パシリレコード   作:Ringseiran

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第十一話 マギウス 下/邂逅その2

「マギウスの翼に入って椎名に何かやって欲しいとか、特にそういうのはないんだよね」

 

無邪気な顔でそう言った灯花の表情は、まるで悪戯をして隠そうともしない子供の様だった。

 

それを内心可愛らしいと思う椎名だが、状況としては初めの疑問に戻ってしまった。それどころかどうして自分にウワサを纏わせたのかも分からない。

 

聞くところによればウワサを作るのには大きな代償が必要らしい。そんなデメリットを払ってまで何故自分に力を与えたのか、流石に実験というのはないだろうとアリナが灯花の仲間である手前信じたいが、いよいよその線が濃くなってきた。

 

「悩んでる♪悩んでる♪」

 

苦悩する椎名を見て楽しそうにしている灯花。

 

それを見かねたみふゆが彼女に苦言を呈した。

 

「灯花、あまり人をからかうのは良くないですよ」

 

指摘された灯花は、少し不機嫌そうに鼻を鳴らす。

 

「フンッ、別にいいじゃん、椎名が怒ってるわけでもないし、それに、万能少年がこんなに悩んでるところなんて中々見れないよ~」

「はぁ…」

「む、俺は人より物覚えはいいが、特段頭脳明晰という訳ではないんだが」

 

失礼な灯花を見てため息を着くみふゆ。椎名はそれとなく灯火の認識を正そうとしたが、聞き入れる様子もなさそうだったので、大人しく質問に戻ることにした。

 

「一旦この疑問は置いておく」

「え~いいの~?」

「よくはないがまた別の疑問も生まれたんだ。灯花、ウワサと言ったな、俺はその力で何が出来る」

 

椎名がみふゆから聞いたウワサについての情報は二つ。

 

1つ目はウワサによって感情エネルギーというものを集めていること。

 

2つ目はウワサは柊ねむによって作られているということ。

 

つまりは、具体的にウワサというものがどんなものなのか知らない。

 

「あれ?みふゆからウワサについては聞いてるよね?」

「ああ、それをどう運用しているかはな、それ自体の詳細は聞く前に灯花が来たから聞けていない」

「みふゆぅ~」

「言っておくがみふゆさんは悪くないぞ、先ずは大まかな現状と情報が知りたかったから掻い摘んで説明してもらっていたんだ。細かい事は後でまとめて質問してもらおうと思っていた」

 

そもそもウワサという単語が急に出てきても違和感が無いくらいには新しい情報が乱雑していた。それで逐一補足を入れられていたら進む話も進まない。

 

「で、何が出来るんだ?俺は魔女と戦えるのか」

 

出来ること次第で今後の方針が決まる。

 

彼女達が大義をなそうとしている事は理解した。

 

そして、彼女達が背負う運命も。

 

もし自分が魔女と戦えるのなら、進む道はもう決めている。

 

「結論から言うなら、戦えるよ」

「…そうか」

 

だったら疑問は、解決する必要すらなくなった。

 

「灯花、みふゆさん」

 

椎名は二人を見据える。

 

「俺を、マギウスの翼に入れてくれ」

 

その言葉を待っていたかと言わんばかりに灯花は上機嫌に笑顔を浮かべる。一方みふゆは複雑な表情を浮かべ何か口ごもっていた。

 

「お前らが俺にウワサの力をくれた理由はそのうち聞く。それより今俺にとって重要なのは、マギウスの翼に協力して魔法少女を救う事だ」

 

椎名は別に全ての魔法少女の救済をするなどというつもりは無い。ただ身近にいる、大切な魔法少女を救いたい。

 

マギウスの翼の計画は、これ以上ない機会だ。

 

「俺をお前らの計画に利用してくれ」

 

例えどんな役回りになったとしても、大切な人達を救えるのなら椎名は何者にでもなるつもりだ。

 

「いいよ」

 

その返答は、椎名の覚悟に比べあまりにもあっさりとしたものだった。

それに少し戸惑うが、確かにその要求は承諾された。

 

「感謝する」

 

そしてもうひとつ、椎名は彼女達に頼まないと行けないことがあった。

 

「あと」

 

あまりに壮大な話の中すっかり忘れていたのだが、これだけは一つどうしてもやっておかなければならない事だ。

 

「アリナを呼んでもらえるか?」

 

彼の額には、血管が浮き上がっていたという。

 

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 

その後とりあえずみふゆさんと灯花には席を外してもらい。椎名は呼び付けたアリナと大切なお話をした。

 

自殺未遂に魔法少女の契約。

色々と話したい事が多すぎたこともあり、思わず感情が高まり激しくアリナと言葉を交わす事になった。つまるところ、喧嘩をした。

口喧嘩で済ませられれば良かったのだが、結局激昂したアリナに魔法を使われ、椎名はそれを捌きはじめ、最後は普通に魔法とウワサの力を使った喧嘩となった。

思えばアリナとの初めての喧嘩。

それがまさか人智を超えたものになるとはさしもの椎名も考えもしていなかったことではあるが、いくら憧れであり親友であるアリナであっても譲れないものは椎名にもある。

 

結局最後はフェントホープの一室と庭園を一部破壊した後、みふゆを含む大人数の白羽根・黒羽根に抑えられ終結となった。

 

今回の事件をきっかけに、アリナが完全に反省するとは椎名はハナから思っていない。これを気に、もしこれから悩み事を抱えることがあったら、自分にもできる限り共有してくれれば御の字、程度の期待である。しかしそれさえ、彼女には言葉では届きそうにないのだから、拳で語るしかなかったのだ。結果的にマギウスの翼に入って早々灯火やみふゆに大目玉を食らうはめになったのは、彼としても少し反省はしてはいる。

 

それはそうと、椎名にとって幸か不幸かその喧嘩がきっかけでウワサの力をものにできたのは大きかった。

 

その日から即戦力となった椎名は、次の日には魔女狩りやウワサの管理へと駆り出され、数週間後にはすっかりみふゆに並ぶ幹部級の地位に収まっていた。現在はマギウスの側近という位置付けで、直接仕事をこなしている。

 

要はマギウスのパシリであり、グリーフシード集めにウワサの管理等、他にも様々な仕事を請け負っている。アリナの創作の材料が少し物騒になり、ぱしられてる対象に小学生二人が加わった程度だ。根本からすればやってることは部活とさほど変わらない。

 

明確に変わったことがあるとするなら、それは自身の力に他ならない。

ウワサの力は強力だ。

 

元から高い椎名の身体能力を神浜の魔法少女に匹敵するレベルまで向上させられる。

 

加えてウワサ固有の性質により、半端な魔女と魔法少女では相手にならのない程度には、椎名は戦えるようになっていた。

 

本来アリナ以外の人間にパシリとして使われるつもりはなかった椎名ではあるものの、マギウスの二人は命の恩人。大切なものには優先度はあるが、彼女らから伝えられる頼まれごとにも、それなりに応えることにしている。

 

そして今日、椎名がフェントホープを訪れたのも、そのマギウスの一人から頼みたい事があると連絡が来たからであった。

 

フェントホープのとある一室の扉前の廊下。

 

そこで立ち止まった椎名は、扉を三回静かにノックした。

 

「入ってくれ」

 

その言葉を耳にした椎名は、ゆっくり扉を開き入室する。

部屋に入って視界に入るのは、両端に本棚が置かれた書斎のような部屋。ベッドが置かれていたりする他の部屋とは違うことが一目で分かるその部屋には、一人の少女が校長室にあるような机を挟んで、此方に向いて座っていた。

 

「身体は大丈夫なのか?今日もウワサを作ると聞いたが」

 

少女と向き合った椎名は、彼女の身体を按じる。

 

「問題ない……と言えば嘘になるかな」

「おい!」

 

ここは問題ないと言い切って欲しい所だったのだが、椎名の予想通りらしい彼女の体調は、案の定優れてはいないようだった。その様子に、椎名は呆れたようにため息を吐く。

 

「はあ……お前に倒れられたらたまったものではないんだが……本当に大丈夫か?」

「私とてマギウスの一人、組織を纏める要人の一人さ。自身の体調管理は怠らない。なに、少しの会話なら問題ないと判断したんだよ」

「問題ない……ねえ……」

 

本当にそうなのかと、椎名は訝しむような視線を少女に送る。それにムッとした少女、柊ねむは、売り言葉に買い言葉と自覚しつつも口を開く。

 

「その観察眼は役立つが、こんな時にまで使わなくていい。私生活では目隠しでも付けていたらどうだい?」

「なんてこと言うんだ……」

 

あまりにも子供っぽい嫌味に、椎名はまたため息が出る。いや、実際この少女は子供であるのだが。普段の言動と立場のせいでその事実を忘れそうになるのだ。また、年齢に合わない聡明さも、彼女の印象を狂わせるのだろう。

 

しかし、椎名が彼女の身体を気遣うのも仕方がなかった。その理由は、彼女が腰掛けている車椅子を見れば、一目瞭然であった。

 

人を見た目で判断するのは良くないとは言え、普段からそんなものに座られてしまっては、心配しても仕方がない。いくら頑丈な魔法少女だと分かっていても、見た目は病弱な少女そのものなのだから。

 

「まあいい。それで俺への用事ってのは……そいつに関係が?」

「ほう……」

 

言い合いも早々に切り上げ、椎名は先程から気になっていた方向に目を向ける。椎名が向けた視線に驚いたのか、ねむは少し声を出す。だけどすぐに満足した様な顔を浮かべ、

 

「やはり気付いていたか。うん、その観察眼はまさにそうやって使うのが正しいと僕は思うよ」

 

そんな言葉を椎名に掛けた。

いい加減呆れる椎名だが、また言い返してもキリがない為、気になっている方向に顔を向ける。

部屋の隅。影になっているその場所は、一見誰もいないように見える。だが少し目を凝らせば、一人の少女が佇んでいるのが分かった。

 

「出ておいで」

「は、はい……」

 

ねむに呼ばれ、躊躇いながら姿を出す少女。

黒を貴重にしたスカートに、よく見慣れた黒羽根のローブ。フードを深く被っている為顔はよく見えないが、少しだけ見えた口元と声、そしてシルエットから、彼女とは初対面だと直ぐに気付いた。

 

「その子……新人か?」

「ああ、流石だね」

 

基本的にフードで顔を隠しているマギウスの翼のメンバーであるが、それだけで人間の特徴が完全に消える訳ではない。少なくとも口元は見えるし声は聞こえる。それに身長という大きな特徴が加われば、観察眼と記憶力に自信のある椎名には大体の区別がつく。

 

「自己紹介を」

「あ、……はい!えっと、私の名前は……」

「おいおい待て」

 

ねむに自己紹介を促され話そうとした黒羽根を、急いで椎名は静止する。理由は単純、マギウスの翼のルールのひとつに素性がバレる行動を避けるというものがあるからだ。組織の中枢を担う一部の白羽根やマギウスはともかく、黒羽根は基本的にこの決まりを守らなければならない。

ねむとてそのルールを知ってるだろうに、自己紹介を促さすなど、流石にイタズラがすぎるのではないか。そう思い、椎名は彼女を睨む様に見る。しかし当のねむはキョトンとした顔で、

 

「今回は特例だ。彼女の同意も得ている」

「同意って……お前、マギウスの翼の9つのルールは知ってるのか?」

「え、えっと……」

 

どこからどう聞いても知らなそうな声を出す黒羽根の少女。案の定の様子に椎名は頭を抱える。

 

「ルールその4、仲間内でも姿を見られてはいけません。素性がバレる行為は控えましょう。だ。覚えておいた方がいい」

「えっ!?は、はい!」

「ねむ、どういうつもりだ」

 

そしてまた、ねむを睨む椎名だったが、彼女はまた満足そうな表情を浮かべている。

 

「おい」

「ああ、すまない。少し試させてもらったんだよ。でも、予想通りで安心した」

「何?」

 

訝しむ椎名に、ねむは飄々と続ける。

 

「僕と君が顔を合わせてからもう四ヶ月ほど経っているが、如何せん君はアリナと灯火の頼み事ばかり聞いている。まあ、人となりは何となく分かってはいるけどね、確認は大切だろう?」

「確認?なんのだ?」

「お人好しという事実の、だよ」

 

そう言ったねむは、にやけるような表情を隠しもせず椎名を見つめる。椎名とてお人好しと言われて悪い気はしなかったが、どうにも話が見えてこない。どうも自分はマギウスに遊ばれる運命なのだと、椎名は内心諦める。

 

「はあ……、今の確認はその新人に何か関係があるのか?」

「無論だ。まあ聞いてくれ」

 

そう言ってねむは一拍置き、また話し始める。

 

「椎名、君は先程マギウスの翼のルールを口にし、それを破ろうとした僕を睨んだが、君は本当にそのルールを守っているかい?」

「あ?」

 

急な問い詰めに、椎名は思わず低い声が出る。

だが直ぐに咳払いをし、反論する為に口を開いた。

 

「生憎、しっかりと守っている。少なくとも、誰かさんと違ってな」

「ふふ、耳が痛い。だけど、嘘は良くないよ」

「何?」

 

思わぬ返答に、椎名は内心戸惑う。その様子に満足したらしいねむは、愉快そうに言葉を紡ぐ。

 

「ルールその6、割り当てられた仕事は二人以上で必ず行うようにしよう。どうだい?心当たりがあるんじゃないかな」

「……それは…………」

 

守っているかと言われると、否である。

椎名がマギウスの翼に所属してから早四ヶ月。グリーフシード集めやウワサの管理などの仕事は他の黒羽根や白羽根と共同でやっているとはいえ、それ以外の仕事。マギウスから直接パシラれる仕事は、一人でこなしている。だが、椎名とて言い分はあった。

 

「俺の仕事は普通の羽根達とは異なるだろう。それこそお前らの個人的な要望だ。一人で済ませられるし、黒羽根に手伝わさせるようなことでもない」

「でも、ルールを破っていることは変わらない」

「お前なあ……」

 

嫌がおうでも椎名がルールを破っていることにしたいらしいねむを前に、彼は一段と大きなため息を漏らす。なんかもう、ため息のバーゲンセールであった。

 

「故に、マギウスとしては現状を正さなければならないだろう?」

「はあ……何となく話が見えてきた」

「ふふ、流石だね」

 

椎名の察しは悪くない。寧ろ他人の数倍はいい。故に現状を鑑みれば、彼女がしようとしていることが何となくわかった。

 

「この黒羽根は、今日から君専属の黒羽根さ。相棒、もしくは部下かな?まあ、好きな関係を築けばいい」

「さっきの確認は、その為か?」

「騙されそうな新人を助けもしない者に、大切な人員は避けないからね」

「……言ってることがめちゃくちゃだ」

 

一人で済む仕事に難癖を付けてルール違反と言ったくせして、此方の対応次第では人員をさかなかったなど、どういう矛盾だろう。

 

いや、彼女の事だからわざとやってはいるのだろうが。難癖で反応を楽しみ、矛盾した言動で混乱させる。何がそんなに面白いのか。普段は灯火を嗜める彼女に、一体何が今日の彼女のイタズラ心を掻き立てるのか。椎名は少し疑問に思う。

 

しかしねむはそんな彼の疑問を知っているのか知らないのか、愉快な表情を浮かべながら話を続ける。

 

「何はともあれそういう事だ……色々教えてあげてくれ。他のルールは勿論。羽根達の仕事の事、それに君達が請け負う仕事の事もね」

 

もう既に「君達」と言っているように、この黒羽根がお付になるのは確定事項のようだ。此方の意見はお構い無し、傲岸不遜な態度ではあるが、大義を掲げる組織の長はこれくらいでなければ務まらないのかもしれない。

 

「はあ……分かった、分かったがな、少しおふざけが過ぎる。らしくないぞ。変なものでも食べたか?」

「ふむ、心配しなくても正常だよ。そうだな……僕とて所詮は11歳の少女。頼りになる年上の()()()()がいたら、少しは甘えたくなってしまうのかもしれないね」

「いつもはもっと真面目だろう……」

「灯火やアリナの前ではこうはいかないさ。分かるだろう?」

「まったく……どの口が……」

 

そんなことでふざけられても困るのだが、翼にとってマギウスの言うことは絶対。それに椎名にとって彼女は命の恩人であるのだから、あまり強く物申すことも出来ない。

 

そんな事を考えながら、さきほどから空気となっていた黒羽根の方に向く。

 

「え、えっと……」

 

オドオドとした様子を見れば、話に付いていけていないのがよく分かる。この感じでは、どうして魔法少女の組織に男がいるのかもよく分かっていないのだろう。

 

そんなことを考えながらも、椎名はとりあえず自己紹介をする事にした。

 

「椎名だ。マギウスの翼では、一応白羽根と同じ様な立場にいる。見ての通り魔法少女ではないが……まあなんだ、そこは後々説明する。とりあえず、よろしく頼む」

「は、はい」

 

頭を下ろす黒羽根。そして頭を上げ、

 

「わ、私は…………黒江、と呼んでください。よろしくお願いします」

 

躊躇いながらも、そう名乗った。

 

フルネームで名乗らなかった辺り馬鹿ではなさそうだと、内心感想を抱く椎名であった。




アニメ時空にほんの少しだけ近い時空。但し、あくまでもほんの少しだけ。
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