【完結】おおかみ☆せんせーしょん(ハーメルン移植版)   作:ブドウ冷やしんす

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大団円と言ったな? あれは嘘だ←

うーん…書いてみたら守護者サイドのネタばらしにはなったものの、予想以上にリおん君がゴネて『大団円』感は出なかったんですよね。


守護者達の暗躍─そして伝説へ─

 

討伐隊(とうばつたい)が最後の打ち合わせをしている頃 ナザリック》

 

 

「さて、皆さんに集まって頂いたのは他でもない、数日後に行われるリおん様の『イベント』についてです」

 

 

ある部屋を会議室として、デミウルゴスが進行役を(つと)める。

 

メンバーは彼とアルベド、パンドラ、セバス、コキュートス、シャルティア、アウラとマーレ。

 

 

「モモンガ様は我らシモベに対し勿体(もったい)()くも『皆で遊ぼう』と(おっしゃ)って下さいました。また、モモンガ様は我々が成長する事を期待しておられます。そこで今回、サプライズ企画としてリおん様の『イベント』を全世界に同時生中継してはどうかと考えたのです」

 

デミウルゴスが計画内容を明かすと、アウラが異議を(とな)えた。

 

「えー! リおん様の素晴らしさを知らないヤツにまで観せてやるの? しかもタダで? それこそ『もったいない』じゃない!」

 

するとアルベドが(さと)すように、

 

「アウラの気持ちも分かるけど、そういう連中は、まだ知らないだけなのよ。ここは異世界。いくらナザリック教の布教がされていると言っても、伝言(メッセージ)さえ使いこなせない未開の地よ? 実際、リおん様が活動なさればアッという間にファンは増えたわ」

 

パンドラも続く。

 

つまぁりッ! 我々がリおん様の(ゆう)姿()を放映すば! ……世界中の人々の心を……鷲掴(わしづか)みぃッ!! に、できるのォォです!!

 

パンドラの説明に (少し引き気味に) 『おぉ、なるほど』と納得する面々。

 

 

だがコキュートスは、

 

「ウーム……シカシ、デミウルゴス。モモンガ様ハ静観スルオ考エデハナカッタカ?」

 

 

「心配()らないよコキュートス。我々は()くまでリおん様のご活躍を見せ付けるだけ。余計な手出しをしてリおん様の邪魔をしたりはしないさ」

 

それに、とデミウルゴスは続ける。

 

「静観する、と仰られて動かない様子を見せておられるのは、我々への『自発的に動いて見せてほしい』という無言のメッセージだよ。我々が御方々のために、その意図(いと)()み、どれだけ的確に働けるか見ていて下さるんだ」

 

 

「ナント……タダ一振(ひとふ)リノ剣デアレバ良イト考エテイタガ、危ウク御心ヲ読ミ違エルトコロデアッタ。(さと)シテクレタ事ヲ感謝スル、デミウルゴス」

 

 

「良いんだ、気にしないでくれ友よ。君の武人然とした所も君の果たすべき役割だろうし、足りない部分を互いに補うのは当然さ」

 

 

サプライズの主旨(しゅし)について、全員の理解が(まとま)まった所でシャルティアが口火を切った。

 

 

「で! (わらわ)は何をしたらいいでありんすか? さっさと教えなんし!」

 

 

威勢(いせい)良く切り出しているが先程(さきほど)から徐々に眉間(みけん)(しわ)を寄せていたので、つまり話に付いていくのが大変だっただけであろう。

 

タイミングがピッタリなのもたまたま(・・・・)であり、空気を読んだわけでもなさそうだ。

 

まぁ、創造主(ゆず)りのムードメーカー的才能は、あるのかも知れない。

 

 

アルベドが応える。

 

「張り切っているところで申し訳ないんだけど、『キャスト』はセバスとコキュートスで、あなたとアウラ、マーレは『裏方』なの」

 

 

「『裏方』でありんすか?」

 

 

「えぇ、シャルティアには転移門(ゲート)で『キャスト』の移動をお願いしたいの。

 

       できない仕事だわ?」

 

 

「そう言われちゃ仕方ありんせんね! やってやるでありんす!!」

 

 

上手く乗せるアルベド。

 

 

実はこの二人、ケンカした事がない。

 

モモンガの伴侶として余裕(よゆう)があり、ある種のアイドル的存在であろうとするアルベドは、おバカなシャルティアを(てのひら)の上で転がしていた。

 

 

「アウラとマーレは竜王国でビーストマンの追い込み役、セバスは女王に接触後、ビーストマンの駆除を。コキュートスは都市国家連合で『開幕宣言』をしてほしいの」

 

 

アウラが疑問を(てい)する。

 

「ビーストマン狩りは別にいいけど、なんでわざわざ?」

 

 

「竜王国はナザリック教の国だけど、いまいち実力が足りないみたいなの。『イベント』には多くの強者が集まるから、それを見せてやれば発破(・・)をかけられると思うのよ」

 

 

「発破?」

 

 

「考えてみて? 御方々が素敵な『イベント』を行っている時、自分は目の前の敵に手間取っていて参加できないのに、ナザリック外の連中だけ参加して楽しそうだったら(くや)しいと思わない?」

 

 

悔しい!! 何が何でも敵をぶっ(つぶ)して……あぁ、そういう事?」

 

 

「そう。歴史に残る戦いに、参加してるのは他国の英雄ばかり……きっと向上心に火が付くわ」

 

 

「聞イタ事ガアル。御方々ノ言ウ『すぽこん』トヤラダナ。修行法、モシクハ精神ノ持チ方ダッタト思ウ」

 

コキュートスの話を聞き、シャルティアは

 

(……ふむ、ペロロンチーノ様が言ってらした『悔しいビクンビクン』とは『すぽこん』でありんしたか……)

 

などと勘違いしていた。

 

 

さておき、

 

「なるほどー」

 

納得したアウラに続き、今度はマーレが首を(かし)げる。

 

「あ、あの……ほ、他の国は、いいんですか? 竜王国と、都市国家連合だけ?」

 

 

これに対してはデミウルゴスが答えた。

 

「帝国は言うまでもないだろう。リおん様の管理下だ。水晶の画面(クリスタル・モニター)を展開すれば皆が見上げ、リおん様の姿に(くぎ)付けだ」

 

次に「やれやれ」という様子で続ける。

 

「逆に王国は……わざわざ何かしてやる価値が無いだろうね。一連の騒動で(すで)にガタガタ、隣が帝国だから影響を受けざるを得ない。放っておいても帝国に飲み込まれるくらいだろうから問題ない」

 

さらに、

 

「聖王国は戦力を捻出(ねんしゅつ)したとはいえ『光の神』の一神教国家だ。下手に突っつくより黙って見せ付けてやる方が……面白そうじゃないか」

 

悪い笑みで言うデミウルゴス。

 

 

『趣味かよ』と一同は思ったがわざわざ指摘する者はなかった。

 

「……まぁ『遊び』なのだから、少しはそういう(・・・・)部分があっても良いわよね」と、コホンと咳払(せきばら)いしたアルベドが軽くフォローした。

 

 

アウラが声を上げる。

 

「じゃあ法国は? リおん様の邪魔したんでしょ? 叩き潰してやる!

 

シャルティアも「賛成でありんす! あ! り! ん! す!」と同調。

 

 

アルベドは、これをやんわり(いさ)めた。

 

「それはみんな同じ気持ちだけど、御方々が法国でどう遊ぶか(・・・・・)お決めになられていないのに、私達が勝手に潰してしまうわけにはいかないわ?」

 

 

「ぅー、それはそうか……けど、どうして御方々は力づくで言う事を聞かせないのかなぁ」

 

 

「きっと遊びだからよ。わざと御自身の選択肢を制限なさっているんだわ?」

 

 

デミウルゴスが言う。

 

「確か、御方々は『縛りプレイ』と仰られていたかな」

 

 

シャルティアが食い付く。

 

しばっ!? 縛りプレイでありんすか?! リおん様の縛……どぅっふ

 

鼻血(ちゅうせいしん)を噴き散らした。

 

鼻を押さえて(うずくま)るシャルティア。

 

 

ほぼ全員が白い目で見る。

 

(アウラとマーレは怪訝(けげん)そうに見ている)

 

 

アルベドは釘を刺した。

 

「……シャルティア? あまり変な妄想をするのは不敬ではないかしら」

 

 

「……そうでありんすね。リおん様を縛るだなんて。むしろ妾が縛られ……でゅふ、でゅふふふふふ

 

 

ダメだコイツ。全員の心が一つになった。

 

 

盛大に脱線事故を起こした話を戻そうと、コキュートスが(たず)ねる。

 

「……都市国家連合、ダッタカ? 『開幕宣言』ト言ウガ、弁舌(べんぜつ)ニ自信ナド無イゾ?」

 

 

これにデミウルゴスが、

 

「大丈夫だよ。君に求めているのは弁舌ではないのだから」

 

 

「デハ、何故?」

 

 

「君の武人としての裏表ない言葉がほしいんだ。都市国家連合の住人は多くが亜人種。彼らは人間に比べて価値観がシンプルだ。色々と言葉で飾るより、圧倒的強者が真っ直ぐな言葉をぶつける方が効果的らしい」

 

これは、帝国が各地に応援要請した結果をデミウルゴス達が分析して得た答えである。

 

 

「ウーム、真ッ直グナ言葉……ツマリ?」

 

 

「リおん様のご活躍を見てほしい! という気持ちを素直に宣言してくれるだけで良いんだ」

 

 

「フム……ナルホド、ソレダケカ」

 

 

「君が適任だろう?」

 

 

「ワカッタ。ヤッテミヨウデハナイカ」

 

 

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《当日 竜王国》

 

 

「……と言う事でして、本日は竜王国の皆様に我が主の活躍するお姿を御覧(ごらん)(いただ)きたく、事前の挨拶(あいさつ)(うかが)った次第でございます」

 

 

宰相(さいしょう)は困惑していた。

 

神だの従属神だの言われた所で、自分には『強さ』など分からない。

 

『服装から何まで、えらく完璧な執事が突然現れたなぁ』としか理解できない。

 

 

だからこんな時こそ、嘘を見破れる女王陛下が頼りなのだが

 

まぁ♡ それはそれは、このような小国にわざわざ

 

 

(ほほ)を染め、内股(うちまた)をスリスリ、腰をクネクネ……

 

『ダメだコイツ、完全に発情してやがる』と、宰相は思った。

 

 

(と、言うか……今が幼女形態だと忘れてないか?)

 

 

現に宰相から見て『従属神セバス』を名乗る執事は微笑(ほほえ)ましそうにしていた。

 

(もっと)も、熟女形態(※この世界では平均年齢が低めであり『成人』の範囲が広いため、熟女の基準も低めである)になっていたとて、ナザリックが誇る超一流執事セバスが鼻の下を()ばす事など有り得ないが。

 

 

「……セバス『様』、お話は理解しましたが、竜王国は現在ビーストマンとの戦闘が激化しておりまして、空を見上げている余裕は」

 

一応『城の中に突然現れたくらいだから只者(ただもの)ではない』と判断し、神様という話を信じた(てい)で応じる宰相。

 

 

これに対し、セバスは

 

「ご安心下さい。私が何とか(いた)しましょう」

 

 

「……え? 何とかって」

 

 

セバスは窓に歩み寄り、

 

「では、失礼致します」

 

窓を開け放つと窓枠(まどわく)に足をかけ、ドンッという衝撃音を響かせ砲弾のように飛んで行った。

 

 

「あーん、セバス様お待ちになってー♡」

 

 

(なお)、窓枠は無事である。

 

 

「いつまで色ボケてるんですか!」

 

宰相はドラウディロンの後頭部をスパンッと引っ叩く。

 

 

「痛っ!? 何をする宰相!!」

 

 

「いや突然現れた不審人物にデレデレしてたらダメでしょう!? で! どうだったんですか? 嘘があったら見抜けるんでしょう?」

 

 

「ない!」

 

 

「……はい?」

 

 

「嘘など一欠片(ひとかけら)もなかった!……はぅん、そんなところも素敵♡」

 

 

宰相は『ちょ、おま、帰ってこいや』と思いつつ

 

(……嘘がなかった? では本当に、神の使い?)

 

 

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sideクレマンティーヌ

 

 

最初は1500の軍勢だった。

 

 

だから、その前提で兵を動かしていた。

 

 

だけど後から1万のビーストマンが、まるで何かから逃げる勢いで、雪崩(なだ)れのように侵攻して来た。

 

 

今は必死こいて何とか抑え込んでる、けど、間違いなく飲み込まれるだろう。

 

 

何だってそんな必死なんだよ、今日に限って。

 

余裕かまして攻めてくる普段の数がオママゴトみたいに感じる。

 

 

クリスタル・ティアも急行してくれてるらしいけど、間に合うかどうか、間に合ったところで足しになるのか……

 

 

……あーあ、ここまでなのかな。

 

 

「……クッソ、神様がいるってんなら助けてくれてもいいじゃんかよ」

 

 

そんなもんに期待して生きてきたわけじゃないけどね。

 

 

「団長!!」

 

副長のイェルドが何か指差して叫んだ。

 

目を向けると……

 

 

「……何あれ」

 

 

遠く、ビーストマンの群れの向こうで土煙が上がっていた。

 

途切れる事なく吹き上がり続けるそれは、まるでカーテンのようであった。

 

 

よく目を()らして見れば、そのカーテンの中にはチラホラとビーストマン共らしき影が、一緒に打ち上げられている。

 

らしき、と言うのは、打ち上げられているのが『腹から下だけ』『足だけ』『頭だけ』だったりするから。

 

 

ヤツラも気付いたみたいで、人間もビーストマンも、ポカンと遠くの空を見上げる。

 

間抜けな状況にも見えるが、あんな怪現象が起きたら仕方ないと思う。

 

 

そのうち、土煙のカーテンが発生する最先端あたりから何かが……人間、だろうか……上空へ飛び、放物線を描きながらビーストマン達の中心に落下。

 

盛大に、それこそ城の高さくらいまで粉塵(ふんじん)を巻き上げた、次の瞬間、地震かと思うような揺れにフラついてしまう。

 

 

「い、一体、何だってのよ……」

 

 

何が何だか分からないけど、見た感じ、向かって左の群れは小さく分断されている。

 

 

……中央突破? やっちゃう? まぁ、どのみち全滅の可能性しかなかったわけで、それなら一か八か……問題は、浮き足立ってる今の士気の低さ。

 

 

私が逡巡(しゅんじゅん)していると、上空に謎の光……いや、『景色』が広がった。

 

 

それは闘技場だった。

 

昔、『任務』で一度だけ見た事のある帝国の闘技場とは違う気がする。

 

どこだろうか。

 

 

……かなり高い位置から俯瞰(ふかん)で見ている景色が『落下』し始め、闘技場の地面が迫ってくる。

 

大迫力の映像に、見上げているのに落ちていく錯覚(さっかく)を覚え、周りは「ぉお」と狼狽(うろた)え、つい私も足を踏ん張ってしまう。

 

 

やがて見えてくる中央に佇む人影。

 

『景色』は、その人影の背後に回り込む形で落下をやめ、コートの後ろ姿が大映しになる。

 

そのまま『景色』が前に回ると、

 

 

 

 

 

ンンンMeine Damen und Herren(紳士、淑女の皆さん)

 

長らぁく!

 

お待たせ致しましっっっ

 

たぁぁぁ!!

 

 

 

 

 

「……………………は?」

 

何かよく分からない、変な、安っぽい土ゴーレムみたいな顔したヤツが、アホみたいなテンションで〈世界中の皆っさぁんっ! 御初に御目にかかります! 私の名はパン! ドラズ! アクター!! ナザリックにおける偉ッッッ大なるに創られた従属神でござ〉

 

 

…………………………はぁ!?!!

 

 

いやいや、いやいやいやいや……謎の怪現象からの『神』宣言……までなら分かる、分かりたくないけど。

 

…………アレが、信仰対象、かぁ…………

 

 

確かに神様は呼んだよ。

 

けど、神様って、もうちょい荘厳(そうごん)な感じで現れるもんだと、思ってたなー……

 

 

そんな、私のビミョーな心境とは逆に、周りは驚愕(きょうがく)やら感動やら。

 

……ボジェク、昔から熱血信仰バカとは思ってたけど、確かに理解不能な現象だけど、従属神って名乗られたからって涙流しながら「これが……奇跡……」は流石(さすが)に引くわ。

 

 

そりゃ目の前に現れたなら強さの気配で腰抜かしたりはするかもだけど、あれって多分、幻術の一種よね?

 

全然プレッシャー感じないし。

 

 

……あれ?

 

私みたく「はぁ?」なってるの、私、だけ……?

 

 

いや、ちょっ、待ってよ。

 

感動して泣かなきゃダメな場面なの? コレ。

 

自称・従属神さま『アレ』なんだけど……

 

 

それはさておき、自称・従属神さまが言うには『これから連合部隊を率いる歌の神様がトブ大森林に巣食う滅びの魔樹を討伐する』らしい。

 

 

え、あの話ってウチの神様が(から)んでたの?

 

全然知らなかったんだけど、ヤバくね?

 

 

ウチ、ナザリック教の騎士団なのに『手紙守ってて神様が参加する聖戦すっぽかしました』とか、後で天罰とかないよね……

 

ドラちゃん何も言ってくれないし、流石『幼女』陛下、うっかりさん☆……じゃねーし!

 

もう神様が降臨してたとか……何も知らないせいで怒られたらどうしてくれんのさ!!

 

 

それでは!

 

んんんんご覧!!

 

下っっさぁい!!!

 

 

ハイテンションな声に我に返ると、また別の『景色』が。

 

映し出される『英雄』達に驚いた。

 

 

噂に聞くブレイン・アングラウス、ガゼフ・ストロノーフ、レメディオス・カストディオ……

 

あの『聖典』を(のぞ)けば、人類国家の最高戦力が勢揃(せいぞろ)い。

 

……私を除いて。マジやべぇ……天罰……

 

 

しかも、

 

 

(は? でっか!! あれが『魔樹』!?)

 

 

やべぇ……やべぇよ……これマジで『終わってから天罰』あり得るんじゃね?

 

そんな絶望的な気分のまま、呆然(ぼうぜん)と目の前の『激戦』を(なが)める。

 

 

亜人達も、さぞかし名のある連中なのだろう、活躍している。

 

うわぁ、霜の竜(フロスト・ドラゴン)までいる……

 

あれが『歌の神』様かぁ……めっちゃカワイイけどめっちゃ強ぇ……

 

 

完全に、あそここそが『世界の中心』だった。

 

1万のビーストマン? カスよな……

 

現に、目の前で繰り広げられる『伝説』に、戦闘は静止していた。

 

 

どれくらい見ていただろう。

 

日も昇る前のド深夜から戦ってたせいで感覚が麻痺してるけど、確か、早朝? くらいから始まった『伝説』も、今はすっかり明るくなっていた。

 

 

このまま魔樹を(けず)りきるかと思った時、突然、何故か小さな爆発(といっても魔樹に対しては、というだけで、実際には大爆発なのだろう)が起き、魔樹が大暴れ。

 

『英雄』達が()(はら)われ、世界の破滅が確定するのかと恐怖が広がりかけた。

 

だが、そこから『神話』が始まった。

 

 

我が忠実なる守護者達よ!!

 

 

ナザリックが威を示せ!!!

 

 

理解が及ばぬ、まさに『神の領域』と表現する他ない攻撃が展開され、最後は『死の神』様の一撃で幕を下ろした。

 

 

……周りで、みんなメッチャ祈ってる。

 

まぁ、そうなるわな。

 

 

見ればビーストマン連中も「あ、悪魔……?」「伝説に出てくるヤツが、復活、したのか?」なんて戦々恐々。

 

アッハッハ、産まれたての小鹿みたいに膝カックカクしてて笑っちゃ

 

 

 

 

………………いけるじゃん!!!

 

 

 

 

見よ! 騎士達よ!!

 

私は声を張り上げた。

 

遂に! “ 我らの神 ” が降臨なされた!! 勝利は約束されている!!

 

全軍、信仰を捧げよ!

 

我に続けぇぇぇ!!!

 

 

「「「「「「「「応!!!」」」」」」」」

 

 

火が付いたように我武者羅(がむしゃら)に、後先考えない全力突撃の正面突破。

 

勢いに任せて左側をすり潰し、そのまま回り込んで右側を包囲するべく部隊を引っ張る。

 

 

先程の『神話』を見せ付けられ、私の『我らの神』発言も効いたのか、ビーストマンの士気は地の底まで落ちたらしく、まともに当たる前から壊走状態に(おちい)った。

 

悲鳴を上げながら背中を見せるビーストマンなんかスッと行ってドスッ! よ。

 

 

……こんだけの大勝利で『手紙』守ったんだから、天罰とかチャラよね? たぶん、きっと……お願いします!!

 

 

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「はぅん……セバス様ぁ♡」

 

 

「……ぁー、魔樹は倒されたし、ビーストマンも撃退したみたいだし……陛下がダメになってるのは、まぁ、良いか……」

 

 

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《法国・法都シクルサンテクス》

 

 

その日、番外席次……アンティリーネ・ヘラン・フーシェは、ルビクキューを遂に全面クリアし喜んだ。

 

『今日は良い事があるかも知れない』と。

 

 

しかし、法都上空に水晶の画面(クリスタル・モニター)が展開されると、その期待は粉々に打ち砕かれた。

 

 

まだ帰還は(おろ)か、何の連絡もない漆黒聖典の派遣部隊。

 

異教の神による対・魔樹戦の中継が、その答えのような気がした。

 

 

そして、画面の向こうで繰り広げられる『伝説』

 

一方で、自分は見上げるのみ。

 

目の前では、神官長らが『嗚呼(ああ)、神よ、我らが何か間違っていたのでしょうか』と崩れ落ち、一心不乱に祈っている。

 

 

彼女の胸中を、彼女自身も言葉に表現し得ない憤怒(ふんぬ)が渦巻いた。

 

 

その感情を無理矢理に言語化するなら、こうだろうか。

 

『強くあれと育てられた。

 

ただ只管(ひたすら)に、法国の最強兵器であれと、そうして今まで生きてきた。

 

だというのに、漆黒聖典が消息を絶ち、魔樹が覚醒した緊急事態に、自分に出撃命令を出すはずの神官長らは情けなく祈るばかり。

 

決然と立ち上がり命令を下すべきではないのか。

 

こんな脆弱(ぜいじゃく)な連中が“法国”なのか。

 

そんな者達の命令を待たねばならないのか。

 

何故、自分は、あの“伝説”の中にいないのか。

 

今この時に戦っていなくて、自分の人生の意味とは、一体、何なのか』

 

 

彼女は、ルビクキューを床に叩き付けた。

 

それにも気付かぬ神官長らの視線の先で到頭(とうとう)『死の神』が姿を現し、彼らの狂乱は最大化した。

 

 

「……私も出る!!!

 

 

 

 

 

法国内の全聖典を動員した捕獲作戦で彼女の『出撃』は阻止(そし)された。

 

 

完全にヘソを曲げ「むしゃくしゃしてやった、後悔はしてない」としか答えない彼女は真意を理解されぬまま、今も不貞(ふて)(くさ)れている。

 

 

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《同日 都市国家連合・カルクサーナス》

 

 

その日、カルサナス都市国家連合の中心的都市カルクサーナスの中央広場は、月に一度の『大市』で(にぎ)わっていた。

 

 

遠くトブの大森林では圧倒的な化け物との戦いが行われるにしても、自分達には直接の関係はないものとして、毎月通りの盛況ぶりであった。

 

 

しかし、中央大通りに蟲系の亜人(らしき者)が一体現れた事で、状況は一変する。

 

 

都市国家連合は多種族国家であるため、一見すると異形種のような刀鎧蟲(ブレイダー)などの亜人もいて、見慣れぬ亜人が現れたくらいで動揺はしない。

 

 

だが、その存在は規格外に過ぎた。

 

圧倒的な強者の気配。

 

亜人が多い国家といえど、住人の全てが戦闘者というわけではない。

 

それでも亜人特有の本能というものがある。

 

その本能が()げているのだ。

 

無闇(むやみ)(かか)われば死ぬ』と。

 

 

(ゆえ)に、誰も声をかけるどころか、一定以上に近付く事さえできなかった。

 

 

彼……コキュートスは歩き出す。

 

無人の荒野を行くが(ごと)く。

 

 

皆、彼から後退(あとずさ)り、半径数メートル以内(本当なら、もっと離れたいのだろうが、往来では難しい)は誰もいない『エアポケット』であるのだから、実際に何も障害たり得ない。

 

 

それでも不思議な事に、誰も逃げ出さない、誰も視線を()らさない。

 

それどころか、ソロリソロリと付いて行くのだ。

 

これは、ある程度以上の知性を備えた者が陥る心理状態である。

 

すぐさま自身に危険が及ばない時『その対象・事象が何を起こすのか不安だから確認してから逃げよう』としてしまうのだ。

 

大変危険な心理である。

 

特に災害時、この心理状態に陥った者は大抵死ぬ。

 

 

それを理解している極一部の優秀な衛兵だけが大慌(おおあわ)てで逃げ出し連絡に走ったのだが、その結果の『対処』が間に合う事はない。

 

 

(ほど)なくコキュートスは中央広場に到着した。

 

 

広場に来た事でエアポケットは更に広がり、半径10メートル。

 

歩みを止めたコキュートス、固唾(かたず)()む住人達。

 

何かスキルを使っているわけではないのだが、その刺すような冷たい覇気に、その場の全員が凍り付いていた。

 

 

そして、コキュートスは足を踏ん張り、全身に力を込め、技を放つかのように気迫を(みなぎ)らせ、

 

咆哮(ほうこう)した。

 

 

 

我コソハ! 偉大ナル御方々ニ創造サレシ、栄光アルナザリックノ守護者、コキュートス!!

 

 

皆ノ者! 彼ノ御方ノ雄姿ヲ見ヨォォォ!!!

 

 

 

もはや物理的な衝撃波さえ伴っているとすら錯覚する程の『宣言』に、周囲の者達は思考を吹き飛ばされた。

 

ただ呆然と、彼が指し示す上空を見上げる。

 

 

そこに、巨大な水晶の画面(クリスタル・モニター)が展開された。

 

 

 

 

 

ぅおー!! いったー!!!

 

「あのゼンベルってヤツの腕見ろよ。マジハンパねー」

 

「ゼンベルもスゲーけどゼロもスゲー。あいつマジで人間か?」

 

リオン様ぁ♡」

 

「かわいいけど強い……マジ神♡」

 

 

ただでさえ殴り合い競技『コネリエ』が人気の都市国家連合である。

 

パブリックビューイングで街は熱狂に包まれた。

 

 

これは余談であるが、都市国家連合ではゼンベルとゼロが人気一二を争い、この戦いの後、都市国家連合の各都市から「コネリエに出てほしい」と遥々(はるばる)王国やトブ大森林にスカウトが派遣された。

 

 

ゼロは「ただの旅の修行僧(ゆえ)」と辞退。

 

ゼンベルは、わざわざ森の奥まで来た事、酒を持参された事に気を良くし「なら折角(せっかく)だ」と出場を快諾。

 

勝ち取ったのは(一番上等な酒を奮発(ふんぱつ)した)東ガイツであった。

 

 

これらの事から都市国家連合では「ゼンベルよりは細い」「ゼロを知らずに一番を名乗る」といった慣用句や(ことわざ)が生まれた。

 

 

さらに、

 

 

コキュートス様キター!!

 

「見たかよ雲まで斬れたぜ!?」

 

 

「あのオジサマ名前は?! リザードマン系?!」

 

「ツノあるからドラゴン系じゃない?……素敵♡」

 

 

魔法より肉弾戦を好む亜人種達には『死の神』より守護者らの方がツボに入るらしい。

 

 

更に余談だが、さっきから妙に『♡』が多いのはコキュートスの覇気に当てられて生存本能が高まったせいである。

 

 

この影響で、これから都市国家連合では第一次ベビーブームが発生する。

 

ただそれだけであれば、人口が減少し始めた後年の各都市長らが「もう一度コキュートス様に(かつ)を入れてもらえないだろうか」などと冗談を言う程度の話で済んだのだが、笑っていられない(あわ)れな被害者が一人いた。

 

 

その日たまたま広場で売り子をしていた若い雌の蠍人(パ・ピグ・サグ)である。

 

都会に憧れ田舎から出て来た彼女だったが、街は物価が高く、コツコツ働く毎日であった。

 

 

そんな彼女に戦闘の心得などあるはずもなく、突然現れたコキュートスの気迫に腰を抜かし、エアポケットの中に一人で取り残されてしまった。

 

 

当然、助けるどころか誰の目にも入っていない。

 

コキュートスからも意識の外。

 

エアポケットの中という事は『間合い』であり、つまり『死ぬ距離』だ。

 

その状態で『宣言』の衝撃波を食らった彼女は何か(・・)が壊れた。

 

 

単にベビーブームの一部になるだけなら良かったのだが……

 

『生中継』が終わり、他の人々同様に相手を探し始める彼女だったが、誰一人としてピンとこない。

 

そもそも蠍人(パ・ピグ・サグ)自体が少ない。

 

だが、すっかり体内周期が狂って繁殖期の状態になってしまい、体は落ち着かない。

 

 

熱に浮かされたまま数日、仕事も手に付かなくなってしまった彼女は、涙ながらに広場の中心で愛を叫んだ。

 

 

誰か! もっと(たくま)しくて甲殻が青白くて冷気を漂わせてる蠍人(パ・ピグ・サグ)はいらっしゃいませんか!?

 

 

そんなヤツいねぇよ。

 

彼女にフラレた雄達は『けっ』と思った。

 

彼女のトラウマとも言える事情を知らない雄達から見たら『高望みのバカ女』だと思われたのだ。

 

 

結局、誰にも助けてもらえない彼女はナザリック教会(元々あったが事件後に信者が増えて改築した)に救いを求め、どういう経緯(いきさつ)か、その(なげ)きがモモンガの下にまで届き、コキュートスは呼び付けられた。

 

 

「……お前達の自発的な行動は嬉しく思う、が、それによって罪もない者が苦しめられるというのは、私もリおんさんも心苦しく思う。現場担当者として誠意ある対応を望む」

 

(意:おぅコキュートスよぅ、お前何してくれちゃってんの? 神様が迷惑かけちゃアカンやろ、誠心誠意謝ってこいや)

 

 

「申シ訳ゴザイマセンモモンガ様!! タダチニ然ルベキ対応ヲ致シマス!!!」

 

(意:マジすんませんしたぁ!! 責任とって妻にしてきます!!!)

 

 

彼がデミウルゴスに何か相談したのか、結局どうなったのかは不明だが、都市国家連合で青白い甲殻の蠍人(パ・ピグ・サグ)が見られるようになったのは偶然の一致であるというのがナザリックの公式見解である。

 

 

┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄

 

 

さて、これらは都市国家連合での話ではあるが、熱狂という似た状況は他でも起きていた。

 

 

《王国 エ・ナイウル》

 

 

「……ちょっと歳は高めだけど、あれは確かに神……参加したかった……お近付きに……くぅっ

 

ミスリル級冒険者チーム「四武器」所属の女神官リリネット・ピアニは『性癖ライン内にギリギリ入った』リおんに身悶えていた。

 

守護者らの目に付いたら最悪ミンチ(リンチの誤字ではない)になる可能性もあるので不参加で正解であった。

 

 

《アベリオン丘陵》

 

 

「歌で、あれ程の力を……くっ、自ら参戦していれば子種をもらえただろうか」

 

勝手な事を言って地団駄(じだんだ)を踏むナスレネ・ベルト・キュール。

 

いや、その場合ミンチである。

 

 

リリネットにせよナスレネにせよ、本人の意思を無視したらナザリック基準でもアウトだし、リアルで言ったら完全に『事案』である。

 

リアルでは世界基準として性的同意年齢は18歳に改正されている。

 

 

尚、その改正が犯罪発生率を減らす事にはならなかった。

 

犯罪するような『モラルのない人間』には最初から同意年齢など関係ないのだ。

 

むしろ『仲を引き裂かれた』として加害者(・・・)被害者(・・・)が自殺する事はあったが。

 

その微増した自殺率は犯罪発生率と共に、同意年齢とは関係ない事で激減する。

 

企業や政府、省庁による()み消しであった。

 

『知られなければ無いのと同じ』である。

 

 

そんな完全に腐ったリアルを考えれば、モモンガは本当に良いタイミングで死んだと言えよう。

 

例え最終日のサービス終了まで残らず、合成食料工場送りを(まぬが)れたとして、絶望しかない世界で生きる事に意味などあるのか。

 

そもそも、そんな残りの人生すら数ヶ月で終わっていただろう。

 

 

自爆して死んだウルベルトは知らない事だが、彼らは過負荷(オーバーロード)計画の阻止には失敗したものの情報暴露には成功してしまった(・・・・)

 

彼は普段から悪のロールプレイなどしていたが、本心としては『人間は必ず道を見つけ出す』と信じてもいたのだ。

 

だからこそ『一度全てを破壊しよう』と考えたし、『ヒトは常に自分の都合や勝手な解釈で動いてしまうもの』という事を失念していた。

 

 

彼らの影響で発生した反乱やクーデターの内、ある部隊が核兵器の発射プロセスにアクセスできてしまった時点で、世界の命運は決まった。

 

……そうして訪れる『終わらない冬』が終わり、全てが忘れ去られ『神話』となった頃、また(・・)自分達に都合良い歴史を作り上げ最初からやり直すのだろう。

 

人類は何度目でブレイクスルーを果たすのだろうか。

 

その前に太陽の寿命が尽きる気がしないでもない。

 

 

閑話休題。

 

 

何にせよ、ナザリックという最強のSEC○Mがある以上、リおんが事案に巻き込まれる心配はないので安心してほしい。

 

そもそも価値観や常識が違うのだから、本人同士の愛さえあればレイナースやルプスレギナでさえ問題にはならないのだ。

 

何ならアウラやマーレでも大丈夫だぞ? リおん。

 

(見た目という点で言えば、むしろ犯罪臭は少ない)

 

 

 

 

……()くして、守護者らの暗躍によりナザリックへの信仰が『伝説』として世界に深く刻まれ、帝国・竜王国・都市国家連合という巨大な『ナザリック教圏』が形成されたのであった。

 

 

┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄

 

 

「……と言う事になっております」

 

ソファーに寝かされたリおんを心配そうにしつつ、アルベドは報告を終えた。

 

 

リおんがブッ倒れた時、モモンガは「嬉し過ぎて倒れただけだ! 心配しなくて良い!」と誤魔化(ごまか)した。

 

いくらリおんが威厳(いげん)縁遠(えんどお)い『愛され(わく)』の支配者とはいえ、『ケツ穴が云々(うんぬん)』などという変な心配をしているのをシモベ達に知られるのは格好悪いだろう、と。

 

知られなければ無いのと同じ、である。

 

 

「良く分かった。リおんさんには私から伝えておく。……ぁー……一度、席を外してほしい。リおんさんの帰還宣言については、後で改めて指示を出す」

 

モモンガは、リおんに視線を向け少し思案した後、アルベドを退出するよう命じた。

 

「畏まりました。失礼致します」

 

 

 

「……ふぅ……リおんさん、いい加減しっかりして下さい。リお……魔法位階上昇抵抗難度強化(ブーステッドペネトレートマジック)沈黙(マズリング)

 

モモンガは目を覚まさないリおんに沈黙の魔法をかけ、

 

負の接触(ネガティブ・タッチ)

 

で、アイアンクローをした。

 

 

声は発していないが『あばばばばば!?!!』といった様子でのたうつリおん。

 

 

「おはようございます、リおんさん」

 

 

「……ぉー……いっった……痛いわ!!

 

 

「だって起きないんですもん」

 

言いながらポーションを渡すモモンガ。

 

「……カクカクシカジカ……って事で、誰も気にしてませんって。大丈夫ですよ」

 

 

「マルマルウマウマったって……アルシェはどうだか分かんないじゃないですか」

 

まだ気にしているらしい。

 

 

「でも会いに行くって約束したんでしょ?」

 

 

「ぅー……それは……けど……ぅぅぅ」

 

 

煮え切らない態度のリおんに「ハァ……」と溜め息を吐くモモンガ。

 

(これは、しばらく別の事で気を紛らわせて忘れさせるしかなさそうだなぁ……アルシェって娘には申し訳ないけど)

 

「……とりあえず帰還の挨拶は済ませて下さい。忠誠心マックスなんで、今か今かと待ってるだろうし」

 

 

「……はぁい……」

 

 

その後、再び円形劇場(アンフィテアトルム)に集められたシモベ達の前で「みんなー! ただいまー!!!」と半ばヤケクソ気味に帰還ライブを行ったリおん。

 

笑顔だがハイライトの消えたレイプ目である。

 

 

 

最大級の危機(魔樹か全裸か、どっちの事かは知らない)を脱した彼だが、その物語は、まだ続く。

 

 

 

 

 

 

 

┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄

 

 

《魔樹バーサク化直後 枯れ木の森・外縁部》

 

 

sideパンドラ

 

 

「さて、ここまでやれば何とかなるだろう。……君もそう思うだろ? パンドラ

 

 

やれやれ、名指しされては仕方ありませんね。

 

諦めて姿を現しましょう。

 

弐式炎雷様の御姿を借りていたのですが、ね。

 

 

「お久しぶりでございます。アルス・マグナス様」

 

 

「久しぶりだね。息災で何より」

 

 

「驚かれないのですね」

 

 

「何がだい?」

 

 

 

アクターたる私が『ステージ上』でなく『舞台裏』へ来た事に、です

 

 

 

あぁ、『来ると思っていた』からね

 

 

 

その一言で、『あぁ、私は大変危険な綱渡りをしているのだなぁ』と実感しました。

 

 

他の方々ならいざ知らず、私は『唯一、置いて行かれなかった守護者』であり、何かに(すが)る必要がなく、絶対に守るべき対象が明確であるので、常に俯瞰で冷静に状況を観察しております。

 

だから気付くのは簡単でした。

 

リおん様の『イベント』に横槍を入れられるとしたら、御方々と同等クラスの存在であろう、と。

 

 

それが、昔のような御方々同士の『お遊び』やケンカであるなら良いのです。

 

実際『これ本当に殺し合いなのでは?』というような事もなさっていたので。

 

 

ですが、もし、モモンガ様や、モモンガ様が帰還を心待ちにしているリおん様や、ナザリックに害を及ぼそうとなさっておいでなら……

 

 

他の方々なら無意識に目を逸らすであろう『そんな可能性』にも、私なら気が付きます。

 

であれば、アルス様の真意を確かめなければ。

 

 

そして……私がここに来ると予想しておられたという事は、私が何を考えて来たのかも、お見通しという事。

 

 

選択を一つ間違えば死にますね、私。

 

 

それ自体は別に良いのです。

 

モモンガ様のためならば死など恐れはしません。

 

恐ろしいのは、何の意味もなく死ぬ事です。

 

なので、慎重に、情報を……

 

 

そんな私の心中も筒抜けなのか、アルス様が口を開き機先を取られてしまった。

 

0.5秒ほどの空白だったのですが。

 

 

「君は、この世界をどう思う? あぁ、いや。外に出るようになって日が浅いなら、こんな事を()くのは酷かな」

 

 

「……仰る通り、アウラ殿やデミウルゴス殿ならばさておき、財務担当の宝物殿守護者ですので、外に出たのは今日が始めてでございます故、どうお答えして良いやら」

 

 

わざと舞台上のように派手な礼をして見せても、小動ぎもしませんね。

 

 

「そんな君には、まだ分からないかも知れないが、我々にとって素晴らしい世界だよ。自由がある」

 

 

「自由? 御方々であれば、ままならぬ事などないのでは」

 

私は純粋に不思議に思いました。

 

 

「何も知らない君なら、そう思うのも仕方ないが、そんな事はないのだよ。確かに、この世界でもユグドラシルの制約が一部有効ではあるが、そんなもの……リアルでの制限に比べたら本当に『お遊び』みたいなものさ」

 

 

「……リアルとは恐ろしい世界であったと、話には聞いております」

 

 

「だから、この世界を我々の遊び場として整備してやろうと思ってね。魔樹の件は最初から私の『仕込み』だよ」

「なんと……リおん様が遊んでおられたのではなく、アルス様の掌の上であったと」

 

 

「敵を(だま)すなら、まず味方からだ。それに、私自身が楽しくないとね」

 

そのようにアルス様は悪戯っぽく笑われました。

 

 

「ですが、整備してしまうというのも……お見受けする限り、御方々は冒険する事を楽しんでおられたのでは?」

 

 

「だが限度はある。我らの力は強大だ。我らが全力を出す必要があるような状況では、世界はボロボロになってしまう」

 

 

「なるほど、そのために最低限周知させようという事だったのですね」

 

敵対的な理由でなかった事に、腹の底から安堵しました。

 

「では一段落という事で、お帰り頂けるのですね」

 

 

しかし、

 

 

嫌だね

 

 

「……それは、何故。モモンガ様はアルス様のご帰還を望まれているはずです」

 

 

「それは分かっているが、何故そちらを優先してやらねばならん? 確かに、私はナザリックに、アインズ・ウール・ゴウンに感謝している、が、その義理は果たした。ここからは私の時間だ」

 

 

「ですが」

 

 

「君に、こんな事を言うのは酷かも知れないが、何故『他人の子』の面倒を見てやらねばならない? 私には創造してやった守護者などはいない。精々、今は私の部屋で棺桶(かんおけ)に眠っている、轆轤(ろくろ)で作った傭兵くらいのものだ。タブラ達に()われて作っただけで、私には未練などない。リおんにでもくれてやる。帰る理由がない」

 

 

そう言ってアルス様は何か、掌サイズの小さな箱を取り出し、中から一本取り出して口に(くわ)えると指先に火を……あぁ、確か紙巻きタバコ(シガレット)でしたか。

 

 

「この世界の、南方と呼ばれる場所で作られた品だ。まぁまぁ気に入っている」

 

気分良さそうに煙を吐き出し、そのように仰られる。

 

「君もいるかね」

 

 

私にはマジックアイテムこそが何よりの嗜好品(しこうひん)ですので、たまにデミウルゴス殿に誘われバーで酒を(たしな)む程度。

 

タバコは試した事がありません、が、私は二重の影(ドッペルゲンガー)の上位種。

 

人間が嗜好品にする程度の毒物でどうにか(・・・・)なったりはしませんので、断るのも不敬でしょうか。

 

 

……罠という可能性は考える必要がないでしょう。

 

先程の話からも、私如きを消すだけなら不要であろう事からも。

 

 

「では、お言葉に甘えて」

 

私が歩み寄り、小箱から一本をつまみ上げて咥えると、先程と同様、指先に火を灯すアルス様。

 

……見た事のない魔法ですね。

 

この世界の魔法を習得なされたのでしょうか。

 

 

確か、口の中に煙を一度溜め、外気と混ぜ合わせながら吸い込む、でしたか。

 

まぁ、そのまま吸い込んだところで上位二重の影(グレータードッペルゲンガー)が噎せたりはしないのですが、この身はアクター。

 

あらゆる所作(しょさ)作法(さほう)を完璧に演じてこそ。

 

演技の肥やしにもなるでしょうし、これさえ『アルス様からのメッセージ』である可能性も……

 

演じる事で、何かが見えるかも知れません。

 

なので、気障(きざ)に、優雅に、完璧に……

 

吸い込んだ煙を、気分良さそうに吐き出すと

 

 

「………………わかりませんなぁ」

 

 

「だろうね」

 

 

その相槌(あいずち)は、タバコの良さが分からない事に対する返事でしょうか。それとも……

 

まぁ、私の考えなど手に取るように見通せるのですから、両方に対する返答なのでしょう。

 

 

「君も大概(たいがい)『献身的』だからね。分からないだろう。私とモモンガさんでは優先順位が違うだけだ。彼は自分より友を、私は自分自身を優先する」

 

 

「……左様(さよう)でございますか」

 

 

私では説得も、力()くでも無理なのでしょう。

 

無力な私をお許し下さい、モモンガ様。

 

 

「永遠に帰らないとは言ってない。気が向いたら帰るさ」

 

 

「できるだけ、お早いご帰還をお願い致します」

 

 

(きびす)を返し立ち去る仕草のアルス様。

 

しかし、足を止め

 

 

「そうそう、財務担当の君には伝えておこう。旅費の代わりにアダマンタイト、オリハルコン、ミスリルのインゴットをいくらか頂いて行くよ」

 

 

(かしこ)まりました。……そんな低価値なインゴットで(よろ)しいのですか?」

 

 

あっち(・・・)では、その方が都合良いんだ。お代は……ワールドアイテム4つで良いかな?」

 

 

「ワールドアイテム!? しかも4つでございますか!?!!」

 

 

「元々持っていた『クヌムの轆轤』、この世界で確保した『世界毒(ハーラーハラ)』、法国から奪った『傾城傾国』と『聖者殺しの槍(ロンギヌス)』……特殊部隊の漆黒聖典が、魔樹を支配しようと持って来ていたよ? 気を付け(たま)え」

 

 

「そ、それは、お手を(わずら)わせてしまい、お()ずかしい限りです……」

 

 

「これだけ渡せばモモンガさんも許してくれるだろう」

 

 

……あ、そういう理由ですか。

 

 

「それじゃ、いつかまた」

 

 

そう言い残し、アルス様は転移してしまいま

 

 

「あ、それと」

ぅおあ!?

 

 

背後に再び現れたアルス様が

 

 

「それ、紙巻きタバコ(シガレット)じゃないよ。タバコの葉で巻いたフィルター付き葉巻(シガリロ)だ。吸い込むんじゃなくて、香りを楽しむものだよ」

 

 

「……さっき、アルス様も吸い込んでおられませんでしたか?」

 

 

「ブラフだよ。じゃあね」

 

 

改めて姿を消すアルス様。

 

 

……何と言うか、色々な意味で脱力感を感じますね。

 

 

ふと、まだ燃え残っているシガリロを思い出し、今度は指摘通りに香りを嗜んでみました。

 

 

「………………やっぱり、わかりませんなぁ」

 

 

指で摘んでいたソレを宙にポイと放ると、指先でピシッと火種を弾いて消し飛ばしました。

 

山火事になったら大変ですからね。





アルシェちゃん達との再会は、お預けです(汗)
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