【完結】おおかみ☆せんせーしょん(ハーメルン移植版)   作:ブドウ冷やしんす

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リリネットさんの運命や如何に!?
 



リリネット、疾すぎる「さよなら」!

 

 

「……ハァ」

 

魔法省一階にあるロビーのラウンジで一人、アルシェは溜め息をついていた。

 

 

今や逸脱者(フールーダ・パラダイン)に次ぐ第5位階魔法詠唱者(マジックキャスター)……しかも()だ二十代を迎える前で、だ……『あの戦い』の事もあり、そんな彼女を知らぬ者は帝国内には存在しない。

 

なお、今はリおんからもらった装備ではなく魔法省の制服とも言うべきローブ姿だ。

 

それでも服装だけで判別できなくなる者はここに居らず、次代の頂点と評価されるが(ゆえ)に『溜め息すらも絵になる』などと周囲は見ているのだろうが、本人は憂鬱(ゆううつ)そのもの。

 

 

それを心配してか、声をかける人物が一人……

 

「溜め息だなんて、『まだ』何か悩み事を抱えてるのかしら?」

 

顔を上げた先にいたのは、

 

「ぇ……フリアーネ!」

 

思わぬ再会に、アルシェの表情に明るさが戻る。

 

 

「久しぶりね。……いつの間にか『英雄』になってしまって、すっかり置いてかれた気分だわ?」

 

「久しぶり……英雄だなんて、そんな。私は……それより、どうしてここに?」

 

「学長からのご厚意で『将来の職場を見学』させて(いただ)いたところですわ。帰ろうとしたら(なつ)かしい姿が見えたものですから」

 

 

……読者諸君であればピンときた者もいるのではないだろうか。

 

この世界線でも学長は『例の教団』に属していたため、リおんが首を()()んだ『摘発(てきはつ)(さわ)ぎ』の後、釘を刺され(・・・・・)た上で失脚を(まぬが)れた人物であり、彼の醜聞(しゅうぶん)は帝国にとってもスキャンダルになり()ねない事から伝え聞いている者は少ない(情報省が良い仕事をしている)

 

 

そして今のジルクニフは『聖約帝』……かつての邪教徒も神聖視している『死の神』を(ふく)むナザリック教は国教と言って良い。

 

故に『まだ自身の醜聞を知らぬ者を味方に付けておく』というのも含む二重三重の意味での『厚意』だった。

 

 

もちろん下手な動きを見せれば次は無い(・・・・)のであって綱渡り的だが『保身』の策ではある。

 

おまけに今更(いまさら)『死の神』から慈悲(じひ)(さず)かれるほど(のぼ)りつめられるかと言えば、それは楽観的と言わざるを得ないだろう。

 

 

その辺も()まえて『その程度(ていど)であれば好きにさせておけ』と見逃されている。

 

味方に付けたと思っている相手に情報省の息が()かっているかなど、彼には分からないのだから。

 

 

閑話休題。

 

 

フリアーネにとってアルシェは唯一(ゆいいつ)認めたライバルにして、今や目標。

 

心配にもなろうというもの。

 

それに『溜め息』の理由も(さっ)しはついている。

 

 

「それで? 浮かない顔でしたけど、どうしたのかしら」

 

「それは……」

 

「……やはり『あの御方』に会えないから?」

 

その一言を聞いた瞬間、アルシェの表情から感情が消え……

 

 

目の前にある膝丈(ひざたけ)のテーブルに音を立てて()()した。

 

 

「…………………………ぇ……ア、アルシェ!? どうしましたの!?

 

フリアーネの言葉に、アルシェは『ギギギギ……』と音が聞こえそうな(にぶ)い動きで顔だけ振り返り、

 

「………………あなたにまで、その話を振られたくなかった

 

「……ど、どういう事かしら」

 

弱々しくも懸命(けんめい)に上体を起こしたアルシェは虚無(きょむ)の表情で言った。

 

「……あなたがその話を知った理由を考えてもらえば分かると思う」

 

「理由?……神々が空に映し出した、あの」

 

「そう……『あの戦い』は世界中の人々が目にした。私達の行動は一挙手一投足(いっきょしゅいっとうそく)、会話も一言一句(いちごんいっく)、あらゆる人が知るところになった。だから……

 

 

…………………………毎日毎日魔法省の女性職員達から恋バナを振られる

 

 

「……ぁ」

 

 

そう、例えるならアルシェは『全国ヒットしたノンフィクション恋愛映画のヒロイン本人』のような(あつか)いとなっていた。

 

そんな存在が同僚として目の前にいたら……ましてやプライバシーだのポリコレだのの感覚が薄い『この世界』ならば、世の女性らの行動は『お察しの通り』である。

 

 

初めの頃こそ『嬉し恥ずかし』といった思いもありつつ相手して話していたが、それも『毎日』『誰も彼も』ともなれば……今では何の感情も湧かない『作業』であった。

 

 

このままでは性格まで()れてしまい『OL5年目やさぐれアルシェ』とでもいうべき状態に……恋愛そのものにさえ影響し兼ねない。

 

などと同じ結論に(いた)ったかは(さだ)かではないが、何にせよフリアーネは『このままではマズい』と思い、

 

「ご、ごめんなさいアルシェ。この話題はやめておきましょう……そ、そうだわ! 知っているかしら、最近中央通りに……」

 

と、新しくオープンしたカフェなどの話題に転換。

 

本来なら魔法についてなどを学生時代のアルシェであれば好んだところだが、この様子では『ロクに議論もできやしない……』と愚痴(ぐち)を言わせるだけになるのでは、と気を利かせる(あた)り貴族令嬢の面目躍如(めんもくやくじょ)

 

 

久しぶりの『恋バナ以外』の会話でアルシェの(すさ)んだ精神を癒やしたのであった。

 

 

┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄

 

 

(……ヤバい……殺される!?)

 

 

港に程近(ほどちか)い広場で対峙(たいじ)するリリネットは、保護者(てき)との実力差や殺気に気付いていた。伊達(だて)にミスリル級の冒険者ではないのだ。

 

だが、いくら気付いていようとも勝ち(すじ)は見えなかった。

 

脳内で何度『挑戦』しようと、釈明(しゃくめい)のために口を開こうとしても、逃げに転じようと重心移動に足先を動かしても、その瞬間に相手の錫杖(しゃくじょう)が自分の頭を血煙に変えるのだ。

 

リリネットの(ひたい)から脂汗が流れ、ただでさえ冒涜的(ぼうとくてき)な神官服の胸元が()れて張り付き、更にヤバい感じになっていく。

 

 

……読者諸君……一応、彼女は真剣に『己の死線』と向き合っているのだから、場違いにも興奮なぞするようであれば謝罪の上で切腹(たま)え。

 

 

彼女が硬直してる間も、ルプーは微動(びどう)だにしない。

 

リーオを(かば)うように立ちはだかる姿は、正に『地上最強』の気迫(きはく)

 

その変装用修道服の中の背には『(オーガ)(かお)』が、あるかも知れないし、ないかも知れない。

 

状況を理解していないリーオは先程から頭の上に『?』を浮かべていて、仲裁(ちゅうさい)してくれる様子はない。

 

 

異様な場の雰囲気(ふんいき)を察してか、周囲に人影はなくなっていた。

 

 

万事休す。

 

 

そう思っていると、自身と相手を(おお)うように影が落ちる。

 

「急にすみません! 着陸します!」

 

上からの声に見上げれば、日を遮るようにホバリングする霜の竜(フロスト・ドラゴン)

 

ゆっくりと、二人が対峙していた間のスペースに降りて来る。

 

着地したドラゴンから、ローブル聖王国聖騎士団の装備を身に(まと)った一人の少女が降り立つ。

 

「遅くなりました! 私、ポンタウ共和国ポト・ダ・フォツナからお越しのリーオ・ベータ様、ルプー・ベータ様の護衛を命じられ参上(いた)しました聖騎士、ネイア・バラハと(もう)します!」

 

 

リリネットは『助かったぁ……』と安堵(あんど)すると同時に『聖騎士が護衛に付くような客に手ぇ出そうとしてたんか、ヤバかったぁ……』と変な汗が噴き出した。

 

なので、

 

「あ、あ、聖騎士の方が来られたなら案内は不要ですわね! 私は失礼させて頂きますわ!」

 

何故(なぜ)唐突(とうとつ)な『お嬢様(しゃべ)り』で、それに反するような素早さで、どこをとは言わないがブルンブルンと激しく()さぶりつつ脱兎(だっと)(ごと)く逃走した。

 

 

その様子にネイア(他二人も)は呆気(あっけ)にとられ、

 

「……ぁ、えっと……今の方は? 何かお邪魔をしたとかではなく?」

 

リーオがルプーの横から出て来て、より一層ショタな感じに口調や声色を変えて言った。

 

「不()れな場所でキョロキョロしながら歩いてたので、案内してくれようとした方です」

 

 

……リおんよ、ルプスレギナにも言ってやれば良かったのだ。

 

まぁ、背後に回された彼からは彼女のブチギレ顔が見えなかったので仕方ないと言えば仕方ないが。

 

 

「初対面の方って事ですね? 大丈夫なら良かったです」

 

 

ちなみに、魔樹戦で会っているのもあるが、リーオはネイアの眼光には動じない。

 

完璧アイドルは女性に対して失礼なリアクションなどしないのだ。

 

 

とはいえ、実際に以前会っている以上、いつボロが出るとも知れない。

 

なので、

 

 

「そこにいやがったか駄犬(だけん)共ぉぉぉッッ!!!」

 

 

「「あ(あら)、モモンさん」やべ」

 

ルプーは悪気(わるぎ)なく探しに走っただけなので、イタズラがバレた反応をしたのはリーオだけだった。

 

 

レベル100の脚力で鈍色(にびいろ)の巨体が走り寄り、二人に(・・・)ゲンコツが落とされる。

 

「ぁぅぅ……」ぉ゙、ぉ゙、ぉ゙……」

 

「勝手にいなくなるなって言ったでしょう!? あとルプーお嬢! 話は最後まで聞くように!!」

 

「「ごめんなさぁい……」」

 

 

「あの……えっと……ぇえ?」

 

再びネイアは狼狽(うろた)える。

 

 

そんな様子を見てモモンは自己紹介した。

 

「あぁ失礼しました。私はベータ商会から護衛に(やと)われた、傭兵(ようへい)のモモンと申します。聖騎士団の方ですね? どうぞよろしく」

 

「ぁ、あぁ! そうでしたか! 私は聖騎士のネイア・バラハ、こっちは相棒のヘジンマールといいます! こちらこそよろしくお願いします!……どうかしたの? ヘジンマール」

 

「あぁ、いや……何でもない」

 

動きからして強者っぽいモモンからは何も読み取れず、むしろルプーやナーベの方が強そうな感じがしたせいか、ヘジンマールは首を(かし)げた。

 

 

営業モードで冷静さを取り戻したモモンは質問する。

 

「ところで、一つお(たず)ねしてもよろしいでしょうか。冒険者組合の場所を知りたいのですが」

 

「冒険者組合ですか?」

 

「はい。あちらには組合がなく、今回の護衛が終わったらそのままこちらで冒険者をやろうかと思っていますので、先に登録と、今回の件を『指名依頼』として改めて契約する事になっております」

 

 

これはモモンとナーベ、リーオとルプーという『カバー』を現地に定着させ、何かと使い勝手の良い多種族国家ポンタウの知名度を上げるための策である。

 

それに組合を通した指名依頼という形にすれば、モモンらのポイント稼ぎもスムーズだ。

 

……もちろん、モモンガとリおん本人達にとっては『息抜きの遊びに出たい』というだけの話だが。

 

 

「なるほど! ではご案内いたします!」

 

「ありがとうございます。それと商会からの意向で『本人達の社会勉強という意味もあり、わざわざ一国の騎士様の手を(わずら)わせるわけにはいかない』と、護衛は私共のみとして、聖王国からのご厚意はご遠慮(えんりょ)させて頂きたいとの事でした」

 

ルプーが淑女(しゅくじょ)の顔で引き継ぐ。

 

「ご連絡が間に合いませんでした事、お()び申し上げます」

 

「そうですか……わかりました。私からお伝えしておきます」

 

 

聖王国にインパクトを与える目的から、事前のやり取りから入港まではギリギリを設定していた。

 

『なので聖王国への謝辞(しゃじ)の連絡が間に合わなかったのだ』という言い訳だが、聖王国としても友好的であるというポーズが伝われば良いのであって (ましてや王がカルカなので) 問題にはならないであろう。

 

これでリーオの正体がバレるリスクは減った。

 

 

こうして、アンダーカバーとしての入国を果たした四人は、聖王国を足がかりに『冒険』を開始したのであった。

 

なお、後にシズを担当者として『目に見えない様々な対策が(ほどこ)された』ベータ商会の支店が聖王国で開業、ネイアと交友を深めたりする事になるのだが、余談なので割愛する。

 

 




 

『リーオ少年と冒険者モモン』パートは一区切りかな。
 
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