【完結】おおかみ☆せんせーしょん(ハーメルン移植版)   作:ブドウ冷やしんす

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おまたせ…しました…

_:(´ཀ`」 ∠):_

尺の理由から紹介パートを用意できなかったオリキャラのトードマン達を解説しておきま←いらない
この作品ではトードマンみんな忍者です。
魔獣を使役するカエルって忍者な気がしま←妄想

ピヨント
里で一番の勇者。6歳。
最近ケココが気になっている。

ケココ
ピヨントに憧れて入隊。5歳。
ヒロイン。

ペター
ピヨント、ケロルとは同じ月の夜に孵った親友三人組。
ケロルが好き。

ケロル
ピヨント、ペターとは同じ月の夜に孵った親友三人組。
ピヨントに恋をしている。

ゲーゲル老師
30年もの永き時を生きる大老。里長。
里の存亡を賭けた戦いが自分の死に場所と悟り参戦。


ブレイブ・ミィス〈世界で最も新しい神話〉─前編─

 

ルプスレギナ、謹慎(きんしん)

 

 

もうじわげございまぜん!!!

 

モモンガにチョップを食らった頭を押さえながらルプスレギナはガン泣きした。

 

 

「……んん、とはいえ、魔樹の件にリおんが関わっていると伝えていなかったのも事実。なので、3日、といったところか」

 

(しか)りつけたものの、流石(さすが)気不味(きまず)かったらしいモモンガ。

 

「だがなルプスレギナ、お前だけに言える事ではないが、過度な人間蔑視(べっし)が油断や判断ミスに(つな)がり、ナザリック全体に被害を与えるかも知れぬ。しっかり報告、連絡、相談せよ」

 

 

あい、気をつけます……」

 

 

「まぁ、今回のは大局に影響はないだろう。足止めも食らっているようだし」

 

モモンガは遠隔視の鏡(ミラー・オブ・リモート・ビューイング)の向こうのゼロ達を見ながら言った。

 

(結局、リおんに接触する機会はなし、か。もう森に向けて出発しちゃったし。仕方ないから皆で鑑賞会かな……)

 

 

┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄

 

 

《リザードマン集落》

 

 

「いやぁ、強ぇ強ぇ。お前マジで人間か? ガハハ!」

 

 

「すまんなゼロ。こいつはこういう性格なんだ」

 

 

「いや、分かるさ。死地へ行くのに、(たよ)りにならんヤツに背を(あず)けたくはなかろう」

 

 

リおんに言いつけられた森の賢王、改めハムスケはゼロ達をリザードマン集落へと案内した。

 

そこで『帝国からの部隊とは別口』と聞きゼンベルが『なら腕を見せてもらおう』と組み手を申し込んだ。

 

勝敗は互いに(ゆず)らず、本気になりそうだった所をザリュースが止めに入り終了した。

 

 

リおんがハムスケに乗って駆ける姿を見せて以降、トブ大森林部族連合は『魔樹が動かない限り待とう』と落ち着きを保っていた。

 

今はトードマンら隠密行動が得意な部族が定期的に監視するのみ。

 

 

適当な場所に腰を下ろしたゼンベルが言う。

 

「しっかしまぁ、(うで)(ぷし)もそうだが、わざわざ死地に自分から来るたぁ大した野郎だ。帝国ってのとは別口なんだろ?」

 

 

ゼンベルに(なら)い、ゼロは横に胡座(あぐら)をかくように座る。

 

「うむ。だが知ってしまった以上、見て見ぬふりはできぬ。法国の思惑通りになどさせるわけにはいかん」

 

 

「……法国だぁ?」

 

(いぶか)るゼンベルにゼロは答えた。

 

「我々は元々、森の近くにある開拓村が襲撃されていると聞き、それを助けるために動いていた。到着してみると(すで)に村の実力者らに退(しりぞ)けられた後だったのだが、聞けば野盗などではなく法国の特殊部隊だったのだそうだ」

 

 

近くに歩み寄り聞こえていたか、デイバーノックが話を引き継ぐ。

 

「魔樹を手に入れるための陽動作戦だったらしい。何でも、法国には魔樹を支配する手段があるとか」

 

 

「はぁ!? あの化け物を支配だぁ!?」

 

ゼンベルは目を()いて驚き、ザリュースは表情を(けわ)しくして言った。

 

「法国は人間至上主義の国と聞く。そんな国が魔樹を手に入れたら……」

 

 

ゼロが(うなず)く。

 

「そうだ。間違いなく『人類のために』と(のたま)い周辺の異種族掃討(そうとう)に使うだろう」

 

 

ゼンベルが(たず)ねる。

 

「……いいのか? 法国が『人類のため』つってやる作戦を邪魔するって事は、お前さん大悪党にされちまうんじゃねぇのか」

 

 

それに対しゼロはフッと笑うと、

 

「そんなもの、所詮(しょせん)は法国の言い分に過ぎん。それを言うなら帝国も同じだろう。法国の考えは(あさ)はかだ。ナザリックの神は言う。森と虫が死ねば、人間は()えて死ぬと」

 

 

ゼンベルもザリュースも首を(かし)げる。

 

ゼンベルが()いた。

 

「……人間ってぇのは、虫を食う種族だったか?」

 

 

「いや違う。人間は作物や家畜(かちく)を育て、それを食って生きる。

 

作物も、家畜の(えさ)である草も、種を残さねば育たぬ。

 

種を作らせるのは(はち)などの虫だ。その理屈(りくつ)は森も同じ。

 

森がなければ大地は雨を(とど)めておけず、大雨の(たび)に豊かな土が流されるだろう……全ての命は何かしら関係があって成り立つのだ。

 

人間だけが残っても、恐らく意味などない」

 

 

それを聞いたザリュースは納得した様子で語る。

 

「……養殖を始めて俺も気付いた。エビやカニ、貝、藻など……様々な生き物がいて環境は成り立つ。そこで育った魚を食う。俺達は目に見えないバランスの中に生きているんだと」

 

 

(しか)り、と頷くゼロ。

 

「法国のやり方では、いずれ人間は立ち行かなくなると、俺は思う」

 

 

ヒトは、いつだって正しい事などできていない。

 

これは絶対に正しいと思った時、それは(すで)に遠い過去のものになっているかも知れない。

 

そして、正しくあろうとすればするほど、その論理を根拠として間違いへと突き進んで行く。

 

……「そうだ、その通り」と思った君は、既に間違いへと突っ走っているかも知れない。

 

本当に間違いを回避しやすい人間は、自分こそが間違っているのではないかと不安になれる人間だ。

 

不安を感じない時点で自分に()っている可能性が強い。

 

(もっと)も、何かを成せる人間とは、正しくあろうとする者でも自分を(うたが)える者でもなく、正しさすらどうでも良いと飛び込める者かも知れないが……

 

 

「俺は既に一度、道を()(はず)した。人々の未来を救うためなら、今さら汚名の一つや二つ……それに、ナザリック教において『悪』は(すなわ)ち『罪』ではない」

 

 

「へぇ、悪党が罪じゃねぇってのかい」

 

 

「我らにとって罪とは偽善(ぎぜん)独善(どくぜん)(ゆえ)なく悪行を働く(おろ)かしさ。悪とは、単に『手段を選ばぬ』という事よ」

 

 

「手段を選ばぬ、か」

 

ゼロの言葉に感じ入るリザードマン二人。

 

 

誰の助けも得られぬ八方塞(はっぽうふさ)がりの中、生き足掻(あが)こうとして見付ける道は大抵(たいてい)『悪』だ。

 

そして世界を変えるのは、いつだって最初『悪』だった。

 

道が(ひら)けた時、後から『悪』が『正義』になるだけだ。

 

正義とは『正しかった過去』への信仰である。

 

だから正義という立場からは、必ずしも未来を正確に見通す事はできない。

 

 

「生きる事は、時に綺麗事では済まされぬ。全ての結果を己の矜持(きょうじ)で受け入れるなら、例え死するとも悪の神くらいは『これぞ(まこと)の悪よ』と笑ってくれるだろう」

 

 

ゼンベルが(ひざ)を打つ。

 

「……その心意気、気に入った! てめぇは共に戦うに(あたい)する(オス)だ。俺も腕っ節だけで生きてきた。泣いても笑っても、結果を全て受け入れてな。(うそ)(きれ)ぇだ。ここで俺が認めてやらにゃ、俺の今まで全てが嘘になっちまう。なぁザリュース。戦いの前に、こいつに魔樹を見せてやりてぇ」

 

 

「……そうだな。俺もそうしたい。だが……」

 

ザリュースは難しそうに続ける。

 

「そのためにはゴブリンかボガードの部族に(うかが)いを立てなくては」

 

 

ゼロが問う。

 

「取り決めがあるのか?」

 

 

「いや、そういうわけではないのだが……魔樹に気付かれずに近付くには生命隠し(コンシール・ライフ)の魔法がなくては。リザードマン部族には使える者がいないのだ」

 

 

それを聞いたデイバーノックが、

 

生命隠し(コンシール・ライフ)なら俺が使えるぞ」

 

 

「あぁ、昔よく重宝(ちょうほう)したな」

 

ゼロが自嘲(じちょう)気味(ぎみ)に言うと、エドストレームも苦笑(にがわら)いして(かた)(すく)める。

 

 

二人の反応の意味をリザードマン達は理解できないまでも、

 

「なら問題ねぇな。そんじゃ、明日にでも案内してやるか」

 

 

┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄

 

 

「……あれが……滅びの魔樹……」

 

 

遠くに見える威容(いよう)に、一同は言葉を失った。

 

それでもゼロは、一度瞑目(めいもく)した後、決意の眼差(まなざ)しで魔樹を(にら)み付けた。

 

 

「……デイバー、無理に付き合えとは言わぬぞ」

 

 

「……確かに俺の目的は、深淵(しんえん)を目指す事。だが同時に、深淵に(いた)る『道』を未来へ(つむ)ぐ事でもある。あれを野放しにすれば、一体どれほどの『可能性』が消える?

 

……俺は、既に多くを殺し過ぎた。逃げれば深淵に()れる事を、(みずか)らに(ゆる)せなくなるだろう。

 

魔導という目的を失った歩みに、意味などない」

 

それに、とデイバーノックは続けた。

 

「お前さん風に言うなら、死しても知の神くらいは(ひろ)ってくれそうだ」

 

 

「フッ、お前の場合は死の神に会うのが先ではないか」

 

ゼロが冗談に付き合うと、デイバーノックは

 

「……そうだな。アンデッドの俺なら眷属(けんぞく)になれるかもな」

 

 

「「は?」」

 

リザードマン二人は目を丸くしてデイバーノックを見やる。

 

 

「……デイバー、良かったのか?」

 

 

「ゼンベルは嘘が嫌いだと言う。これから共に戦うなら隠し事も(まず)いかと思ってな」

 

デイバーノックが手袋を外すと、中から出たのは白骨の手。

 

 

ギョッとするリザードマン二人。

 

 

目深(まぶか)(かぶ)ったフードを下ろすと、骸骨(がいこつ)の顔が(あら)わになった。

 

なんとデイバーノックはアンデッドであった。

 

 

「……死者の大魔法使い(エルダーリッチ)?」

 

 

「坊さんの連れがアンデッドとは、たまげたねぇ……今さらだが、大丈夫なんだろうなゼロ」

 

 

「こいつとは、犯罪組織にいた頃からの付き合いだ」

 

 

犯罪組織と聞いて(さら)に驚く二人に、デイバーノックは

 

「俺からすれば人だろうと何だろうと、知性なくば(けもの)と変わらん。殺し合いになる理由が違うだけだ。逆を言えば、冗談を解する知性があるならアンデッドだろうが亜人だろうが問題ないと思うのだが」

 

 

ナザリック教では魂を『海から打ち上げられた飛沫(ひまつ)』と解釈(かいしゃく)するが、これは魂=命という視点から比喩(ひゆ)的に表現した側面的事実に過ぎない。

 

 

意識とは、世界の流れに生じた『(うず)』である。

 

故に、いずれは勢いを失い、世界という情報の流れに溶け込み消失するし、よほど超越的な存在でない限り世界から独立した意識などあり得ない。

 

 

アンデッドもまた、相剋(そうこく)渦動(かどう)励振(れいしん)原理に照らしてみれば他と何ら変わりない『渦』の一つに過ぎない。

 

勿論(もちろん)、ブラックホールのように他より深く強力な『渦』ではある。

 

周囲からの悲しみや(おそ)れが流入した結果であり、恐怖などを向けられる事で更に強靭(きょうじん)になる。

 

故に、世界から忘れ去られるその時まで永遠に存続し続けるのだ。

 

 

(いにしえ)に存在したと言われる『それら』が、現代に存在しない理由はそれだ。

 

実在しなかったのではなく、『どうでも良い存在』として忘れ去られ、『確固たる存在』として存在し得なくなっただけである。

 

だから強く信じている者には確かに見えるし、無意識に畏れを抱く者には影響を(およ)ぼす。

 

……尤も、死の神が実在する『この世界』において、そんな時代が来る事はないのだろう。

 

 

強固にして不変の世界など初めからどこにもありはしない。

 

世界とは、ヒトの観測結果によって簡単に形を変えるものだ。

 

世界が不変に見えるのは、それだけ人々の妄想(もうそう)が強固な結果である。

 

 

閑話休題。

 

 

デイバーノックの言葉に、ゼンベルは豪快(ごうかい)に笑った。

 

「ハッハッハッ! 確かにな! 俺もオツムは弱いが、冗談くらいは分かる。それがなけりゃ獣と変わらんのだろうよ」

 

 

ザリュースも笑った。

 

「あぁ、特にお前みたいなのはな!」

 

 

てめぇ俺より先に結婚したからって調子乗ってんじゃねぇぞ!!

 

 

「……ゼンベル、お前なら()れる(メス)なんてたくさんいるだろ。色気より食い気で酒ばかり()んでるからじゃないのか?」

 

 

「ケッ! うるせぇやい。俺だってなぁ、もうちっと色っぽい雌がいりゃあ……例えば、こう、尻尾の付け根なんかがムッチリ……俺の部族の雌が貧相(ひんそう)なのがいけねぇや!」

 

 

ザリュースは驚いた。

 

『こいつは出会った時から破天荒(はてんこう)なやつだと思っていたのに、律儀(りちぎ)にも自分の部族の雌しか見ていないのか』と。

 

『これではまるで、他所(よそ)の部族の長と(つがい)になった自分の方が破天荒みたいではないか』と可笑(おか)しくなり苦笑した。

 

 

そんな漫才みたいな会話をする二人を横目に、ゼロはエドストレームにも問いかけようとするが

 

「エド、お前は……」

 

 

「興味ないね」

 

 

あまりにアッサリした返答にリザードマン二人は目を丸くするも『このクールそうな雌なら、そんなもんか』と思う。

 

 

だが、ゼロとデイバーノックは真意に気付いているらしく、言葉の続きを待つと

 

「……他に、どこに行けってのさ」

 

肩を竦めるエドストレームに、ゼロが「……すまん」と言うと

 

「好きで付き合ってるんだから、謝られても困るよ」

 

何でもないように苦笑するエドストレームに、ゼロは珍しい提案をした。

 

「……これが終わったら、次の行き先はお前が決めると良い。どこへなりと付き合おう」

 

エドストレームが驚いたような顔をしていると

 

「たまには、そんなのも良いだろう」

 

と笑いかけるゼロ。

 

エドストレームはプッと吹き出し、腹を抱えて笑った。

 

 

そのやり取りを見てザリュース達は『男女の仲も色々あるんだなぁ』と不思議そうにしていた。

 

リザードマンは基本、純朴な世界観で生きている。

 

 

「なぁ旦那、俺も……」

 

と、ザックが口を開くが、それを(さえぎ)りゼロは

 

「ザック、お前は帰れ」

 

 

「……え」

 

 

ゼロはザックに預けてある荷物を取り上げ、中からポーションなどを取り出して返す。

 

路銀なども、そのままだ。

 

 

「これらは戦いに必要だろうが、他はくれてやろう。

 

カネに換えるなり、好きに使え。

 

……妹を探しているのだろう?

 

大丈夫だ。お前なら、きっと会えるさ」

 

 

「………………旦那……」

 

ザックは言葉もなくし項垂(うなだ)れた。

 

 

「ゼンベル、すまんが誰か付けてやってくれ。俺達が世話になった男だ。森の外に逃してやりたい」

 

 

「おめぇの頼みならお安い御用だ。任せな」

 

 

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エ・ランテルに前線基地機能を残し、ジルクニフは帝都に帰還した。

 

 

機能と言っても、期待されているのは

 

『作戦が失敗した場合、伝言の羊皮紙(スクロール・オブ・レポート)で帝都に知らせる事』

 

『遅滞戦という名の玉砕戦を指揮する事』

 

『できる限り魔樹を法国へ誘導する事』

 

の三つだけである。

 

 

勿論、そんな事は一般市民に知らされてはいない。

 

籠城(ろうじょう)が前提の城塞都市エ・ランテルでは、市民を(すみ)やかに避難させるのは困難であり、魔樹の侵攻を受けた場合、全員そのまま死ぬ事になる。

 

 

だが市民へのプロパガンダとしては『防備は万全である』『一致団結して立ち向かおう』と流布(るふ)されていた。

 

それでも指導部の『空気』は伝わるらしく、街全体がピリついていた。

 

一方で、市民は (プロパガンダに流されているという面はあるものの) 危機を前にして隣人同士の(きずな)を大事にするよう心がけているらしく、ある意味、直前のアンデッド事件が『怪我の功名』として作用したとも言える。

 

 

避難計画で最も人数が多いのは法国方面となっている。

 

これは(おとり)であり、他の方面に割り振られる国民は抽選であるのだが、法国方面のみ、帝国が秘密裏に策定した『信用スコア』でランクが低い者だけ集められている。

 

つまり収入や生活実態、行動パターンから割り出した『不満を抱きやすい者』、『協調性に欠け、反発しやすい者』などである。

 

 

ランポッサ三世が死んだ際は王国に対しても(いきどお)ったジルクニフだったが、今や法国への憎悪(ぞうお)それ(・・)の比ではなく、もはや法国は次なる仮想敵国であった。

 

(王国に対しては、もうどうでも良くなっていた)

 

 

とはいえ法国に対してできる事は、現状『自国がボロボロになった後の嫌がらせ』くらいしかなく、

 

リおんが涙を流してまで『きれい』と言ってくれた自慢の国を『魔樹への捨て石』に使うなどジルクニフとしても憤懣(ふんまん)()(かた)()いわけで、

 

人事を尽くした以上は天命を待つ他なく、『法国に借り(・・)を返すのは別の機会で構わない』と、ただ只管(ひたすら)、らしくもなく神に作戦の成功を祈り続けた。

 

勿論、六大神ではなくナザリック神に。

 

 

……あまり祈りすぎてジルクニフが『聖約せし皇帝(カヴェナント・エンペラー)』という職業(クラス)レベルを取得していたりするのは余談である。

 

たぶん神の御旗の下に(アンダー・ディヴァイン・フラグ)とかの信仰系補助魔法を使えるようになっている。

 

(厳密には神官系職業(クラス)ではないため回復魔法は使えない)

 

 

それはさておき、ジルクニフを見送ってからリおん達『討伐隊』は出発した。

 

いち早く現場の状況を知りたいガゼフ、ザリュース達と面識があるフォーサイト、運び入れる物資など含め()を整える役目の四騎士は霜の竜(フロスト・ドラゴン)の竜(かご)で直接リザードマン集落へ。

 

リおんの呪歌に()れておきたい漆黒の剣や、万が一法国が動いた時に備えた護衛としてのブレイン、霜の巨人(フロスト・ジャイアント)土精霊大鬼(プリ・ウン)水精霊大鬼(ヴァ・ウン)といった大型の亜人達はリおんの呪歌で敵を()けつつ、疲労を無効化し、昼夜を無視しての強行軍だ。

 

 

その他の亜人達の判断は部族(ごと)それぞれだ。

 

バザーのように供回りを連れた者はリーダー格が竜籠で直行し現状把握(はあく)、部下らは呪歌に慣れさせるため『地上組』という判断の部族が多いようだった。

 

中には種族特性から『地上組』を選択した者もいる。

 

神聖なものを守る事を好む守護鬼(スプリガン)や、そもそも走り回るのが好きな人馬(ホールナー)などである。

 

 

魔法省の職員は竜籠を使わず飛行(フライ)で直行した。

 

全員が第四位階以上のエリートだ。

 

彼らは戦闘本番では魔力を温存するため霜の竜(フロスト・ドラゴン)に乗って援護する予定ではあるが、振り落とされたり不測の事態があり得るので、障害物が多い森の中での飛行訓練を兼ねている。

 

 

(なお)、地上組のルートは『邪魔が入らない最短ルートを』という事でカルネ村経由。

 

ギリギリ謹慎が解けていないルプスレギナは涙目であった。

 

 

 

カルネ村が見えてきた時、リおんは浮かない顔であった。

 

(……エンリさんにも、神様扱いされちゃうんだろうなぁ……)

 

『会いに行けるアイドル』である事を楽しんでいたリおんにとって、悪い意味でなくとも、親しく接してくれていた相手が自分から距離を置き離れて行くのが(さび)しかった。

 

だが……

 

 

まあ! うたのかみさまだったなんて! これまでのぶれいをおゆるしくださいませ!

 

 

リおんは真顔になった。

 

エンリの棒読みが(ひど)い。

 

感じ取れる感情は間違いなく『崇敬』であるのに、言動全てが演技臭くて仕方ない。

 

 

(……えっと……どうしてこうなった……何を隠してるんだろう……けどまぁ、悪意は感じないんだよなぁ……スルーしてあげた方がいいのかな……)

 

 

エンリはルプスレギナからリおんの事や魔樹の事を聞いていたし『心配ない』とも聞いていた。

 

だが、同時に『邪魔しないよう知らないフリを』とも言われていた。

 

 

ともあれリおんは、

 

「……いえ、僕が隠していた事ですから、気にしてなんかいません。……むしろ、今まで通りに接してもらう方が嬉しいです」

 

 

はひ! これまでとかわらないしんこうをささげます!

 

 

「……」

 

必死なエンリに『あ、これもうダメだ』と(あきら)めたリおんは、何やら煮えきらないまま先を急ぐ事にした。

 

 

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《モモンガ執務室》

 

 

「ぃよっし! 良くやったエンリ!」

 

ハラハラしながら鏡で様子を見ていたモモンガは思わずガッツポーズ。

 

後ろにメイド達がいるのも忘れて素が出てしまっていた。

 

積極的に反応を見せる守護者らが不在のため本人は気付いていない。

 

メイド達は微笑ましげに見守っていた。

 

 

ちなみにセバスは先程アルベドから呼び出され、今は席を外している。

 

 

「ふぅ……これなら何事もなく本番を迎えられそうだな」

 

モモンガ的には、あれでも『セーフ』だったらしい。

 

 

(……それにしても、皆、(いそが)しそうだなぁ……一緒にリおんの戦いを観戦したかったんだけど……)

 

 

最近、守護者らが余所余所(よそよそ)しく動き回っているので (居たら居たで支配者ロールで疲れるクセに) 少し寂しそうであ

 

両手の人差し指をチョンチョンするな骸骨。

 

 

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リザードマン集落……実質『トブ大森林部族連合本部』だが……そこへ大量に飛来した霜の竜(フロスト・ドラゴン)騒然(そうぜん)となった。

 

それはそうだろう。彼らにとってドラゴンなど時折アゼルリシア山脈から『(こぼ)れて』来る程度(ていど)の存在でしかないのだから。

 

 

しかし、そのうちの一体が低空まで来ると、持っていた籠のようなものがスルスルと降ろされて……

 

緑爪(グリーン・クロー)族のザリュース・シャシャはいるか!? 俺はヘッケラン・ターマイトだ!」

 

「ヘッケラン!?」

 

 

援軍、連れて来たぜ!!

 

 

そこからは、違う意味で(さわ)ぎになった。

 

次々と降り立つ勇士、猛将、賢者達。

 

威風堂々たる竜の姿も(あい)まって……

 

「……おい、もしかして」

 

「勝てるんじゃないか、俺たち」

 

熱を帯び(ささや)き合うリザードマン、トードマンに

 

「何言ってんだ。『何が何でも勝つ』んだよ、俺達は」

 

ヘッケランが声をかけた。

 

これは、俺達の生存戦争だ

 

 

魔樹との戦いは、周辺国や各部族から後に『大戦争』とシンプルに表現される。

 

後にも先にも『あらゆる種族や国家が垣根(かきね)を越えて共に戦った例』など他にないためだ。

 

 

戦い慣れしたアベリオン丘陵の種族に世界の広さを感じる森林連合、

 

自ら死地に(おもむ)求道心(くどうしん)を認められ帝国から『聖人』として(ゆる)しを受けるゼロ一行、

 

数日後に地上組が到着し『歌の神』との邂逅(かいこう)から『養殖知識や援軍など与えられた慈悲の深さ』に涙するリザードマン達……

 

(リおん本人は変な汗を流していた)

 

 

語り()がれて行く『大戦争』序章における一幕であった。

 

 

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役者が(そろ)い、数日かけ情報交換や打ち合わせを行い、一週間後、決戦の地『枯れ木の森』へと足を運ぶ……

 

(つい)に『開幕』の時を迎えた。

 

 

 

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早朝、魔法省が用意した生命隠し(コンシール・ライフ)のスクロールを使い展開する勇者達。

 

 

魔樹を囲む形で、北側はリザードマンやトードマン、水精霊大鬼(ヴァ・ウン)などの湿地に適した亜人達が

 

東側から南までは残りの亜人種が

 

西側から南までを人間種が担当する。

 

 

霜の巨人(フロスト・ジャイアント)は東側から西側までに少数ずつ配置。

 

 

ゴブリンやボガードは魔法詠唱者(マジックキャスター)系とドルイドなどの神官職のみの参加だ。

 

戦士系では実力が足りず、魔樹の餌になってしまうだけだろう。

 

 

皆、更地(さらち)の手前で身を(ひそ)めていた。

 

上空を霜の竜(フロスト・ドラゴン)が輪を(えが)いて旋回している。

 

リおんの号令を皆が待つ。

 

 

彼はアイテムボックスから二本のスクロールを取り出すと、一本を頭上に放り投げ、一本を展開、発動。

 

伝言(メッセージ)

 

ギターの演奏を始める。

 

「……作戦、開始!!

 

歌が始まると、力を(みなぎ)らせた勇者達が一斉に立ち上がり、(しげ)みから飛び出す。

 

 

死の騎士(デス・ナイト)達よ! 魔樹に立ち向かう地上の者らを守れぃ!!

 

死の宝珠を掲げたフールーダが、竜の背から命を下す。

 

ただ盾として使い(つぶ)される文字通りの『死兵』が散開した。

 

 

リおんの目の前に、先程投げたスクロールが落ちて来る。

 

タイミング良くページの(はし)(つか)み、即座に展開するリおん。

 

時間停止(タイム・ストップ)!!

 

リおんの姿が()き消える。

 

と、次の瞬間、落雷のような轟音(ごうおん)が魔樹から(ひび)き渡る。

 

休眠状態への不意打ちバフ乗せクリティカル……リおんから魔樹へのダメージ5倍ドロップキック(キツいモーニングコール)だった。

 

 

続けて、今度は地下から地鳴りが響く。

 

魔樹の触手が地中を掘り進む音だけではない。

 

クアゴア決死隊による根 (触手) への一斉爆破攻撃であった。

 

彼らは帝国から支給された生命隠し(コンシール・ライフ)が付与されたドッグタグを身に着け、到着からすぐに潜行、皆が打ち合わせをしている間に数多くの坑道を構築、リおんからの合図を受け行動を開始した。

 

 

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《地中 魔樹直下》

 

 

最初の爆破を行った後も、クアゴア達は移動と攻撃を続けていた。

 

 

互いに音でしか相手を見付けられない、深く、静かな地下の戦い。

 

 

クアゴア達は最初の攻撃で潰してしまった坑道の他にも避難路や迂回路(うかいろ)を含め縦横(じゅうおう)無尽(むじん)に『道』を用意しており、四匹ずつの班に散開、相手の振動から行き先を予想して先回りしたり、逆に音を立てて誘導するなどして、地上に出て行く触手の数を一本でも少なくするべく奮闘していた。

 

 

敵、進路そのまま。第三坑道で接敵する

 

 

(ささや)きと息遣(いきづか)い、足音の反響で周囲を『見て』目的地に駆ける。

 

 

行く先で壁が崩れる音。

 

 

チッ、やはり速い。見つけ次第、(かじ)り付くぞ

 

 

到着し、壁を突き破り反対の壁へと突き刺さる根に殺到するクアゴア達。

 

 

原作ではナザリック勢が瞬殺してしまったため知られていないものの、伸ばされた『根』は地表へ突出すると光や気温変化などの刺激で表面が硬化、強靭な『触手』になるが、実は地下で『根』の状態なら軟らかく (それでもオリハルコンくらいには硬い) クアゴア達でも攻撃できた。

 

さらに言えば、地表と違って()(はら)い攻撃などされる心配はない。

(刺突される恐れはある)

 

とはいえ……

 

 

太いな。これ以上時間はかけられん。吸着弾

 

一匹が背嚢(はいのう)からグリップ付きの爆弾を取り出し被膜(ひまく)(はが)すと、タールに(まみ)れた表面が露わになる。

 

 

それを半ばまで齧り進めた断面に投げ付け

 

退避

 

クアゴア達が後退した直後、炸裂(さくれつ)

 

被膜は、着火(イグニッション)が付与された魔法式起爆装置を停止させておく符術でもあった。

 

 

掘り返せ

 

土の中から根を見付け、状態を確認する。

 

「……やったな。次に移る

 

 

根、触手は『群れ(スウォーム)』系モンスター扱いであり、ある例外を(のぞ)きザイトルクワエ本体へのダメージにはならない。

 

 

リおんが本体を倒すまで、文字通り日の当たらない彼らの戦いは続く。

 

 

┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄

 

 

クアゴア達による最初の一斉爆破が(こう)(そう)し、()い出して来る触手の数は予想より少なかった。

 

クアゴア連中が仕事を果たした! 負けておれんぞ!!

 

 

我に続け! 山羊人(バフォルク)の誇りを示せ!!

 

 

レメディオスが、バザーが叫ぶ。

 

東側、西側の勇者達が(おど)り出る。

 

 

雲操作(コントロール・クラウド)

 

雲操作(コントロール・クラウド)

 

雲操作(コントロール・クラウド)

 

霜の竜(フロスト・ドラゴン)の背から魔法詠唱者(マジックキャスター)達がスクロールを発動。

 

 

北側で高密度に集められた雲は雨を降らせ、魔樹の触手で(たがや)された地面は湿地に姿を変えた。

 

 

っしゃあ! 俺達の戦場だ!!

 

ゼンベルが()える。

 

意気(いき)軒昂(けんこう)に走り出すリザードマンの戦士達。

 

 

リザードマンに遅れを取るな! 突撃ぃ!!

 

グレーター・サーベルウルフ、大型パープルワーム、トブ・グレーター・タイガーといった魔獣をけしかけ、自身らも立ち向かうトードマン達。

 

「行くぞ皆!」

 

「へっ、お前にばっか良い格好させるかよピヨント!」

 

「そんな事言って、足引っ張るんじゃないよ? ペター……闇渡り!」

 

「な、なにをこの! 待てよケロル!!……ったく、誰に良いトコ見せるためだと」

 

 

勿論いくらリおんの呪歌を受けているとはいえ、一本一本がドラゴン並みの触手を簡単に切断できるわけではない。

 

 

流水加速! 剛撃!!

 

聖剣サファルリシアが光を増し、すれ違い様に一閃するレメディオス。

 

 

しかし、

 

「クッ、やはり一撃では無理か」

 

 

いくらザイトルクワエが『悪』寄りと言っても、知性がないだけでカルマ値は『極悪』ではない。

 

ましてサイズと硬さがあるため『予想よりは刃が通る』程度のもの。

 

おまけに斬った所で内臓などが零れるわけでなし。

 

 

「ドラゴンなら致命傷なんだがな……」

 

 

(ひる)む様子さえ見せず薙ぎ払いを行う触手。

 

しかし『そんな気はしていた』と、仕方なく二撃目を諦め冷静に回避へ転じるレメディオス。

 

 

 

エドストレームが、普段はバラバラに踊らせている三日月刀(シミター)を一ヶ所に集める。

 

それはまるで花のようで……

 

喰らいな! 輪転斬華!!

 

高速で回転する金属の花弁は、さながら回転ノコギリ。

 

触手を切断せんと襲いかかる、が

 

「チッ、硬いね。全部は無理か」

 

三分の一程度で刃が止まってしまう。

 

 

任せろ!

 

ゼロが突進する。

 

 

それを見計(みはか)らったように上空から()て付く吐息(といき)が降り()かり、触手の損傷(そんしょう)箇所(かしょ)を凍結させた。

 

 

おぉぉぉらぁ!!

 

 

ゼロの拳を受け、切れ込みから亀裂(きれつ)が走ると触手は()し折れた。

 

 

打撃系の味方が攻撃チャンスを得た時、霜の竜(フロスト・ドラゴン)が支援する事になっていた。

 

 

回避に転じたレメディオスにも、

 

団長、任せて下さい!

 

頭上から声とブレスが降る。

 

 

凍結した損傷箇所に、ネイアが鉄槌(アイアンハンマー)で一射、二射と打撃効果を与えると(ひび)が入り

 

 

ヘジンマール!

 

おう!

 

 

そのまま突っ込むヘジンマールは寸前に宙返り。

 

言葉さえ不要な阿吽(あうん)の呼吸で、伸し掛かる強烈なGにもネイアは振り落とされる事なく、サマーソルト尻尾アタック。

 

触手を見事に叩き割った。

 

 

「良くやったネイア! 次へ行け!!」

 

 

「はい!」

 

 

 

砂の領域・対個(サンドフィールド・ワン)! やれ、ラキュース!

 

 

超技! 暗黒刃超弩級衝撃波(ダークブレードメガインパクト)ォオ!!

 

 

イビルアイの砂に絡め取られた触手に、ラキュースが魔剣の一撃。

 

しかし……

 

 

不動金剛盾の術

 

見かけボロボロになってもなお叩き付け攻撃をして来る触手をティアが防ぐ。

 

 

「くっ、あれでも一撃では無理だと……ならば、魔法抵抗突破最強化(ペネトレートマキシマイズマジック)部位石化(リージョン・ペトリフィケーション)

 

 

俺っちの出番だなぁ! 超級連続攻撃ぃぃ!!

 

 

一番損傷が激しかった部分を石化、ガガーランが打ち崩す。

 

 

「ふぃー……たった一本相手でもコレかよ。気が遠くなるぜ」

 

 

「言ってる場合か。まだまだ来るぞ!」

 

 

 

怯むな! 一所に留まらず撹乱(かくらん)しろ!!

 

蛇王(ナーガラージャ)のロケシュが指揮を揮えば、

 

ぉぉお! 剛爪!!

 

獣身四足獣(ゾーオスティア)ヴィジャー・ラージャンダラーが戦斧と爪の二段構えで斬り付ける。

 

 

触手の先端が彼を狙えば、半人半獣(オルトロウス)のヘクトワイゼス・ア・ラーガラーが槍の刺突で止めてみせる。

 

 

ヴィジャーは最初、父から受け継いだ『魔爪』の名に相応(ふさわ)しい武功を挙げるために参戦した『若造』だった。

 

しかし魔樹の威容を目の当たりにして考えを改め「武功などと小さな話ではない。これは魂ある全ての者の誇りをかけた戦いだ。やるぞ俺は」とヘクトワイゼスに語ったのだ。

 

(あの方こそ新たな長に相応しい。何としても生きて帰ってもらわねば。例えこの身に代えようとも)

 

 

槍を刺されたまま暴れる触手。

 

「ぐぉあ!?」

 

投げ飛ばされるヘクトワイゼス。

 

『叩き付け』の体勢に入る触手にも、せめて目を逸らすまいと睨み付ける。

 

 

だが横から、

 

ぅおおお!

 

霜の巨人(フロスト・ジャイアント)の一体が掴み掛かる。

 

やれぃ!!

 

彼が上空に叫ぶと、冷気が撃ち降ろされた。

 

触手ごと冷気に包まれる、が

 

ふははは! どうだ化け物、寒かろう!!

 

冷気に対する完全耐性の前には『余波』くらいではビクともしない。

 

 

「済まぬ、助かった!」

 

 

「構わん! 叩き割れ!!

 

亜人達が殺到し、凍結部位は砕け散る。

 

 

 

流水加速! 即応反射! 四光連斬!!

 

触手の攻撃を避けたガゼフが即座に斬り付ける。

 

しかし……

 

「……六光連斬でなければ一撃では無理か……」

 

 

確かに呪歌の加護はある。

 

HP回復、MP消費低減、能力強化、ステータス異常防止……

 

だが武技では『精神力』を消耗する。

 

それはユグドラシルのルール外であり、プレイヤーにとって言わば『隠しゲージ』のようなもの。

 

 

歌による能力強化や高揚などの精神作用で間接的には負担も軽減されるが、MPに対するものほど恩恵はない。

 

いつ終わるとも知れない戦いで、精神力の枯渇は死活問題だ。

 

だから温存したいのが正直な所。

 

 

大ダメージにも怯まない触手が、反撃とばかりに薙ぎ払い。

 

防御か回避か。

 

どちらにせよ武技を使う事になる。

 

 

が、その決断をするより先に

 

重要塞!!!

 

(かば)うようにナザミが入る。

 

巨岩がぶつかり合うような轟音が響く。

 

 

そこにタイミングを見計らっていたレイナースの槍突撃(ランス・チャージ)

 

はぁっ!!

 

触手は(つらぬ)かれ、動きを封じられる。

 

 

ニンブル、合わせろ!

 

承知!

 

 

「「でゃぁ!!」」

 

 

上段から、下段から、バジウッドとニンブルから損傷箇所に叩き込まれる二つの斬撃。

 

触手は断ち切られた。

 

 

「かたじけない!」

 

 

「へっ! 貸し(・・)一つだぜ?」

 

バジウッドは軽口で返し、ナザミは無言で(あご)をしゃくる。

 

『次に行け』と。

 

 

┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄

 

 

歌を(うた)いながら、リおんは()って蹴って蹴りまくる。

 

 

振り回される枝を圧し折り、口を蹴り付け『種』の砲撃をキャンセル。

 

 

それでも、リおんは本来『後衛職』だ。

 

いくらバフをかけた所で、その攻撃力では体力バカである魔樹のHPは中々減らない。

 

おまけに肝心のHPは『測定不能』

 

 

作戦では、一定以上HPが減ると発動するであろう(・・・・・・)バーサクモードを、手持ちに唯一残っていた『まともな』攻撃魔法スクロール万雷の撃滅(コール・グレーター・サンダー)でキャンセルし、後は今と同様に回復を阻害(そがい)してもらいながら蹴り続ける事になっている。

 

 

魔樹の体力も生態も不透明、

 

タイミングを間違えただけでバーサクモードのキャンセルは失敗、

 

途中で何かトラブルが起きただけで魔力の消費ペースが狂い瓦解(がかい)する……

 

作戦とさえ呼べないようなチキンレース。

 

全てがギャンブルであった。

 

 

そんな作戦でも『これなら勝てる』と鼓舞(こぶ)して実行に移すしかなかった。

 

 

 

歌の加護があるとはいえ、先の見えない戦いでも(くじ)ける事なく戦い続ける英雄達。

 

だが、どうしても小さな(ほころ)びは生じるもので……

 

 

「危ねぇ!!」

 

リおんがキャンセルし損ねた砲撃が飛んで来る。

 

危険も(かえり)みず、周りの亜人達を安全圏へと放り投げる。

 

 

着弾、炸裂。

 

 

後には地面しかなく、周りは『犠牲になったか……』と思った、が

 

地面の土がモコモコ盛り上がって人型に……

 

 

「ふぁぁ、俺が土精霊大鬼(プリ・ウン)じゃなきゃ死んでたぜ!」

 

周りから安堵と喝采(かっさい)の声が上がった。

 

 

この戦いで土精霊大鬼(プリ・ウン)や霧に姿を変えられる水精霊大鬼(ヴァ・ウン)は知名度を上げた。

 

 

また、リおんが打ち合わせの際「砲弾が空中で停止しているように見えたら直撃コースだから全力で逃げろ」と伝えていたのが幸いし、砲撃の犠牲者は数が多いゴブリンやボガード、自身を過信して迎撃しようとした石喰猿(ストーンイーター)魔現人(マーギロス)、そもそも盾として散るのが役目の死の騎士(デス・ナイト)くらいのものであった。

 

 

ただ、前提として挑み()らねばならない相手である触手による犠牲者は、それなりに多くいた。

 

 

「ぐぁっ!?」

 

クアゴア達の手が回らなかったか、触手が(わず)かに増えた。

 

トードマンの若きエース、ピヨントが薙ぎ払われバランスを崩す。

 

 

その機会を見逃さず、養分を求めた刺突が来る。

 

 

「先輩!!」

 

ケココが悲鳴を上げた。

 

万事休す、その時……

 

 

「不動金剛……ぬぅっ!」

 

 

「ゲーゲル老師!?」

 

 

盾となり貫かれる老兵。

 

 

不動金縛りの術!!……くくく、捕まえたぞ化け物

 

 

「今助けに」

 

 

(たわ)け! まずは己の身を守れ! 先に()くのは老耄(おいぼれ)と決まっておる。貴様ら蝌蚪(かと)は後から来い!」※オタマジャクシの別称

 

 

触手を捕まえたまま、術を発動。

 

 

「……里の未来を背負う者達よ、見ておくが良い! 忍法、爆炎陣んん!!!

 

全魔力を投入しての大火力。

 

位階換算で第八位階になろうかという劫火(ごうか)が自身諸共(もろとも)に触手を焼き払う。

 

 

30年という、一般トードマンなら気が遠くなる程の永きを生きた大老の、壮絶なる最期であった。

 

 

 

ゼロは進退(きわ)まっていた。

 

何とか抱え込み捕まえたものの、吐息(ブレス)や巨人らの支援は間に合わず……二本目が狙いを定める。

 

 

「くっ……」

 

 

ゼロ!!

 

エドストレームの三日月刀(シミター)も削りきるには時間が足りない。

 

……が、その時

 

 

旦那ぁ!!

 

 

ゼロを狙う触手から、何か小瓶が割れる音。

 

すると触手は苦しむが如くのたうち回り、狙いを外して地面に突き刺さると、そのまま徐々に(ただ)れ、(しお)れていった。

 

 

声が聞こえた方向には、

 

「……ザック!?」

 

草やら小枝やら泥やらに塗れ、擦り傷だらけになったザックが、パンパンに膨れた背嚢を背負い、息を切らして立っていた。

 

 

どうでぇ化け物、バレアレ印『枯草剤』の味はよぅ!!

 

 

ザイトルクワエには当然『毒耐性』はある。

 

しかし、それは『ユグドラシルにおける毒』に対しての能力であり、ザックが持ち帰った枯草剤は『ユグドラシルに存在しない植物特効の毒』であった。

 

故に、その耐性を貫通した。

 

言ってみればイビルアイの蟲殺し(ヴァーミンベイン)のようなものである。

 

 

それ自体は廃液や試薬を混ぜてリイジーにより作られた急造品であり、技術的には帝国魔法省の方が恐ろしい物を作れるだろう。

 

だが無意識に『森の奥で毒をばら撒く』という発想を忌避したリおんが提案するわけもなく……

 

しかしザックにはリアル世界で猛威を振るった『ベトナム枯葉剤』や『新型農薬』の先入観などない。

 

 

捕まえている方の触手にも小瓶が投げ付けられ、窮地を脱したゼロ。

 

「ザック……お前ってヤツは……」

 

 

へへっ。旦那、あっしは荷物持ちですぜ? 買い出しくらいできなきゃ格好が付きませんぜ

 

 

言葉にならず『感謝は戦いの後だ』と飲み込んだゼロ。

 

頭上に叫ぶ。

 

ネイア・バラハ! 魔樹に効く毒が届いた!!

 

 

その声に反応、すぐさま状況を判断、反転。

 

自身を追いかけていた触手とすれ違い、降下、ザック目掛けて低空飛行。

 

 

受け取れぇぇぇっ!!!

 

力一杯に背嚢を放り投げるザック。

 

 

狙い(たが)わずキャッチしたヘジンマールは飛び去った。

 

 

皆さん!、毒を配ります!!

 

上空から声を張り上げる。

 

 

 

疲弊(ひへい)していた戦場が、息を吹き返した。

 

 

 

エドストレーム、叩き割れ! 纏わりつく液体(リキッド・クリングス)!!

 

デイバーノックが三日月刀(シミター)に魔法をかける。

 

 

エドストレームが空中に放り投げた小瓶に三日月刀(シミター)を踊らせると、無重力空間が如く刀身をドス黒い薬液が覆い尽くした。

 

 

これは八本指在籍時代のオリジナル呪文だ。

 

毒殺に、または手元の飲み物などで窒息死させるために……どちらにせよ犯罪臭しかしない魔法。

 

 

「ヘッケラン・ターマイト、お前もだ!」

 

双剣にも魔法をかけてやる。

 

「こいつぁ良い! ありがとよ!」

 

 

それを上空から見て『やはり攻撃ばかりが魔法ではない』『まぁまぁ味のあるオリジナル呪文だ』と頷いていたフールーダは、視界の横で信じられない光景を目にした。

 

 

「なるほど」と呟いたニニャ。

 

ペテル! 纏わりつく液体(リキッド・クリングス)!!

 

その場で呪文をコピーしてみせた。

 

 

「なんじゃとー!?」

 

「な、なんと……」

 

フールーダも、コピー元のデイバーノックも度肝を抜かれる。

 

 

異能(タレント)の為せる技だ。

 

魔法適性──倍の速度で魔法を習得可能。

 

つまり、ニニャの実力に応じて習得時間を短縮するのだ。

 

今の彼女ならば第二位階など『秒』である。

 

 

「ニニャ殿ー! 戦いの後には是非わしの弟子にー!!」

 

 

「ごめんなさーい! もう師匠はいるんですー!」

 

 

「なんと、その御仁を紹介してくだされー!!」

 

 

上空と地上、お互い叫んで受け答え。

 

……戦闘中なのだが。

 

 

 

アルシェは今回の戦い、持久戦との事で温存のため大技を封じられ、忸怩(じくじ)たる思いであった。

 

その状況が変わった。

 

──散開

 

今や6体もの人形を同時操作するアルシェ。

 

……片手にナイフをぶら下げ、枯草剤を振り掛けられたそれは驚々(おどろおどろ)しく、呪いの人形じみているが。

 

 

小さく、生命反応もない人形は『攻撃さえ有効なら』触手への相性は良い。

 

非力だから今までは使えなかったが、毒があれば話は別だ。

 

 

 

毒という武器を手に入れ、最も気力を取り戻したのは『弓士』達であろう。

 

 

イミーナも、ルクルットも矢筒の底に毒液を注ぎ込み、一矢でも多く打ち込もうと奮戦する。

 

 

また……

 

 

「チクチク刺すだけでいいのはお得」

 

闇渡りしながらティナが毒塗れの針を打ち込んでいく。

 

毒を使う攻撃なら忍者の十八番(おはこ)だ。

 

 

「お得お得。90%OFFセール」

 

ティアもメンバーの援護がてら針を投げる。

 

 

「それはほぼタダ」

 

「これはしたり」

 

 

 

そして、もう一人。

 

 

派手な技は一切使わないが堅実かつ無駄のない挙動で(かわ)し、受け流し、すれ違い様に一閃……ペテルによって毒を受けた触手に、ドルイド、ダイン・ウッドワンダーは

 

活性化(アクティベーション)!!

 

 

これは本来、動植物の体を活性化させる、弱い生命力持続回復(リジェネート)のような使い方をする魔法。

 

しかし、毒に侵されているとあらば……

 

 

魔樹よ、吾輩の魔力を持っていくが良いのである。それが自らの死期を早めるとも理解できずに!!!

 

 

毒に侵され爛れた部位が、あっという間に拡大。

 

立ち所に腐れ落ちる。

 

 

それを見たゴブリンやボガードのドルイド達が真似をしだす。

 

この呪文は第一位階。

 

ドルイドなら誰でも使える初歩的な魔法に過ぎない。

 

 

今までの苦戦が嘘のように、形勢が逆転した。

 

そして、魔樹が苦しみだす(・・・・・)

 

触手から本体にダメージが入る唯一の例外、それが毒攻撃である。

 

ザイトルクワエが『この世界』に来て本物の生物(・・・・・)となった事による齟齬(そご)であった。

 

 

これなら……これなら勝てる!!!

 

 

バーサクモードまで、あと少し。

 

リおんが、全員が希望を見出した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……だがなぁ、リおん・がぶりール。

 

 

 

 

 

そういうわけには、いかんのだ。

 

 

 

 

 

 

破裂(エクスプロード)

 





(つい)に牙を()いたアルス・マグナス。

彼の目的とは、そしてリおん・がぶりールの運命や如何(いか)に!?
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