パシリレコード   作:Ringseiran

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時系列的には、絶好階段破壊直後のイメージです。


第十二話 新人育成は丁寧に

 

一つ、羽根たちで一致団結して、魔法少女にとっての未来の翼になろう

二つ、不用意に自分達がしている事を誰かに話さないようにしよう

三つ、勧誘対象は魔女化を知っている人だけ。勧誘したい場合は白羽根に相談しよう

四つ、仲間内でも姿を見られてはいけません。素性がバレる行動は控えよう

五つ、私生活に支障を来す場合は無理はせずに相談するようにしよう

六つ、割り当てられた仕事は2人以上で必ず行うようにしよう

七つ、グリーフシードはマギウスの翼で回収。浄化は最小限に留めよう

八つ、魔女とウワサは解放への大切な材料。他の魔法少女に譲らないようにしよう

九つ、羽根になった時の希望を忘れるな。2度目の奇跡があると信じ続けよう

 

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 

「とまあ、こんなもんか」

 

フェントホープの廊下を歩きながら、椎名は黒江にマギウスの教義、もとい九つのルールを教えていた。

 

「何か質問は?」

 

黒江の一歩先を歩き、彼女に問いかける。

 

「特に……ありません……多分」

 

自信なさげに言う黒江の様子から、流石に一度に言うのは不味かったかと内心反省する。その上質問まで要求というのは、酷なことだろう。

 

「まあ、その内覚えられるさ、若いんだからな!」

「あ、はい」

 

フォローする為にちょっとおちゃらけてみるも、逢えなく流される。それに少しだけ落胆しつつ、椎名は黒江に目をやった。

 

ほんの少しだけ震えている手と、心做しかたどたどしい足取り。隠そうとしているのだろうが、椎名ではなくとも鋭い者なら気付けそうなくらいには、緊張しているのが見て取れる。

 

どうしたものかと内心苦悩するが、考えてみれば仕方がないのかもしれない。

 

このタイミングでマギウスの翼に加入した事を考えれば、おそらく黒江は灯火が配信した魔法少女への勧誘動画を視聴してやってきたのだろう。魔法少女は神浜に行けば救われるという謳い文句と、魔法少女史上主義と一部の黒羽根に囁かれているらしい灯火の演説。あれはなかなか思い切ったものである。少し、いやそれなりに思想強めと言えなくもないものであったが、あれを見てマギウスの翼に加入したのだとすれば、どうしてかこんな数奇な配属をさせられているのは、同情する。

 

とは言え、彼女には伝えておかなければならないことがまだまだある。

 

「ところで、俺について何かねむから聞いているか?」

 

椎名は前に向き直り、黒江に訊いた。

 

「えっと……特には……」

「そうかー……」

 

何と言うか、予想通りではあるのだけれど、此方に殆ど丸投げというのは少し困る。白羽根や黒羽根についての組織構成と、ウワサについての基本情報を知っている事が、唯一の救いだろうか。というか、それくらい知っておいてくれなかったら何も始まらなかった。

 

とは言え、自分はマギウスの翼ではかなり特殊なのだから、少しぐらい説明をしといて欲しい。ましてや、これから一緒に仕事をこなす魔法少女なら尚更である。

 

そう内心で嘆く椎名だが、嘆いているだけでは現状は変わらない。

 

「俺は、そうだな……一言で表現するなら、ウワサ人間だ」

「え?」

「うん、そういう反応になるよな」

 

先ずは想定通りの反応に、とりあえず安心する。いや、安心している場合では無いのだが。

 

「先ずは、ウワサについては分かるよな?」

「はい、えっと……感情エネルギーを集める存在……ですよね?」

「まあ、大体あっている」

 

まずまずの返しに満足し、とりあえず掻い摘んで説明する事にした。

 

「ウワサにはそれぞれ特徴があり、多種多様な性質を持っている。そして共通して備えているのは、魔女に匹敵する力だ。結界を有する事や、使い魔を使役するのは魔女と同じ。まあ、これは魔女同様個体によって差はあるがな」

 

「だが、無論魔女とは異なった能力も多々ある。その一つが、ウワサは纏うことが出来る。という能力」

「纏う……」

「ああ。もっと簡単に言うならば、魔法少女の新たな力として、装備する事が可能だ」

「装備………………あれ?でも椎名さんって……魔法少女じゃないんじゃ……」

「ああその通り、ここが少しややこしい」

 

黒江の尤もな疑問に、椎名は苦笑いする様な声で返す。

 

「俺は、魔法少女じゃない。ましてや、魔法少女の資格を持った人間でもない」

 

「故に、本来ならウワサを纏う事は出来ない。なら何故俺はウワサの力を持っているのか、それは……」

 

踵を返し、黒江の方に振り返る。

 

「俺が、自信が纏うウワサ……万能少年のウワサの原典だからだ」

 

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 

「椎名さん……その、何処かでお会いした事ありますか?」

 

ヘントホープの案内中、説明の間に黒江から恐る恐るそんな事を訊かれた。

 

「いや、今日初めて顔を合わせたと思うが……」

「えっ……」

 

困惑を抱きつつ黒江に返答すれば、彼女もまた少し困惑したような声を漏らす。

 

「そうですか……いや、そうですよね。ごめんなさい、変なこと聞いちゃって……」

「別に構わない、他人の空似かなんかだろうさ」

「た、多分そうです……ごめんなさい……」

 

申し訳なさそうに謝る黒江。

こういう時に何か気の利いた言葉をかけられるのが、良い同僚なのかもしれない。そう思いつつ、彼女の方に目を向ける。

 

「あー……神浜には、いつ来たんだ?」

 

しかし良い言葉が見つからず、そんな質問を返してしまった。

 

「えっと、初めて来たのは……三日前です」

「なっ……となると、マギウスの翼に入ったのは……」

「今日です」

「ねむめ……」

 

黒江の電撃スケジュールに思わず目眩がする。勝手な想像で、2、3日程度は時間が経っているものかと思ってた。

 

「ま、まあいい……説明に戻ろう……魔法少女の救済についてだったな?」

「はい」

 

ねむへの愚痴は尽きないが、そうも言ってはいけない。黒江は黒羽根の立場であるとはいえ、これから共に行動するということは、その仕事内容は普通の黒羽根の範疇ではない。マギウスの三人と顔を合わせる機会も多いだろうし、他の幹部達と接することも多いだろう。

 

だから与える情報も多少増やしておく必要がある。と、ここまで考え、椎名はねむの考えが少しだけ分かった気がした。

 

「ドッペルという存在を耳にした事は?」

「え、えっと……ドッペルゲンガーなら」

「いや、それとは別物だ。はあ……柊ねむ、やはり侮れないな」

 

今までの会話からして、恐らく黒江はマギウスの翼に加入するまでウワサの存在を知らなかった。それ故に椎名は、黒江が神浜市外からマギウスの翼に加入した魔法少女だと仮定することが出来た。そして、その仮定は今までの会話ではきっきりした。

 

マギウスがウワサを神浜市にばらまいて久しいが、その存在にいち早く勘づいている魔法少女はそこまで多くない。近頃幾つかのウワサが破壊されたという話も入ってきてはいるものの、組織的な反抗は見つかっていない。マギウスの翼を嗅ぎ回る魔法少女は神浜市内でも極小数なのだから、市外の魔法少女ならば敵対するような存在は殆どいないだろう。

 

神浜市外からやってきた魔法少女ともなれば、マギウスの翼の妨害を試みる奴らのスパイという線も、自然と無くせるという訳だ。灯火の動画配信直後のこのタイミングなら、その可能性は尚更低くなる。

 

それに、無闇に幹部は増やせない。組織の中枢を増やすことはそれだけ情報漏洩のリスクが生じるし、内部分裂も起きかねない。それは、幹部と接する機会の多くなる魔法少女にも同様。

 

強い魔法少女を無闇矢鱈に幹部にすればいいという話ではないのだ。強い魔法少女はその分歴が長い事が多く、それだけ多くの魔法少女とのコミュニティがある。

 

しかし、そのようなコミュニティが無い、もしくは比較的少ない者ならば、情報漏洩のリスクヘッジとしては適切。

 

柊ねむ、やはり何処まで行ってもマギウス。適当な人選ではないというのだから恐ろしい。

 

「し、椎名さん……?」

「ああ、すまない」

 

思考に耽っていると、黒江から名前を呼ばれハッとする。

ねむの思惑はともかく、この新人を教育しなければならないのは既に決定事項だ。今は先ず、真面目に彼女と向き合おう。

 

「ドッペルについてだったな。どこから話そうか……、本来ソウルジェムが濁りきると、魔法少女がどうなるかは知っているだろう」

「はい……」

 

少しだけ暗い声で、一言で返す黒江。それに気付き、椎名は反省する。

 

「いや……すまない。無神経だった」

「いえ……」

 

やってしまったと思いつつも、ここはあえて話を続けることにする。その方が、印象には残るだろう。

 

「ソウルジェムが濁りきれば、魔法少女は魔女へと転じる。それが魔法少女の運命。残酷で虚しい、どうしようもなく許し難い結末……」

 

奥歯を軋ませながら、しかしはっきりと言い切った椎名。黒江は俯き、黙ってそれを聞いていた。

 

「だが、その運命を覆するのがドッペルだ。正式にはドッペル・ウィッチと、ある魔法少女は呼んでいた」

「え……」

 

椎名の言葉に黒江は顔を上げる。彼女の瞳には、戸惑いの色が含まれている。

 

椎名はこの時初めて、黒江の顔を見た。それは、何処にでもいる少女だった。きっと彼女も、本来なら普通の生活を望む一人の少女。だから、これから話す内容が少しでも彼女にとっての救いになることを願って、彼は続けた。

 

「この神浜市でソウルジェムが濁りに満たされた時。濁りは主を蝕むことなく、全てがドッペルへと転換され、魔法少女は生き延びる。それが、マギウスの掲げる魔法少女の救済だ」

「生き延びる……」

「ああ、現段階では神浜市内に限られているドッペルシステムだが、それをいずれ世界中に広めるのがマギウスの翼の目的……」

 

そこまで話し黒江を見てみれば、その口はポカンと空いていた。

 

「………………という感じだが、少し抽象的過ぎたか?」

「…………あ、はい」

 

明らかな生返事からして、多分此方の言葉は聞こえていない。

 

「ま、まあ、実際に見てみればどういうものかはよく分かるさ!その時に、また詳しい事は説明しよう!とりあえず今は、ドッペルが魔女化を防ぐって事を理解してもらえればいいからな!!」

「は、はい、分かりました……」

 

勢い任せに話を終わらせ、ほんの少しだけ早歩きでフェントホープの廊下を歩く。

 

そして数分もすれば、椎名が向かっていた場所に辿り着いていた。

 

「ここは……?」

「ハッハッハ!よく聞いてくれた!!」

 

椎名は両手を広げ、さっきまでの暗い空気を振り払う為、無駄に大きな声を出す。

 

黒江の視界に広がるのは、所々が大きく陥没しているコンクールの床に、そこら中に散乱している瓦礫の山の数々。そんな光景がひたすら見渡す限りに続く、壮大な空間。

 

「ここは……俺の秘密の修行場だ!!」

「へ?」

 

急に言われたなんだか間抜けな単語の羅列に、黒江は思わず呆けてしまう。しかしその反応を驚嘆と受け取った椎名は、自慢気にこの場所の説明を始める。

 

「ハッハァ!驚くのも無理はない!!この場所はマギウスの翼でも知る人ぞ知るヘントホープの一角!アリナと大勢の黒羽根達に協力してもらい完成した超大型訓練施設だ!!!」

(……それは……秘密ではないのでは……)

 

矛盾したその説明に、内心でツッコむ黒江。しかしそんな事を考えているのも束の間、椎名は彼女の前に立ち、

 

「鹵獲した魔女との戦闘か、俺との模擬戦、どちらが良い?」

 

そんな質問を投げかけた。

 

「えっ………えっ………………………………え?」

「どっちがいい?」

 

困惑する黒江をスルーして、ずいっと顔を近づけ再度問いかける椎名。その迫力があまりにも凄く、黒江は思わず、

 

「も、模擬戦で!!」

 

訳も分からず答えてしまう。

 

「よし!!じゃあこのタイマーが三回繰り返して鳴ったらスタートだ!!」

「えっ……ちょ、ちょっと待ってください!!なんで模擬戦を!?」

 

此方を無視して話を進める椎名に、黒江は大声で質問する。そうでもしないと、今の彼には届かない気がした。

 

「あ、ああっ……!すまない……この施設を使う機会があまりなくてな……ついつい昂ってしまった……」

 

黒江の大声が功を奏し我に返る椎名。しかしすぐに口を開き、

 

「とは言え、模擬戦は行う。共に仕事をこなすことになる間柄、出来ることは互いに知っておく必要があるからな」

 

その意見を変えはしなかった。

 

「えぇ……」

 

思わず困惑が口から漏れる黒江だったが、椎名は関係ないと言わんばかりに、タイマーをセットして地面に落とす。

 

「これから一緒にやってくんだ、必要だろう?」

「それ……模擬戦じゃないとダメですか?」

「別にそんな事ないが、説明が多いと眠くなるしな」

 

「私は大丈夫ですけど……」と呟く黒江を他所に、椎名はストレッチを始める。その様子を見た彼女は諦め、大人しく武器を取り出した。

 

メイスの様な武器が二振り、魔力によって生成される。しかしよく観察してみれば、それがメイスの様に殺傷性の高い武器とは程遠いことが椎名には分かった。

 

(あれは……新体操のクラブか?)

 

魔法少女の武器といえば剣や槍はおろか、銃やミサイルまで多くのものをこの数ヶ月で見てきたが、彼女のそれはなんとも可愛らしいものだと椎名は驚く。

 

「手加減ならしなくてもいいぞ?」

「え……そんなつもりは……」

「あ、そうか……」

 

ほんの少しだけ、気まずい空気が流れるのを感じる。

 

「…………ゴホンッ、よし!!準備はいいか!!」

 

そんな空気を振り払う為、椎名はウワサの力を解放し構える。

 

(なんか今、すごく失礼な勘違いをされた気がする……)

 

釈然としない黒江だったが、それも椎名が放つ異質な気配を感じれば直ぐに吹き飛んだ。

 

魔法少女の魔力でもなく、魔女の魔力でもない。全く感じたことの無い感覚。

 

(これが……ウワサ…………)

 

「そう怯える必要はない。これはあくまで模擬戦。俺は黒江を傷つけないし、そんなことしたら他の幹部に大目玉を喰らう」

「は、はい……」

「後これは余計なお世話かもしれないが……マギウスの翼に入ったならウワサには慣れておいた方がいいぞ。これから嫌になるほど付き合って行くことになるからな。さて、そろそろだ、構えてくれ」

 

そう言われ黒江が地面に落とされたタイマーに目をやれば残り10秒となっていた。急いで両手のクラブを構え、臨戦態勢に移行する。

 

そして数秒後、ピピピ、ピピピ、ピピピと、タイマーが鳴り━━━━━━━

 

「ほら、下」

「なっ!」

 

前方から消えた椎名が、直ぐ目の前まで接近していた。

 

(さて、どう防ぐ?)

 

足を踏み込み黒江の足に引っ掛け、向けた背でそのまま体当たりを試みる。鉄山靠と呼ばれる技を仕掛けた椎名。しかしそれは寸前の所で、寄ろけながらもどうにかクラブで受けた黒江に防がれる。

 

魔法少女の体感を生かした、無理矢理の防御。悪くはない選択肢だが、寄ろけてしまった時点で彼女の動きには次が無い。

 

そのまま翻った椎名は、足蹴りで黒江の手から二つのクラブを払った。

 

そして、転びそうになった黒江の腰に手を回して身体を支え、

 

「勝負ありだ」

 

ただの少年の力でデコピンをした。

 

「あうっ」

 

目を瞑り、思わずおでこを抑えた黒江。しかしよくよく感じてみれば、まったく痛くないことに気付いた。そして、椎名に抱きかかえられている現状にも。

 

「あっ、す、すいません!!」

「お、おう」

 

黒江は素早く椎名から離れる。その反応に椎名は、汗臭かったかなとショックを受けた。

 

「…………と、まあ、今のはウワサの力を使った単純な身体強化だけの格闘だな。このように見た目はただの男だが、こう見えても並の魔法少女よりはよっぽど強い。安心して殴りかかってくれて構わない」

「は、はい……」

「手加減するつもりはなかったみたいだが、無意識で躊躇はしていただろう。魔女にだって、一見したら弱そうでも実は強いなんて奴もいるからな、無意識の手加減は命取り…………」

 

椎名はそこまで言い、黒江が俯いていることに気付く。

 

「ま、魔法少女に魔女退治について説法するなんて、出過ぎた真似だったな……!す、すまん……!」

 

どうすればいいか分からなくなった椎名は、とりあえず謝る。しかし黒江は俯いたまま、

 

「いえ……いいんです、実際そうでしたし……それに、弱い私が悪んです……」

「え、えぇ」

 

その自己肯定感の無さに、困惑する椎名。

椎名にとって黒江のような少女は、出会ったことがなかった。彼の周りにいる人間もとい魔法少女達には、こういった者はいない。少なくとも、椎名と接する際にネガティブな少女はいなかった。あまり出会ったことの無いタイプである。

 

こうなればもう出来ることは一つだ。ひたすらフォローするしかない。

 

「お、俺の持つウワサの力は、万能少年のウワサだ。だがそれは、万能であり全能ではない。これでも、出来ない事はそれなりに多いんだ。それこそ、魔法少女特有の力なんかは、マギウスの翼に所属していると、使えず苦労することが多い」

 

「例えば念話とかな」と、椎名は自身の頭を小突く。

 

「だから、俺の出来ないことを黒江に補って欲しい。迷惑だったら、断ってくれても構わないが……」

「え……」

 

どうにか言葉を絞る内に、何を言っているかよく分からなくなってきた。それでも今は、喋りを止めてはいけない気がした。

 

「だけど、もし共に行動してくれるなら、俺は黒江を魔法少女の運命から救済することを約束しよう。それは、マギウスの翼の本来の使命であり、俺が背負うと決めた役目だから」

「……もし断ったら、どうなるんですか?」

「そ、その時は……」

 

「約束は……出来ないかもしれない。だけど、もし上手くいったら…………そうだな……その時は、勝手に救済するだけだ」

 

困ったような顔で椎名は言う。そしてまた、たどたどしくも言葉を紡ぐ。

 

「…………でも、黒江が手伝ってくれたら、俺一人よりも、確実に良い方向に繋がると思うんだ」

 

そこまで言いきり、黒江に手を差し出した。

 

それは咄嗟に思い付いた何の根拠も無い言葉で、既にフォローでさえなくなっていた。それでもこの言葉は彼にとって、紛うことなき本心である。

 

黒江は彼の困ったような表情を、確かに何処かで見た事があった。そして同時に、思い出した。その表情はいつか宝崎市で見た、あの魔法少女の表情だ。

 

だから黒江は、その手を取ってしまった。否、取らざるを得なかった。

 

手を握られたことにより、椎名は上手くフォローできたのだと安心する。実際の彼女の内心など、知るはずがなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

オマケ

とある部室での会話

 

「かりん、俺って汗臭いか?」

「そんなことないの、でも強いて言うなら、絵の具臭いの」

「そっか……それって、スメハラになるかな……」

「い、嫌な匂いではないの!」

「あはは……フォローありがとう………」

(し、椎名先輩が……珍しく何故かネガティブなの!!!)




焦って色々吐いちゃう椎名くん、観察眼も思わず狂う。意外とこういう子に弱いのかも。
尚、途中で黒江ちゃんが椎名に覚えた他人の空似は、どこかのベテラン魔法少女のせい。他人の空似というか、姉弟の空似だね。
ウワサの詳細は、また今度。
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