【完結】おおかみ☆せんせーしょん(ハーメルン移植版)   作:ブドウ冷やしんす

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よく人は「未来を切り開く」などというが、未来とは往々(おうおう)にして「向こうからやって来るもの」である。

望むと望まざるとに(かかわ)らず。


モラトリアムの終わり

 

リおんはジルクニフに顛末(てんまつ)を説明していた。

 

 

随分(ずいぶん)と面白い事になっていたようではないか」

 

 

「……ご報告が遅れまして大変(もう)し訳無く思っております

 

 

「いかんなぁ、そういう面白そうな話は真っ先に私へ知らせるべきだろう」

 

 

「……はい。本当にすみませんでした

 

 

ジルクニフとしては言葉通りの苦情でしかないのだが、リおんは『遠回しな叱責(しっせき)』だと思い込み、顔を青くしていた。

 

 

「それはそうとリオン、その『騎士のアンデッド』を知っているのか」

 

 

「はい、死の騎士(デス・ナイト)ですよね。故郷ではよく見かけたので」

 

 

『どんな魔境だ』という、いつもの感想をジルクニフが抱いているとフールーダが、

 

「リオンや、そ、それならばアレを支配下に置く方法など知らぬか?」

 

 

「支配ですか……ネクロマンサーとして格を上げるくらいしか……すみません、死霊術については詳しくないので」

 

 

珍しく正攻法な答えしか返って来ずフールーダは肩を落とす。

 

 

一方リおんは『強さ』という事について『ユグドラシルの魔法や、多分、レベルという概念(がいねん)があるのだから、この世界に適用するための解釈(かいしゃく)があるのではないか』と、考えを(めぐ)らせていた。

 

 

「ニンブル、アレを見てどう思った」

ジルクニフが問う。

 

 

「情けない返答をお許し下さい。ガゼフ以上に(おそ)ろしく感じました」

 

 

「ほぼリオンが倒したらしいが、歌の援護を受ければ倒せそうか?」

 

 

「……四騎士全員でかかれば、恐らく」

 

 

ジルクニフが、やや『信じられん』とリおんに視線を向けた。

ニンブル以外の三人も同様。

 

(そろ)って『こいつ護衛とか要らないんじゃね?』と思った。

 

本人は『キョトン』としている。

 

 

まぁ悪い事ではない、とジルクニフは思い直す。

 

歌う猶予(ゆうよ)さえ得られれば護衛役は誰でも問題ない。

 

むしろ本人の方が強いくらいだ。

 

過度に警戒態勢を()く必要も無い。

 

 

リおんとブレイン、四騎士がいる今、戦力的には王国を完全に凌駕(りょうが)してもいる。

 

……本人の性格が性格なので、油断は禁物だが。

 

 

「それはともかく」とジルクニフが咳払(せきばら)いをしつつ、

 

「そのエルフ達の所有権を得たようだが、どうするのだ?」

 

 

リおんの後ろではエルフ達が(ちぢ)こまっていた。

 

気が付けば皇帝の前に連れて来られていたのだから、仕方ない反応だろう。

 

 

「奴隷の主人になる気はありませんので、所有権は放棄(ほうき)するつもりです」

 

 

「フッ、そうか。まぁ、それはお前が決める事だ。好きにすれば良い。だが、それならば何故(なぜ)わざわざ連れて来た?」

 

 

「それなんですが、彼女達、耳を切られてますよね」

 

 

「うむ、奴隷、いや元奴隷だからな」

 

 

「ですので、治してやりたいと思いまして」

 

 

「……治す? 失った体の一部を取り戻せると!?

 

 

「あ、いえ、理論上は、といいますか……実例を見た事は無いんです。一度(すた)れた技術なので」

 

 

「ほう……廃れるからには理由があるのだろう」

 

 

「いえ、技術に問題があったわけではなく、単に景気が悪くなったからという理由で……」

 

 

ジルクニフは『複雑な表情』をした。

 

一番近いのは『(あき)れ』だろうか。

 

それと同時に、国を守る王としては『安堵(あんど)』も感じていた。

 

 

帝国の歴史が生み出した政治的怪物であるジルクニフの胸中を()(はか)るのは難しい。

 

 

「そうか……しかし、もし実現できれば素晴らしい。手指や足を失った傷痍(しょうい)軍人達が、どれほど希望を見出す事か」

 

 

皇帝の権威(けんい)を維持するために重要な問題だった。

 

帝国は傷痍軍人達へ少なくない補償をしているが、それでも立ち直れない者は多いのだから。

 

 

「ここ最近の軍事革新といい、兵から尊敬(そんけい)を集めるだろうな」

 

ジルクニフはそう言ったが、リおんは、

 

「いえ陛下、求心力が分散するのは良くありません。あくまで僕は裏方という事で、どうか内密に」

 

 

「リオン……お前という奴は……」

 

名誉すら()するリおんの姿勢にジルクニフは感じ入った。

 

「それで、彼女達で治験(ちけん)を行いたいのですが」

 

 

「反対する理由がない。爺、頼むぞ」

 

 

(かしこ)まりました陛下。ではリオンや、説明を」

 

 

「はい。体には元通りの状態に戻ろうとする力はあるのですが、欠損(けっそん)を神官達が治せないのは……そうですね……家の修繕(しゅうぜん)に例えるなら『柱や基礎がなくなったのに壁の張り替えをしようとするようなもの』でしょうか。なので『基礎』を外から(おぎな)ってやれば治癒魔法でも欠損部位の再建が可能だろうと」

 

 

「なるほどのぅ。では何か薬を作るという事かのぅ」

 

 

「えぇ。まず豚の……」

 

ここから先は興味のない者には退屈だろうから割愛しよう。

 

 

彼が何をしようと考えたか興味があるなら『細胞外マトリクス』を検索すれば良い。

 

科学と魔法の違いはあれど、やろうとしている事は同じだ。

 

豚の体組織を魔法で処理し、目的の成分を抽出(ちゅうしゅつ)しようというのである。

 

 

だがリおんは『細胞』については説明しない。

 

何故なら、それはいずれ『遺伝子操作』に(つな)がる概念(がいねん)だからだ。

 

リアルの惨状(さんじょう)を作り出した技術を伝える気はないのだろう。

 

ナザリック教の、特に言えばブルー・プラネットの教えを先に広めておけば、やがて遺伝子操作技術に到達しようと自重(じちょう)してくれるのではないか、と考えているようだ。

 

 

確かに方法としては正しい。

 

だが根本的な原因については勘違いしている。

 

知識を得た順序という問題ではない。

 

リアルが破綻したのは『神が死んだから』だ。

 

 

人間は、(おろ)かだ。

 

人の知性とは傲慢(ごうまん)さと表裏一体であり、自らを(おさ)え付ける『目に見えぬ強大な摂理(せつり)』が心の中から失われれば、必ず間違いを冒す。

 

 

(もっと)も、死霊(レイス)などのゴースト系アンデッドが普通に存在するこの世界では「目に見えるものしか信じない」などという者は発生しないで済むかも知れない。

 

そういう莫迦(ばか)は、おかしな思想に目覚める前に、目に見えない環境問題や経済構造に追い()められるよりも先に、勝手に死んでくれるからだ。

 

 

強靭(きょうじん)な他種族に(あふ)れるこの世界は、確かに生存競争の上では厳しいが、全ての人間から『美徳』が失われてしまい(にく)いという点に()いては、ある意味で優しい世界なのかも知れない。

 

 

閑話休題。

 

 

()くして一週間後、魔法省の尽力(じんりょく)により治癒魔法と併用(へいよう)する『人体補修剤』が完成した。

 

 

……いつぞや関連技術である『フリーズドライ』をスルーした件でフールーダはジルクニフに小言を言われていたが。

 

 

「これより治験を開始する」

 

フールーダの言葉で、魔法省にて治験が始まった。

 

 

エルフ達のうち、ドルイドのサエルアンナが最初の被験者(ひけんしゃ)になる。

 

 

蛇足だが、他のエルフの名はレンジャーのリウリンド、神官のモラノールである。

 

 

局所麻酔を(ほど)した上で半端(はんぱ)な形で(ふさ)がりかけている欠損箇所(かしょ)を開き、補修剤を塗布(とふ)し治癒魔法をかける。

 

軽傷治癒(ライト・ヒーリング)中傷治癒(ミドル・キュアウーンズ)重傷治癒(ヘビーリカバー)と、その都度(つど)、回復の度合いを比較、記録しながら治療を進める。

 

 

最初は誤差(ごさ)程度にしか見えなかったのが少しずつ『()びた』とわかる長さになってくると、最初は半信半疑おっかなびっくりだったエルフ達も感動からポロポロ泣きだし、幾人(いくにん)かが魔力切れで倒れ、サエルアンナの耳が半分ほど再建された頃には三人揃ってわんわん大泣きしていた。

 

 

その日から、個人差など記録しつつ治験は行われ、初日から一週間ほどで三人の耳は完治した。

 

 

エルフとしての尊厳(そんげん)を取り戻した三人にリおんが()げる。

 

「さぁ、これで胸を張って生きていけるね。支度金(したくきん)もあげるから、自由に自分の人生を生きればいいよ」

 

 

三人を代表してサエルアンナが()べる。

 

「はい、リオン様への感謝は言葉では表せません。我ら一同、誠心誠意(せいしんせいい)(つか)え申し上げます」

 

 

……あれ ?

 

 

「まぁ当然そうなるだろうな」

 

呆れたようにジルクニフは(つぶ)く。

 

 

……え ?

 

理解できていないのはリおんだけだ。

 

 

「形だけなら護衛にもなるし、楽器の演奏でも仕込めば良かろう?」

 

書類に目を通しながら事も無げにジルクニフが助言する。

 

彼女達の(あつか)いが決まった。

 

 

 

 

 

 

 

「いやー良かった! 本当に良かった!」

 

耳が元通りになったエルフ達をイミーナが我が事のように寿(ことほ)ぐ。

 

 

ちなみに今は歌う林檎亭で『リおん闘技場デビュー』の打ち上げ中だ。

 

 

デビューと言っても『いきなり鳴り物入りで単独ライブはアンチが発生しそうだ』と、試合の前座として歌うに(とど)めた。

 

 

エルフ達も努力しているものの、まだ練習中という事でリおんのみの演奏。

 

それでも、かなり良い反応を得られたらしい。

 

興行主(プロモーター)のオスクなど「是非また頼みたい!」と感謝していた。

 

一緒にいた『首狩り兎』は恐怖から硬直していたが。

 

リおんは種族的にか本人の感性からか、むしろ興味津々(きょうみしんしん)で「お友達に」などと目を(かがや)かせていたものだから、余計(よけい)(ふる)え上がっていた。

 

 

オスクの反応、これには理由がある。

 

実はリおんの場合、フレーバーテキストや変質したスキルの影響で呪歌以外の『普通の歌』ですら特殊効果を付与(ふよ)できてしまうのだ。

 

もちろん呪歌ほど高度な効果は望めないが『高揚(こうよう)』『鎮静(ちんせい)』『恐怖』『混乱』など、単独の精神的効果であれば、この世界の一般的な吟遊詩人(バード)以上の影響力を持っている。

 

そのため観客は(おろ)か、控室(ひかえしつ)の待機選手にまで『高揚』の効果が(およ)び、試合運びがとても盛り上がったのだ。

 

 

ちなみに歌った曲は『SKILL』だった。

 

近年(まれ)に見る熱戦、接戦、大番狂わせのオンパレードで、観客としては『大当たりな日』になった。

 

尤も、ギャンブル目的の連中にとっては『どんでん返し』のせいで厄日(やくび)になったようだ。

 

 

それと、最近は戦う意欲が()かないと(なげ)いていた武王のハートに火が付き、トーナメント決勝後に飛び入り、優勝チームが玉砕した件は……まぁ、ご愁傷様(しゅうしょうさま)としか言いようがない。

 

 

 

この場にいるのはリおんとニンブルとエルフ三人娘(娘と呼ぶには一人年嵩(としかさ)なのはいるが見た目としては問題なかろう)、フォーサイトはアルシェを(のぞ)く三名。

 

少し前にはアルシェもいたが「夜も()けてきたから」と帰宅していた。

 

 

「これからは闘技場がメインですか?」

 

ロバーデイクが(たず)ね、リおんは答える。

 

「いつも闘技場でやれるわけじゃないし、これからもちょくちょく来るよ」

 

 

続く形でニンブルが

 

「私は護衛役を()かれる事になりました。エルフ達もいますからね」

 

 

「そうですか。少し(さび)しくなりますね」

 

 

エルフ達の事、ブレインの噂……

 

フォーサイトはリおん達の立場について『止事無(やんごとな)き御方に近しい人物ではないか』と薄々気付いていた。

 

市井(しせい)の様子を探るために放たれた密偵かも知れない』と。

 

だが、その人となりを考えれば決して恐ろしいだけの人物ではない。

 

ならば『仕事』の邪魔はするまいと、わざと気付かない振りをしていた。

 

 

(なご)やかに話していると、(あわ)ただしい様子で駆け込んで来る人物が一人。

 

帰ったはずのアルシェだった。

 

顔色悪く、憔悴(しょうすい)しきっている。

 

 

リおんが聞いた。

 

「ど、どうしたのアルシェ。何かあった?」

 

 

……お願い、力を貸して! 妹達が見つからないの!!





モラトリアム──精神分析学の用語。

本来は「支払い猶予(ゆうよ)期間」の意であったのを転じて,社会的責任を一時的に免除(めんじょ)あるいは猶予されている青年期をさす。
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