売り付け、そのカネで作物を買った方がコストが低い』と考えを変えていった。

 

それで、お前達は変化したか?

 

『王のため』と言って独断で貴族派や八本指を()るしたか!?

 

 

……毎年カッツェ平野開戦前に送る書状。

 

あれに書いた抗議やら何やら、単なる開戦の口実とでも思っていたのか?

 

 

全て事実だ! 馬鹿が!!

 

 

そこまでせねば変えられんのは自明であろうに、自分の責任では動きたくないと、誰も、何も、しなかったではないか!!!

 

 

パナソレイは「ぐっ」と言葉に詰まる。

 

 

そうやって逃げ続けた先でランポッサが死に、次の王は誰だ?

 

バルブロではないか!!

 

あの男が、まとも休戦や同盟に機能すると本気で思っているのか!!!

 

 

『バンッ』と両手をテーブルに突き、鬼の形相(ぎょうそう)で睨むジルクニフ。

 

 

「……あくまで『同盟に向けた』駐留だ。占領ではない。市民には『戦争行動ではない』と()れを出せ。私にとて王の矜持はある。

 

だが、それも次王の返答次第だ。

 

貴重な前線基地を馬鹿共に任せられるか!! 

 

 

この! 緊急時に!!

 

お前達の喜劇的な(まつりごと)に付き合っている余裕など、ない!!!

 

 

指差されながら言い放たれ、パナソレイは()()った。

 

 

「……私には、あの忠臣に(むく)いてやる義務がある。

 

ここにはブレインも四騎士もフールーダもいる。

 

お前が『仕事』を果たせぬと言うなら、私にも考え(・・)がある。

 

そうバルブロにも伝えておけ!!!

 

 

パナソレイはパクパクと口を動かしながらも、それは結局言葉にならず、黙って礼をして退室。

 

『私では、この男を止められない』と。

 

 

パナソレイは、ジルクニフの恫喝(どうかつ)とも取れる『要請』を自身の『泣き言』でコーティングしたような書状を王都へ送った。

 

 

……結論から言うと、その書状に対する返答が来る事は永久になかった。

 

何故なら……

 

 

┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄

 

 

Sideガゼフ

 

 

我々は必死に馬を走らせていた。

 

エ・ランテルの方角に煙が見えたのだ。

 

 

見間違えるはずがない。

 

あれは通常の『生活による煙』の量ではない。

 

 

エ・ランテルで、何かがあったとしか思えない。

 

「……陛下……どうかご無事で!」

 

 

 

そんな時、突然『景色が止まった』

 

「!?」

 

見れば、自身が乗っている馬も、後ろの部下達も、走っている形のまま静止していた。

 

中には地面から足が離れた状態で、完全に空中で止まっている者さえあった。

 

その中で、自分だけが動けている。

 

「……一体……何が……」

 

 

 

ガゼフ・ストロノーフ

 

 

 

「誰だ!!」

 

 

気付けば、少し先、目の前に一人の男が立っていた。

 

黒いローブに身を包んだ、

 

「……魔法詠唱者(マジックキャスター)?」

 

フードの下に見える肌は見慣(みな)れぬ黒い色。

 

 

「ガゼフ・ストロノーフ、お前に伝えねばならぬ事がある」

 

 

「一体、何者だ!」

 

私は動かぬ馬から飛び降り、剣を抜いた。

 

 

「私が何者かは、この際どうでも良い。死を告げに来た神か魔の類いとでも思っておけ」

 

 

神か、魔……

 

この異常な状況を考えれば、確かに『それくらい』しか思い浮かばないのは事実だが……

 

 

「……死神、という事か。だが、悪いがまだ死んでやるわけにはいかんのだ」

 

 

「勘違いするな。お前に死を告げに来たわけではない」

 

 

「何?」

 

 

「心して聞け。

 

 

……ランポッサ三世は死んだ

 

 

「な!? 何を馬鹿な事を!!」

 

あまりにも不快で信じ(がた)い事を言われ激昂(げきこう)するも、ヤツは肩をすくめ

 

「信じたくなければ構わん。どのみちエ・ランテルに着けば分かる事だ。それよりも、お前に伝えるべき事が他にある」

 

 

「……何だ」

 

 

「本題の前に一つ()きたい。お前は……

 

いつまで『壁に飾られた剣』で居続けるつもりだ?

 

 

「な……」

 

 

『壁に飾られた剣』

 

身に覚えがあり過ぎた。

 

政が分からぬ(ゆえ)、貴族派が好き勝手な事を言おうとも、私は陛下の苦悩を、ただ見続ける事しかできなかった。

 

 

「そ、れは……心苦しくはあるが、仕方のない事だ。私には、政が分から」

 

 

「それだ。お前は勘違いしている」

 

 

「……勘違い?」

 

 

ヤツは、私に問いかける。

 

「お前は何だ、ガゼフ・ストロノーフ」

 

 

『何』?……私は……

 

 

「……私は、王国戦士長……」

 

 

「つまり『王の剣』であろう? であれば、お前がするべき事は最初から決まっていた」

 

 

「するべき、事?」

 

一体、何を……

 

 

答えを出せぬ私に、ヤツは僅かに苛立(いらだ)ちを(にじ)ませ、

 

「ハァ……いつまでも時間を止めているのは楽ではないのでな。

 

 

想像しろ。

 

ここは、いつもの御前会議。

 

いつものように貴族共が(さえず)り始める。

 

そんな時、お前がするべき事は『一番、暴力に弱そうな貴族に目を付ける事』だ

 

そいつが王を軽んじる発言をしたら、お前は言ってやれば良かった。

 

 

 

貴様! ここをどこと心得る!

御前であるぞ!

 

その地位、誰に(たまわ)ったものであるか!!

 

 

 

そう言って、そいつに剣を」

 

 

「待て! そうしたいのは山々だが、そんな事をすれば」

 

 

「そうとも。だから王と示し合わせておけば良かった。

 

お前が剣を振り上げた時、王は一言、

 

 

 

待て、ガゼフ

 

 

 

そう告げるだけで良い。

 

お前の腕なら、王の言葉で寸止めを演じるくらいできるだろう。

 

それとも、無理かな?」

 

ヤツは挑発的に笑ってみせた。

 

 

「それは……可能だ」

 

強がりでも何でもなく、事実だ。

 

 

「では、後は剣を収め、王が何事もなかったかのように話を進める」

 

 

「いや、それではヤツらは黙っていないだろう!」

 

 

「もちろん。だから王は(たず)ねれば良い。先程(さきほど)、切っ先を突き付けられた貴族に

 

 

 

何か、あったか』と。

 

 

 

その言葉で、お前は、そいつの(なな)め後ろ、

『いつでも首を落とせる位置』で剣を振り上げ、待てば良い。

 

その状況で、王が二度目に訊ねた時、そいつは『何もございません』以外の言葉を発せるか?

 

本人が『何もない』と言っているのに、他の者が(さわ)げるのか?」

 

 

それは……

 

 

私の脳裏に『それを()せた場合』の光景が、胸が()くような気持ちと共に映し出される。

 

 

「……ガゼフ。お前に必要だったのは政の能力ではない。

 

『王にのみ忠実な暴力である事』こそ示すべきであったのだ」

 

 

心底(あき)れた、と言う風にヤツは続ける。

 

 

「お前と王が、容易に可能な範囲で『芝居』をするだけで、御前会議は王の独壇(どくだん)(じょう)にできた。

 

お前が普段から高圧的な『王にしか制御できぬ猛犬』を演じていれば貴族派を牽制できた。

 

当然、お前への暗殺計画は今とは比べ物にならない数となろう。

 

だが、それに(くっ)するなら『その程度だった』というだけの話。

 

お前が必要以上に『お行儀良く』していたから、貴族共は付け上がり……

 

 

 

………………お前が王を追い詰めたのだ

 

 

 

「なん……だと……」

 

私は、思わず剣を取り落とした。

 

 

私が……身の振り方を(あやま)ったから、なのか……

 

『そうしてやりたい』と、何度も思ったそれ(・・)を、しなかったからなのか……

 

 

「そして、それはもう取り返しが付かない。王は死んだのだから」

 

 

「嘘だ!! そんな、そんな事が」

 

 

「どう思おうと勝手だが、エ・ランテルに着いた時、現実に直面するだろう。心の準備をするべきではないのか?」

 

そう言って、ヤツは自身の胸の辺りを軽く叩いて見せる。

 

 

まさか……

 

 

そう思いつつ、私は懐に仕舞った『陛下からの書』を取り出す。

 

震える手で、それを開くと……

 

 

妙な胸騒ぎを覚え、これを書く。

 

叶うなら、年寄りの取り越し苦労であってほしいと願う。

 

ガゼフ。

 

この書を読んでいるという事は、私はもうこの世に居らぬのだろう。

 

お前が任務の最中に判断を迷う事など、他にはあるまい

 

 

陛下!?

 

 

だから、ここに最後の命令を記す。

 

お前が王国のために最善と思う行動をせよ。

 

私の死が如何(いか)なる状況か、私には分からぬ。

 

だが、忠義に(あふ)れるお前なら何を成すべきか見誤る事はあるまい。

 

 

そして、これは命令ではなく頼み事だが、お前の行動に差し支えない範囲でザナックとラナーをよろしく頼む。

 

バルブロはボウロロープ侯が守ろうとするだろうから考えずとも良い。

 

 

ザナックは王国の未来に必要だ。

 

それとラナー、あの子には申し訳ない事をした。

 

もっと耳を傾けるべきであったし、何か生きがいを与えてやるべきだった。

 

私は不出来な王で、不出来な親だった。

 

 

お前にも苦労をかけたな。

 

こんな私に尽くしてくれた事、感謝する。

 

 

お前の行く末に幸多からん事を

 

 

俺は、あまりの事に膝を突いた。

 

陛下……予感してらしたのか……

 

滅多な事では泣くまいと決めていたが、これには(こた)えた。

 

 

一体、何があったのか。

 

俺がいて守る事ができた状況だったとしたら、そうできなかった事が悔しい。

 

そうでなかったとしても、最後を看取(みと)る事ができなかったのは残念でならない。

 

そして、信頼を示す言葉の数々。

 

であるのに、それに応えるどころか足枷(あしかせ)になっていたかも知れぬとは……なんと情けない。

 

故に抑えきれず、つい涙が(こぼ)れた。

 

 

「さてガゼフよ。本題に入って良いかな」

 

 

本題……これ以上の何があるというのか……

 

 

「改めて確認するが、お前は何だ」

 

 

俺は万感(ばんかん)の思いを込め、(よど)みなく答えた。

 

「……俺は王国戦士長、(ランポッサ三世)の剣、ガゼフ・ストロノーフだ!

 

 

「……(よろ)しい。ならば王の剣よ、お前が守るのは、王の命や体だけか」

 

 

「守るもの?」

 

 

王の『遺志』は?

 

 

なるなど……ならば、

 

 

「……守ってみせよう。

 

 

…………(つらぬ)くのみ!

 

 

「……フッ、馬に戻れ。

 

行け、ガゼフ」

 

 

応!!

 

 

剣を拾い上げて収め、馬に(また)がると再び時が動き出した。

 

ヤツの姿は、(すで)にない。

 

 

……死神、か。

 

てっきり、もっと事務的で容赦(ようしゃ)ない存在だと思っていた。

 

まさか『一喝(いっかつ)』など、(いき)(はか)らいをしてくれようとは。

 

 

戦場では、時に全てを(さと)ったような死に顔を見る事もあるが、つまり『そういう事』なのだろうか。

 

……俺の死に際にも、再び現れるのだろうか。

 

いや、不要だな。

 

 

「……最早、迷わん!!!

 

 

┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄

 

 

少し時を(さかのぼ)る。

 

 

モモンガ達は急遽(きゅうきょ)ナザリックに戻り、椅子に座りながら遠隔視の鏡(ミラー・オブ・リモート・ビューイング)でエ・ランテルの戦闘を観察していた。

 

 

当初こそデミウルゴスからの一報で

 

(なんだってんだよ! これも法国の策略か!?)

 

と困惑……いや、苛立(いらだ)ちを覚えたものの、カンストプレイヤーのモモンガからすれば低レベルな戦いに、どうしても緊張感は続かなかった。

 

 

(本人たちは必死なの分かってるんだけど、ユルいよなー……)

 

ついでだから、と、現地人の能力把握(はあく)に努めている。

 

 

デミウルゴスは『会談』の話が出た時点で影の悪魔(シャドー・デーモン)を走らせていたので、ガゼフを追い越し逸早(いちはや)く事件を察知(さっち)する事ができた。

 

ただ、到着から事件発生までが早すぎたため都市構造の把握(はあく)が間に合わず、貴賓館での一件は見落とした。

 

 

(あー……これ無理かな。交代がんばってるけど、回らなくなってる。どうするかな……加勢してやらなきゃ会談とか全部パァになりそうだけど、実力差から見て明らかに『神降臨』扱いされるだろうな。『神』かぁ……)

 

 

鏡は一枚しか起動してないので、残念ながら筋肉僧侶の活躍は見ていないらしい。

 

つまり……

 

 

冒険者達の危機、そこに颯爽(さっそう)と現れる吟遊詩人(バード)の少年。

 

 

(なんでお前がそこにいるんだよぉぉぉ !?)

 

 

後ろでアルベドやデミウルゴス、セバスらが

 

「「「リおん・がぶりール様!?」」」

 

と驚いている。

 

(ルプスレギナはカルネ村で留守番)

 

 

鏡の中の映像で、リおんが何か(しゃべ)っているのを見てモモンガは

 

(あ、ヤバ、音声音声! 最初から発動しときゃ良かった!!)

 

ワタワタしながら魔法を発動するも間に合わず、呪歌の場面から聞こえ始める。

 

 

「あぁ、なんて素敵な歌かしら」

 

「効果範囲外だというのに、(いや)されるようですな」

 

「まったく、現地の者達を(ねた)ましく感じるね」

 

などと守護者らは評するが、呪歌それ自体は『謎のユグドラシル語』でしかなく、モモンガからしたら

 

 

(確かに歌声は良いけど、外国語の歌を聞いてるようにしか……)

 

 

結局のところ、歌の内容が『意訳』されるか否かは、本人の教養や語彙(ごい)力の他『そもそも歌の内容を把握しているかどうか』であり、プレイヤーが知っているのはフレーバーテキストまでで、誰も呪歌の歌詞など知らない以上、この世界の『翻訳現象』が働くわけはない。

 

 

それはそうと、

 

 

「ハッ! モモンガ様、今すぐお迎えに上がるべきではないでしょうか」

 

アルベドが進言した。

 

 

鏡の向こうでは戦線が息を吹き返し、(別の場所では筋肉僧侶も戦っている事だし)(じき)に終息へ向かうだろう。

 

一安心という事で、モモンガは気になった。

 

 

(アイツ、どういう立場で『そこ』にいるんだ?)

 

 

幸か不幸か、守護者らが発狂するであろうリおんの『主君の命により』発言は聞こえていなかった。

 

逆を言えば状況判断の材料を得られなかったわけで、少ない情報から考えるしかないモモンガは頭から湯気が出そうだった。

 

(から)の頭蓋骨だが。

 

 

(もうちょっと待って! 判断材料がほしい! 下手に飛び込んで変な事になったら困るだろ!)

 

(あご)に手をやり『考える支配者のポーズ』で鏡を見続けるモモンガ。

 

一同は固唾(かたず)を呑んだ。

 

 

そうこうしているうちに戦闘が終了。

 

冒険者ら対応していた人々は喝采(かっさい)した。

 

〈非常時に王国も帝国もあるか!〉

 

〈両国万歳!!〉

 

〈よっ! 超一流吟遊詩人(バード)リオン・ガブリール!!〉

 

中には

〈前に来てくれた時からファンでした!!〉

という女性冒険者の声も。

 

 

(……ふーむ。つまり『帝国で主に活動している有名人』という感じ、かな。帝国騎士らしき二人も護衛っぽい動きをしてるし)

 

 

その様子はアルベドも見ており、

 

「……現地の者達も、少しは『リおん・がぶりール様の素晴らしさ』を分かっているようですが、だとしても護衛は足りませんし、儀仗隊(ぎじょうたい)も必要かと存じます」

 

 

(儀仗隊!?) ※式典や演奏を担当する部隊

 

モモンガは噴きそうになったが(こら)えた。

 

 

ここで、森へ調査に出ていた二人……マーレの方からメッセージが入った。

 

〈あ、あの、モモンガ様、今よろしいでしょうか……〉

 

 

「む、マーレか」

 

一同を手で制する。

 

「大丈夫だ。何か分かったか?」

 

 

〈は、はい。森で一番強い、大きな木のモンスターを見つけ、ました……ただ……〉

 

 

「どうした?」

 

 

〈お聞きしていたのは100レベルですが、見つけたのは80レベルくらいだったので、その、ほ、本当にご命令通りのモンスターなのかな、と……〉

 

 

(……80くらい?)

 

 

ようやく『現地基準によるブレ』に気付くモモンガ。

 

 

「……大丈夫だマーレ。恐らくソレだろう。引き続き、刺激などしないように監視を頼む」

 

 

〈了解しました!〉

 

マーレの嬉しそうな声で通話は終了。

 

 

(と、なると、変じゃないか。合同で討伐を考えるくらい大騒ぎになってる国の、一方にはリおんがいる。

 

アイツなら80レベル程度、持ってるスクロール使えば余裕だろ。

 

いつだか『ご利用は計画的に!』なんて言ってたくらいだ。

 

早々、手持ちが尽きるとは思えない)

 

 

そんな風に思うモモンガの目に、鏡の向こうで可愛らしく

ふんす!

と、やり遂げた感のドヤ顔をするリおんが見えた。

 

 

(…………もしかして、これ、『イベント中』ですかリおんさん)

 

 

ここでモモンガ、余計な事を思い付く。

 

『反逆の心配は既になく、忠誠心メーター振り切れ気味な守護者らとは、むしろ関係改善が必要で、コレ使えるんじゃないか?』と。

 

 

椅子から立ち上がり、『僕が考えた圧倒的支配者ロール』で睥睨(へいげい)しながら語り始めるモモンガ。

 

「……ふむ。アルベドの意見は理解できる、が……お前達に訊きたい。我々アインズ・ウール・ゴウンは、ナザリック外に何をしに出ていたと思っている?」

 

 

アルベドは「偉大なる御方々の御威光を世に知らしめると共に、大いなる宝や多くの財貨を獲得するためだと認識しております」

 

 

セバスは「慈悲深き御心で(しいた)げられし者達を救い、不心得者共に鉄槌(てっつい)を下していたと、以前お聞きした記憶がございます」

 

 

デミウルゴスは「付け上がった愚者共に格の違いを見せ付けてやり、いずれは世界を手中に収めるべく邁進(まいしん)なさっていたものと愚考いたします」

 

 

「……うむ、いずれも正解であり、いずれも一面的であると言えよう。

 

我々は、な……『遊んで』いたのだよ」

 

 

「「「!?」」」

 

 

「知っての通り、我らの力は絶大だ。故に、お前達の認識していたそれらは『遊びの延長』だったのだ」

 

 

「あぁ……全て()に落ちましたわ」

 

「流石は、偉大なる御方々……」

 

「それほどとは……自身の視野の狭さに恥じ入るばかりでございます」

 

 

『遊びアピール』と『余裕アピール』を間違えたモモンガ。

 

 

(……あ れ……今までのロールを崩さない範囲で『遊びだったんだよ』って言ったつもりだったんだけど、ミスった? 方向修正……そうだ、リアルの事を少し話してみるか)

 

 

「う、む……まぁ実際、リアルと比べたらな。あちらでは魔法もスキルも使えず、当然、蘇生魔法などない。ナザリックなら会える者も、あちらでは住んでいる場所がバラバラで遠い事もある。ユグドラシルのように協力し合う事もできない。それでも戦わざるを得ないのは……」

 

 

守護者らはリアルの過酷な条件に(おそ)(おのの)いているが、モモンガは気付かず、

 

 

(これも言っちゃおうか。うん。その方が誤解が解けるだろうし)

 

 

「……実は、お前達が知っている我々の姿は、本来なら『仮の肉体』なのだ。本体はリアルにある。それを維持するために戦い続けなければならなかったのだ」

 

 

これには一同、顔を青ざめさせた。

 

アルベドが、

 

「それではモモンガ様! 本来のお体は今……」

 

 

「…… ……あー……正直、分からぬ。この状況自体が想像の範囲外だ。平行世界のように『あちらの自分』と分裂したのか、こちらへ精神や魂が切り離されたのか……この世界からでは確認のしようがない」

 

(あれ、みんな顔色が悪い……あ、安心させるような方向へ!)

 

「だが、どうでも良いと思っている」

 

 

「「「!?」」」

 

 

「皆を置いて来てしまった事は残念に思うが、私自身はリアルの生活に未練はないし、各々(おのおの)に余裕がなかったとはいえ、ナザリックに帰還しなかったのは本人達の意思でもある。今のような状況になるなど予測もできなかった以上、仕方ない」

 

『自分一人だけリアルから解放されたのは申し訳なく思うがな』と軽く笑ってみせた。

 

 

デミウルゴスが、

 

「モモンガ様。であれば御方々の『救出』を計画するべきでしょうか」

 

創造主が過酷な戦いを続けているからだろう。

 

 

「……『救出』か……それができれば望ましいとは思うが、その前に調査を徹底するべきだろう。万が一、致命的な落とし穴を見落としたまま連れて来ました、では申し訳が立たん」

 

 

「……(おっしゃ)る通りかと」

 

デミウルゴスの中で調査への熱意が高まる。

 

 

「……モモンガ様、たっち・みー様もご帰還を望まれているのでしょうか」

 

 

「……良い機会だから話すとしよう。皆、ユグドラシルを楽しんでいたし、ナザリックを愛してはいた。だが先に言った通り余裕がなくなったり、リアルに守るべき何かを見つけたから戻らなかったのだ。

 

……たっちさんは後者だ。守るべきものがあるのは尊い事だし、それを否定するべきではない」

 

 

「……左様でございますな」

 

セバスは主の武運を祈った。

 

 

(……空気が重い……逆に地雷だったか?)

 

 

「ん、ん……アルベドよ、お前はどうなのだ?」

 

 

「私は、愛する方のお側に居られるだけで幸せでございます」

 

(ほほ)を染め、見上げる形で見つめてくるアルベドに

 

 

(……骨の体が(うら)めしい……)

 

「そ、そうか……ゥオッホン ! 盛大に話しが()れたな。つまり我らにとっては多くが『遊び』であり」

 

モモンガは一度、鏡に目をやり

 

「森のモンスター騒動も、街のアンデッド騒ぎも、リおんの『遊び』ではないかと思う。もしかしたらアイドル活動の一環かも知れぬ」

 

 

リおんがスクロールを使い果たしている可能性にも気付かず、はた迷惑な勘違いをした。

 

 

しかし、アルベドが

 

「確かに『遊び』としては不思議はないのですが、アイドル活動であるなら、その……実力差を思えばあざと過ぎる(・・・・・・)のでは?」

 

アイドル的には『狙い過ぎ』だと考えた。

 

 

カルネ村でルプスレギナがエンリから『お美しい』と言われた場面でも、アルベドは『自分の方が!』と(かぶと)を脱ごうか迷ったが、

 

(……ダメね。それではあからさま(・・・・・)過ぎるわ)

 

と、高速の頭脳で計算し、おくびにも出さなかった。

 

 

アイドルとしての熱意はリおんが世界一かも知れないが、アイドルとして必要な各種マネジメント能力はアルベドの方が上かも知れなかった。

 

それが必ずしもアイドルとしての魅力とイコールだとは言わないが。

 

 

閑話休題。

 

 

その疑問に対し、モモンガは

 

(……そうか! 読めたぞ!)

 

「アルベドよ、その疑問への答えは『ピンチからの復活パワーアップ』だ。見よ。今のリおんは『お忍び装備』……本気を()えて隠しているのだ。そのまま挑み、わざとピンチになってから本気装備に切り替え、逆転勝利を見せつけるつもりなのだろう」

 

 

「なるほど! それであれば」

 

アルベドも納得してしまった(・・・・・・)

 

 

「観客の心を鷲掴(わしづか)みだろう? たっちさんが良く言っていた」

 

 

「おぉ、たっち・みー様が! ハッ、もしや私の竜人形態も……」

 

 

「間違いなくソレだろう」

 

 

「……たっち・みー様のお考えが、私の中にあるのですね」

 

喜ぶセバス。

 

……わざとピンチになろうとしたらどうするのかモモンガ。

 

 

アルベドの頭がユルユルなのは間違いなくリおんの影響で、(さら)に設定『伴侶』の結果、アルベドからの必死なアピール圧が少ないモモンガの口もユルユルのようだった。

 

 

「皆、理解できたようだな。そういうわけだ。下手に手を出せばリおんの邪魔をしてしまうかも知れない。今は静観し情報収集に努め、可能であれば密かに接触、協力が必要ならナザリックを挙げてバックアップするとしよう。

 

さぁ、皆で『遊ぼう』ではないか!!」

 

 

……魔樹との戦いまで、既に秒読み段階での判断であった。





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