アリナ・グレイは、魔法少女となった。
自分だけのアトリエをもらう代償として、魔女と戦う宿命を背負った。そして、いつ死ぬかも分からない命懸けの日々が始まる。
しかし彼女にとって、それはなんの問題にもならなかった。
アリナにとって魔女との初戦は新たなアートワークの切っ掛けに過ぎなかった。
恐怖は無い、あるのは好奇心と興奮。
その感情はアートワークの幕開けの合図。
彼女にとって魔女はとても美しく、彼女の目には悪夢の様で怪奇な魔女がどうしようもなく美しく写った。いつしか魔女は創作の材料となった。
アリナ・グレイの固有魔法「結界生成」
その力は、魔女を作品として扱う事など造作もないと言える程強力なものだ。
彼女は力を手に入れた。
そしてそれは、傲慢に、貪欲に、強欲に、アートワークに振るわれる。
その間、七海椎名が目覚める事はなかった。
当然と言えば当然。
魔法少女になって助かったアリナと違い、そもそも生身であの高さから落ちて生きている事が事態奇跡だった。
***
数ヶ月後
深夜の里見メディカルセンターの一室に明かりが灯る。
その中に、四人の影が写った。
その者達は魔法少女。
願いを叶える代償として、戦いの運命を背負わされた少女達だ。
四人の中で一番年長であろう白髪の女性、梓みふゆが、その病室のベッドで眠るかのように意識を失っている少年に近づく。
「本当に……やるんですか?」
少し悲しそうに呟かれた言葉は誰に向けたものなのか、もしくは、自分自身に説いたものかもしれない。
「もう、決めた事だろう?」
悲痛そうな表情をするみふゆを見て、呆れたように、おさげの少女、柊ねむが冷たく言った。
「ですが………こう…いざ彼の顔を見ると……」
「見たく無いなら外に出ていけばいいワケ」
同じく冷淡にそう言ったのはアリナ・グレイだ。
アリナはみふゆを押しのけベッドに近づき、そこに居る少年、
七海椎名の顔をなぞった。
「そもそもアリナがマギウスに参加する利害関係の中に、椎名の意識を覚醒させるってのも含まれてるワケ。みふゆが今頃拒否しても、ストップなんてしないんですケド」
「でもこのやり方はあまりにも…」
「別に、あとから椎名は文句なんて言わないと思うケド?」
「…それでも…彼は魔法少女の運命に何も関係も……」
みふゆは言いかけて、それが失言だと直ぐに気付いた。
関係ない訳がなかった。
彼の周りには魔法少女があまりにも多い。
後輩、親友、家族、恩人。
彼が直接魔法少女の運命に苛まれていないとしても、その運命は容赦なく椎名の親しいものを犯す。
知らない間に親しい者がいなくなり何一つ出来ない間に絶望させる位なら、その先にあるのが悪夢だとしても、一緒に地獄を歩かせる方が彼にとっても本望だろうと、つい数日前にアリナが言った事をみふゆは思い出す。
みふゆはそこまでの極論を語るつもりは無いが、確かに何も知らない椎名をこのまま一人ぼっちにさせるのは酷だとも思ってしまう。
それでも、他に道は無いのか迷いは生じる。
この悪夢に、希望が無いわけでは無い。
みふゆはハッとする。
希望は確かにある。
だから彼女はここにいるのだ。
それを彼の顔を見ただけで忘れてしまうのは、まだみふゆに迷いがあるからかもしれない。
だがそれも捨てなければならない。
「……すみません…後は任せます」
その一言に覚悟も含め、彼女は一歩下がる。
「では、始めようか」
柊ねむが椎名の前に立つ。
「これより彼に、『ウワサ』を着せる」