【完結】おおかみ☆せんせーしょん(ハーメルン移植版)   作:ブドウ冷やしんす

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登壇─オーバーチュアが聴こえる─

 

sideエリアス

 

 

我々がエ・アセナルに到着してすぐ、絶句するような知らせが早馬で届いた。

 

ラナー殿下の自決によるヴァランシア宮殿の焼失……

 

あまりの事に、私とザナック殿下は他を追い出し、領主邸の来賓室で立ち()くしていた。

 

 

……彼女の頭脳は『バルブロ殿下の即位強行』を絶望的なものと判断したのだろう。

 

仕方ない事だ。

 

ザナック殿下より(さら)に知恵は回るものの、根回しや世渡りという視点に欠け、病弱で政略結婚もできない彼女を注視する者はなく、当然、私も『帝国との共同計画』などという話をするわけはなかった。

 

 

だが、こんな事になるなら教えておけば良かった。

 

例え貴族派といえど王国の政治能力を維持していたのは事実。

 

王派閥の者が『会談』の都合で災を(まぬが)れたとはいえ、国家運営能力は滅茶苦茶になってしまった。

 

 

「と、()(かく)、彼に連絡を取らなくては」

 

 

「おぉ、そうだ、ラナーを迎えに行ったとなればヤツは無事なのか?」

 

 

私は緊急連絡用にと預かっていた紫色の宝玉を取り出した。

 

決められた呪文を唱えると、設定されている相手に伝言(メッセージ)を送れるというもの。

 

以前、試しに使ってみてほしいと言われ使用した際は、とても明瞭に聞こえた。

 

 

私が呪文を唱えようとしたら……

 

……宝玉は手の中で粉々に砕け散った。

 

 

「……レエブン侯、これは使うと砕け散るものなのか?」

 

 

「ど、どういう事だ!!」

 

 

(あらかじ)め『王国側が不義を行った場合は宝玉が砕ける』とは聞いていた。

 

だが何もしていないぞ!!

 

 

それをザナック殿下に説明すると、

 

「……ラナーの放火は我々の過失だと?」

 

 

「それで関係を切られるのは理不尽が過ぎます。それに」

 

政情不安のまま王国を放置すれば利益が減り、帝国は投資分の元すら取れなくなっ……

 

「ん?……いや、そもそも……」

 

 

「どうした、レエブン侯」

 

 

ある可能性に気が付いた私は、殿下の問いにも(こた)えず長考し……

 

 

「……殿下、もしかしたら、前提を見誤っていたのかも知れません」

 

 

「前提?」

 

 

「帝国からの協力というのは『損切り』のような投資だと思っていたのです。如何(いか)に王国からの利益が大きいとはいえ、帝国が取引している国は他にもありますから」

 

 

「……違うのか」

 

 

「……殿下はご存知でしょうか。最近の帝国では、傷痍(しょうい)軍人が失った手足などを取り戻せるのだとか」

 

 

眉唾(まゆつば)なプロパガンダだと思っていたが、事実だったのか?」

 

 

「全容は分かりませんが、それらしい元兵士は増えていると話は聞いております。帝国の治療技術は目覚ましい発展を()げているのでしょう。ですので……」

 

私は、今さっき気付いた仮説を()べる。

 

「……もし、帝国が、ラナー殿下の病状や治療法を把握していたとしたら?」

 

 

「何?」

 

 

以前から少し気になっていた事がある。

 

「計画について彼と話し合っていた時、私が『ラナー殿下は政治的な利用価値が低い分、もし身柄が宮殿で安静にされたままなら放置しても問題ないのでは?』と(たず)ねたのですが、彼は『内々の都合で、保護すると決まっております。ご迷惑は()けないとお約束しますので、お気になさらず』と」

 

 

「……!? それは!」

 

 

「初めから、それこそが真の『利益』だったのではないでしょうか。今回の事で(おん)を売れば『病弱で子も産めないだろう』と我々が思っているラナー殿下の輿(こし)入れは、簡単に話が進んだはずです。まんまと婚姻を果たし、ラナー殿下が健康を取り戻したら」

 

 

「帝国に……王家の血が……」

 

 

「間違いなく、『投資』分を超える利益となったでしょう」

 

思わず、声が震えた。

 

 

そこから推測される現状に、殿下が

 

「だとしたら! 関係を断ち切られたのは」

 

 

そう、それだ。

 

私は、とうとう耐えきれず膝から崩れ落ち、両手を突いた。

 

 

姫が死んだ今、利益を見込めなくなった帝国は損失を補填しようと動くだろう!

 

具体的には、計画で橋頭堡になるはずだった領地を人質に……

 

「ぁあああああ! リーたん!!」

 

どうしたら、どうしたら良い!?

 

 

バルブロ軍に備えて北上してしまった我々では、帝国には手が届かない!

 

 

私は殿下の前にも(かかわ)らず、その場で頭を抱えて(うずくま)ってしまった。

 

 

帝国を考え直させる交渉材料も打開策も、何も思い浮かばず絶望に沈みかけた、その時

 

 

ノックの音に意識を向ける。

 

 

外のメイドが取り次ぎを求める声。

 

「王国戦士団副長殿が面会を求めております。王国戦士長殿からの伝言と、王陛下の遺言状を届けに参られました」

 

 

何か光明が見えるかも知れないと、(わら)にも(すが)る思いで立ち上がり

 

「すぐに通せ!」

 

恐らく何頭も馬を乗り潰して来たのだろう彼から知らされた内容は、まさに福音だった。

 

『最後の御命令』、『討伐部隊への戦士長参加』……

 

 

「父上……」

 

 

「なんとか、首の皮一枚で繋がりそうですな。殿下」

 

 

「あぁ。バカ兄貴の真似(まね)をするのは(しゃく)だが、さっさと即位をしてしまおう。次王として戦士長の判断を全面的に支持し、共に戦うという意志を示す!」

 

 

┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄

 

 

《エ・ランテル》

 

 

パナソレイ都市長からの知らせに、ジルクニフは長椅子で腰掛けたまま頭を抱えた。

 

それはそうだろう。

 

(おど)す勢いで交渉を求めたというのに『物理的に返答できなくなりました』では。

 

 

貴族派は全滅、生存している王派閥もペスペア侯は王の遺体に同行していて不在、ザナック王子とレエブン侯の()()知れず(・・・)、ウロヴァーナ辺境伯は軍事パレードへの抗議以来、北部の領地に留まっている。

 

 

かと言って、王国の体制が復旧するのを待っている余裕もない。

 

 

ジルクニフは熟考の末、

 

「都市長。帝国はエ・ランテルと周辺に限るなら代理統治を行っても良いと考える」

 

 

「代理統治、ですか……」

 

 

「新しい人員を投入している余裕もない。現行のまま指揮系統と予算を帝国で持つ。魔樹と戦う上で必要な超法規的措置だ。王国の体制が復旧したなら返還交渉には応じる(・・・・・・・・・)。貴殿の判断次第だが、賛成なら統治委任状を提出してほしい」

 

 

「………………(しば)し、考える時間を頂きたい」

 

 

「三日以内で頼む。可能なら今日中にも返事がほしい」

 

 

まだ良心的な申し出だが、実質『脅し』には違いない。

 

『期限を過ぎるか反対するなら、お前の首を()ねて占領する』という事だ。

 

 

ただ、本音で言えばジルクニフとしてもエ・ランテルを抱え込みたくはなかった。

 

 

魔法省情報管理部第13課は情報省の設立に(ともな)い吸収・廃止されており『そこに所属する黒い肌のエリート諜報員』など最初から存在していないし、ザナック王子やレエブン侯の動きをジルクニフは把握していなかったが、下手に王国領土を獲得してしまえば手が回らなくなるほど帝国が人材不足であるのは事実だった。

 

……数字は嘘を()かないが、嘘吐きは数字を使うのだ。

 

 

だが結局、将来に(わた)り『返還交渉』など永遠に行われる事はなかった。

 

……安定を失った王国は今後、魔樹との戦いが終わった後も『出番』は無きに等しいので結論を言ってしまおう。

 

 

ザナック王子とレエブン侯は『首の皮一枚で助かった』と考えているようだが、助かるのは命だけ(・・・)であり、リ・エスティーゼ王国という体制そのものは崩壊する。

 

 

帝国を恐れる余り即位を急いだザナック王子とレエブン侯はペスペア侯の反感を買い、それを発端に各領の利益が絡み合う複雑な状況となり、エ・ランテル返還交渉など夢のまた夢……最終的にエ・ランテル周辺の南東部を失った形のまま『リ・エスティーゼ諸王(・・)連合王国』となる。

 

『王家』はヴァイセルフ家、ペスペア家、ウロヴァーナ家の三つ。

 

 

……これまでリおんがジルクニフへ提案した案の中には土壌改良法や原作ラナーも提唱した輪作……所謂(いわゆる)ノーフォーク農法もあるのだが、環境に負荷をかけない方法だけに状況の変化は遅く、効果が表れたのは対『魔樹』戦後であった。

 

その頃にもなると帝国の食料自給率は改善され、国力が低下した旧王国……連合王国との差は小さいものとなり、他国が戦争してまで獲得したい土地ではなくなった。

 

故に連合王国は、そこそこの食料生産国ではあるものの下手に手を出すと何が起きるか分からない『面倒くさい土地』として、危ういバランスで平和が続く『評議国との緩衝地帯』になっていく。

 

 

それでも、息子に『余計な欲を出さず守りに徹しろ』と教育したおかげか、レエブン家は事態の発端であるにも拘らず連合王国の顔役として存続していったのだから、まだ幸せだろう。

 

混乱期には、どさくさ(まぎ)れに王を名乗り、その他の諸王から袋叩きにされ三ヶ月で廃されたモチャラス家などもいたくらいだ。

 

 

閑話休題。

 

 

三日後、エ・ランテルは実質『帝国領』となった。

 

 

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《カルネ村》

 

 

「すみません、驚かせてしまって」

 

村の中を歩きつつ、エンリはゼロ一行を案内していた。

 

 

「いや、突然来たのは我らだ。それに、ゴブリンと言えど言葉が通じたからな」

 

ナザリック教徒は亜人種くらいでは動じない。

 

「何にせよ、君が無事であるのを知ればンフィーレア少年も安心するだろう」

 

 

「ンフィとお会いに?」

 

 

「あぁ、エ・ランテルで宿に困り世話になった」

 

無事であるのにわざわざ心配させまいと、アンデッド事件は伏せたゼロ。

 

自分の功績を誇る気もない。

 

 

それはそれとして、ゼロは無事を言祝(ことほ)いだ時にエンリが見せた一瞬の憂いを気にかけ、首を傾げる。

 

『何かあったのか?』と、口を開こうとした時

 

「あらエンリさん。お客様ですか?」

 

 

「……ぇ……ルプスレギナ、さん?」

 

どこからともなく淑女然としたルプスレギナが現れた。

 

 

いつもの砕けたキャラと別人のようで戸惑うエンリ。

 

からかうためだろう。

 

(なお)、呼び方は(かたく)なに『様』呼びするエンリにルプスレギナが

 

ルプーちゃんって、呼んで、ほしいッス!!

 

しつこく(・・・・)要求、妥協案として今の『さん付け』になった。

 

からかうためだろう。

 

従属神とはいえ信仰対象である神には違いないのだから、エンリにしてみれば『イジらないでルプーさん』といった所であろう。

 

 

だが、何も知らないゼロ達から見れば

 

「……何と……開拓村だからと(あなど)っていたわけではないが、これほど高位の神官殿が居られるとは思わなかった」

 

「そんなにすごいのかい? まぁ只者(ただもの)じゃない気配はするけど」

 

「俺には神官の格は分からんが、確かに浄化されそうなオーラが……」

 

「確かにスゲーべっぴんさ(ゴスッ)

 

 

そんなゼロ達を見てルプスレギナは

 

「あらあら、ふふふ。それほどではございませんわ。名乗り遅れました。私、ルプスレギナと申します」

 

完全に猫を(かぶ)ると決めたらしい。

ワーウルフなのに。

エンリさんは諦めた。

 

 

ゼロ達も順に名乗り返し、

 

「ルプスレギナ殿のような神官がいて、先ほど見た防壁があり、なかなか頼りになりそうなゴブリン達がいれば、野盗くらい心配ありませんでしたな」

 

そう言ったゼロに対しルプスレギナは小首を(かし)

 

「野盗、ですか?」

 

 

「村々が襲われていたとエ・ランテルで聞きましたが……来なかったのですか?」

 

 

法国の件だと当たりを付けたルプスレギナ。

 

「あぁ、あれは野盗ではございません。悪辣(あくらつ)(たくら)みで送り込まれた法国の特殊部隊ですわ」

 

さも当然のようにバラしたルプスレギナに、エンリは一瞬ポカンとして

 

「……ええええええ!? ルプスレギナさん言っちゃって良かったんですかああああ!?」

 

 

「何故?」

 

不思議そうに言うルプスレギナにエンリは小声で、

 

「だって外部には」

 

『もらすな』と、モモンガは命じていた。

 

だがルプスレギナは、

 

「この方々はナザリック教徒でしょう? 『外部』ではありませんわ」

 

 

命令の解釈ガバガバであった。

 

流石(さすが)『駄犬』と呼ばれるだけある。

 

 

ただ、仕方ない面もあった。

 

布教はリおんの意思 (実際には違うのだが) とルプスレギナは理解しているが、暴走を不安視したモモンガは『魔樹の件にリおんが関わっている』とまでは伝えていなかった。

 

人間は全て下等生物であると認識しているルプスレギナとしては『カルネ村と外部』より『リおん様(かわいい弟)の玩具と無価値な生物』で区別していたのだ。

 

 

そしてエンリは、

 

「……なるほど。そのような意味だったのですね。申し訳ございません」

 

 

「うふふ、良いのです。精進(しょうじん)なさい」

 

あっさり信じた。

 

信仰対象だからね。

 

もはや誰も止める者はいない。

 

 

「す、すまないルプスレギナ殿。法国ですと?」

 

話が見えないゼロが戸惑(とまど)いがちに訊ねる。

 

 

そう。今、我々は神の試練を与えられているのです。森の奥に眠る魔樹……法国がこれを手中に収める前に倒さなければ、世界が……村が襲われたのは、法国による陽動だったのです

 

(うれ)いを帯びた語り口……当然、演技である。

 

 

ルプスレギナは『こいつら、(あお)られたらどうするんスかね。面白そうッス』としか考えていない。

 

ナザリック教徒といえど『他よりは多少大事に扱う』程度の認識でしかなかった。

 

 

「な、なんと……」

 

乗せられるゼロ。

 

 

帝国が主導で討伐部隊を送るつもりのようですが、果たして間に合うか……森の奥の亜人達なら、より現状を知っているのでしょうけど……

 

……ユグドラシル的に言えば『クエストが更新されました』だ。

 

 

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帝国によるエ・ランテル代理統治は最初から住民に公表されたわけではない。

 

始め、リおんの街頭ライブや情報省工作員により『貴族派の暴走とヴァランシア宮殿の悲劇』が流布された。

 

 

住民が不安を感じ始めてからパナソレイ都市長は『暫定措置としての代理統治』を発表。

 

『アンデッド事件』からの復興を帝国兵も手伝っていたため、スムーズに受け入れられる事となった。

 

 

そんな、帝国領として稼働し始めたエ・ランテルに『討伐隊』へ参加する者達が集まり始めていた。

 

 

アベリオン丘陵からは蛇王(ナーガラージャ)守護鬼(スプリガン)獣身四足獣(ゾーオスティア)半人半獣(オルトロウス)土精霊大鬼(プリ・ウン)水精霊大鬼(ヴァ・ウン)……多くの亜人種から強者が参加している。

 

 

当然ながらアゼルリシア山脈からは霜の巨人(フロスト・ジャイアント)霜の竜(フロスト・ドラゴン)、クアゴアが参加していた。

 

 

いくら文化の交流点エ・ランテルとはいえ亜人には慣れていない。

 

そのため城壁外に亜人キャンプ地が整備された。

 

 

 

キャンプ地の中を歩きながら、人馬(ホールナー)の中でも気性の荒い事で有名な女戦士バビエカは、栗色の短い髪をかき上げながら(つぶや)いた。

 

「……いやはや、ここまで集まると壮観だねぇ」

 

自慢の(トモ)は馬そのものだが、飾り気のない無骨なチェインメイルの上からでも分かる肉体美は、美女か美少女とでも評すべき顔と(あい)まって、街の中を歩けば人間の男達さえ振り返るだろう。

 

(もっと)も、下手(へた)ちょっかい(・・・・・)を出せば()り殺されるのは間違いない。

 

肩に(かつ)いだハルバードを振るう必要さえなかろう。

 

 

彼女は頭頂部の耳をピクリとさせると、見知った相手を見つけて声をかけた。

 

「アンタも参加したのかい。バザー」

 

少数精鋭の供回りを引き連れた山羊人(バフォルク)が振り返り、

 

「誰かと思えばバビエカか……はは、『じゃじゃ馬』なら参加して当然か」

 

 

「るせー、言ってろ」

 

互いに憎まれ口を叩き笑い合うのは、共に天下一仮面武闘会の『常連』故に。

 

 

「ところで」とバザーが訊ねる。

 

「ナスレネは見ていないか? 魔現人(マーギロス)の一団に姿がなかった」

 

 

「どうせ、あのババアは手下に任せて高みの見物だろ?」

 

 

「ハッ! ハリシャの奴と同じ口か。日和(ひよ)りおって」

 

 

蘇生魔法を受けられるとしても弱体化や縄張りの防備を危惧(きぐ)するなら『代理』の派遣でも良いが、その場合は蘇生魔法の対象外だと帝国からの霜の竜(フロスト・ドラゴン)の使者は伝えてある。

 

 

尚、バザーのように供回りがいる場合、蘇生費用を自己負担するなら対象となる。

 

……が、彼らは『自分達は山羊人(バフォルク)の誇りと未来を守るため死にに来たのだ』と、蘇生を拒否する(むね)を伝えていた。

 

『豪王バザーさえいれば安泰(あんたい)である』と信じ、部族の負担になる事を避けたのだ。

 

 

話をする二人の前を、異様な空気感の一団が通り掛る。

 

全員が遮光ゴーグルを着け、背嚢には帝国から支給された爆弾や、回復ポーションではなく恐怖と疲労を忘れさせる『麻薬入り強壮剤』を詰め込んだ、ペ・リユロ自ら率いるクアゴア決死隊である。

 

 

リユロはゴーグルの奥で視線を向けるも『無駄にして良い時間などない』と言うかの(ごと)く目を(そら)し、何も言わず通り過ぎて行く。

 

 

それに対し『侮られた』などと憤慨する事も、死兵特有の空気に『()てられ』て青二才のように殺気立つ事もないが、バビエカは少し面白くなさそうに

 

「ふん、何だいあれ。戦う前から辛気臭い。見た事ない連中だけど、あぁいう種族なのかね。鉄鼠人(アーマット)に似てるけど」

 

と、遠ざかる背を見ながら呟いた。

 

彼女にとって戦いとは『己の力や意地、誇りを見せつけに行く場所』であり、気に入らなかったのだろう。

 

 

対するバザーは、

 

「いや、性格が種族それぞれと言っても、全体がアレでは長続きするものではない。となれば……ふむ、話しかけてみるべきだったか? 今回の戦いについて何か知っていたのやも」

 

 

「それが理由で『あの感じ』ってわけ?……ふーんむ……『滅びの魔樹』ねぇ……」

 

バビエカにしてみれば、あまり深刻に考えて参戦したわけではない。

 

精々『強そうなやつが集まる面白そうな祭り』という認識。

 

もちろん、単なる祭りではなく『命がけの血祭り』とは理解した上で、だが。

 

 

一方バザーは、王として優秀な分析をした上での参加だった。

 

彼は『帝国がどんな国かは知らないが、少なくとも霜の竜(フロスト・ドラゴン)を使役できる強国であり、それが“ わざわざアベリオン丘陵の亜人種にまで ”協力を求めたのは、相応の大規模な危機的状況という事で、勝利そのものだけでなく避難先の潜在敵を(あぶ)り出し、かつ競争相手の力を()ぐのも目的だろう』と見て、帝国に恩を売っておくべきと考えたのだ。

 

 

二人が『敵』について思いを巡らせていた、その時

 

「話したところで分かるまい」

 

頭上から声が降る。

 

 

自分達を覆う影に気付き、見上げた先にいたのは一頭の霜の竜(フロスト・ドラゴン)

 

ホバリングしながら、ゆっくりと降りてくる。

 

 

PTSDを患ったムンウィニアやプライドを()()られて無気力になってしまったミアナトロンに代わり、帝国に従属する霜の竜(フロスト・ドラゴン)の代表を務めているキーリストランだ。

 

首から帝国の紋章が彫られたプレートを下げている。

 

帝国の空軍力として義務付けられる敵味方識別徽章(きしょう)だ。

 

 

「お前たちは帝国と戦った事がなかろう。規則で勝手には教えられぬが、この国の強さを実感しておらぬ者に、今の段階で作戦だの敵だの語ったところで混乱するだけであろ」

 

 

バザーが、やや戸惑うように言った。

 

「……とても最強種族たるドラゴンの言葉とは思えん」

 

それを鼻で笑うキーリストラン。

 

「種として強かろうと、(おご)れば『(しま)い』よ」

 

 

キーリストランの言葉にバザーやバビエカが(うな)っていると、再び頭上から声が聞こえた。

 

「ぇえ!? 母上!?」

 

みればキーリストランより小柄な霜の竜(フロスト・ドラゴン)がホバリングしている。

 

帝国の徽章は着けていない。

 

 

「まさか、ヘジンマールなのかい!?」

 

 

空気を読んで山羊人(バフォルク)達とバビエカが場所を空けてやると

 

「ありがとうございます! 着陸します!」

 

ヘジンマールと呼ばれた竜の背から少女らしき別の声。

 

 

ヘジンマールが着地すると、その背から素早く降りる人間が二人。

 

その内の一人を見てバザーが、

 

「レメディオス! なるほど、お前も参加するのか!」

 

 

「む、お前は!……えーっと……武器を壊すやつ!」

 

 

何で名前くらい覚えてないんだよ!!

 

 

「……ウチの団長がすみませんバザーさん。名前覚えるの苦手なんです……あ、私ネイア・バラハと申します! 共に頑張りましょう!」

 

 

「……ネイアというのか。お前、良いやつだな……苦労してると見える……」

 

 

「……まぁ、はい、慣れました……」

 

 

……祖国を巡っては争う敵同士なのだが、何とも言えない空気が漂う。

 

 

バビエカはバザーが名前を覚えられていない事など含め

 

「……ば、バザー『さん』……ぷっ、くっくっ……」

 

必死に笑いを(こら)えている。

 

 

と、気を取り直してネイアがキーリストランに向き合い

 

「あの! ヘジンマールのお母さまでしょうか! ネイア・バラハと言います! 息子さんには大変お世話に」

 

 

やめてよネイア! なんか恥ずかしいだろ!

 

 

「……私はキーリストラン=デンシュシュア。こちらこそ息子が世話になっているようね。すっかりスリムになって。自力で軽やかに飛べるように」

 

 

母上もやめてよ恥ずかしい!

 

 

……とりあえず、ここらで彼らの話は割愛しよう。

 

 

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《エ・ランテル 貴賓館》

 

 

説明のため、ジルクニフは大広間に代表者達を集めた。

 

大広間とはいえ人数が多く、体格もバラバラなため椅子など用意せず、全員が立っての会合である。

 

 

人間側はジルクニフ本人の他は四騎士、フールーダ、リおんのエルフ三人、ブレイン、ロウネら側近達、フォーサイトと漆黒の剣、ガゼフ、レメディオスとネイア。

 

それ以外は各亜人達だ。

 

比率としては半々だろうか。

 

霜の巨人(フロスト・ジャイアント)霜の竜(フロスト・ドラゴン)は大きさの関係もあり、ほぼ帝国の指揮下にあるので呼ぶ必要はないと判断された。

 

 

……ここまでの道を亜人達も歩いて来たわけだが、ワーウルフであるリおんの影響か、ある程度の亜人が(まと)まって移動するくらいなら住民達は意外と落ち着いた反応で、むしろ興味深そうに様子を見ていた。

 

 

「よくぞ集まってくれた。まずは呼び掛けに応じてくれた事に感謝を」

 

ジルクニフが確認事項として蘇生について、ポーションなど支給品について、希望するなら武具にルーン文字を刻んでやれる事を説明していると、取り次ぎ役のメイドが

 

「失礼致します。冒険者チーム蒼の薔薇が参加を希望するとの事で参られました」

 

 

ジルクニフは意外そうに眉を(わず)かに動かした。

 

宮殿の事件でラキュースは取り乱したと報告で聞いていたからだ。

 

確かにいくらか日数を経たとはいえ、馬車での移動時間から逆算すれば、3日ほどで立ち直った事になる。

 

 

同じ理由でガゼフは心配そうな顔をした。

 

姫との関係は知っている。

 

自棄(やけ)を起こしたとかでなければ良いが、と。

 

 

だが、入室して来たラキュースは

 

「お待たせして申し訳ございません」

 

(りん)とした気丈な様子で現れた。

 

 

ジルクニフが応じる。

 

「いや、来てもらえて嬉しく思う。王都での件、大いに心労であった事と思う」

 

遠回しに『もう問題ないのか』と。

 

 

「お気遣い感謝致します。ですが、ご心配には及びません。姫様は『あなたらしい冒険を』と、お言葉を遺して下さいました。人々を守るべき冒険者、その最高峰たる我々が立ち向かわないわけには参りません」

 

 

「難度300の化け物が相手でも、か」

 

 

「わかっております。それでも……姫様はズーラーノーンや魔樹に運命を狂わされたようなもの。それに屈するわけにはいかないのです。戦う事が、せめてもの手向けだと思っております」

 

太陽の(ごと)き力強さを感じさせる眼差(まなざ)し。

 

絶望や諦観(ていかん)で自棄を起こしていては、こんな顔はできまいとジルクニフとガゼフは安堵(あんど)する。

 

宮殿の事件を知っている者達は、彼女らも英雄の名を(かん)する存在であると改めて認識した。

 

 

……の、だが、あの忍者のセンサーが働かないわけもなく

 

リオンきゅん!!

 

飛び掛かった。

 

ふああ!

 

(なか)(だま)すような事をした以前の件もあり、(すみ)で気配を薄くしていたリおんだが、無駄だったようだ。

 

 

「え、リオン君!? ちょ、ティナ! やめなさい! こら、ステイ!!」

 

英雄の風格が台無しである。

 

 

こんド変態がぁまだ()りてねーのか!!」とブチ切れたリウリンドも加わりティナが取り押さえられラキュースが平謝りするという『様式美』が終わると、改めて再会の挨拶をするリおん。

 

 

……ちなみにガゼフや漆黒の剣、フォーサイトの内三人や聖王国の二人、亜人達はポカンとしているがジルクニフやロウネはチベスナ顔、ニンブルとイビルアイは(あき)れて額を押さえている。

 

流石に()()であるため空気を読んでか、ガガーランとティアは『いつも通りだな』と見合わせ、肩を(すく)めるに留めた。

 

フールーダは(なが)めながら(ひげ)を撫でているだけ。

言うまでもなくナザミは無表情である。

 

 

……意外な反応としてはレイナースだろう。

 

彼女は呪いが解けて以来、昔の性格を取り戻しつつあり、さらに言えばラキュースは恩人の一人。

 

少し困ったように微笑ましく見守っていた。

 

また、彼女にはリおんに対する『独占欲』はないらしい。

 

 

一方、アルシェは少し難しい表情をしていた。

ライバル視だろうか。

 

それらを見てニコニコしているサエルアンナやリおんに対してニヤニヤしているバジウッド、表情の消えたモラノールは気にする必要もなかろう。

 

 

「お久しぶりです、ラキュースさん」

 

気を取り直したとはいえ、お互い少し困り顔だ。

 

「……えぇ、久しぶりね。あの、どうしてリオン君がここに?」

 

 

リおんは少し気まずそうに後頭部を掻きつつ、

 

ぁー……あはは……だって、皇帝陛下の楽士ですから」

 

 

へ?……ぇえええ!?

 

リおんが皇帝直属の楽士である事を大々的に認めたのはアンデッド事件の時。

 

遠く王都で混乱の渦中にいたラキュースでは知る(よし)もない。

 

帝国に移籍後エ・ランテルに取って返した漆黒の剣も、再会時は似たようなリアクションだった。

 

 

あの時は騙すような事して、ごめんなさい!

 

やや悪戯(いたずら)っぽい茶目(ちゃめ)()を出して謝るリおん。

 

バラす想定をしていなかったと見えて、誤魔化(ごまか)す気満々(まんまん)である。

 

 

ハッとするラキュース。

 

ようやく、あの時『最初から担がれていた』のだと気付く。

 

……なるほど……そーいう事だったの……

 

 

「すみません、お仕事だったので……」

 

ちょっと申し訳なさそうなリおんに『ぐぬぬ』という雰囲気を(にじ)ませるラキュース。

 

……流石ですわね、皇帝陛下

 

やや憎らしげに視線を向けるも、ジルクニフは涼しい顔。

 

「ラキュース嬢、あの時はあの時、今は今だ」

 

 

「……えぇ、そうですわね。わかっております」

 

と言っても、やはり(くや)しげではある。

 

 

「さて、落ち着いた所で本題に戻って良いか」

 

咳払(せきばら)い一つ、ジルクニフが切り出す。

 

 

途中から入った蒼の薔薇への説明は後として、魔樹の姿や大きさ、推定される攻撃手段、周りの動植物からエネルギーを収奪する触手による吸収(ドレイン)攻撃などについて語り

 

「本作戦で諸君らの役割は『魔樹の回復妨害』である」

 

 

皇帝側近らとフォーサイト以外は疑問の表情。

 

ガガーランが率先して訊ねる。

 

「皇帝様よぅ。なら本体への攻撃はどうすんだい?」

 

 

「……この戦いでの主戦力は、リオンだ」

 

 

ジルクニフの返答に、疑問に思っていた者全員が

はぁ?

と言いたげな顔で、小さなワーウルフの少年に注目した。

 

『このチビっ子が主戦力とか冗談だろ』と。

 

 

正体を示すべく前に一歩進み出ようとするリおんは、こちらを見るジルクニフに気付き、視線が交わる。

 

正体をバラせば後戻りはできない。

 

『本当に良いのか?』と気遣(きづか)う視線に、無言の笑顔で返した。

 

 

それを受け、改めて『紹介し直す』覚悟を決めたジルクニフ。

 

「……彼はリオン・ガヴリール。我が専属の楽士……というのは、仮の姿だ」

 

この言葉には、側近らも首を傾げた。

 

 

リおんがショートカット機能で本装備に切り替え、認識阻害の指輪を、外した。

 

 

場の空気が変わった。

 

 

人間達は『服装も含めて』リおんの変貌(へんぼう)に戸惑う。

 

亜人達は明らかな強者の圧に(ひざまず)きそうになった。

 

だが『王者』やら『勇者』やらの矜持(きょうじ)で耐えるにしても多大なストレスであろう。

 

 

「……ぉお………」

 

フールーダの異能(タレント)では吟遊詩人(バード)の力量まで量れない。

 

だが、その圧倒的な魔力は見る事ができた。

 

 

その一方、同じ異能(タレント)を持つアルシェは冷静であった。

 

リおんが『せめて今は日常を』と自由にされた際、彼女にだけは打ち明けていたからだ。

 

帝国からの旅立ちも含め。

 

 

アルシェはジルクニフに退職を願い出た。

 

全ては戦いの後の話だが、妹達はロバーデイクに頼み、自分はリおんに付いて行くつもりで。

 

 

これに対してジルクニフは退職を却下、妹らの養育を対価に『リおんの護衛』を命じた。

 

つまり彼なりの配慮であろう。

 

 

改めて名乗りましょう。僕はリおん・がぶりール。ナザリックの一柱、歌の神です

 

 

その一言にナザリック教徒らと守護鬼(スプリガン)など一部の亜人達が慌てて跪く。

 

それ以外の者も、釣られて、または『神が相手では仕方なかろう』と自分に言い訳して何人かが跪いた。

 

 

リおんは少し悲しげな目をした。

 

 

僕は直接戦闘が不得意で、他の神にも会えていませんので、皆さんの力が必要なんです。僕の持つ装備やアイテムも使えそうなら提供しましょう。だから、宜しくお願いします!

 

 

┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄

 

 

《モモンガの執務室》

 

 

(ええええええ!?……正体バラしちゃったよ……)

 

『ピンチからの復活パワーアップ作戦』という説が崩れ、遠隔視の鏡(ミラー・オブ・リモート・ビューイング)を見ていたモモンガは光った。

 

 

アルベドやデミウルゴスは『調査指示』だの『報告の精査』だのと言って席を外している。

 

モモンガは『そんなに忙しくなる状況だったかなぁ』などと思いながらも任せていた。

 

 

それはそうと、セバスやメイドは控えていて……

 

 

「……ふむ、そう来たか

 

支配者ロールで呟いてみせるも

 

(どう来たんだよ!?)

 

自分でツッコミを入れるという器用な事をしていた。

 

 

空の頭蓋骨をフル回転させたモモンガは

 

「……つまり、『全員での勝利』を演出したいのか?」

 

そこまでは考えたものの『結局最後はリおん自身がボコにするんだろうから些細な違いだろう。一応、二人には後で伝えておこう』程度(ていど)で思考を放棄した。

 

 

……リおんの実状も、守護者らの『計画』も知らない死の神(・・・)を置き去りに、事態は動き続けるのであった。

 





え、ウマ娘がいた?
いえいえ、別種です。脚が馬です。

ちなみに私の設定ではケンタウロスは上半身が人で、セントールは馬面という事にしましょう←
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