【完結】おおかみ☆せんせーしょん(ハーメルン移植版)   作:ブドウ冷やしんす

7 / 47

・勘違いされる言動には気をつけよう

・ウソでごまかすのはやめよう

・うまい話には気をつけよう

という話です。


ブレイン・アングラウスの栄達

 

「それ、マジなんだな?」

 

 

「うん……殺しに来たとしか思えない様子だった」

 

 

歌う林檎亭で、アルシェが見た男についてフォーサイトは話し合っていた。

 

(くだん)の男は部屋に(こも)っている。

イミーナが聞き耳を立てたところ、何か(かす)かな金属音が聞こえていたらしく、罠でも用意しているのではないかと疑っている。

 

(うま)いと評判(ひょうばん)な食事にも降りて来なかったのが、ますます(あや)しい。

 

 

「それにしても、そんな凄腕(すごうで)に何したんだリオンのやつ」

 

 

「ヘッケランは知ってるの? 『ブレイン・アングラウス』という人」

 

アルシェが(たず)ねた。

 

 

そう、男の正体とはブレイン・アングラウスであった。

 

 

部屋から聞こえた金属音は刀の手入れをしていただけ。

 

部屋から出て来ないのも食事をしない(パンとスープのみ部屋で受け取ったようだ)のも、予定になかった宿代を(はら)った事と、外にも食事にも興味なかったために、節約がてら精神統一の修行をしていただけである。

 

つまり、単なる勘違(かんちが)いであった。

 

しかしながら、ただでさえストイックさが(にじ)み出る強面(こわもて)である。

 

(おのれ)の『鎖』を引き千切(ちぎ)り『いざ、さらなる高みを目指さん』と覇気(はき)(みなぎ)らせる様子は『リおんを始末(しまつ)しに来た』と思われても仕方ない。

 

しかも、姿を見せたのはアルシェが見た一度きり。

誤解(ごかい)()けというのは無理な話だろう。

 

 

そんな事とも知らず、フォーサイトの会議は続く。

 

 

「ガゼフ・ストロノーフが王国戦士長になる前、御前試合で決勝を争ったヤツだ。グリンガムも出場してて準々決勝でソイツに当たって、手も足も出なかったらしい」

 

 

それを聞いてロバーデイクが首を(かし)げる。

 

「そんな人物からリオンさんが因縁(いんねん)を買うという場面は想像がつかないのですが」

 

 

だがイミーナは言う。

 

「そんなの逆恨(さかうら)みかも知れないじゃない」

 

 

「逆恨み、ですか?」

 

 

「剣の腕前と人格は関係ないでしょ」

 

鼻を鳴らしながら言うイミーナは、恐らくどこかの『エルフ奴隷を連れた自称天才剣士』を思い浮かべていたのだろう。

 

他のメンバーも「あぁ」と、同じ人物が頭に浮かんだようだ。

 

 

「……で、どうする?」と、ヘッケラン。

 

 

「伝えようにも居場所がわからない」と、アルシェ。

 

 

ロバーデイクは「かといって、ただ見ているだけというのは……」

 

 

「外で見張って、呼び止めるくらいしかないんじゃない? 今日(あた)り来るかも知れないし」

 

 

イミーナの意見で方針が決まった。

 

 

一方のリおんはイミーナの勘の通りに、歌う林檎亭に向かっていた。

 

今日も護衛はニンブルだ。

 

 

ちなみにニンブルが護衛役で固定されているのは『無難(ぶなん)だから』の一言に()きる。

 

バジウッドやレイナースは変装しても目立つ。

 

ナザミは(しゃべ)らない。

 

必然的にニンブルしか適役がいないのだ。

 

 

リおんは『まずは何曲か歌って、それから前回の続きを語って……』などと、すっかり『酒場の吟遊詩人(バード)』が板に付いた様子でルンルン気分だった。

 

そして歌う林檎亭の看板が見えてきたところで、またもやニンブルを()り切って突撃しようとして、

 

 

 

視界を何かで(さえぎ)られた。

 

 

 

そのまま(かつ)ぎ上げられ運ばれる感覚。

離れた位置から「待て!」とニンブルの声。

 

 

(誘拐(ゆうかい)ぃぃぃ !?)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「どういう事か説明してもらいましょうか」

 

歌う林檎亭から少し離れた路地裏で、ニンブルがフォーサイトを詰問(きつもん)していた。

 

 

リおんは『ずだ袋』から顔を出して座り込んだまま、状況がわかっていない様子で『キョトン』としている。

 

 

ちなみに『ずだ袋』はワーカー御用達の拉致袋(アブダクション・バッグ)という……単なる『ずだ袋』である。

ダメージもなく、悪意もなく、何の特殊効果もない単なる袋だった事から、攻撃判定にならずスキルが発動しなかったらしい。

 

 

「いやぁ、実は」とヘッケランが説明を始める。

 

最初は話を聞いて驚いたニンブルだったが、ブレインの名前が出た辺りから顔を(おお)うように蟀谷(こめかみ)を押さえ始める。

 

 

「……で、最初は声かけて呼び止めるつもりだったんだが、時間がかかって声を聞き付けられたらマズイんじゃないかって事になって、ちょっと荒っぽいけど手っ取り早い方法を……」

 

ヘッケランの説明(言い訳?)にニンブルが割り込む。

 

「ハァ……わかりました。ご心配くださったのは嬉しいのですが「ニンさん」……なんでしょうリオンさん」

 

「ブレイン・アングラウスって何者でしょう」

 

 

声に振り向こうとしたニンブルは、そのまま盛大にズッコケた。

 

 

「……ほ、本気で言ってるんですか、リオンさん」

 

ヨロヨロと起き上がるニンブルが問う。

 

 

リおんは聞かれた事の意味がわかっていないらしく、首を傾げる。

 

「恨みなんて買った覚えは

 

「いや、そうではなく! 覚えてないんですか!? ブレイン・アングラウスですよ!? 会ったでしょう!!」

 

……そうでしたっけ」

 

 

ニンブルは頭を抱えた。

 

 

「なんで忘れてるんですか! 北市場で! 話をしたでしょう!」

 

「ムムム! 言われてみればそんな事もあったような気がしてきました!」

 

 

流石(さすが)にコイツひっ(ぱた)いてやろうかと思ったニンブル。

 

……かつて北市場で見かけた『ドラまたスリッパ』なる意味不明なアイテムは、こういう時に使うものだったかと(さと)り、今度見かけた際は購入するべきか考えた。

 

 

「その時リオンさんが『武の神』の言葉だと言って彼に話してたじゃないですか! 月を指す指がどうのと」

 

 

それにロバーデイクが反応した。

 

 

「おぉ、ブレイン・アングラウスに武の神の御言葉を()いたのですか。しかし『月を指す指』とは?」

 

 

この時になって(ようや)く思い出したリおんは同時に『あ、やっちまったZE☆』と気が付いた。

 

 

彼が話したのは『とある昔のカンフースター』の話で、その時点ではナザリック教の存在を知らなかった。

 

だが、ナザリック教にいるのだ。『武の神』が。

 

武人建御雷である。

 

 

(それ武さんの言葉じゃないよ!!)

 

 

神の言葉を(いつわ)ったなどという話になったら自分の社会的信用が死ぬ。

 

リおんはジルクニフと最初に出会った時と同じくらい脳ミソをフル稼働させた。

 

 

「……、故郷にはアケミ様だけじゃなく、それぞれの神様について書かれた外典もあったんです。こっちには無いんですか。そっかー、無いと知ってれば持って来てたのになー」

 

 

つまり『言った事にした』

捏造(ねつぞう)である。

 

 

「なんと、そんな書が。それは是非(ぜひ)とも読みたかった。つまり、その道の心得を説いた『入門書』のようなものでしょうか」

 

 

「まぁ、そんなとこですねー」

 

 

「という事は、他の神にも? 薬学であれば知の神でしょうか」

 

 

(……みんなゴメン、これから色々でっち上げるけど許して)

 

お空の向こうに半透明エフェクトで浮かび上がる仲間達に、心の中で謝罪するリおんであった。

 

 

……読者諸君、(うそ)で嘘を誤魔化(ごまか)そうとすると、雪だるま式に嘘が(ふく)れ上がる場合があるので気を付けよう。

 

 

 

 

 

その後、ブレインと再会して話をし終えたリおんは、彼を連れて皇城に向かった。

 

 

ブレインに何を話したか?

 

実は何も考えていなかったリおんは、日本刀を使う凄腕剣士の話を聞かせた。創作物から。

 

そう、また『でっち上げ』である。

 

 

ナザリック教というものがある以上、ユグドラシルプレイヤーの話はどこに地雷があるかわからないので使えない。

一方で、この世界はリアルの人間には実現不可能な武技というトンデモ技が存在する。

 

着想(ちゃくそう)や修行によって、創作物にあるトンデモ技さえ実現可能ではないだろうか、と考えた。

 

故に、創作物の話を過去の話・故人の話として話す事にした。

 

 

まぁ、ある意味ホラを吹くのが吟遊詩人(バード)の仕事とも言えるので、問題ないと言えばないのかも知れない。

 

 

そして『旦那様の所なら強くなるためのバックアップを全面的に受けられる。とりあえず紹介だけでもしたいので』と連れて来た。

 

 

そんな風に、(なか)(だま)されるような形で連れて来られたブレインは、フワフワした心境でいた。

 

 

(……俺は、なんて『ちっぽけ』な世界を見てたんだ。世界は、思ってたよりずっと広ぇ)

 

 

いや、別にそんな事はない。

 

 

(全く違う太刀筋(たちすじ)からの三方向同時(・・)攻撃『燕返し』を()()げたコジローだの、(びん)に封じたガラス玉を『瓶を斬らずに』斬ってみせたヨーキだの、そんな化け物がいるなんて……)

 

 

いや、いない。でたらめの創作話である。

 

 

しかし、そんなでたらめ技も武技として実現可能かも知れないのが、この世界である。

 

 

(……なぁ、ガゼフ。俺達は棒切れを振る子供みたいなもんだったんだ。上には俺らが逆立ちしたって敵わない奴らが……あぁ、俺もそんな領域に踏み込む事ができるだろうか。いや……やってみてぇ、やってみせるぞ、俺は。お前はどうだ、ガゼフ。俺を止められるか?)

 

 

口車に乗せられている事はさておき、ブレインの意思は固まりつつあった。

 

 

「……なぁ、ところでリオンよぅ、方角はこっちで合ってんのか?」

 

 

「はい、もう少しですよ」

 

 

「いや、もう少しって……どう見ても前方にあるのは城なんだが」

 

ブレインは「いや、まさかな……」と疑念を抱きつつ付いて行くが……

 

 

 

 

 

「さ、着きましたよ」

 

 

「いややっぱ城じゃねーか!!……おい、お前らの『旦那様』ってのは」

 

 

「もちろん、ジルクニフ・ルーン・ファーロード・エル=ニクス皇帝陛下です。ね? 『ニンブル』さん」

 

 

茶目(ちゃめ)()たっぷりにニンブルへ話を振るリおん。

 

ブレインは「はぁ!?」と目を()く。

 

 

「すみませんね。『目立つな』との御命令でして」

 

(すず)しい顔で変装を()くニンブル。

 

 

「……『激風』ニンブルとはな。あん時マジで斬り合いしてたら、めでたく指名手配犯になってたわけだ」

 

 

「フッ、あの時はヒヤヒヤしましたよ。リオン君まで(あお)り始めるんですから」

 

 

「……つーかよ、宮仕(みやづか)えなんて嫌だぜ? 俺」

 

 

行き先を知ってゴネ始めたブレインを、リおんが説得する。

 

 

「ご安心下さい。『雷光』バジウッドはご存知で?」

 

 

「……ぁー、まぁな?」

 

 

「路地裏でケンカばかりしてた人です。言っては何ですけど礼節(れいせつ)なんてサッパリな方ですよ。それでも『構わん』と側に置くほど陛下は寛大(かんだい)な方です。堅苦(かたくる)しい事は言いませんよ」

 

 

「それは、そうだが……」

 

 

折角(せっかく)ですし一度お会いするだけでも。(だま)されたと思って」

 

実際に騙しているのだが。

 

 

敷地内に入るとリおんは「先触(さきぶ)れ行ってきます!」と言ってニンブルやブレインの言葉も待たずに『ぴゅー』と走り去った。

 

城内の廊下は走るなよ?

 

 

《皇帝執務室》

 

 

「どうしたリオン。今日は歌いに出たのではなかったか?」

 

 

「陛下、ブレイン・アングラウスが来ました」

 

 

仕事の合間の談笑(だんしょう)中だったらしく(なご)やかな雰囲気(ふんいき)だったが、リおんが単刀直入に告げるとジルクニフは目の色を変えた。

 

 

「本当か!? でかしたリオン。これは是が非でも(つか)まえておかねばな」

 

 

「つきましては彼の希望に関して聞いて頂きたい事が」

 

 

「何か聞き出せたか」

 

 

「一つ目に、そもそも彼は宮仕えが嫌だとか。騎士よりは剣術指南(しなん)役のような立場の方が肩が()らなくて良いのではないでしょうか」

 

 

「ふむ、指南役、か。なるほど物は()(よう)だな」

 

 

「二つ目に、今以上に剣の腕を(みが)きたいようです。鍛練(たんれん)に必要な事は万全(ばんぜん)に支えると確約(かくやく)すれば喜ぶでしょう」

 

 

「今なお向上心があるのは素晴らしいな」

 

 

「あと陛下、こちらを」

 

 

そう言ってリおんは、ポーチから一振りの日本刀を取り出した。

 

 

そう、先回りしたのはこれが目的だった。

 

 

黒に近い深い(あい)柄巻(つかま)き、雲をイメージした()かし(ぼり)(つば)、光沢ある黒い(さや)は光の加減で青くも見える。

 

派手さはないものの一目で高級そうだとわかる(こしら)えだった。

 

 

(めい)を『朝東風(あさごち)丸』といいます」

 

 

渡されたジルクニフは驚きつつ、ゆっくりと鞘から刀身(とうしん)を引き抜く。

 

板目肌(いためはだ)濤乱刃(とうらんば)

 

どこか神聖な光を放っているように見える。

 

 

バジウッドら、この場にいないニンブル以外の四騎士達も息を呑んだ。

 

 

「……良いのかリオン。このような業物(わざもの)を」

 

 

「陛下の、帝国の利益となるなら何も()しくはございません。どうお使いになられるかは陛下のお考え次第ですが『陛下の財から出した』とすれば、ブレインも恩義(おんぎ)を感じるでしょう」

 

本心である。

 

ただし『そもそも投げ銭だから元手はタダだし、剣なんて使えないから自分が持っていても意味がないから』という部分も含めての話だが。

 

 

実際、頑丈(がんじょう)で神聖属性付与(ふよ)だから霊や悪魔なども斬れるとはいえ聖遺物級(レリック)でレアリティは高くない。

 

(そんな風に言えるのはアインズ・ウール・ゴウンのギルメンで投げ銭ドバドバなアイドルのリおんだからではあるが)

 

『売っても高々白金貨300枚くらいだろう、が、帝国の将来に資するとなれば貨幣換算できないほどの価値になる。投資としては安すぎる。ボロ(もう)けだ』

 

と、リおんは考えていた。

 

 

金銭感覚が狂っている?

 

心配ない。いつも国家財政の規模(きぼ)で見ているから、こんなものだ。

 

 

それはさておき、帝国の将来にかけるリおんの期待を感じ『無駄(むだ)にはせん。必ず(むく)いよう』と力強く(うなず)きジルクニフは受け取った。

 

 

 

 

 

 

その後、ニンブルに連れられて来たブレインとの歓談(かんだん)は、リおんの(かな)でる音楽をバックに、事前の情報もあって順調に進んだ。

 

 

ジルクニフから下賜(かし)された朝東風丸を、ブレインは手を(ふる)わせながら受け取る。

 

 

「試してみるか? お前の腕も見てみたい。外に巻藁(まきわら)を用意させよう」

 

 

ジルクニフの提案に、一同は移動。

 

他の騎士達も見守る中、ブレインの居合(いあ)いが披露(ひろう)される。

 

 

構えたブレインは、(にぎ)った瞬間、まるで()っ先まで神経が(かよ)ったかのように馴染(なじ)む感触に戸惑(とまど)う。

 

そして、気付けば振り抜いていた。

 

 

熱したナイフでバターを切るより(すべ)らかに刃は通り、風切り以外は一切の音を立てずに巻藁を抜ける。

 

まるで初めからそうであったかの(ごと)く、切断された上部がフワリと落ちると、見ていた者達に感嘆(かんたん)が広がった。

 

 

朝東風丸の切れ味も()る事ながら、無駄のないブレインの抜刀(ばっとう)に、ニンブルなどは寒気(さむけ)すら(おぼ)えた。

 

『一歩間違えば自分はああ(・・)なっていた』と。

 

 

鞘に収めたブレインはジルクニフに両膝を突き、頭を下げつつ朝東風丸を(ささ)げ持ち(もう)()べた。

 

 

「先程の件、(つつし)んでお受け(いた)します」

 

 

この期を(のが)せば、これ以上の一振りに出会う事はないと確信して。

 

 

 

 

 

 

 

 

……その頃、『死を撒く剣団』は契約する事になっていた凄腕用心棒が「その前にマジックアイテム見てくるわ」と出かけたきり帰って来ない事で気を()んでいた。

 

 

契約を反古(ほご)にされたと気付くのは、まだ少し先である。





野盗団…( ;∀;)
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。