パシリレコード   作:Ringseiran

2 / 14
誤字報告感謝です。



第一話 早起きは何とやら

七海椎名の住む寮は、栄区にある栄総合学園に隣接する形で建てられている。

栄区はファッション街や神浜一の繁華街を有しており、かつては「神浜記憶博物館」などもあったが現在は閉館している。栄総合学園には芸能科や芸術科が存在し、校門や校舎のいたるところにはオブジェが設置され、栄区全体が芸術の街であることがはっきりと表れている。栄区に建っている彼の住む寮もその影響を例外なく受けており、建物内外問わず様々なオブジェが見受けられる。

 

日曜日の朝であったが、椎名が目を覚ました時間は朝の5時だった。椎名は朝が得意というわけでもない、昼はパシリをやり、夜に絵を描いてる彼の就寝時間は健全な男子高生というには少し遅い。そのため必然的に朝は辛くなり、なかなかベッドから抜けられない日も多い。

 

「早起きは…三文の徳!」

 

たまには早起きもいいと思い、気怠い体とはっきりしない意識を、昔から祖母に言われていた言葉で無理やり奮い立たせ身を起こす。身を起こせば見慣れた部屋が広がっており、昨日日付が変わるぐらいまで描き続けていた絵が部屋の真ん中のスタンドに乗せられて置いてある。

 

とりあえず着替えを終えた椎名は、昨日完成半ばで睡眠欲に負け描くのを中断した絵に向き合う。

 

「少し構図が崩れているな」

 

昨晩描いている時には気づかなかったが、改めてみるとイメージと違う。描きなおそうと思い筆をとるが、慣れない朝のためか中々上手く描けない。大人しく作業を中断する椎名だが、やることがなくなってしまった。寮の朝食が始まるのはもう少し後だ、誰かと話して時間をつぶすにしても誰も起きていないだろう。

 

椎名は暇になってしまった現状にどうしたものかと考る。手持無沙汰にカーテンを開け、外の景色を見てみると、東の空に朝焼けがにじむようにひろがり始めていた。庭に目をやると、寮監はすでに起きていたようで庭の手入れをしている。手伝うのもいいと思ったが、慣れない自分が行っても邪魔するだけだと思い街に目をやった。まだ早い時間だが、全く人がいないこともない。出勤する者、トラックを運転する者、店の仕入れを始める者、神浜市はすでに起きていた。

 

「散歩でも行くか」

 

外を見ていたら少し歩きたくなった椎名はスマホと財布をポケットに入れ玄関に向かう。

 

外に出てみると澄んだ空気が気持ちがいい、椎名は目的地も決めず歩きだした。彼が栄区に移り住んでから2年経つが、こんなに早い時間に外に出たのは初めてだった。朝食の時間まで余裕があることを確認した椎名は、いつもは曲がらない道に進んでみる。迷っても現代にはスマホがある、よほどの機械音痴じゃなければ地図を見て戻ってこれるだろう。

 

「…どこまでいこうか」

 

暫く歩いてみた椎名だったが、どうも目的地がないと落ち着かない。いつものパシリ精神でアリナに電話し何か欲しいものがないか聞いて、買って届けようかとも思ったが、彼女は朝起こされることが嫌いだったと思い出し止める。ショッピングモールに行こうにもまだ開店してないだろう。

 

いっそこのままみかづき荘まで歩いて、そのまま姉と朝食を食べるのもいいかもしれないと椎名は思う。

 

(最近の姉さんは、元気ないしな…)

 

椎名はみかづき荘に一人で住む姉の七海やちよのことを考える。

彼女は大学生とモデルを両立しており、椎名はそんなやちよを自慢に思っている。彼女が載っている雑誌は必ず買い、そのたびアリナとかりんに見せびらかし自慢する。アリナは見せられるたびまた始まったと怪訝な顔をし、かりんはアリナのパシリ以外で生き生きしている椎名を珍しがり最初は純粋に興味をもって聞いていたが、最近は彼を軽くあしらう。

 

それでも姉自慢をやめない程やちよを慕っている椎名だが、どうも最近彼女の様子がおかしいように見える。前はよくみかづき荘に帰ると彼女の後輩や親友のみふゆがいたりしたのに最近は一切彼女たちを見ない、それに暗い表情をすることも増えた気がする。最初は高校生から大学生になった環境の変化からかと思っていたが、いくら何でも今まで仲良くしていた人達との関係が完全になくなるなんてことはおかしいと思った。何度か思い切って相談してくれといったこともある、それでも毎回はぐらかされて終わってしまう。

 

(やはりまだ…安名さんのこと、立ち直れていないのか…)

 

椎名は去年亡くなったやちよの後輩、安名メルのことを思い出す。

学校は違ったが、よくやちよのことを七海先輩と呼び慕っていたのが印象に残っている。占いが好きな少女で、椎名自身も占ってもらったことがあった。

 

(たしか…交通事故だったか…)

 

その時期の椎名はコンクールで忙しく、やちよは彼に気を使いメルの死を伝えなかった。彼がメルの死を知ったのは、メルが死んだ一か月後だった。

 

(もっと早くに知っていれば、姉さんの支えになれていたのかもしれない……って、だめだなせっかくの散歩なのにこんな悲しいことばかり考えては、よし!今日はみかづき荘で朝食を食べよう!!それでもって今日こそ姉さんの相談にのるんだ!!!)

 

そう心の中で宣言した椎名は、すぐにみかづき荘を目的地に定める。

 

現在の時刻は5時半、栄区からみかづき荘はそれなりの距離があるがまだまだ時間には余裕がある。寄り道でもしない限り朝食の時間には十分間に合うだろう。椎名が歩くのは大道りから外れた道、目的地は決まったが、散歩には変わりないのでいつもと違う道でみかづき荘に向かう。

 

普段は通らない道に少しわくわくしながら歩いていた椎名だが、ふと目にしたものに違和感を感じた。

 

「こんな朝早くにこんな場所で、なんの集まりだ?」

 

椎名の歩く路地沿いの空き地に何人か集まっている。不良か何かの集まりかと思ったが、中には小さな子供もいる。しかも身に着けているものが何故かパジャマだ。それに全員焦点が定まっておらずぶつぶつ何かつぶやいている。

彼らの様子だけでも違和感は十分だが、それに拍車をかけるのはこの場所だ。大道りから何本も離れた薄暗い裏路地、人気もない。普通の子供ならまず怖がって入ることはないだろう。そもそもこんな所に集まること自体おかしい。

 

椎名が遠くから観察している間にも何人か新しい人が合流し、15、6人程集まったところで一番年長者らしき男が全員の前に立ち演説を始めた。新世界に旅立つだの、肉体を捨てるだのいまいち何を言っているか分からなかったが、演説を終えた男が全員にナイフを配りだしたところで、椎名は勘づいた。

 

「まさか…集団自殺か!?」

 

まずい、と椎名はそれを止めるため空き地へとかけだす。

小学生も含めた十数人の集団自殺、冗談じゃない。何としてでも止めなければ、自分の住む町でそんな事件が起きたら夢見が悪い。

 

「やめろ!!」

 

走りながら叫ぶがまるで聞こえている様子がない、どうやら正気でないようだ。多少力づくで止めることも視野に入れつつ、まずは説得のため空き地に踏み入る。入った瞬間だった、椎名はさっきまで急いでいた足を止めた。焦っていた表情も妙に落ち着く。

 

「なんだ…これ」

 

空き地に入ると同時に椎名は急な不安に襲われた、諦めにも近いかもしれない。それは徐々に心から思考へ侵入する。彼の思考を支配するのは自分への問。自身の血縁であるやちよの相談にさえのれない自分に、自殺さえ考える程追い詰められた人達を説得できるのか。いつもの椎名なら「関係ない」とそんな思考は切り捨てすぐに説得を始めるはずだ。しかし今回は、何度切り捨てようとしても、一度生じた思考が、まるで瞬間接着剤で固定されたかのように振り払えない。

 

「俺に…できるのか…」

 

やがて完全に浸食される思考、数分後の椎名は完全に抗うことをやめていた。そんな彼に年長者の男が歩み寄る。彼の手には二つのナイフが握られている。

 

「君も一緒に、この生きづらい世界から解放されよう」

 

男はそう言うと、持っていたナイフの一つを椎名に手渡す。椎名も黙ってそれを受取ろうと手を伸ばす。すると彼のポケットからスマホが落ちた、走って空き地まで来たため落ちそうになっていたのだろう。落ちた衝撃で画面がつき、拾おうとすると待ち受け画面が視界に入る。彼にとっては見慣れた写真だ、初めて賞を取った時先生に撮ってもらった写真。真ん中に絵、その両端には自慢げに腕を組んでいる椎名と、めんどくさそうな表情のアリナが写っている。椎名はそれを見たまま動かない。

 

「どうしたんだい?さあ、これを受け取るんだ」

 

動かない椎名に男は手を伸ばす、その手には椎名にナイフを手渡すため持ち手が向けられている。暫く動かなかった椎名だが、やがて顔を上げ男が手渡したナイフを振り払った。

 

「悪いが、受け取れん。まだやりたいことがあるからな」

 

危なかったと椎名は内心安堵する。どんなからくりか分からないが空き地に踏み込んだ瞬間いつもの自分ではなくなっていた。スマホが落ちて写真を見ていなかったら、自分の目指す目標も尊敬する人のことも忘れて、そのまま自殺していたかもしれない。だがこれではっきりした、間違いなく彼らがやろうとしていたことは自殺なのだろう。もう少し安堵していたかったが、状況が状況である、すぐさま気持ちを切り替え男に向きなおる。

 

「何でこんな事をしているのかは知らんが、今すぐやめろ死んだら何も残らんぞ」

「………」

 

男に向き合い真剣な面持ちで止めるが、どうやらまともに聞いているようには見えない。説得は効果がなさそうと判断した椎名は力ずくでナイフを取り上げることを覚悟する。

 

「多少手荒になるが、死ぬよりましだ。我慢してもらう」

 

ナイフを持った人間が16人、一人で止めるのは骨が折れるがやるしかない。警察に連絡するのは全員からナイフを取り上げた後だ。冷静に今やるべきことを判断した椎名は、まず自分にナイフを渡してきた男からナイフを取り上げようと手を伸ばす。その時だった。

 

 

 

 

突如、空間が歪んだ。否、変化したと表現した方が正しいだろう。

 

「なんだ!」

 

今までいた薄暗い路地が、塗り替えられたかのようにファンタジーな空間に移り変わった。周りにさっきまでいた人達もいなくなり、代わりに様々な雑貨を組み合わせて作ったようなよくわからない物体が動いている。すぐにスマホを確認してみても圏外になっていた。

 

どうやら面倒なことに首を突っ込んでしまったらしい、早起きは三文の徳というがどうも絵といい今といい上手くいかない。椎名は顔をしかめとりあえず現状を確認する。

 

(空間が歪んだと思ったら、現実離れした空間。スマホは圏外で周りにはよくわからない物体、動いているが規則性がない、まさか生物か?)

 

いくら考えてもいまいち現状がつかめない。暫く観察をした椎名だが、周りを動き回っていた物の一体が急にこちらに突っ込んできた、椎名はそれを当たる寸前で掴み地面にたたきつけた。

 

「敵意むき出しか」

 

今にも襲い掛かってきそうな化け物を前に椎名は怖気づく様子を見せず構える。

 

「喧嘩は中一以来だが、そうも言っていられんな。数が多い、相手をしつつ他の人を探すか。よし!やるか!」

 

椎名は一斉に襲い掛かってくる化け物を向かい打った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




全身全霊で生きてるんだから魔女の口づけが効くわけないだろ!(暴論)
まあ、この辺は後で色々書いていく予定

思い出の写真
椎名が待ち受けにするほど気に入っている写真。どうしても一緒に撮りたいとアリナに土下座して撮ってもらった。その頃はまだかりんと一緒に部室を使っていなかったので彼女は写っていない、かりんがこれを見たとき少しヤキモチを焼いた。次賞を取ったら三人で写真を撮ることを約束している。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。