【完結】おおかみ☆せんせーしょん(ハーメルン移植版)   作:ブドウ冷やしんす

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結末。

そこにはおそらく何も、待ってはいない。

──霧間 誠一


エピローグ『 did you read it ? 』

 

 

 

《ヴァランシア宮殿火災の当日 地下倉庫》

 

 

「……これで、良かったのですよね。先生」

 

轟轟(ごうごう)と燃え盛る炎の中、彼女、ラナー・ティエール・シャルドロン・ライル・ヴァイセルフは(つぶや)いた。

 

 

私は、これに(こた)える。

 

「あぁ、そうとも。君の思いと僕の願い、どちらも叶えるには、これしかなかった。親友を(だま)す事になったのを気にしているのかい?」

 

 

「……いえ、分かっていますわ。どちらを選ぶにせよ私の勝手な思いですもの。巻き込む理由がございませんわ。……先生は、ラキュースと会った事は?」

 

 

「ふむん……さてね、記憶にないな」

 

実際にはどこかで会った気もしないではないが、覚えていない程度の出会い方でしかないなら気にする必要もないだろう。

 

 

「……なら、仕方ない事ですわ」

 

 

「大丈夫だよ。すぐ立ち直ってくれるだろうし、自分の道を見つけ出すのが冒険者だ。信じてやれば良い」

 

 

「……はい」

 

 

……おっと、私とした事が。

 

まだ自己紹介をしてなかったね?

 

 

ごきげんよう読者諸君。

 

私の名はアルス・マグナス。

 

アインズ・ウール・ゴウン41人の一人にして、この物語のプロローグからずっと、ストーリーテラーを(つと)めさせて頂いている者だ。

 

私の語りはどうだったかな?

 

リおん・がぶりールみたいに退屈させないよう語れたら良かったんだが……済まないね。理屈っぽい性格なもので、どうしても冗長(じょうちょう)に感じただろう。

 

ん?

 

あぁ、私が何故『登場人物にも(かかわ)らず作品や読者を認識できている』か理解できない、と。

 

順を追って説明しようか。

 

 

私は元々、単なるリアル世界の住人に過ぎなかった。

 

例えば『神にチートをもらった転生者』でも何でもなく。

 

だから当然の結果として生きる事に興味をなくした。

 

 

……自身やモモンガの死を知っていた上で、何故、玉座の間に行かなかったのか疑問に思っている者もいるようだが、考えてもみて欲しい。それじゃあ心中みたいじゃないか。恋人でもないのに気持ち悪いだろ?

 

 

そうそう。『アンタイオスの足』はサービス終了まで時間を持て余して、PKして遊んでいた時に見つけたんだ。

 

ワールドアイテムだし、使い()れていなかったんだろうね。やたら足元を気にして戦う奴がいて『何かあるんだな』と思った私は、幻術で『空中戦』に誤認させてやった。

 

取り乱す様が面白かったよ。

 

 

余談だが、例えば高位の幻術でフィールドを溶岩とかにしてやると本当にスリップダメージが入るんだが、この場合『無属性』だから炎無効とか火傷回復は効かないんだよ。

 

幻術ダメージに慣れてない奴はパニック起こすんで、AOG(アインズ・ウール・ゴウン)GvG(ギルド戦)では良く頼まれた。

 

 

サクッとPK(ころ)して『足』を手に入れたところでタイムアップ間近だと気付き、目を閉じたんだ。

 

下らない人生だった、と。

 

 

死後の世界があるかどうかは死んでみなければ分からない。

 

シミュレーション仮説が事実なら、プレイヤーとしてログアウトされるかNPCとして削除されるだけ。

 

『天国はあると信じていれば、信じている通りの天国に行ける』という話が本当であるなら、面白おかしい天国を信じよう。

 

そんな事を思いながら。

 

 

しかし、いつまで経っても意識は終わらず……

 

この世界に来た時は本当に驚いたよ。

 

そして、歓喜した。

 

……失われたはずの自然環境?

 

確かにそれも素晴らしいが、違う。

 

 

世界を観測し、世界に被表現された瞬間、流れ込んで来る情報の濁流(だくりゅう)

 

全てを悟り『嗚呼(ああ)(つい)に私は自らの精神に相応(ふさわ)しい存在と成り果てたのだ』と狂喜したのだ。

 

 

だから私はAOGに感謝した。

 

彼らの協力なくしてレア種族『ナイアルラトホテプ』の取得は叶わなかっただろう。

 

単なる赤の他人の集まりに過ぎないと思っていたが、何が先行投資になるか分からないものだ。

 

私個人でもコレなのだから国家が需要(じゅよう)()()把握(はあく)できないのは当然だな、やはり通貨は個々人の手にあってこそだ、などと関係ない事まで()み沁み感じ入るくらい嬉しい驚きであった。

 

 

ならば受けた恩には礼を返さなければ。

 

この世界を彼らの遊び場にしてやろう、と考えたのだ。

 

どうせ、原作世界のように大量の観測者がいる『太い本流』というわけでなく、傍流(ぼうりゅう)と呼ぶ事さえできないような泡沫(うたかた)(ごと)く消える可能性世界に過ぎないのだから、その僅かな間だけ幸せな夢を見せてやろう、と。

 

 

だが、どうせなら自分も楽しまなければ。

 

旅の一番の醍醐味(だいごみ)は『未知』だろう。

 

なので私は布教の旅に際し、()えて能力を制限して活動した。

 

だから私は気付かなかった。

 

自分が興味を持った『10歳の若さで自ら食を断ち緩やかに死のうとしているリ・エスティーゼ王国の姫君』が何者なのかを。

 

 

『何故そんな事をしているのだろう。話してみたい。どうせ私の姿を見れば発狂死するだろうから、死にたいならば慈悲(じひ)をかけてやろう』と思い、夜な夜な寝室へ忍び込んだ。

 

そこにいたのは()れ木のように()せ細り、成長も中断せざるを得なかったのだろう『本当に10も(よわい)を数えているのだろうか』と思えるほどに小さな姫だった。

 

しかし驚く事に、彼女は私を見ても気が狂うどころか、たった二言三言会話しただけで我が本心を……私の本当の願いを言い当ててしまったのだ。

 

初めての感覚だった。

 

……二つの世界で唯一、私を理解してくれる者。

 

『彼女を死なせるわけにはいかない』

 

自分で課した制限さえ解除して必死だったよ。

 

補充の当てが無いアイテムさえ惜しげも無く使い、体力が回復したら様々な場所へと連れ出した。

 

後で気付いた事だが、あの時点で私は恋に墜ちていたのだろう。

 

 

あぁ、読者諸君が世界間旅行をする時の為に教えておこう。

 

世界には修正力があるから、異世界に行って、例え老衰(ろうすい)間近まで居座ってから帰っても、帰る先が『出発した時、同じ場所』であるなら『この時、この場所にいる○○は○歳であるはず』という修正力が働き、その年齢に戻る事ができる。

 

ただし、異世界での記憶は『夢だった』と処理される。

 

勿論(もちろん)、頭脳明晰なラナーは『単なる夢ではない』と処理し直す事ができるので何の問題もなかったがね?

 

(なお)、未来に行った場合『出発時から自分が失踪(しっそう)し続けた場合の並行世界』にしか行けない。

 

私以外は。

 

また、過去に行った場合『歴史が変わった場合の可能性世界が増えるだけ』なので単純な方法では過去改変など不可能だし、あまり存続する『枝分かれ』が増えると『本流』が重くなって沈んでしまうからお勧めしない。

 

参考になったかな?

 

 

そんな訳で、ラナーは11歳当時の時点で体感年齢は360歳を超えていた筈だ。

 

……おい、そこのお前とお前、あとお前。

 

私を『ペロロン2号』呼ばわりするだけでなく彼女をロリば……んん……口にするのも(はばか)られるような言葉で表現するとは、よほど死にたいらしいな。

 

リアル『あぁ! 窓に! 窓に!』体験させてやろうか。

 

………………まぁ、良い。今の私は機嫌(きげん、)が良い。今回だけは見逃してやろう。

 

全く……肉体など魂の器に過ぎないというのに。

 

老婦人になった彼女も中々素敵だったぞ?

 

 

……とはいえ、これからは気軽に帰って来る訳には行かないのだし、種族変更してもらいたいのだが……私は『バランスがとれて良いのでは』と悪魔を(すす)めたが、彼女は『天使が良い』と言うので、まだ決まってはいない。

 

 

さておき、そんな努力の甲斐(かい)あって彼女は生きる事を選んでくれた。

 

危ない所だった。少しでも手を打つのが遅ければ、死なないまでも原作通り反転していただろう。

 

私が恋したのは『知性の怪物』ではない。

 

自分の事は嫌いではないが、鏡を見てウットリするほどナルシストではないのでね。

 

 

私は彼女に言った。

 

『私と共に旅に出よう。こんな、そのうち消えてしまう世界に残る必要など無い』と。

 

しかし、彼女は断った。

 

『消える世界に生まれたのなら、それが私の定め。最後の時まで王族として生きるまでです』と。

 

狂っていない彼女は『()くあれ』と王家に生を受けた以上、人々を見捨てられないのだと言う。

 

ならば、と私は交換条件を出した。

 

『この世界の消滅を回避したなら、一緒に来てくれるかい?』と。

 

 

彼女の善性により、我が計画は修正を余儀(よぎ)なくされた。

 

方法なら分かっていた。

 

だが世界を存続させるとなると、いずれモモンガ達が私の存在に気付いた時、私を探し始めるだろう。

 

冗談ではない。

 

いくら感謝しているとはいえ『他人の子ら』の面倒まで見たくはない。

 

である以上、

 

 

おっと、少し待て。

 

0.3秒後に彼女が口を開く。

 

彼女との会話以上に重要なものなど無い。

 

 

「でも……先生は(よろ)しかったのですか?」

 

 

「ん? 何がだい?」

 

 

「皆さんには何も言っていないのですよね?」

 

 

私は肩を(すく)めて応えた。

 

「……あぁ、その事か……良いんだよ。それなら何の(ため)にリおん・がぶりールという存在を用意したと言うんだい。顔を合わせたら絶対引き止められるだろう?」

 

 

「でも、お友達なのですよね?」

 

 

「ラナー、彼らは僕と同じプレイヤーと言えど我々とは見えている視野が違うんだ。それに、どうせ僕は嫌われ役さ。今更(いまさら)だよ」

 

まぁ、最古図書館(アッシュールバニパル)に寄贈した霧間誠一の著書でも読んでくれれば、いつか理解してくれるだろう。彼らの寿命は短いものではないのだか

 

「ところで、ニニャさんやクレマンティーヌさん、ケラルトさんは一緒に行かないのですか?」

 

 

………………ぇ?

 

 

「……何故、ここで彼女らの名前が出て来るんだい? ラナー」

 

 

「だって、先生のお話を聞く限り、皆さん先生を好いていらっしゃるのでしょう?」

 

 

「……ぇ……いや、あの……君は嫌じゃないのかい?」

 

 

「どうして独り占めしなければならないのですか? 私、皆さんとお友達になりたいです!

 

 

そうだった……この有効射程範囲がバグったような博愛が反転しなかった(・・・・・・・)彼女の本質なのだ。

 

 

「あの、いや、僕としては二人きりで過ごしたいなぁ、なんて」

 

 

「同じ殿方に恋した私としては、自分だけ幸福に浸るのは心苦しいのですが……」

 

 

……憂い顔も素敵だ……あ、いやいや。

 

ハァ……まさかここに来て『そんな理由で』二の足を踏まれるとは。

 

 

ニニャは本当に弟子として気に入っている。

 

私の足元くらいまで到達できるのではないかと期待はしている、が、今はまだ『常識的な世界で生きている』のだから、いきなり『我々の領域』に連れて来て発狂されたら困る。

 

クレマンティーヌは『人間としての在り方』という意味では確かに好いてさえいる。

 

だからこそ私という『不純物』なしで生涯を終えてほしいと思うのだが、ラナーは納得するまい……

 

……ケラルトだけは本当に勘弁して下さい。

 

あんなに面倒臭い女とは思わなかったのだ。

 

恐らく『作者』からの嫌がらせだろう。

 

かと言って死なせてしまえば聖王国が、私の世界(プラン)が崩れてしまう。

 

 

「……ラナー。僕であれば500年1000年過ぎようとも『明日帰って来る』事さえできるのだ。せめて100年くらいは君と二人きりの時間が欲しいんだよ…… 嫌かい?」

 

腰を落として視線を合わせ、愛を込めて懇願する。

 

彼女に対してのみ、私は本気だ。

 

 

「……そのように言われては、私も、嫌などとは言えませんわ

 

照れくさそうに見つめ返すラナー……心臓掌握(グラスプ・ハート)……ずっと見ていたい。

 

 

……それはそうと、この100年で何か考えよう。

 

 

やれやれ、彼女の事は愛しているが『他人への思いやり』ばかりは理解できない。

 

……まぁ、そんな純真さも魅力ではあるがね?

 

 

私自身が、かつて私から他人に向けた思いやりに価値を見い出せなかったのだから、理解できないのは仕方ないじゃないか。

 

私の善意は理解されず、水を差すなと邪険にされ……少々下世話な話だが、誰かとのセックスさえ気を(つか)ってばかりで気持ち良くはなれなかった。

 

自分が負担を負うばかりで、何の意味も無い。

 

一度どうやら気が狂ったらしく、気が付けば家の中が滅茶苦茶になっていて、それ以降は『理解されないのは仕方ない。精々人生という暇潰(ひまつぶ)しを遊んでやろう』と冷酷になった。

 

 

ヒトの世で上手く生きるとは、恋に似ている。

 

仕事にせよ恋愛にせよ、その場だけ何の問題も無いように取り(つくろ)って、全て『適当に』片付けるのが幸福への近道だ。

 

何の根拠も無く愛を(ささや)き、囁かれ、明日の事すら知った事かと抱いてやる方が『情熱的だ』と相手は満足するのだ。

 

私が心配してやるような10年、50年、100年先の事など、大多数の人間にとっては『野暮(やぼ)』でしかないのさ。

 

 

女にせよ金蔓(かねづる)のカモにせよ『適当に』遊んだらポイだよ。

 

それで相手が楽しんでたのだから自業自得だろ?

 

ファストフード店みたいなもんさ。

 

店員の愛想が良くて、ハンバーガーが安くて旨いなら、パテの材料が人間の肉でも知らんのだろう。

 

 

……その点、リアルの合成食料は『安くて旨い』の部分さえ実現しきれていなかったのだから、どれほどリアルが追い込まれていたか分かるというものだ。

 

疑問かね? だが考えてみて欲しい。

 

水も空気も、大地さえ汚染された『人間以外の生命体は、ほぼ無い』世界で、どんな有機物を材料にしたら『コストを抑えて』食料を合成できる?

 

ベルリバーが殺されなければならぬ(ほど)の陰謀とは何だ?

 

ウルベルトの両親が遺体を返還されなかった理由は何か。

 

 

『ソイレント・グリーン』という映画はご存知だろうか。

 

古い作品だが、人間の滑稽(こっけい)さを見られる中々に愉快(ゆかい)な内容なのでお勧めする。

 

 

邪神になる前の私より多くの情報を得られた読者諸君なら簡単に分かるだろう?

 

一つ一つの情報を取捨選択し繋ぎ合わせれば、答えなど見えて来るものさ。

 

 

……致命的な齟齬(そご)を棚上げした民主主義の結果に過ぎないというのに、何故、君は戦う事を選んだのだ、ウルベルト。

 

そんなに人間というものを信じたかったのか、友よ。

 

ロマンチストの考える事は、やはり理解できない。

 

 

 

……で、何の話をしてたんだったか。えーっと……

 

そう、確か『感謝』だったか?

 

 

恩着せがましい奴が相手なら『ご苦労さん』で(しま)いだが、打算も無く単純な遊び相手としてAOGは私に多大な利益を(もたら)してくれた。

 

だからこそ手を尽くした。

 

 

読者諸君、君達にも感謝しよう。

 

君ら観測者のおかげで世界は消滅を回避できた。

 

 

そして何より作者よ……君には、本当に心から深い感謝を。

 

色々と引っ()き回し、誘導した事を不愉快に思っているかも知れないが……考えてみて欲しい、元々の君の構想より、こちらの方が面白かったろ?

 

Win-Winという事で許して欲しい。

 

 

……いや、ならばこうしよう。

 

君が旅立ちを迎えた時、君の名に(ちな)み、古代の習わしに従ってムスカリの花束を手向けよう。

 

例え、同位存在が何千、何万、何億いても必ずだ。

 

今生の君の絶望に、来世への希望を()えようじゃないか。

 

 

君がこちらへ来る時を楽しみに待っているよ。

 

 

……もう一人、感謝を送るべき相手がいたが、存在を上書きしてしまったから、もう名前も思い出せないな。

 

まぁ、どうせ原作にも名前が出て来ないモブだ。

 

消されたところで問題なかろう。

 

誰の事かって?

 

私にとってのリおん・がぶりール、リおん・がぶりールにとっての私だよ。

 

一つの世界に都合の良いオリジナル主人公が二人もいる訳ないじゃないか。

 

併合(へいごう)の為の尊い犠牲だ。

 

モモンガが知れば嘆くか激怒するのだろうが……ふっ、知らせる意味が無い。

 

 

……おっと、こちらにとっては数分とはいえ、話している内に時間が来たか。

 

 

「ラナー、そろそろ火が回る。行こうか」

 

 

「そういえば……今度は、どんな世界へ連れて行って下さるのですか?」

 

 

「イベントに事欠かない、中々に面白い場所だよ。我々のような頭脳派は少ないようだから、コンサルタント業なんて面白いかも知れない」

 

……少なくともフローリングワイパーを作る会社よりは面白いだろうな。

 

 

「ふろーりんぐわいぱーとは何ですか?」

 

……思わず口に出ていたらしい。

 

「あ、いや、単なる異世界の掃除用具さ。気にしないでくれ。それより……そうそう! 食べ歩き好きだったろ? あっちにはジャガ丸くんっていう「もう先生! 私の事『食いしん坊』みたいに言わないで下さい!

 

……不服そうにしている様さえ愛らしい……コホン

 

 

「ゴメンゴメン。でも屋台は旅の醍醐味の一つだろ? 僕の楽しみに付き合ってくれたら嬉しいな」

 

 

「………………そ、そこまで仰るなら、仕方ありませんわね!

 

言いつつ、満更でもなさそうな様子……嗚呼、癒される。

 

 

そんなラナーを横目に(ほほ)(ゆる)めつつ、私は片手間に世界間転移門(ワールドゲート)を展開し、

 

 

さぁ、手を

 

「……はい!

 

 

彼女の手を取って引き寄せると、抱きしめる形で炎の中に浮かぶ闇へと二人で堕ちて行く。

 

 

こうして、我々は文字通り世界から消_

 





sideバジウッド
 

「おぅ、クライム! テメェ今日は非番だろうが。いつまで自主練やってんだ!」

「バジウッド殿!?」

「休める時に休むのも仕事だ。いざって時に動けなきゃ騎士として役立たずだぜ?」

「申し訳ございません!」

「……ったく。いつまで経っても固っ苦しいヤツだなオメェは」
 

コイツの名はクライム。ただのクライムだ。

元は孤児らしく、親代わりの魔法詠唱者(マジックキャスター)に連れられ入隊して来た。

ただ、なぁ……『コイツの将来を思って』とか言うなら受付の締め切りには間に合うように来やがれってんだ。

たまたま俺が通りかかったから良いけどよぅ。

あんなテキトー野郎に育てられて、なんでこんな堅物になったんだか。

育て親として恩を感じてるようだが、アノ野郎、俺には分かる……遊び慣れしてんのがプンプン臭うぜ。

大方『そろそろ遊び歩くのに邪魔だなぁ』とでも思ってたんじゃねぇのか?

まぁ、そんなテキトーな野郎だからこそ、伸びが遅ぇクライムを気長に指南してやれたのかも知れねぇがな。
 

「そう言ゃあ聞いたぜ? 監視塔に配属が決まったってなぁ」

「ハッ! バジウッド殿のご指導のおかげであります!」

「ばっかオメェ、頭ん中まで指し図してやった覚えはねぇぞ。クソ真面目さが評価されたんだろうさ」

まったく……ちょくちょく面倒見てやってたら、気の知れた騎士連中から『ご子息の指導に熱が入りますな』なんて言われるようになっちまって。

誰が親父だ!

それはそうと、国境から帝都までだろうとアッと言う間に情報を伝える監視塔は、今や帝国防衛の要だ。

至上命令は『必ず生きて伝える事』

この石頭が命令違反なんざ、あり得ねぇしな。

……と、なりゃあコイツは長生きするだろうよ。

もしかしたら出世もするかも知れねぇ。

だったら……

「どうせ今日は他に大した用事はねぇんだろ。配属祝いだ、晩飯(おご)ってやるから付いて来い」

「よろしいのですか!? ありがとうございます!」

……娘が一人、そろそろ年頃だってんで、悪い虫が付かねぇようにと『俺のお気に入りだ』って吹いて回ったら、今度は逆にビビって誰も近寄らねぇ。

俺のせいで行き遅れたなんて事になりゃあ恨まれちまう。

コイツみてぇに『女房子供を泣かせなさそうな男』だったら親としては安心なんだよな、と……まぁ、打算だ。

「どこに連れて行って下さるのでしょうか」

そんな事を考えてる相手をネェちゃん達がいるような店に連れてくわけもねぇ。

「固っ苦しい店は苦手でな。そんで料理が美味(うめ)ぇんで行き付けの店だ」

最近は、すっかり静かになっちまったからなぁ。

将来の義息には賑やかだった頃の話にでも付き合ってもらうか、なんて考えるのは、ちょいとジジ臭ぇかね。

……あの小僧。さっさと帰って来やがれってんだ。陛下が退屈してんぞ?

「そこそこ有名だからお前も聞いた事くらいあるんじゃねぇか?

 歌う林檎亭っていうんだがよ」
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