【完結】おおかみ☆せんせーしょん(ハーメルン移植版)   作:ブドウ冷やしんす

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省庁再編、そして砂糖。

(後から気付きましたが、帝国の北側って海に面してたんですね……てっきり都市国家連合が張り出してるのかと……「内陸思考で沿岸警備隊程度」とでもスルーしてください泣)


皇帝陛下のクレームブリュレ 前編

 

『厨房騒動』から後日。

 

リおんから改めて聞き取りを行い『防疫(ぼうえき)体制』という新しい概念(がいねん)を報告書にまとめたロウネは、ジルクニフの下に訪れていた。

 

単なる厨房の改善案という話から、国全体の防疫問題にまで発展し、流石(さすが)にややくたびれている。

 

 

「すみませんロウネさん、お疲れでしょう」

 

リおんが(ねぎら)いの言葉をかける。

 

「いや、気にしないでくれリオン君。国のために身を()にして情報を取り(まと)めるのが文官の仕事だ」

 

文字通り(頭髪的な意味で)身を粉にして働くロウネは、後年、間違いなく(仕事量的な意味で)バハルス帝国の黄金期を支えた人物として名を残すだろう。

 

 

彼の苦労も仕方ない事だ。

 

防疫体制という概念そのものが、かの法国でさえ『アンデッド同様、(あや)しければ火で(きよ)めよ』という、経験則に(もと)づく乱暴かつ曖昧(あいまい)な認識でしか有していないものなのだから。

 

 

ちなみにウイルスや細菌という概念は、説明したものの広く一般への理解を得られにくい(ジルクニフは何となく理解はした)だろうという事から、疫病とは

『目に見えないほど小さなカビのようなものが体内で繁殖して起きる。胞子が体内に侵入するのを防ぐ事が肝要(かんよう)

という認識で一括(ひとくく)りにした。

 

現在の『悪魔の呪い』やら『人の悪意』だのよりはマシだろう。

 

 

リおんからの提言(ていげん)多岐(たき)にわたり

 

『ネズミやカラス等の病死体が短期間で広範囲、多数が発見された場合』

 

『都市生活の衛生水準』

 

『渡り鳥による流入』

 

畜産(ちくさん)業者の定期的な検診』

 

貿易商(ぼうえきしょう)など入国者に対する()め置き等の検疫業務』

 

等々、極めて膨大(ぼうだい)かつ広範囲な見直しが必要とされた。

 

 

その報告書を読んだジルクニフも深刻そうな表情を浮かべる。

 

 

「……都市に関しては、市民の生活習慣などは少しずつ浸透(しんとう)させるしかないな。清掃やゴミ処理、定期的な調査あたりの『外側』から手を付けるとしよう。後は猫の飼育でも奨励(しょうれい)しておくか。それにしても『渡り鳥』と『畜産』か。養鶏(ようけい)養豚(ようとん)の分離は早期(そうき)徹底(てってい)せねばなるまいな」

 

 

考え進めるジルクニフにロウネが口を開く。

 

「他には、担当省庁の問題がありますな」

 

 

帝国には『保健省』『厚生労働省』という概念がなかった。

 

都市整備は国土開発局。

 

貿易や入国、労働に関する法規(ほうき)は法務省。

 

国民の健康については神殿の仕事か、それ以上は自己責任である。

 

畜産業は農林省の仕事であり、渡り鳥の調査を行うとしたら同じくそこの仕事となるであろう。

 

 

ジルクニフは悩む。

 

「保健省を作ってしまうか。しかし、疫病に関する情報は他国への優位性(イニシアチブ)確保のために機密として保護しておきたい」

 

 

信仰系魔法があるこの世界においても、疫病が脅威(きょうい)である事には変わりない。

 

神官の数も、その魔力というリソースにも限りがある。

 

そうでなければ『どこかの善良な神官』が神殿での立場を捨て野良神官になってまで人々を救いたいなどと思い悩んだりはしないのだ。

 

ともなれば、当然『信仰系魔法のみに頼る事のない疫病への対抗策』という情報は、外交上の強力な有利(アドバンテージ)としての価値が生じる。

 

そのため、他国に『防疫体制』の全体像を把握(はあく)させない手段として、業務の分散は有効とも言える。

 

 

とはいえ、業務の分散は煩雑化(はんざつか)や省庁の縄張(なわば)り争いの原因にもなる。

 

 

リおんが(たず)ねる。

 

「帝国には情報省のようなものは無いのですか?」

 

ジルクニフは答える。

 

「情報局ならあるのだが、如何(いかん)せん経験不足でな……」

 

これに対しリおんは

 

「であれば、間に合わせとして各省庁に業務を分散させておいて、情報局の『格上げ』の段階で保健省を立ち上げ一本化するでも良いのではないでしょうか。仕事の内容としては確かにバラバラですので、当面の間は問題ないかと」

 

 

「ふむ……しばらくは『防疫』周りに張り付かせ、経験を積ませるか」

 

 

「どのみち情報省は必要になるでしょうから、早いうちが良いかと」

 

 

何か意味ありげなリおんの『賛成』にジルクニフは真意を問う。

 

「防疫の他にも何かあると?」

 

 

「はい。ニンブルさんから聞いたのですが、領土の監視や連絡の体制は騎士隊の巡回の他は監視塔と早馬(はやうま)との事ですよね? 伝言(メッセージ)の魔法は信用しないとも聞きました。『セマフォア』の整備を提案しようと思いまして」

 

 

「『木の腕』? どういうものだ」

 

 

リおんは手書きのイラストを示しながら説明する。

 

塔の上から棒が立っていて、さらに左右へ三対の『腕』が伸びている。

 

リアルで『ドイツ式』と呼ばれていたものだ。

 

「このような可動式の棒を設置して、手旗(てばた)信号のように遠くへ情報を暗号で伝達する手段です。永続光(コンティニュアル・ライト)付与(ふよ)すれば夜間でも視認できると思います」

 

 

「手旗信号か……我が国には海軍が無いから一部の部隊で使用されている程度だが、他国の海軍ではよく使われるらしいな」

 

 

「望遠鏡を使えば伝達距離を延ばせます。望遠鏡というのは……」

 

と、再びイラストで望遠鏡の構造やレンズの断面などを説明した。

 

 

「なるほど、これなら伝達速度は早馬の比ではないな。そして、そうか、暗号か……」

 

 

「それと、もう一つ。軍楽隊を創設してはいかがでしょうか」

 

 

これにはジルクニフも少し苦笑(くしょう)気味(ぎみ)に答える。

 

「軍の楽隊? 戦場で音楽を(かな)でよとは……吟遊詩人(バード)らしい提案ではあるが……」

 

 

「いえ、見栄(みば)えだとかの意味ではありません。確かに士気向上の効果もあるでしょうが、目的は『音楽を暗号として使う号令』です」

 

 

ハッと気が付いたジルクニフ。

 

「それは……今まで以上の速度と精度で、軍を一個の生物が(ごと)く動かせるか!……暗号……そうだな、情報の機密性を高める必要がある、か」

 

 

ジルクニフは、近い将来の情報局格上げを決定事項に定めた。

 

 

「ところでロウネさん、文官の方々って仕事は手書きなんですよね?大変でしょう」

 

気遣(きづか)わしげに訊ねるリおん。

 

 

「あぁ、確かに大変だが平気だよ。国のためにペン(だこ)をつくるのが我々の仕事さ」

 

 

「……『活版(かっぱん)印刷』を導入してはどうでしょう」

 

 

「『生きている版画』? 何かのマジックアイテムかい?」

 

 

「一文字ずつの判子(はんこ)を作って、文章通りに(わく)の中へ並べて()る方法です」

 

 

「! それなら今までのように原版を作り直す必要が無い!」

 

 

ロウネも驚いてはいたが、ジルクニフが受けた衝撃はそれ以上だった。

 

(……本の価格破壊……流通量の増加……世に出たら恐ろしい事になるぞ!)

 

ジルクニフの懸念(けねん)を見通したようにリおんは提案する。

 

「陛下、情報省を立ち上げたら、下部組織として印刷局を創設してはいかがでしょうか。情報の管理が楽になるかと」

 

 

「……そうだな。国が印刷を独占すれば、逆に利益は大きい」

 

答えつつ、ジルクニフはリおんの出自(しゅつじ)について考えていた。

 

(こいつの持つ知識や視点は吟遊詩人(バード)のそれではない。もしや有力者の子であったのか?)

 

それはそうと、リおんの故郷(こきょう)を恐ろしく感じた。

 

『地獄のような場所』とは聞いていたが、その技術力は恐ろしい。

 

国内事情を考えれば、()えたドラゴンのような国かも知れなかった。

 

戦争などしたくない相手だ。

 

 

「……リオン、話は変わるが、お前の故郷の場所などは見当がつくか?」

 

リおんは、ジルクニフの様子から胸中(きょうちゅう)(さっ)しがついた。

 

「……陛下、懸念している事はわかりますが、ご心配には及びません」

 

 

「というと?」

 

 

「これは僕の想像ではありますが、僕の国は、もう、帰りたくても帰る事ができないのだと思っています」

 

(うす)く、困ったような笑みのリおん。

 

 

ジルクニフは推察(すいさつ)した。

 

(……滅亡。恐らくは。

 

転移の理由は本人も含めわからないままだが、何かしら終末的な場面だったのかも知れない。

 

意外に思わないかと言えば嘘になるが、ガテンバーグを思えば国家の存亡(そんぼう)は技術力の多寡(たか)ではない。

 

()の国とて当時としては、我が国同様に魔法を重視した国だ)

 

 

ある程度の信用ある国家だったからこそ、その滅亡によって伝言(メッセージ)の魔法も信用を失った。

 

(おろ)かな国が滅びただけなら、ここまで一つの呪文が信用を失う事もなかったろう。

 

呪文に問題があったというよりは使い方だ。

技術力があろうと、それで(おご)るようであれば滅びるのだ。

 

 

((たく)そうというのかも知れないな、リオンは。せめて自分達がいた証明として)

 

そのようにジルクニフは思った。

 

「リオン」

 

 

「? はい」

 

「ここが、お前の国だ」

 

 

「……え?」

 

 

「お前の知識も無念も、バハルス帝国は裏切らない。そのような国にしてみせよう。ジルクニフ・ルーン・ファーロード・エル=ニクスの名にかけて、な」

 

 

「陛下……ありがとう、ございます」

 

(かす)かな笑みを浮かべ、(わず)かに言葉を()まらせながら謝意(しゃい)を示すリおん。

 

 

ジルクニフは考える。

 

(こいつは現実的な考えをする一方、やや理想主義の部分がある。

 

自分であれば、どうだろうな。

 

何も残さず高笑いしながら滅びるかも知れん。

 

「私はここまでしてみせたぞ」と。

 

……まるで違う考え方だが、恩恵(おんけい)を受けた以上、その思いを()んでやるくらいは、してやって(しか)るべきだろう)

 

 

 

実のところ、リおんは違う事を考えていた。

 

『自分は死んだのだ』と。

 

転生トラックも神様もありはしなかったが、これは『異世界転移』ではなく『異世界転生』なのだろう、と。

 

恐らくログイン中の接続事故か何かで脳が焼き切られたのであろうと考えていた。

 

とはいえ、そのまま話したところで信じてもらえるとは思えず、とりあえずボカして伝える事にした。

 

(くわ)しく聞かれたら、誤魔化(ごまか)して話すつもりで。

 

しかしジルクニフは、まるで自分の考えを酌んでくれたような言葉を(おく)った。

 

 

……単なる偶然である。

 

 

だがリおんは、そう思わず

 

(……きっと陛下は僕の考えなんてお見通しなんだ。だけど、()えて(にご)してくれた。果断(かだん)で頭も良くて部下思いなんて、陛下すごい!)

 

ジルクニフへの尊敬は、うなぎ登りだった。

尻尾はメチャクチャ振れていた。

 

 

そう外れてはいない微妙(びみょう)勘違(かんちが)いに、互いに気付く事はなかった。

 

 

リおんは小さく咳払(せきばら)いして話を戻す。

 

「印刷局についてですが、情報省を立ち上げるまでは今まで通り文官の方々に頑張ってもらうしかありませんね。ロウネさんには、これを贈りましょう」

 

そう言ってポーチから指輪を取り出すリおん。

 

「これは?」

 

 

維持する指輪(リング・オブ・サステナンス)といって、睡眠や空腹、疲労を無効化する指輪で「なんじゃとぉぉぉぉぉ !!!

 

フールーダが飛び付いた。

わしにくれぇぇぇぇぇ !!!

 

ひぃぃぃぃぃ !!

 

「おい(じい)! やめよ! ステイ!! お前達、取り押さえろ!!」

 

フーっ! フーっ!

フールーダは猛獣のようであった。

 

ぼ、僕の分をあげますから許してぇぇぇぇぇ !!

 

フールーダにも指輪を投げ付け逃げようとするリおん。

 

 

「……毎度毎度、爺が済まぬリオン。だが、お前の分まで手放(てばな)させるには」

 

 

「……いえ、僕は睡眠も食事もしっかり(いただ)いてますから大丈夫です……」

 

 

「……済まぬ」

 

 

そのやり取りさえフールーダは意に(かい)さず

うはー!

などとハッスルしていた。

 

 

「……ロウネさん、確かに指輪で肉体疲労は解消しますけど、精神疲労は別なので、たまには指輪を外して、きちんと寝て下さいね?」

 

 

()(とう)な生物としての生活』も必要であると、リおんは忠告する。

 

 

「あ、あぁ、そうさせてもら「わしは外さんぞ

 

 

「お 前 は な ? 爺。……はぁ、それはそうと、頭を使うと甘い物が欲しくなるな。ロウネ、お前も何かいるか?」

 

 

「……ははは……そうですな。では、ハチミツをたっぷり入れた紅茶でも(いただ)きましょうか」

 

 

「……ハチミツですか」

 

ロウネの言葉に、リおんは少し疑問を感じた。

 

 

「どうかしたかい? リオン君」

 

 

「いえ、確かに味や香りは良いですから、好みの問題でしょうけど、人によっては茶の色が黒くなるのを嫌って砂糖を選んだりもするので」

 

 

「さ、砂糖!? いやいや、流石に私は砂糖だなんて……」

 

 

「え?」

 

 

このやり取りに、ジルクニフは齟齬(そご)を感じた。

 

「リオン、もしやお前の故郷は暑い地域か?」

 

 

「……確かに故郷は南北に長いので、南は暑い地域ですが、何故ですか?」

 

 

「我が国において、砂糖は南方からの輸入でしか手に入らぬ。砂糖を高価な物と認識していなかったようなのでな。

 

帝国では養蜂(ようほう)を奨励しているからハチミツは比較的安価に入手できるが、同じ量の砂糖を購入しようとするなら、間違いなく金貨や白金貨での取引になる」

 

 

「……ぇえ!? そんなに!? ……そうか、帝国にとって砂糖は『サトウキビから作る物』なんですね? 帝国は冷涼な気候と聞いてますが、『サトウダイコン』は無いのですか?」

 

 

その言葉に、一同は凍り付いた。

 

 

ジルクニフは弾かれるように近付いて、リおんの両肩を(つか)んで(のぞ)き込むように問う。

 

「……り、リオン、今、何と言った? 大根から砂糖が!?

 

 

え? え? は、はい、大根というよりカブですけどどちらでも良い !!!ピッ

 

リおんの尻尾は伸びきった状態で硬直した。

 

 

ジルクニフは念を押すように聞いた。

 

「帝国にも、サトウダイコンがあるかも知れぬ、と?」

 

 

「……えっと、サトウダイコンは、赤ん坊の頭ほどはあろうかという大きさまで育つ大型の根菜で、色は乳白色……ですが陛下、必ずしもサトウダイコンである必要はないかも知れません」

 

 

「というと?」

 

 

「寒冷な地域で植物は、厳しい冬を乗り切るため、根に糖を()め込みやすくなります。違う作物であっても砂糖の材料になるものがあるかも知れません」

 

「ロウネ!」

「はっ、(ただ)ちに帝国の根菜類を」

「誰にも(さと)られるな」

承知(しょうち)しております。あくまで『作付(さくづ)けの実態調査』という名目で回収を……魔法省へ?」

「情報局では荷が重い。そのまま製造実験も行いたい」

(かしこ)まりました。それでは」

 

阿吽(あうん)の呼吸でやり取りをするジルクニフとロウネ。

 

リおんは『カッコいい……』などと思っているが、二人とも完全に『目が白金貨』になっていた。

 

ロウネは手配をするべく、すぐさま退出した。

 

 

ジルクニフは獰猛(どうもう)な笑みを浮かべ考える。

 

(もし、帝国で砂糖の生産が可能となれば……

『王国のカネで』王国の作物を買う事さえ夢ではない!!)





昔は砂糖とか香辛料とか高級品だったからねぇ。
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