【完結】おおかみ☆せんせーしょん(ハーメルン移植版)   作:ブドウ冷やしんす

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リ・エスティーゼの落日 前編

 

sideゼロ

 

 

俺達はエ・ランテルで復興に協力していたのだが、流石(さすが)に衛兵達にバレたらしい。

 

宿を利用しようと向かう途中で呼び止められてしまった。

 

 

職務質問をされつつ『潮時(しおどき)か』と、逃走のためにエドやデイバーへ目配せしようと思った時、背後から(しわが)れた老婆の声。

 

「あんた達、その人らが何かしたってのかい」

 

 

「り、リイジーさん。どうもこんにち」

 

 

「何をしたかって()いてんだ。わしゃその人達に用があるんだ。うちの孫を助けてくれたらしいんで、礼を言いにね」

 

 

「あー……でもリイジーさん、こいつらは指名手配犯の疑いが」

 

 

「疑い? ほう! 人違いって事はないんだろうね? そういやダリボル、あんた、この前パン屋の息子が『スリだなんて冤罪(えんざい)だ』だのどうの」

 

 

「ぁあー!! すみませんリイジーさん用事を思い出しまして! 皆さん! ご協力、感謝いたします!!」

 

 

リイジーと呼ばれる老婆が(すご)むと、探られては痛い腹でもあったのか、衛兵らは去って行った。

 

 

「さぁおぬしら、一緒に来てくれるかい」

 

 

 

 

 

「ここがわしの店じゃ。目を付けられてたんじゃ宿は使えないじゃろう。部屋を貸してやるよ」

 

 

「良いのか、リイジー老。察しているだろうが、指名手配犯というのは事実だ。迷惑では」

 

 

「わしゃ、おぬしらの過去なんぞ知らんからの。わしの孫を助けてくれた恩人(おんじん)というだけで充分よ」

 

 

「……恩に着る」

 

 

気を利かせてリイジーは茶を用意してくれた。

 

薬草茶なのだろう。独特な匂いがする。

 

 

デイバーが、

 

「悪いなリイジー、俺は断食中なのだ」

 

 

「おっと、そりゃ余計な事したね。なら、おぬしが飲みな」

 

渡されたザックは匂いで顔を(しか)めたが、俺が(にら)むと作り笑顔で受け取った。

 

 

「それにしても、おぬしのような腕の立つ僧侶が指名手配とはね。孫は下手すりゃ失明してたらしいじゃないか。話を聞いてゾッとしたよ」

 

 

「恥ずかしい話だ。一度は信仰を捨てたが、ある男に負かされ、考え直した結果だ。だが後悔はしていない。道を踏み外さなければ、こいつらとも出会う事はなかったのだ」

 

 

デイバーは沈黙で返し、エドは肩をすくめ、ザックは苦笑いで頭を()いた。

 

 

「人に歴史あり、だねぇ。まぁ人間、生きてりゃ色々あるさな」

 

とリイジーは言った。

 

その通りだと思う。

 

 

デイバーが思い出すように、

 

「足を洗うと言われた時は驚いたが、それ以上に、お前から説教を聞いた事の方が驚いたぞ。まぁ、おかげで『真の意味で』深淵(しんえん)を目指す歩みを始められたが……あの時は驚き過ぎて成仏するかと思った」

 

などと、恐らくアンデッドなりのジョークだったのだろうが、リイジーには笑いのツボに入ったのか、

 

「ハッハッ、そりゃすごい! わしにお迎え(・・・)が来た時は是非(ぜひ)とも頼むよ!」

 

 

軽い冗談がウケて気恥ずかしいのか、デイバーはエドに話を振った。

 

「そういえば、お前はどう思ったんだ。さも当然みたいに付いて来たが」

 

 

「私を拾い上げてくれたのはゼロなんだから、抜けるって言うなら付いてくだけさ。カネにも立場にも興味なんてなかったし。余計な(しがらみ)がない分、今の方が気が楽だよ」

 

 

思えば、エドは旅先で踊るようになった。

 

路銀を稼ぐのに丁度良いと言ってはいるが、踊っている時は特に楽しそうだ。

 

本当は単なる踊り子として食っていきたかったのかも知れん。

 

だが王国の状況を考えれば、都会では風俗としての色が濃くなければカネにならず、かと言って娯楽に()えているはずの田舎はカネがない。

 

お尋ね者であるため税金を取り立てられる事もない、今の『旅一座』のような生き方が、かえって合うのだろう。

 

 

エドはザックに話を振った。

 

「アンタを拾ったのも、この街の近くだったね」

 

 

「へぇ、雇うはずだった用心棒に逃げられたとか稼ぎが少ないとかでピリピリしてた(かしら)にリンチされてたのを助けてもらって、ありがてぇ事です」

 

 

談笑していたのが聞こえたか、奥から少年が顔を(のぞ)かせる。

 

「お婆ちゃん、お客さん?」

 

 

「ンフィ、あんたはまだ休んでて良いってのに……憶えてないだろうけど、あんたを助けてくれた人達だよ。宿の都合がつかなかったんで、部屋を貸してやろうと思ってね」

 

 

「えっ! あ、あの、ありがとうございました!!」

 

 

「礼には及ばぬ。困っていたら助けるのが当たり前だ」

 

 

リイジーは小声で

 

「……ワケありなのが不思議なくらいだねぇ」

 

(つぶや)くが、それも含めて我が人生だ。

 

 

ふと、思い出す。

 

「そうだ、リイジー老よ。街で一番の薬師である腕を見込んで、鑑定を頼みたい」

 

 

「ほぅ、お安い御用だ。ものは何だね」

 

 

「俺を負かした男が渡して寄越(よこ)したポーションだ。ザック、荷物の中にあるはずだ。探してくれ」

 

 

見つけるまでの間、経緯(いきさつ)を話そうと思った。

 

「あの日、俺は良い気分で酔ったまま路地裏を歩いていた。すると黒い肌に黒いローブの魔法詠唱者(マジックキャスター)が歩いて来て喧嘩を売られた。

 

俺の拳なら一発だと思い(なぐ)()かったが、何度向かっても当たらない。

 

それどころか、触られたかどうかという感触だけでひっくり返され、気付けば大の字で空を見ていた。

 

そんな事を繰り返し、体には痛み一つないまま心を()し折られてな。

 

悔し泣きしながら地面を殴り付けていたら『怪我でもしたか? 使って良いぞ?』と(わら)いながらポーションを投げられ、『情けなど要らん』と投げ返そうと思ったのだが、急に不安になったのだ。

 

自分が本気で投げ付ければ小瓶で人間の頭など粉砕できるはずだが、もし、それを指で摘むように受け止められてしまったら、自分はどうしたら良いのか、とな。

 

俺がポーションの小瓶を見て迷っていると、ヤツは『何故、負けたか知りたいか』と……」

 

 

 

 

『お前、修行僧(モンク)か? 信仰を捨てた破戒僧(はかいそう)かな』

 

 

『だったら何だ! この世は、力こそ、全て……全てのはずだ! クソ……クソ……何なんだ、お前は!?』

 

 

『……別に、力が全てと言い張ってても構わんが、信じる事と、信じたいと思っている事は違うぞ?』

 

 

『……何?』

 

 

『お前は、本当の意味で自分の力を信じていない。信じていたら、何度でも向かって来たはずだ。私に一発当てるまで……それが不屈という事だ』

 

 

『……』

 

 

『ヒトは、信仰なくして不屈にはなれん。お前に足りないのは、やはり信仰だよ。一度、足元を見つめ直すべきだろう』

 

 

 

 

「……そう言って、ヤツは俺に教典を投げて寄越し、夜の街に消えて行った。当然、それはかつて俺が信仰していた宗派ではなく、ヤツが首に掛けていた聖印の通りナザリック教のもの」

 

何とはなく自分の聖印を摘み上げ、見た。

 

「笑い話にもならん。信仰を捨てた理由への答えを、かつて自分が邪教扱いしていたナザリック教の教えに見つけてしまうなど……あまりに皮肉で滑稽(こっけい)で、笑っているのか泣いているのか分からなかった。いつの間にか夜は明けていて、それからただボンヤリと過ごしたが、その日の夜には足を洗うと決めていた」

 

 

そこまで話すと、ザックが見つけたらしく

 

「旦那、ありましたぜ」

 

 

「おぉ、そうだコレだ。返す機会もなく、色も血のようで気味が悪いから使わないまま仕舞い込んでいた」

 

渡そうと思ったソレに、リイジーが目を留めると

 

「そ、それは『神の血』!?」

 

引ったくる勢いで受け取った彼女は、すぐさま鑑定魔法をかけ

 

「間違いなく本物じゃ……実在していたとは……」

 

 

「それほどすごいものか」

 

 

「魔法をかけずとも劣化しない、全ての薬師が目指す完成形じゃ! 通常のポーションは、どれほど上手く作っても青くなってしまう。『神の血の色は青いのだ』と薬師の間では皮肉を込めて言われるが、これは正真正銘の本物……生きておるうちに見られるとは思わなんだ。これを投げるように渡した? よほどの世間知らずか、本物の神かのどちらかじゃよ!!」

 

 

それを聞いて、俺は思った。

 

「リイジー老、それを(ゆず)ろう」

 

 

「なんじゃと!? 良いのか!!」

 

 

「思えば不思議だったのだ。あの男に出会わなければ俺は、こんな景色を見る事もなかったろう。

 

本当に神だったのかも知れん。

悪の神か化身が、(いき)がっていた俺に()(ほど)を教えに来たのやも……であれば、これも何かの(おぼ)()し。

 

癒しの術を行使するのは我が修行の一環。

ポーションに頼る事も少なかろう。

 

俺が無為(むい)に持ち続けるより、お前が研究に使う方が有意義であろう」

 

 

「……ンフィ! うちにある最高位のポーション、ありったけ持って来な!!」

 

 

「リイジー老?」

 

 

「くれてやるよ。それと、おぬしらがうちに立ち寄るなら同じもんをタダでやろう!」

 

 

「流石に(もら)い過ぎではないか」

 

 

「それくらいでなきゃ釣り合わんよ。商売はキッチリやらにゃ。ただし、これはわしが決めた取引じゃ。期限は、わしが死ぬまで。孫にまで押し付ける気はない」

 

 

俺には『神の血』なるものの価値が分からぬ(ゆえ)、押し切られるしかなかった。

 

商売とは双方の納得する価値でなければ。

 

下手に拒絶して商いの神に(ばち)でも与えられるようではいけない。

 

 

だが後になって思えば、リイジーは『孫の事もある』という言葉を()せたのかも知れなかった。

 

言えば俺が受け取らないだろう、と。

 

 

「……わかった。有り難く受け取ろう」

 

 

「なぁに、景気付けさね。最近は暗い話ばかりじゃったからのぅ」

 

 

リイジーの物言いが気になり(たず)ねる。

 

「今回のアンデッド事件以外にも何か?」

 

 

「つい最近、開拓村が賊に襲われたという噂があっての。ンフィの幼馴染がカルネ村という所で住んでいて心配なんじゃが、ほれ、帝国との会談の関係か、確認に行く事も許可されん」

 

 

「あぁ、(みょう)に物々しかったのはソレか」

 

 

「本当なら、そろそろ薬草の仕入れもしたいんで、ついでに確かめたいのは山々なんじゃがのぅ……その娘、聞けばナザリック教の巫女をやっとるらしく腕も立つと言うし、無事だとは思うが……それで気も(そぞ)ろだったから(さら)われたんじゃないのかぃ?」

 

 

見ればンフィーレアは気恥ずかしそうにしている。

 

……フッ、恋か?

 

 

「ならば、我々が見に行くとしよう」

 

そう俺が言うとンフィーレアは

 

「ほ、本当ですか!? でも助けてもらった上に……」

 

 

「何、若人の『(うれ)い』を取り除いてやるのは大人の務めよ」

 

と、意味深に言ってやると顔を赤くした。

 

()く生きよ少年。

 

 

それに、村人達が悪漢に悩まされているならば、叩き伏せてやらねば。

 

「次の行く先は、カルネ村だ」

 

 

┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄

 

 

sideザナック

 

 

(クソが! どうしてこうなった!!!)

 

俺は今、宮殿内で命をかけた『かくれんぼ』の真っ最中だ。

 

何が悲しくて、こんな……

 

 

いや、理由なら分かっている。

 

そもそもの始まりはボウロロープ侯が主催した軍事パレードだ。

 

『帝国との会談など弱腰外交だ』などと主張し、父上の留守を()い事に、馬鹿兄貴に『お(うかが)い』(どうせ出来レースだが)を立て会談の予定に合わせて計画されたものだ。

 

 

王派閥の貴族は『正当性がない』とアピールするために実務を放棄、当日を含む二日間はヴァランシア宮殿の王族居住区の担当を除いて騎士や使用人などへも休暇(きゅうか)を出し、宮殿内を『停止』させた。

 

そこまでは良かったし俺も支持した。

 

 

だが、今にして思えば許可を出した自分をぶん殴ってやりたい!

 

 

途中で何頭も馬を使い潰したか、当日の夕方になって舞い込んで来た『崩御』の知らせ……

 

何なんだよ!

 

どうせなら貴族派の馬鹿騒ぎが終わってからゆっくり(・・・・)来い!!

 

 

奴ら、パレードに動員した精鋭兵団を盾に『緊急時なのだから通常の手順を省略して即位式を』なんて言い出し、抗議しようにも味方貴族は不在、その上『参加を拒否するなら国賊』って、最初から俺を()るし上げる気満々だろ!

 

 

せめてレエブン侯に付いて行って外遊するべきだった……

 

 

結果、側仕えすら()いて今に(いた)る、と……

 

一応、宮殿内には近衛騎士もいるにはいるが、王族への忠誠心と言ったところで相手も『第一王子』だ。

 

父上直属のガゼフのようには動いてくれまい。

 

 

……と、曲がり角の先にボウロロープ侯の兵!

 

(ぅお!? 危ない!!)

 

俺は花瓶台の陰に隠れる。

 

腹がはみ出てる? うるさいな!

 

 

……行ったか。ふぅ……

 

 

……いや、さっきは『どうしてこうなった』と毒づいたが、考えてみれば貴族派が不満を溜め込んでいたのは知っていた。

 

貴族派が何を背景に下級・中級貴族から支持され立場を確立しているかといえば、王に反発できる影響力(つまりはカネと八本指)と武功(ぶこう)などの『勇ましさ』だ。

 

国のために外敵と戦うってのは『わかりやすくてカッコイイ』からな。ハッ!

 

 

前回のカッツェ平野はどうだったか。

 

帝国は妙に大人しかった。

 

だから武功も()げられなかったし、武勇伝として話を(ふく)らましようもなかった。

 

不満点1、だ。

 

 

そして帝国での八本指『奴隷部門』と『警備部門』幹部の逮捕。

 

今まで好き勝手できた事や娼館遊びが難しくなった。

 

人間ってのは手に入れた『満足の水準』を下げられないもんだ。

 

不満点2。

 

 

あとは文化的な側面だな。

 

これまでの『貴族の娯楽』といえば乗馬、狩り、茶会……と、まぁ色々あるが『文化的な娯楽』ってのはマイナーだ。

 

文学は基本『読むもの』で、書くのは『根暗の趣味』

 

絵画は(描くやつもいるが)『描かせるもの』で、そのために『どれだけカネを使ったか』がステータス。

 

演劇鑑賞は良いが、歌劇やら歌は『気軽ではない』

 

歌は話し言葉のようには伝わらないからな。

 

歌い手と聞き手、双方の教養が影響する。

 

下手すれば自分の教養のなさを(さら)す事になる。

 

だから『貴族の(たしな)み』にはなるが『娯楽』ではない。

 

 

だが最近になって帝国を発火点として、どういうわけか吟遊詩人(バード)文化が流行した。

 

特にリオン・ガブリールとかいうのが人気らしい。

 

吟遊詩人(バード)というと酒場のイメージだが、あのデカい闘技場を単独公演で使い、歌いながら踊れるアイドルという、一線を画す存在らしい。

 

 

で、王国貴族子女の間で遥々(はるばる)帝国まで観に行ったり、使ったカネの額で階級ができたりしているそうな。

 

『推し活』とかいうらしい。

 

なんでも普通の吟遊詩人(バード)と違い、誰が聴いても『響く』のだとか。

 

これはすごい事だ。

 

聞き手の教養が関係ないという事は、歌い手の教養が凄まじいという事になる。

 

 

その流れで他の吟遊詩人(バード)が負けじと勉学に(はげ)んでいるそうだが、全ての努力が報われるわけではない。

 

だから『語り』に流れる吟遊詩人(バード)が増え、結果的に洗練された物語も増えた。

 

こうなると『根暗の趣味』扱いだった創作文学も見直され……

 

貴族が最終的にのめり込む『手軽な趣味』麻薬の売り上げが減っているという。

 

文学ってのは読み書きできればすぐ始められて、想像力の限り終わりがない『手軽で、長く没頭できる娯楽』だ。

 

知性も必要になる。

 

八本指の天敵みたいな分野と言えるだろう。

 

 

なら連中がどうしたかといえば、貴族派の足元を見るようになった。

 

麻薬の利益が減収とはいえ、奴ら砂糖でも(もう)けている。

 

最近では帝国も摘発するらしく、最初の頃ほど稼げなくなったらしいがな。

 

となれば『新しい金蔓(かねづる)を連れて来ないなら、カネにならないなら客ではない』と風当たりを強くもするだろう。

 

ただでさえプライド高い貴族派は『どうして自分が手下の犯罪者共に()められねばならんのか』と不満点3、だ。

 

 

じゃあ怒りがどこへ向くかといえば『全部、帝国が悪い』という事になる。

 

そこへ父上が『帝国と会談する』

 

……間が悪いにも程がある。

 

 

改めて思えば『まさかクーデター(まが)いな手法まで使う事はないだろう』と油断したのは間違いだったな。

 

 

一応、城内には王族だけが知る脱出路はある。

 

アイツは馬鹿だから(ろく)に覚えちゃいまい。

 

だが、そこに辿り着くのが至難だよ……俺の運動能力ではな。

 

 

……と、二つ角を曲がる奥の廊下にボウロロープ侯の兵!

 

(ひぃ!)

 

俺は戻って壁に張り付いた、が、(かかと)が当たって音が鳴る。

 

(やば)

 

 

「ん、何だ?」

 

 

 

 

どうするどうするどうするどうする逃げる? 無理だろ追い付かれるどうする戦う? もっと無理だろどうするどうするどうするどう

 

 

 

 

「……………………にゃあ

 

 

「……フッ、猫か」

 

兵士は立ち去った。

 

 

……………………ぇ、あれで誤魔化せるんですか。

 

宮殿内に猫はいねぇだろ。

 

ボウロロープ侯の兵って馬鹿なのか?

 

頭の中まで主人に似たのか?

 

 

……いや、たまたま馬鹿だっただけだろう。

 

油断するべきではないな。

 

 

……それにしても、なんか油臭いな。

 

まぁ多くの使用人達を休みにしてしまえば、こんなものか。

 

 

夜間の照明はマジックアイテムばかりではない。

 

オイルランプも普通に多い。

 

特に魔法嫌いな王国では。

 

通常なら清掃の他、日中に空気の入れ替えなども業務のうちだが、それをする人間がいない以上、二日で臭くもなるか。

 

 

いや、今は言ってる場合かよ。

 

何とかして隠し扉へ……

 

 

などと、曲がり角から様子を(うかが)おうとした時、

背後から口を(ふさ)がれ引き込まれた。

 

 

あぁ……ここまで、か。

 

 

そう思った俺に、

 

「落ち着いて下さい殿下。敵ではありません」

 

驚いて目だけで振り返ると、黒いフードが見えた。

 

「話は後です。まずはレエブン侯と合流しましょう」

 

次の瞬間には、景色が木々に囲まれた見覚えない場所へ。

転移魔法か!

 

 

もしやレエブン侯の子飼い? 助かった!

 

 

「突然のご無礼、お許し下さい。レエブン侯から頼まれまして」

 

振り返ると黒いローブ姿の魔法詠唱者(マジックキャスター)だった。

 

その後ろ、細い街道脇に停められた見覚えのある馬車。

レエブン侯のだ。

 

扉が開き、中から

 

「殿下! ご無事で!」

 

「おぉ、レエブン侯! 生きて会えて嬉しい限りだ。おかげで助かった」

 

 

そう喜び合っていると魔法詠唱者(マジックキャスター)も、

 

「レエブン侯、何とか間に合いました」

 

 

「アルス殿、何と礼を言ったものか」

 

 

「いえ、双方の利益のためですから」

 

 

……ん? 『双方の利益』?

 

 

「レエブン侯、彼は?」

 

俺が訊ねると、代わりに魔法詠唱者(マジックキャスター)

 

「ご挨拶(あいさつ)が遅れました。私は帝国魔法省、情報管理部第13課所属のアルス・マグナスと申します」

 

 

「な! 帝国の!?……どういう事だレエブン侯」

 

 

「はい殿下、彼は……」

 

しかしレエブン侯の言葉を(さえぎ)り、

 

「レエブン侯、私は引き続いてラナー殿下を」

 

 

「おぉ、そうでしたな! よろしく頼む」

 

 

「えぇ、お任せを」

 

そう言って、アルスは転移魔法を使ったのか姿を消した。

 

 

「……どういう事なのだ。帝国が我々に協力を?」

 

 

「はい。帝国は今や、本音では我が国との戦争継続を望んでいないのです」

 

 

「なんだと!?」

 

 

「経緯をお話ししましょう。さぁ、まずは馬車へ」





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