三人の方法   作:しおつ

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曖昧模糊

宿屋の前でシュン、ソラ、リアと分かれた後、俺はそのまま街の探索へ出向いた。

何故元よりこの王国にいたリアが居るにも関わらず、俺が街の探索に行くのか、それはリアが重度の方向音痴だったからだ。

魔術学院に通っていたとは言っていたが、学院は寮制らしく、外に出る機会が少なく街の地形をあまり覚えていないのだとか。とはいえ、学院内で迷う事も何度かあったらしく、地理のレベルは推して知るべしだろう。

 

探索を始め、体感一時間程経過した。

普段の生活に必要な物資を整えれる商店街や、探索者集会所への経路、国を囲う楕円の城壁、楕円の角度の着いた弧にそびえ立つ神を象った像と王城、リアの通っていた魔術学院など、様々な建物の位置を頭の中へ叩き込んだ。

思っていたよりも未知の地での地形の把握は難しいものだったが、音を上げるほどのものでは無かった。

 

そして、相当の距離を歩いた弊害か、地形を覚える集中力が途切れ始め、次第にあることを考えてるようになってきた。

それは初日のシュンの暴走について。

勿論俺たちは、あの日初めてこの能力に気付き、初めて使用したものだ。頑張っても猪を吹き飛ばす程度しか出なかったものが、いきなり地面を抉る程の威力を、一日気絶する程度の代償で出せるのか?

普通に、少なくとも俺とソラの常識であれば有り得ないものだ。

 

あの時、シュンの中で何かが起こり、そして代償として何かを失ったはずだ。でないとただの一般人があんな威力を叩き出せるはずがない。それはリアを見れば分かるものだ。

魔術学院を卒業した者でさえ、範囲と威力は暴走したシュンには遠く及ばなかった。おかしいと思わない方が不自然だ。

 

そして先日のピグリン掃討で理解したが、シュンは根本的に何処か狂っている。あまりにも切り替えが早すぎるのだ。

シュンは、敵を殺す事への容赦が無さすぎる。動物を殺す葛藤が一瞬しか見受けられなかった。ソラも最初の戦闘の最中は集中していたせいかその様子は見せなかったが、終わってから気分を悪くしていた。俺もそうだった。

が、シュンだけは違った。これは適応能力なんてもので片付けられる問題では無い。倫理的な部分でどこかシュンは狂っている。

 

思い返してみれば、あの時も

 

「キャァァァアアア!!」

 

突如響いた女性の悲鳴が、俺の思考を止めた。

悲鳴が聞こえたのは左の路地、急いで声の居場所へ向かった。

 

 

 

 

「ブラストォォォ!目を覚ましてぇぇ!」

 

距離は離れていなかったようで、走って三十秒もせずに悲鳴の場所まで辿り着いた。

 

目の前の悲惨な光景に、度肝を抜かれた。

そこには二人の人が居た。一人は胸から大量の血を流して横たわっている男性、もう一人は男性の肩を揺さぶりながら泣き喚いている女性。

男性の胸には無数の刺し傷があり、もう動く気配がない。

辺りには血が飛び散り、明るかった路地の道も赤黒く染められている。

あまりに凄惨な光景に一歩後退りをしてしまう。

が、ここで逃げ出すことも出来ない。

歩くのを拒む足を無理矢理動かし、女性へ近付く。

 

「そこの方!一体何があったんです!?」

「ブラストがぁ!ブラストが刺されたの!」

 

ブラスト、恐らくこの倒れている男性のことだろう。

男性にも女性にも、左手の薬指には太陽の光を反射する細い銀のリングが嵌められていた。

 

「一体、誰に刺されたのですか?」

「誰?誰に…いや、あの顔は何回も見たことがあるわ!」

 

俺と目の前の男女しかいなかった路地は、徐々に野次馬が集まり始めいつの間にか人で溢れ返るほどになっていた。

その人ごみの中を、女性は指差した。

 

「あんたよ!リオラ!」

 

指を差した先には、目測百七十センチ程度の男性がいた。

 

「は?は!?何言ってんだよ!」

 

リオラと呼ばれた男性の周りから人が離れていく。

すかさず男性へとダッシュし、後ろに周り手を縛って組み伏せた。

 

「痛い痛い!ちょっと待て俺じゃない!信じてくれ!」

「すまない、確証を持ってこうしている訳では無いが、容疑者として拘束だけはさせてもらう。」

「そもそも俺は今日初めてここに来たんだ!そりゃああの子とは知り合いだが、俺があの子を殺す理由はねえ!それにアリバイだってあるんだぜ!?」

「嘘言わないで!あの顔は完全にあなた以外居ないのよ!」

「俺は今日、ずっとガールフレンドとデートしてたんだ!その最中君らには会ってないし、ガールフレンドの傍から離れてもいねえ!」

 

色々と話が噛み合わない。

女性の見間違いか?でもここまでの勢いで問い詰めることが出来るというのは確信から来るものだろう。

リオラと呼ばれた男性も、ガールフレンドとそのデートを見ていた人からの聴取で確認が取れるだろう。

今の所、個人的には女性の見間違いだと思うが、細かく調べない限りは分からない。

 

そうこうしていると、野次馬が更にざわつき始めた。

見てみると、奥の方から騎士の様な人達が駆け付けてきていた。人数は六人、教科書で見た事があるような西洋の白銀の甲冑装備だ。全員が同じような装備だが、うち五人はヘルメットを付け、残り一人は付けていない。整った顔がハッキリと見え、揺れる金髪の細部の動きまで視認できる。

 

「我々はアルデス王国騎士団、治安維持担当代表のレウン・アルデスです。ここで何があったか教えて貰えませんか?」

 

レウン・アルデス?姓がアルデスってことはこの人は王族か?

 

「こいつが!こいつが私のブラストをぉぉ!」

「まだあの女性の心の整理がついていないようで、俺の方から状況を説明します。」

 

 

 

 

 

「うん…大体は把握出来たよ。ありがとう。」

「拙い説明で申し訳ありません、役に立てたのなら幸いです。」

「大丈夫、この状況下でも君は冷静さと語彙を失ってはいなかったよ。自信を持ってくれ。…よし、これから我々は事件現場の調査と容疑者、被害者の配偶者、アリバイ立証者の事情聴取を行うことにする。協力感謝するよ。またどこかで機会があれば、その時は礼をするよ。風神の加護があらんことを!」

 

そう言って女性とリオラと呼ばれた男性、そして被害者の男性を引き取って去っていった。

 

凛々しい顔立ちにしては柔らかな優しい声をしていた。手際も女性の宥め方も上手かった。ああいう人が人から慕われていくんだろう。

 

証言の齟齬で分からないもあったが、きっと騎士団の方々がどうにかしてくれるだろう。結果を待つだけだ。

もう日も暮れてきた、宿屋に戻ろう。

 

しかし、容疑者の男性に少しも返り血が着いていなかったのは不思議だ。周りを染めあげる程の血の量だ、もはや全身に浴びるように血がかかっているはず。それなのに服どころか髪にも一滴も血は着いていなかった。拭き取るにしても、事件発生から現場に野次馬として到着するまでそんなに早くできるものなのか?

 

少しの不可解を現場に残して、路地を後にした。

 

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