【完結】おおかみ☆せんせーしょん(ハーメルン移植版)   作:ブドウ冷やしんす

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ブレイブ・ミィス〈世界で最も新しい神話〉─後編─

 

sideモモンガ

 

 

 

「……これは……どういう事なのだ

 

 

 

目の前の状況が理解できず、つい(つぶや)いてしまった。

 

 

アルベドが反応する。

 

「! 申し訳ございませんモモンガ様! 客席数や警戒網の都合上、どうしても全てのシモベ(・・・・・・)を集める事ができませんでした!」

 

 

「ぁ……いや違うのだアルベド。頭を上げよ。私が言いたかったのは……ぁー……そう! よくぞここまで集めてくれたものだと思ってな。調整が難しかったろう」

 

 

貴賓席から見渡す限り、円形劇場(アンフィテアトルム)一杯のシモベ、シモベ、シモベ……

 

 

『みんな』でなく『守護者らで』観戦しようと言うべきだった……

 

なんですぐ規模をデカく考えるんだ……

 

自分としては主要メンバーでキャッキャしながら小ぢんまりと観戦できれば良かったのになぁ。

 

 

「ただ、まぁ…… (全シモベで企画したなら)仲間外れになる者が出るのは(あわ)れかと思ってな」

 

 

「モモンガ様……なんとお優しい! ご安心下さいませ。来る事ができなかった者も水晶の画面(クリスタル・モニター)で観戦できるよう配慮しております」

 

 

……パブリックビューイングですか……

 

ワールドカップかよ……

 

 

、うむ。良くやったアルベド。ところで……守護者らは(そろ)っていないようだが」

 

 

ここにはアルベド、デミウルゴス、アウラ、マーレ、プレアデスの面々……

 

いないのはセバス、コキュートス、シャルティア……防衛ラインの引き継ぎとかだろうか……

 

 

と、思っていたら

 

「遅れて申し訳ございません」

 

「失礼(イタ)シマスル」

 

「ただいま戻りんした」

 

良かった、間に合ったようだ。

 

 

「うむ、これで揃ったな」

 

ガルガンチュアはゴーレムだし、呼ぶ必要はない。

 

 

え? 恐怖公?

 

……まぁ、彼は仕方ないだろう。女性陣が泣く。

 

 

まず自分が座り、皆が続く。

 

メイド達が飲み物など給仕を始める。

 

 

我々『主賓(しゅひん)』の準備を待っていたのだろう、ドラムロールが鳴り出した。

 

……ん、そう言えばアウラがここにいるなら、司会は誰

 

 

ンンンMeine Damen und Herren(紳士、淑女の皆さん)

 

長らぁく!

 

お待たせ致しましっっっ

 

たぁぁぁ!!

 

 

こいつだったぁぁぁぁぁ!!

 

 

目の前で色んなポージングをしながら「世界中の皆っさぁんっ!」などと無駄に規模のデカい自己紹介をするパンドラズ・アクターに、精神沈静化の連続発光(ドキドキ)が止まらない。

恋かな(ブチギレ)

 

あと

 

我が!

 

偉大なる創! 造! 主!

 

死の神の御慈(ごじ)()によりッ、

 

kkkkこのような機会

 

って何だよ……ナザリック内でまで神扱い定着させようってのか……

 

ただでさえ忠誠心(ちゅうせいしん)天元突破(てんげんとっぱ)な連中に(かこ)まれててお腹いっぱいだよ……勘弁(かんべん)して下さい……

 

おかげで全然話が入ってこない。

 

 

それでは!

 

んんんんご覧!!

 

下っっさぁい!!!

 

 

あ、もう何か始まる感じになってた。

 

 

中央に巨大な水晶の画面(クリスタル・モニター)が展開され枯れ木の森が映し出される。

 

恐怖公の眷属(けんぞく)やらも利用しているのか、(おそ)らく、ありとあらゆる角度から撮影できるのだろう、無駄(むだ)にカメラアングルが()っていた。

 

 

魔樹の威容(いよう)、居並ぶ英雄達……

 

 

……俯瞰(ふかん)()でるようなカメラワークは、眷属(G)が飛んでるのかな……考えないようにしよう。

 

 

そして足元からのパーンアップでリおんが映された瞬間、熱狂する客席。

 

そうだよ、アイドルなんだから少しくらい視線を受け持ってくれよ、くくく……

 

 

まぁ、始まってしまえば見応(みごた)えがあって面白かった。

 

 

(なるほどなるほど、リおんのバフあれば触手くらいは相手にできるんだな、中々接戦で面白い)

 

(おー、チームワークの勝利。若手パーティーの奮闘(ふんとう)()てる感じ)

 

(地下戦力かぁ。最初期の頃は結構いたけど、上位暗殺職が一般的になったら潜れるやつ減ったんだよな。地下攻撃メリットのある敵なんてあんまりいないし、暗殺職みたいな一撃必殺ないし。なつかし)

 

 

アウラ、マーレやシャルティアなど、あと一般シモベはリおんが歌を変えたり()りを炸裂(さくれつ)させる(たび)に大喜び。

 

セバスやユリは(おとり)役、タンク役の献身的(けんしんてき)な活躍に微笑(ほほえ)みを浮かべ(うなず)いたりして感動してるっぽい。

 

コキュートスはブレインとかガゼフ、だったかな……とかの剣士に注目している。

 

アルベドとデミウルゴスは……なんか真剣にメモとってる。うん、わからん。

 

ナーベラルとソリュシャンは有象無象(うぞうむぞう)に興味ない分、メイドに(てっ)する方に重点を置いてるのか静かな様子で、それでもリおんが一撃入れると嬉しそうに表情を(ゆる)める。

 

変わった反応としてはシズだろうか。

 

目付きの悪いドラゴンライダーを観て「……味がある」とか呟いてる。タイプは違えど同じ射撃系だからだろうか。ツボがわからん。

 

 

……ルプスレギナ、よだれ()きなさい。

 

 

(いやぁ、結構面白いな。それに案外(あんがい)イケるんじゃないか? 最後にスクロールでラッシュかけるんだろうけど、何本も使う必要ないかも……ん? 何だアイツ)

 

 

画面の(はし)に、こちらに背を向けて少しだけ映る黒いローブ姿。

 

周りが(いそが)しく動き回っているのに、何をするでもなく突っ立ってる。

 

 

気になってしまえば景色としては浮いているのに、何故かシモベ達は気付いていない。

 

 

(何なんだアイツ。待機してる作戦要員か?……って、え? こっちを見た?!)

 

 

フードから(のぞ)く黒い肌……目元は隠れて見えないが、恐らく見られている。

 

ニグレドを(かい)した監視だ。

 

気付けるなんて『現地レベル』ではあり得ない。

 

警戒心が()ね上がった。

 

 

……が、

 

(ん? 人差し指を口元に……『シーッ』……はっ! まさか!?)

 

 

雷に打たれたような衝撃が走る。

 

あの仕草で思い出したんだ。

 

 

あれは忘れもしない、通称『クソミミックダンジョン』での出来事……

 

 

そのダンジョン、内容自体は平凡(へいぼん)なものだった。

 

各階層にある宝箱から鍵を見つけなければ先に進めない、というもの。

 

 

ただし、その宝箱の数がやたら多く、しかも、その6割以上がミミックで、当たり宝箱以外はゴミアイテム。

 

その上、各階層は自動ランダム生成で構造も配置も変わる。

 

 

おまけにミミックが特別製で、(みょう)に強い……いや、正確に言えば強いわけではない。

 

HPが微妙に多く、防御力が高めで、開幕ブッパで多種多様なステータス異常をばら()く以外は。

 

 

ミミック以外にもモンスターは出るし、そもそも最終階層のボスが目当てなのだから、できる限り温存したい。

 

たとえクソダンジョンだろうと、そのボスしか出さないデータクリスタルがあるとなれば行くしかない。

 

 

なので、可能な限り念入りにミミックを()け、最終階層の手前まで来たのだが……

 

 

「当たりっぽいの、これで最後だったのに何でハズレだよ!」

「数から見ても、他は多分ミミックですよね」

 

 

見落としたか、とか、バグ? とか色々と話し合い、もしかして最後だけミミックが持ってるんじゃ、という説が出て、手近にある『たぶんミミック』の宝箱を前にして開けるか開けないかで皆がウンウン(うな)ってた時……

 

 

(……え、アルスさん? 何やってるんですか?)

 

皆と一緒に唸ってるたっちさんの背後からソロリソロリと近付くアルスさん。

 

 

こちらを振り返り『シーッ』と人差し指を口元に……

 

(???)

 

 

たっちさんの背中を思いっきり蹴りつけた。

 

 

(何やってんだアンタぁぁぁ!?)

 

 

ぅおあぁぁぁわーるどぶれいくぅぅぅ!!!

 

 

思わずという感じで斬り付けるたっちさん。

 

ブッパする間もなく倒されるミミック。

 

……鍵が出た。

 

 

「……アルスさん、ちょっとお話が……って、あれ、アルスさんは」

 

「あ、たっちさん、アルスさんなら『すみません門限なんで落ちます』って」

 

アンタ社会人だろう何が門限だぁぁ!!!

 

 

と、珍しくウルベルトさん以外に声を(あら)げるレアなたっちさんという場面はあったものの、最小限の消耗(しょうもう)で何とか最終階層に辿(たど)り着いた……そんな事があったのだ。

 

 

(思い出したぞ! あの姿はアルスさんの人間形態じゃないか!! アンタそんなとこで何を)

 

「アr」思わず立ち上がろうとした時、

 

 

魔樹の一角が()ぜた。

 

 

ざわめく現場。

 

(ひげ)のお爺さん……フールーダ、だっけか……が「なんじゃ今のは!?」とか、確かニニャという名の魔法詠唱者(マジックキャスター)が「まさか……先生?」と呟き呆然(ぼうぜん)と……先生って?

 

 

いやそれより!

 

 

見た所、最強化(マキシマイズ)も何もない単なる破裂(エクスプロード)

 

つまり『ギリギリ、バーサクモードを発動させる程度』のダメージでしかなく……

 

 

『種』の砲弾が雨霰(あめあられ)、これまでとは比べ物にならない数の触手が彼らを襲う。

 

()(はら)われる英雄達。

 

 

(あーあ、これじゃ無理だリおん。かっこいい勝利もへったくれもない。さっさとスクロー………………

 

 

お前はお前で何やってるんだよぉぉぉ!? 職業(クラス)レベルに全振りしてんだから装備キャンセルされる大狼形態なんてカスだろうがぁぁぁ!!!)

 

 

客席も騒然(そうぜん)だが、(かろ)うじて現場の音声が聞こえ

 

〈リオン君! 私に構わずスクロールを〉

 

〈……もう無理だよアルシェ、スクロール一本だけじゃ立て直しようがない〉

 

 

…………………………は ? 一本?

 

 

ふと、最終日のやり取りを思い出した。

 

 

「てか、まだ時間あるだろ! 最後くらい頑張れよオイ! 玉座の間でビシッと(かざ)るって決めてたろうが!」

 

 

〈無理ぃぃぃぃぃ! この人! なかなか! 振り切れない!!〉

 

 

……そう言えば、あの時、通信の背後で、ドンパチバリバリ魔法のエフェクト音が聞こえてたような……

 

 

「……お前達!!

 

 

俺は立ち上がり威厳(いげん)たっぷりに宣言(せんげん)した。

 

 

待たせたな……(つい)に出番だ! 守護者達よ、我に続け!!

 

 

……お前達の支配者モモンガ様は最初から全てお見通しだったんだ! いやマジで! 気付いてなかったとかないから!! 信じて!!!

 

 

┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄

 

 

《枯れ木の森・外縁部 地下》

 

 

息を切らして坑道の壁に寄りかかるクアゴア達。

 

 

ぺ・リユロが部下に問う。

 

「……何匹、生き残った」

 

 

「我ら5匹のみです」

 

 

部下の返答に落胆を隠せないリユロ。

 

「……そうか……この数では大した事もできん。来た道も(くず)れてしまったか……」

 

 

壁に沿()ってズルズルと腰を落し、闇が広がる天井を見上げて呟いた。

 

 

「……地上は、どうなっているのだ……」

 

 

┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄

 

 

「……動けるか?」

 

イビルアイがメンバーに確認する。

 

 

ラキュースとティナは意識が戻っていない。

 

 

「何とか、ってとこだが……」

 

ポーション一瓶(ひとびん)()()したガガーランが応える。

 

「この足じゃ戦闘は無理かねぇ。とはいえ、助かったぜティア」

 

 

「ん。おかげでこっちも左腕がダメ」

 

 

二人それぞれ二本目のポーションを足に、左腕にかけて瓶を捨てる。

 

歌が()んでバフが一つ、二つと消え始め、回復率は低い。

 

 

バーサクモードによる触手の大量発生には範囲があるのか、蒼の薔薇は今、更地(さらち)の外、枯れ木の森の(しげ)みに身を(かく)していた。

 

 

「……お前らはラキュース達を(かつ)いで逃げろ」

 

 

イビルアイが避難を指示するとガガーランが(たず)ねる。

 

「オメーはどうすんだい」

 

 

目眩(めくら)ましか時間稼ぎくらいならできるさ」

 

 

無謀(むぼう)にも思える返答にティアは、

 

「……刺し違える?」

 

 

「バカ言え。私が捨て身になったとて倒せる相手ではない」

 

まともにやり合う気はないとイビルアイは答えた。

 

 

(……とはいえ、ヤツの気配を感じた以上、逃げるわけにも)

 

先程(さきほど)の爆発に疑念(ぎねん)(いだ)くイビルアイ。

 

 

「(同じナザリックの “ぷれいやー” なら邪魔などしないと思っていたのに……お前は一体何を考えてる、アルス……まさか本当に世界を……)……ん? アレは」

 

 

┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄

 

 

氷結爆散(アイシー・バースト) (くだ)けゼンベぇぇル!!

 

 

終われるかよ! 終わらせられるかよぉ!! オラァァ!!!

 

 

ロロロが(から)み付き動きを(ふう)じた触手に(なぐ)りかかるゼンベル。

 

 

各所で英雄達は絶望的な抵抗を続けていた。

 

敵は多く、バフの効果は切れ始めていた。

 

 

撤退戦(てったいせん)だ! ヴィジャー様を後送しろ!」

 

「やめろ! 俺はまだ戦える! 放せ!!」

 

 

ヘクトワイゼスは負傷したヴィジャーを避難させるべく部下に命じた。

 

ヴィジャー直属の部下も言葉にはしないものの賛成らしく、何も言わず手近の触手を(たた)いている。

 

 

だがヴィジャーにしてみれば将たる自分が下がっては部隊が後背を突かれ()ねないと思い、最後まで残るのは自分だと考えていた。

 

現に、新たに自分達を目指して伸びて来る触手が見える。

 

 

「……ヴィジャー様、ご立派になられた。たとえ苦難(くなん)の時代を(むか)えようとも、あなた様が()られれば獣身四足獣(ゾーオスティア)のみならず半人半獣(オルトロウス)安泰(あんたい)でありましょう」

 

 

「……な、何を言って」

 

 

感慨深(かんがいぶか)げに語りかけるヘクトワイゼスに戸惑(とまど)うヴィジャー。

 

 

「良き方と戦えて、このヘクトワイゼス、幸せでございました」

 

 

「!? 待て! 止めよ!!」

 

真意に気付き止めるも、

 

 

ヴィジャー様、おさらばでございます!!

 

ヘクトワイゼスは晴れ渡った青空のような溌剌(はつらつ)とした笑顔で別れを告げた。

 

 

能力向上! 必中、吶喊(とっかん)!!!

 

 

戻れヘクトワイゼス! ヘクトワイゼェェェス!!!

 

 

雨の(ごと)()(しき)る砲弾の中、勇ましく突撃するヘクトワイゼス。

 

一歩進む(ごと)、見事な彫刻入りの鎧が傷付き、砕け散る。

 

隊に向かおうと進む触手の先端を槍先に(とら)えると、すれ違い様に突き、唐竹を割るように切り裂いた。

 

 

そのまま着弾による土煙の中へと消えて行く彼の雄姿を、担ぎ出されるヴィジャーは見ている事しかできなかった。

 

 

……後年、この時の事をヴィジャーは配下らに良く語った。

 

「我ら獣身四足獣(ゾーオスティア)は強い。だがそれは半人半獣(オルトロウス)が劣る事を意味しない。俺はヘクトワイゼスを知っている」と。

 

 

ヴィジャーは、ヘクトワイゼスが期待したような立派な族長となり、蛇王(ナーガラージャ)ロケシュと共に『アベリオン丘陵二大名将』として並び称される存在となって行く。

 

 

『神の加護が消えて(なお)、単身で触手を打倒した数少ない武人の一人』として名を連ね、ヘクトワイゼス・ア・ラーガラーはこの世を去った。

 

彼を含む戦没者の健闘を讃える石碑が枯れ木の森の跡地、後のフィオーラ双王国『大戦争記念公園』に設置されてからは、種族を問わず献花に訪れる者が後を絶えない。

 

 

 

 

一度、安全圏の上空に退避したネイアとヘジンマールは、眼下の状況に言葉を()わす。

 

 

「……もう無理だよネイア。逃げよう?」

 

 

『種』の砲弾の炸裂音が続いている。

 

 

「……わかってる。でもまだ戦ってる人達がいる。団長も、まだ……だからごめん、ヘジンマール。

 

行こう

 

 

ネイアの中に『逃げる』という選択肢はなかった。

 

 

「…………あーあ、ホントはメチャクチャ怖いんだけど、ネイアが言うんじゃ仕方ないな」

 

不承(ふしょう)不承(ぶしょう)、だが、どこか(ほこ)らしげに愚痴(ぐち)るヘジンマール。

 

 

「……ありがと

 

ネイアは万感の思いを込めて礼を言った。

 

 

「ハァ……帰ったら牛一頭丸ごとだよ? 年寄りじゃないやつ……それじゃ、

花火の中に突っ込むよ! 相棒!!

 

 

 

 

「……まだ生きてっか? お前ら」

 

バジウッドが確認すると、他三人は疲労困憊(こんぱい)といった様子で「何とか」と応じる。

 

 

バジウッドがリおんを目で探すと、

 

「……あーあ、そうなるんじゃないかと思ってたぜ」

 

遠くで、アルシェを(かば)って防戦一方の姿。

 

 

周りでは守護鬼(スプリガン)達が『神を護らん』と巨大化して暴れてはいるが、逆に叩き殺されるなどして徐々に数を減らしていた。

 

 

フレーバーテキストが完全に『裏目に出た』リおんは決断する事ができない。

 

 

レイナースが槍を構える。

 

 

それを見る、までもなく

 

「……しゃあねぇ。行くとしますかねぇ」

 

 

「ここで動かなければ陛下に処断されてしまいますからね」

 

 

「おぉ、怖えぇ」

 

 

バジウッドとニンブルが軽口を交わす。

 

 

来るぞ

 

ナザミが警告を発する。

 

 

視線の先には砲弾3発。

 

(かわ)しきれるかは危うい。

 

触手も来る。

 

 

こうなりゃ出し惜しみは無しだ! ナザミ、アレ(・・)ぶちかませ!! 援護するから突破しろレイナース!!!

 

 

盾を構え前に出るナザミ。

 

砲弾を(にら)み付け、

 

 

戦気梱封! 獅子戦吼!!

 

 

獣の咆哮を彷彿(ほうふつ)とさせる衝撃波が盾から放たれ、初弾を爆砕、後続の『種』が誘爆した。

 

 

精神力を使い()たし、(ひざ)を突くナザミ。

 

 

ニンブル!!

 

 

指示を聞くまでもなく『委細承知』と触手へ駆け出すニンブル。

 

 

能力向上! 飛燕連脚!!

 

 

相手の刺突を迎撃するが如く空中に飛び上がり、回し蹴り三連撃、落下分も乗せた突きを繰り出し触手の先端を地面に()い留める。

 

 

バジウッドぉぉぉ!!

 

 

応よ! 戦気梱封、空斬! 即応反射!!

 

(すで)に走り出していたバジウッドは、触手、ではなく、その下、地面スレスレを狙い斬撃を飛ばす。

 

すると、飛ばした斬撃の周りには(ちり)が集まり、剣は火花を散らし始める。

 

 

技の硬直を即応反射でキャンセルし、剣を振り上げ、跳躍。

 

 

食らえやぁ! 襲爪、雷斬!!

 

 

落雷とは『巨大な静電気』だ。

 

そのメカニズムを応用した大技である。

 

 

四騎士の男連中は揃ってリおんが語る物語(ファンタジア)に感化されていた。

 

 

雷を(まと)った斬撃に触手はスタン、炎上のスリップダメージを受ける。

 

 

突っ切れぇぇぇ!!!

 

 

着地後、そのまま崩れ落ちるバジウッドの視線の先、レイナースが槍突撃(ランスチャージ)で駆け抜ける。

 

狙いはリおんを叩く触手への一撃。

 

後の事など考えない捨て身の攻撃でも、打開できれば御の字と。

 

 

しかし、辿り着く前に二本目が生えて来た。

 

 

汝、天空を見上げるべからず。

 

すれば恐怖の果てに死に(いた)るより他なし。

 

()よ、白刃(はくじん)の切っ先が眼前に迫りて……

 

 

 

 

 

……(けもの)(おど)る。

 

 

┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄

 

 

sideリおん

 

 

何が何だか分からない。

 

いきなり魔樹の一部が爆発してバーサクモードが発動。

 

……もう少しだったのに!!

 

 

(さいわ)い、バフの効果もあって即死はいなかった。

けど……

 

 

皆を戦列に戻すには回復に重点を置いた歌を……

 

でもそれをすれば後のラストスパートに必要なバフが、魔力が……

 

だからって自分一人じゃ……それに魔樹の回復は、もう始まってる。

 

 

そして、悩んでる時間さえなかった……

 

 

逃げ遅れたアルシェが砲撃で飛ばされた岩に足を(はさ)まれてる。

 

魔力も余裕(よゆう)はなさそうだ。

 

フォーサイトの他三人やサエルアンナ達も遠かったり倒れていたり……

 

周りに触手も伸びて来てる。

 

 

……今、自分がする行動で、後の全てが決まる。

 

蘇生アイテムならある。

 

アルシェを放置して回復の歌を使えば、皆を逃がすくらいは……

 

 

 

 

………………できるわけないだろ!! 見殺しなんて!!!

 

 

 

 

気が付けば大狼形態でアルシェの盾になっていた。

 

 

「リオン君! 私に構わずスクロールを」

 

 

「……もう無理だよアルシェ、スクロール一本だけじゃ立て直しようがない」

 

 

叩き付けて来る触手に応戦……と言ってもタイミングが合えば()()く程度。

 

 

……クッソ、80レベルのクセに一撃が重い。

 

紙装甲の後衛だからなぁ、僕は……

 

 

アイテムボックスに鼻先を突っ込んでスクロールを取り出し、自分の下にいるアルシェに放る。

 

「使って。転移(テレポーテーション)のスクロールだ。これなら」

 

 

「そんな事! リオン君はどうするの?!」

 

 

「僕は大丈夫さ! あんなヤツ、パパッと片付けて追いかけるよ。先に帰ってて?」

 

 

いや、無理だ。

 

もうすぐ『黄色ゲージ』になりそう。

 

体中めっちゃ痛い。

 

移動しなかったからか、相手も二本目を伸ばして来た。

 

 

自分の回復ならポーションはある、けど、今からバフかけて万雷の撃滅(コール・グレーター・サンダー)使って……相手の回復は邪魔できないから千日手(せんにちて)、倒しきる前に魔力が尽きる。

 

 

……刺し違えるなら休眠状態まで持って行けるかな……

 

 

なんて、顔に出したつもりはないんだけどバレたらしい。

 

「……無理だよ……そんな事できないよ!!

 

 

「アルシェ……」

 

 

 

ぅおおおらぁぁぁ!!!

 

アルシェを説得しきれずにいた僕が、タコ殴りされないよう加勢してくれるガゼフさん。

 

 

「ガゼフさんも逃げて下さい。もう無理です」

 

 

「無理は承知の上! なればこそ、リオン殿には生き延びてもらう!」

 

 

何故かガゼフさんの篭手(こて)の片方、中から光が(こぼ)れる。

 

 

俺は王国戦士長! この国を愛し、守護する者!! 王国を(けが)す化け物に、負けるわけにいくかぁぁぁ!!!

 

いくつも武技を発動して立ち向かうガゼフさん。

 

それじゃ精神力を使い果たしてしまう。

 

 

あぁ、この人、まさか死ぬ気で……

 

 

「……人々を、お頼み申す……

 

閃光、烈斬!!!

 

 

僕の動体視力で、ものすごい連撃を繰り出しているのが見えるそれは、普通の人には切っ先の乱反射で『剣から光を叩き付けてる』みたいに見えるだろう。

 

 

あっという間に触手を斬り飛ばしたガゼフさん。

 

けど、そんな技を使ったら限界が来るのは当然で……

 

 

迫る二本目

 

遅く、なったなぁ!!

 

ブレインさんが蹴り飛ばした。

 

 

「ブレインさん! にげ」

 

 

「悪いなリオン。オメーだけは逃がせって陛下から言われてんだ。それによ……」

 

 

……ブレインさんまで、後を考えない武技の同時発動を……

 

 

ガゼフ、テメェにそんなもん見せられちゃ、(だま)ってられねぇんだよ!!

 

 

ブレインさんの姿が一瞬ブレた気がした。

 

驚く事に、僕でも何をしたか見えなかった。

 

 

振り抜いたまま崩れ落ち、

 

……秘剣……燕返し……へへ、どうだぃ、ガゼ、フ……

 

同時に、綺麗に断ち切られた触手が地に落ちた。

 

 

……でも、折角稼いでくれた時間も無駄だったらしい。

 

こっちに砲弾が3発。直撃コースだ。

 

 

アルシェを無理矢理引っ張り出して跳ぶ……に、しても間に合わない距離だった。

 

 

……自分だけなら、まだ……いやだよ…………

 

 

(たか)(くく)っていたわけでも(おご)ってたわけでもない。

 

 

けど、思い知る事になった。

 

 

何がカンストプレイヤーだよ。

 

 

何かを選ぶ事ができないだけで、こんなにも僕は弱っちい存在になってしまうなんて……

 

 

 

諦めるしかないのかと、景色が(にじ)む。

 

ボヤケた景色の中に、黒い人影。

 

 

 

砲弾を弾き返した。

 

 

 

……え?

 

「……お待たせして申し訳ございません。我が仲人(なこうど)様」

 

 

「……アルベド!?」

 

 

┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄

 

 

それに最初に気が付いたのは誰であろうか。

 

魔樹を見上げた先、中空にポツンと黒点が浮かぶ。

 

 

勇者達よ、その魂の輝き、(しか)と見届けた。後は我らが引き継ごう。そして滅びの魔樹よ、我が友が世話になった(・・・・・・)ようだな

 

 

闇、いや、黒き極光を放ち、豪奢(ごうしゃ)なローブを(なび)かせ、それは朗々(ろうろう)と語りかける。

 

 

ならば、礼をしなくては…………

 

 

 

……我が忠実なる守護者達よ!!

 

 

ナザリックが威を示せ!!!

 

 

 

その場にいる全ての者が、その一言で『誰が降臨したのか』を(さと)った。

 

 

我コソハ、コキュートス。

 

一番槍(ツカマツ)ル!!

 

 

周りを凍て付かせるような覇気を纏った蟲の武人が名乗りを挙げる。

 

 

不動明王撃(アチャラナータ)、倶利伽羅剣!!!

 

 

ザイトルクワエは片側が一刀の元にザックリ()ぎ落とされ、まとめて枝を三本失った。

 

 

武人の背後に恐るべき何かが(あらわ)れ斬ったのか、はたまたそのように幻視したかは現地の者では判別できなかったが、空をも割ったように感じる一撃に(戦士達は特に)言葉をなくし、畏怖(いふ)に震えた。

 

 

だが、周囲に(さと)らせぬまま既に暴れ回っている者達もいた。

 

 

リおん様にケガさせるとか信じらんない! あんなヤツに回復なんてさせんな!!

 

全部引き千切(ちぎ)れ!!!

 

 

神話や伝説にしか見ないような大魔獣が触手を殲滅(せんめつ)せんと千切っては投げ、千切っては投げ……

 

 

たまたま助けられたレイナース、恐ろしさの余りヘタり込んでいた。

 

 

アンタもブチかましなさいマーレ!!

 

 

「……うん、そうだよねお姉ちゃん。悪い雑草は根から殺さなきゃ

 

 

……普段の(ども)り口調も、目のハイライトも完全に消えている。こわい。

 

 

地割れ(クラック・イン・ザ・グラウンド)

 

 

大地が地響きと共に割れると、魔樹は根を引き千切られながら下半分まで落下。

 

 

えいっ

 

 

掲げていた杖を振り下ろすと、今度は逆に亀裂(きれつ)が閉じ始める。

 

メキメキと容赦(ようしゃ)なく押し潰され、枝など滅茶苦茶に振り回し悶絶(もんぜつ)する魔樹。

 

 

それでも『この世界』に来て『本物の生物』になったためか、ダメにされた下半分を(おぎな)うかの如く、地面に接している部分から根を生やすという生き汚さを見せるザイトルクワエ。

 

 

しかし、

 

 

おやおや、我らが主より直々(じきじき)に死を(たまわ)るというのに、往生際(おうじょうぎわ)の悪い

 

 

蝙蝠(こうもり)の翼でバサバサと、空から見下ろす(かえる)頭の悪魔が嘲笑(あざわら)う。

 

 

……その苦痛を甘受なさい

 

 

それこそ蛙のように胸を膨らませると、(おぞま)しき冒涜的(ぼうとくてき)な極彩色の炎を吹き付け魔樹を焼く。

 

 

焼け(ただ)れ、枝を一本失うと共に根を伸ばす事さえできなくなった。

 

硫黄の(にお)いが立ち込め、さながら地獄のような惨状であった。

 

 

「さて、君の番かな? くれぐれも足を引っ張らないでくれ(たま)えよ?」

 

場違いとしか見えない老執事の横に降り立った悪魔が嫌味を言うと、

 

「私はナザリックの家令(ハウス・スチュワード)。主のために()を整えるのが仕事でございます。あなた様に言われるまでもございません

 

と言い返す。

 

 

「では失礼して…… ……とぅ!

 

 

跳躍して空中で一回転。

 

着地した姿は、分厚い胸板を(さら)す屈強な竜人に変わっていた。

 

白いネクタイは真紅のマフラーに変わり、ベルトのバックルが赤く輝く。

 

 

ふっ!

 

と、常人の目では捉えられぬ加速力で疾風と化す。

 

 

魔樹の目前まで到達すると、

 

はぁぁぁっ!!

 

まるで砲弾のように地面から飛び立つと、枝を拳で狙い撃ち、貫通。

 

一撃で()し折った。

 

 

そのまま上空へ飛んで行き、(ひね)りを加えると

 

セバァァァス、キィィィック!!!

 

流星を彷彿とさせる蹴りを叩き込み、最後の枝も圧し折った。

 

もはや魔樹は『単なる丸太』のような姿である。

 

 

……やっと(わらわ)の出番でありんすか。待ちくたびれたでありんすぇ

 

 

絶対者の風格でザイトルクワエを睥睨(へいげい)する深紅の戦乙女。

 

 

さて、リおん様と言えば、我が愛しの君の『白磁の(かんばせ)』と甲乙を付ける事さえ不敬な美の結晶。それに傷を付けるなど……

 

覚悟できてんだろうな駄木がよぉ!!

 

 

表情は怒りに染まり、優雅さをかなぐり捨てて豹変(ひょうへん)

 

 

朱の新星(ヴァーミリオン・ノヴァ)!!!

 

 

離れて見ていた者達すら熱さを感じる灼熱が魔樹を(あぶ)る。

 

生命の危機に断末魔を上げるザイトルクワエ。

 

 

そこまでを見守っていた『死の神』が拍手を贈る。

 

素晴らしいぞ、我がシモベ達。

 

では魔樹よ、私からもプレゼントを贈ろう。

 

 

……鏖殺(おうさつ)だ。全てを吸い尽くしても()きたらぬ貴様には、死の安寧(あんねい)こそ相応(ふさわ)しかろう!

 

 

魔法三重最強化(トリプレットマキシマイズマジック)現断(リアリティ・スラッシュ)!!!

 

 

文字通り世界を切り裂く大魔法で、試し切りの巻藁(まきわら)か何かのように斬り刻まれたザイトルクワエは、遂に絶命した。

 

 

恐れ(おのの)き、(ある)いは祈りを(ささ)げ、全ての者が見守るなか『死の神』は『歌の神』の前に降り立つ。

 

 

「……遅れてすみません」

 

 

「……ほんと、遅いよ」

 

グッタリと倒れ込み、『従属神』守護者らに支えられる形で脱力しながら見上げ、応える。

 

 

死の神が迎えに来た(・・・・・)と思ったアルシェは涙ながらに平伏し懇願した。

 

「死の神様! お願いします、リオン君を助けて!! 私の命ならどうなっても」

 

 

落ち着きなさい。我が友は死んだりしない。安心しなさい。ただ治療のために連れ帰るだけだ」

 

死の神はアルシェを(なだ)め、リおんは

 

「……大丈夫だよアルシェ。また、会いに行くから……」

 

 

本音を言えばアルシェは『付いていく、連れて行ってほしい』と伝えたかった。

 

しかしリおんから言外に『来るべきではない』と言われて理解できないアルシェではなかった。

 

神々の聖域に人間の魔法詠唱者(マジックキャスター)に過ぎない自分が立ち入るべきではない、と。

 

 

だから、

 

………………約束……約束、だよ?

 

 

(しば)しの別れと信じ、見送る他なかった。

 

 

 

神々に抱き抱えられ、闇の門を潜る『歌の神』

それを見送る英雄達。

 

神秘的な空気と無力感に包まれながら『大戦争』の物語は幕を閉じる。

 

 

 

怪我人や戦死者を集め、応急処置を(ほどこ)し、前線基地であるリザードマン集落へと帰還する。

 

 

「……最後は『神様のおかげ』か。情けねぇ」

 

自慢の健脚を活かして戦ったものの勝利には(およ)ばなかったと、歩きながらバビエカが(こぼ)す。

 

 

バザーが応じた。

 

「あれだけの化け物だ、やむを得まい……とはいえ、凱旋(がいせん)、と呼ぶには情けないのも事実だな。健闘した、()しいところまで行った、だが結果が全てだ……フッ、大々的に送り出してくれたエ・ランテルに長居したくはないな」

 

 

『お前はどうする?』と、バビエカに話を向けた。

 

 

「……元々アタシは傭兵みてーなもんだ。なら、井の中の(かわず)にゃなりたくねー。帝国ってのを見に行くのも悪くねーかもな」

 

 

 

これは余談であるが、帰還した討伐隊は『ある理由』により予想以上の歓待を受ける事になる。

 

 

そのせいもあって、実際に使ったもの含め『ドワーフのルーン武具』を気に入ったバザーはアベリオン丘陵に一度戻った後、部族を引き連れアゼルリシア山脈に拠点を移した。

 

山羊人(バフォルク)は武具を購入するため傭兵や冒険者になる者が多く、優秀な戦士を輩出(はいしゅつ)するようになり、山羊人(バフォルク)傭兵、山羊人(バフォルク)冒険者は『強力な戦力』の代名詞となった。

 

 

帝国入りしたバビエカは強者との戦いを求め

 

なら帝国で何かの大会に出場したらいいんじゃねーか?

 

と考え、ある大会に出場申請した、のだが、色々と良く分かっていなかった彼女が通行人から聞き出しテキトーに申し込んだのは『競馬』の大会であった。

 

通行人は彼女の足を見て『……走るのかな?』と勘違いしたらしい。

 

 

この世界における競馬とは、単なる娯楽ではない。

 

(むし)賭博(とばく)は『ついで』で行われる事業で、本旨は『馬主や牧場による軍馬のアピール』であり、()わば公開入札のようなものである。

 

 

大会内容が『戦闘』でないと聞き、最初は『は?』と思ったバビエカだが、自分から申し込んでおきながら取り止めるのは『たかが徒競走から逃げた』ように感じ、本当に出場する事を決めた。

 

実際、走るのも好きである。

 

 

そして、いざ走ってみると意外にも強敵揃いである事に驚くバビエカ。

 

当然といえば当然だが、次世代の軍馬……『コンセプトモデル』達との戦いであるから遅いわけがない。

 

 

思わず本気で勝ちに行ったバビエカは……観客達の目を(さら)い人気を博してしまった。

 

 

これに目を付けた興行主は『馬人(ホールナー)(特に美しい女性)によるレース』に可能性を見出しスカウトへ乗り出し、バビエカは馬人(ホールナー)レースの『始祖』『女王』として君臨する事になる。

 

 

 

……ちなみに、フールーダはバジウッドの「その爺さまを自由にしたらマズい! 取り押さえろ!」という言葉に従ったキーリストランに捕まり藻掻(もが)いていた。

 

モモンガ達が転移門(ゲート)の向こうに消えた時の叫び声は、もはや断末魔のようであった。

 

 

┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄

 

 

リおんが帰還したナザリックは上へ下への大騒ぎだった。

 

 

具体的には(戦力的な理由と精神的な理由で)居残りを命じられたルプスレギナが号泣しながら回復魔法を乱発し、魔力切れで卒倒、()()られて行く姿を()(いき)()じりに見送ったペストーニャが後を引き継いだり、他のプレアデスも纏わり付いて離れないものだからモモンガが「大丈夫だから散れ! 散れ!」と追い払ったり、一般メイド達も必要あるのかないのか走り回ったり倒れたり、一部の守護者・シモベ達が『妨害した法国にカチコミじゃー! 御礼参りじゃー!!』と暴走しかけたり……

 

 

友が戻った安堵を感じる(ひま)もなく奔走(ほんそう)したモモンガは胃に穴が開く思いであった。骨しかないが。

 

 

それらが(ようや)く終わり、今はリおんの部屋にいる。

 

 

治療は終わったはずなのに、何故かグッタリしたままのリおん。

 

未だに大狼形態のままだ。

 

(せま)い。

 

 

尚、部屋の中はファンからの贈り物であるユグドラシルアイテムやら自分のぬいぐるみ等で埋まっている、ファンシーと硬派ファンタジーがゴチャ混ぜな雰囲気である。

 

 

グッタリしたままなのが流石(さすが)に心配になったモモンガが訊ねる。

 

「……あの、大丈夫ですか? まだどこか具合が?」

 

ブチギレ状態なら素が出るとはいえ、平常時は丁寧口調だ。

 

 

 

すると、リおんは

 

 

 

「…………………………ぅああああああ!!

 

 

()ずい恥ずい恥ずいよぉぉぉぉ!!!

 

 

「……は ?

 

 

「だって狼モードとか、

実質『   』じゃんんん!!!

しんどい! しんどいよぉぉぉ!!

 

 

意味の分からない事を言い始めた。

 

 

「仕方なかったとはいえ体格的に角度的にドコ見られてるかわかんないじゃん! 絶対アルシェにナニか見られた! 

 

無理!

 

ムリムリムリムリ!! 死ぬ!! 死んじゃう!!

 

てかいっそ殺してぇぇぇ!!!

 

 

ただでさえ狭い部屋の中をゴロゴロ転がる狼。

 

 

グッタリしていたのはHPとか関係なく『安心した所で急に変な事が気になり始めたから』であるらしい。

 

 

モモンガは思った。

 

(……例えば、例えばだ、目の前を散歩する犬のケツ穴を見たとして、それに対して何か思うヤツがいたら、その方がよっぽど変態だと思うんだが……)

 

 

童貞のまま骸骨になったモモンガには、思春期()(さか)りワーウルフになってしまったリおんの心は分からなかった。

 

 

なんか色々めんどくさくなったモモンガはリおんに沈静化の魔法をブチ込んだ。

 

すると……

 

 

「………………お騒がせしてすみませんでした……」

 

 

大狼形態を解除して、いつもの人間形態(犬耳)に戻ったリおん。

 

落ち着いたものの完全に目が死んでいた。

 

 

その自殺志願者のようなドヨドヨとした目付きにモモンガは『うわぁ……』と思った。

 

 

モモンガは使う魔法を間違えたのだ。

 

羞恥心(しゅうちしん)からくる狂乱状態だったのだから獅子のごとき心(ライオンズ・ハート)でも使って心を強く持たせれば良かったのだ。

 

今更だが。

 

 

ちなみにモモンガは『ユグドラシル同様、人化した時は装備も戻るんだな』と勘違いしているが、ポーチ(人間形態では腰に、大狼形態では首に)の機能で呼吸するようにショートカットしただけで、本来なら『この世界』では全裸になる。

 

完全無欠なアイドルのリおんに放送事故などないのである。

 

 

「……落ち着いたなら、ほら、いつまでもそんな顔してないで。アイドルなんでしょう? 顔見せっていうか『ただいま発表』しに行きましょう? ケガして帰って来たから、みんな心配してるんですから」

 

 

「……みんな……今更ですけどモモンガさん、NPCが生きてる感じですか?」

 

 

すっかり病み系アイドルにクラスチェンジしてしまっているが、受け答えはできるようになったらしい。

 

 

「えぇ、そうなんですよ。私も最初『え!? AI?! バグ?!』ってビックリしました」

 

 

「……あはは……AIですか……確かにヘロヘロさんなら作れそうですね……」

 

 

「いややめましょ? ヘロヘロさん過労死しちゃう」

 

 

リおん、自分でバフれば良いのではないだろうか。

 

 

「……過労死……モモンガさんは、どう思ってるんです? この世界ってか、あっちに残した自分どうなってるか、とか」

 

 

「ぁー……まぁ、そうですよね。たぶん死んじゃってますよね……リおんさん、戻りたいです?」

 

 

「……んー……あっちのファンには申し訳ないですけど、こっちで出会った大切な人達もいるし……僕、この世界って天国みたいなもんだと思ってるんです」

 

 

「異世界じゃなくて、天国ですか」

 

 

「……わかんないですけど、転移というより転生っていう感じじゃないのかなって。自然とか、あっちで失われたものもありますし。NPCは付喪神かな」

 

 

「なるほど。自然……ブループラネットさんに見せたいですね」

 

 

病みテンションからか、生死やら天国や転生やらの話をするリおん。

 

 

「……だから、そんな天国を守りたくて一生懸命やってたのに……モモンガさん、いつから見てたんですか。知ってたんなら早く助けてくれたって良いじゃないですか!

 

一転、元気になるのと引き換えにモモンガに文句を言い始めるリおん。

 

 

勘違いの事やら実際見て楽しんでた事もあり「ぅ」と言葉に詰まるモモンガだったが、

 

「そ、それは申し訳ないですけど勘違いに気付くのが遅れただけで悪意があったわけではモゴモゴ……だ、大体、それを言うならリおんさんのほうが『この世界』先輩じゃないですか。何ですかアレ。ナザリック教とか……勝手に神様にされててビビりましたよ」

 

 

「……え? 何言ってるんですか? アレってモモンガさんの仕業(しわざ)じゃ……最終日の時間に間に合わなかった事とかアルベドの設定とかで嫌がらせされたんだとばかり……だって布教が100年前でしょ? 僕が来たの2年前ですよ」

 

 

「え」

 

「え」

 

 

やっと(たが)いに勘違いしている事に、お互い気が付いた二人。

 

 

「……我々ナザリックこっち来てから、まだ3ヶ月くらいですけど」

 

 

「はぁ!? じゃあアレ広めたの誰!?」

 

 

「いや、こっちこそ聞きた……」

 

 

 

モモンガの脳裏に、黒いニヤニヤ笑いが浮かんだ。

 

 

 

「……アイツかあああ!?

 

 

「ぅわあ、何!? 誰です!?」

 

 

「アルスさんですよ! 魔樹の現場にもいたんです! 見ました!!」

 

 

「……誰?」

 

 

「………………え? いやいやアルスさんですよ。アルス・マグナスさん。ギルメンなんだから知ってるでしょ」

 

 

「………………え、いやホントに誰? 知らないです。そんな人いました?」

 

 

「……えぇ?」

 

 

本当に知らないという様子のリおんに『いくら最後の加入メンバーだからと言って、知らないわけはないだろう』とショックを受けるモモンガ。

 

『会った事くらいあるはずだ』と思い返してみると……

 

 

(……あれ? そう言えば一緒にいる場面が思い浮かばないな……あ! そうか!!)

 

 

モモンガは、それらしい理由に気が付いた。

 

 

「……よく考えたら、リおんさんが知らないのも無理ないかも知れませんね。

 

アルスさんは本当に自由人で、空気読まない神出鬼没で、仲が良かったのはウルベルトさん、タブラさん、るし★ふぁー辺りで、茶釜さんには何故か嫌われてたんです。

 

で、リおんさんが良く一緒に行動してたのは茶釜さんで、ウルベルトさんには嫌われてましたよね」

 

 

「グサッ………………き、嫌われてねーし……嫌われ……ぐすっ

 

 

「あ、すみません……ともかく、そのせいで面識なかったんじゃないですかね。41人もいたら、そんな事もあるのかも」

 

 

リおんは袖口でグシグシ涙を(ぬぐ)い、

 

「……なるほど、そうなんですね。で、その人が下手人ですか。どんな人なんです?」

 

 

「頭キレッキレだけど突拍子(とっぴょうし)もない事する、弁の立つるし★ふぁーって感じの人です」

 

 

「最高にヤバいヤツじゃないですか」

 

 

随分(ずいぶん)な言われ様である。

 

モモンガはフォローした。

 

 

「いやまぁ、彼のおかげで助かった場面も、なくは、ない……かなぁ……」

 

 

「……それ、フォローしてるんです?」

 

 

「……何にせよ、彼が犯人じゃ仕方ないですね。アルスさんですから」

 

 

「アッハイ」

 

 

とりあえず話がまとまり(?)シモベ達に元気な姿を見せて安心させてほしいと、ないはずの胃に穴が開きそうになった分、割と切実に、モモンガはリおんにお願いして、場を用意するべくアルベドを呼んだ。

 

 

「よく来たアルベド。リおんさんも調子を取り戻したので、皆を再び集めてもらいたい」

 

 

「畏まりました。『例の件』でございますね」

 

 

目の前にリおんがいるのに『例の件』と表現するアルベドを疑問に思い、訊ねるモモンガ。

 

 

「……『例の件』とは?」

 

 

「まぁモモンガ様ったら。あれ程まで鮮やかに私達のサプライズを逆利用なさったのに、御冗談(ごじょうだん)がお好きですわね♪」

 

 

モモンガは『アルベドは何を言ってるんでしょうか』とリおんを見て、リおんは『モモンガさん何したんですか』とモモンガを見た。

 

 

リおんがアルベドに訊ねる。

 

「どういう事?」

 

 

「私達守護者らでモモンガ様とリおん様にお喜び頂くためのサプライズを計画したのですが、リおん様がピンチに(おちい)る事さえ含め、モモンガ様にはお見通しだったようで、ネタばらしする前に『世界征服への一手』としてお使いになられたのです」

 

 

リおんは『どういう事ですか』とモモンガを見て、モモンガは『違うんです誤解ですアルベドが何か勘違いしてるんです』とリおんを見た。

 

 

再びリおんが問う。

 

「サプライズって?」

 

 

対ザイトルクワエ戦の全世界生中継でございます!!

 

 

その言葉を聞いた瞬間、リおんの脳裏を様々なイメージが駆け(めぐ)った。

 

 

トップアイドル・リおん、森で全裸(狼形態)の運動会

 

リおん・がぶりールに女性の影! 熱愛スキャンダルか!?

 

 

アイドル生命終了のお知らせ。

 

 

…………………………がふっ

 

リおんは卒倒した。

 





次回で『大団円』的な意味では最終回ですかね。

オマケ的な後日談などなど、ユルめな感じのは続きますけど。
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