パシリレコード   作:Ringseiran

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だいたい週一投稿の予定
書きだめはこれで終わり。


第二話 邂逅

「優勝おめでとう」

 

そう言われ渡された賞状は、酷く見慣れたものだった。同時に見飽きたものでもある。これも同じかと失望し、表彰台を降りる。心から震えたい、全力で戦いたい、圧倒的な挫折を味わいたい。誰かに言えば贅沢だと言われるだろう、しかしそれはこの気持ちを知らないからだ。

 

まだアリナに出会う前

 

憧れを知らなかった頃

 

俺は、退屈だった。

 

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 

現実離れした異様な空間、そこに蔓延る化け物を蹴散らしながら椎名は人を探す。右手には途中で拾ったナイフが握られている。空間は面白いデザインをしているが椎名にそれをのんびり観察する暇はなかった。大量に迫ってくる化け物は、一体一体はそれほど強くないが何体も束になられてはさばききれない。

 

「そろそろ最奥か?」

 

進めば進むほど化け物が増えている、椎名としてはこれ以上増えられると厄介だ。そんな彼の心配など当然知らない化け物は容赦なく襲い掛かる、全て相手にするのは無理があると判断し、自分の進行方向から向かってくる化け物だけに集中して、直進しながら切り裂いた。ここに来るまでかなりの数を倒してきたがどうも減っている様子がない。

 

まだ後ろから数体追いかけてくるが、どうせ追いつけないだろうと判断し、相手にはせず無視して進む。

 

進んでいくごとに少しずつ周りの風景が変化している。これは最奥に進んでいる証拠なのか椎名には分らないが、戻ったとしても出れる気がしない。切り裂いては進む、時々蹴り飛ばす、そんなことを続けていると、

 

「扉…」

 

気づけば大きな扉の前にいた。不気味な扉で青黒く見たこともない文字が描かれている、怪しさ満載のその扉に内心入りたくない椎名だが、戻っても人はいない、いるとしたらこの中だろう。若干の抵抗感を持ちながらも椎名はその扉に手をかけた。

 

 

 

 

***

 

 

 

 

数分前

 

ガラスの破片が散りばめられた地面、ところどころにナイフが突き刺さっている。そんな地面を駆け抜ける少女は、大きな刃物を持った巨大な犬にもクマにも見えるぬいぐるみの化け物と交戦していた。彼女の名前は十咎ももこ、普通ならそんな化け物と戦えるはずないのだが彼女は普通の少女ではない、魔法少女だ。

 

魔法少女の使命は魔女と戦うこと、キュウベイに願いを叶えてもらう代わりに魔法少女となって魔女と戦う。魔法少女になれば人間離れした身体能力が手に入るがそれでも魔女は手強く、いつも戦いは死と隣り合わせだ。魔法少女達はは調整屋で強化したり何人かのチームとなって戦う。

 

十咎ももこもその例にもれず、普段は仲間の魔法少女と魔女を狩っている。だが今日は違った。

 

椎名と同じく日曜日にしては早く起きたももこは、散歩に出かけた。しばらく歩いていると魔女の気配を察知、様子だけ見て仲間と来る予定だったが、魔女の口づけを受けている人たちを見て、急遽魔女を狩るため結界に入った。

 

しかし、魔女は予想以上に強く、苦戦をしいられていた。

 

「くっ…」

 

大ぶりで振り払われた巨大なナイフの一撃を、ももこの鉈のような大剣が受け止める。見ため以上の凄まじい威力で放たれたその一撃に、彼女は驚愕する。並みの魔女の一撃ではそう簡単に崩れないももこの大剣での受け止めが、その威力に耐えられず吹き飛ばされた。しかも魔女の攻撃はそれだけでは終わらない。結界内のナイフが絶え間なく襲い掛かり、ももこは防戦一方になる。

 

「これならどうだ!」

 

全く魔女に接近できない現状を打開するため、ももこは一か八かで大剣を魔女の眼球に向けて投擲した。投げられた大剣は、回転して飛んでいき魔女の目に突き刺さる。その一撃にひるんだ魔女の見せた隙を彼女は見逃さない。魔法少女の身体能力を全力で生かし魔女に接近すると、突き刺さった大剣を抜き強力な一閃を叩き込んだ。

 

しかしその攻撃は、魔女の操る無数のナイフの束により防がれてしまう。

 

「なっ」

 

確実に決まったと思った一撃を防がれ、ももこは動揺する。その隙を魔女が見逃すはずもなく、ナイフを持っていない方の腕で彼女を殴り飛ばした。間一髪の所で大剣で防いだが、結界の端まで吹き飛ばされ、また振り出しに戻されてしまった。魔力もかなり消費してダメージも蓄積している、それに対して魔女に与えたダメージは片目のみ。しかも魔女は片目を失った怒りで更に凶暴になっている。

 

ももこは魔力の消費で濁りがたまったソウルジェムを予備のグリーフシードで浄化しつつ、魔女を観察する。最初魔女のナイフを操る力はまっすぐに投擲できる程度のものかと思っていた。しかし違った、ナイフを束ねて攻撃を防いだことから、細かい操作もできるのだろう。

 

「さっきまでは、なめられてたってことか」

 

先程までの戦闘では魔女はナイフを簡単な投擲にしか用いていなかった。だが今は違う、魔女は周りにナイフを浮かせている。さっきまでのような簡単な動きではなく複雑な攻撃をしてくるだろう。それに加えてあの強力な大ぶり、どう考えても一人で相手にできる魔女じゃない。だがここは魔女の結界、仲間に連絡しようにもスマホは圏外で使えない。撤退をすれば魔女の口づけを受けた人たちは殺されるだろう、それを見過ごせる彼女ではない。

 

そう考えてるうちにも魔女はこちらに向かって攻撃しようと接近してくる。まずいと思ったももこは一度距離を取って作戦を考えようと思ったが、何故か足が動かない。足元に視線を落とせば、魔女の操っているであろうナイフが何本も足に絡まり、靴と地面を固定していた。強引に振り払おうとすれば足を傷つけ、戦いどころでは無くなるだろう。

 

「くそ!」

 

巨大なナイフを振りかぶる魔女。振り落とさようとするナイフを前に、ももこは足を傷つける覚悟をするが、

 

「ちょっとまったぁ!!!」

 

思いがけない乱入者によって、その覚悟は必要なくなった。

 

 

 

 

***

 

 

 

 

「うおおおお!!!!」

 

椎名は魔女に向かって飛び蹴りをする。見たこともない化け物に自分の攻撃が効くかは分からないが、標的を少女から自分に変えるくらいの効果はあると思ったのだ。結果は期待以上、不意打ちで攻撃された魔女はナイフでの防御もできず、椎名の飛び蹴りを顔面にもろに受けよろめいた。

 

その影響かももこの足の拘束は緩まり、その隙にナイフを振り払い魔女と距離を取る。

 

「いくぞ!!」

 

椎名もすぐに魔女から離れももこの腕をつかみ走り出す。

 

「うわっ!誰かと思ったら椎名!?なんでこんなところに…ってなんで操られてないんだよ!」

「ももこか!?」

 

椎名はももこと面識があった、ももこは椎名が栄総合に転校する前の同級生だ、当時からそれなりに仲が良かった。転校してからは疎遠になったが、みかづき荘で再開して、ももこの友達のレナとかえでと四人で遊んだこともある。だが最近は椎名の創作活動が忙しく会っていない、久しぶりの再会がまさかこんな所になるとは思ってもいなかった。

 

久しぶりに話したいこともあるが、まずは避難することを優先する。

 

「今はいい、走るぞ!!」

 

ももこを連れて物陰に隠れる、そして椎名は改めて彼女に向きなおった。

 

「――久しぶりだなももこ!!」

「あ、うん久しぶり…って違う!なんでここに!?ていうか魔女見えてるのかよ!!」

「ん?あれは魔女というのか、普通は見えないのか?」

 

「俺には見えるぞ」と椎名はこちらを見つけ出そうとやっけになっている魔女の方を見る。間違いなく見えている、透けてもないしぼやけてもいない。当たり前のように魔女を視認し、操られずにいる椎名に、ももこは驚愕を通り越してあきれさえ覚えていた。

 

「相変わらず、椎名は規格外だな…」

 

ももこは椎名がこういう人間だったことを思い出す。テストは毎回満点、運動は誰にも負けない、何かやらせればすぐ一番になる。ももこは彼が人に負けたところを見たことがなかった。そんな彼を大人たちは天才と呼んでいたし、ももこ自身も椎名を自慢の友人だと思っていた。それでも人間の域は超えていないと思っていたが、当たり前のように魔女を視認し、それどころか飛び蹴りさえかまして見せた椎名に対しももこは疑惑を感じる。

 

「椎名…ほんとに人間?」

「む、見ての通り人間だぞ。…それより質問したいのはこっちだ、その恰好にその……大鉈か?それにさっきの身体能力、明らかに常人のそれではないな?」

「……あちゃー、見られちゃってたか…ちなみにどこから?」

「ちょうど目に刺さったその大鉈を引っこ抜いて、あの魔女とやらを切ろうとしていたところからだな」

「う…そこは、ギリギリアウトか…」

 

魔女に吹き飛ばされた所からなら、当たり所が良くて怪我をしなくて済んだとごまかせたかも知れないが、そこは言い訳出来ないと諦める。

 

「言いたくないなら今は聞かない」

「今はってことは後で…」

「もちろん後で問い詰めさせてもらう、それより今は魔女だ。さっきのももこの必死さ…倒さないといけないんだろ。手伝うぞ」

「え?」

 

当たり前のように戦うつもりの椎名に、ももこはあっけにとられる。普通の人間なら怖がって今すぐ逃げようと提案するだろうが、あいにく椎名は普通じゃなかった。

 

「だめだ!椎名はここに隠れてろ!!」

 

ももこは戦う気満々の椎名を止める、それに対し椎名は不安な表情をし、

 

「足手まといになるほど弱くないつもりだが」

「不良との喧嘩と魔女との戦闘じゃレベルが違う、いくら椎名でも死ぬよ」

 

椎名が隠れるつもりはないと暗に伝えるが、ももこは引かない。

 

「椎名が強いのは知ってる、それも魔法少女であるアタシが目を見張るほどにね。でも人と戦うのとはわけが違うんだ。さっき蹴りが当たったのはたぶんまぐれ、次はないよ」

「そんなもの、やってみないと…」

「わかるよ、よく知ってるんだ」

 

今まで見たことないももこの迫力に押される、と同時に椎名は聞き慣れない単語に反応した。

 

「魔法少女…?」

 

ももこは口を滑らせたと思ったが、それでも意思は変わらない。

 

「とにかく椎名はここにいてくれ。あんな魔女、アタシがすぐに片付けてきてやるからさ」

「まて!!」

 

椎名は、一人で魔女に立ち向かおうとするももこの腕を掴む。魔法少女である彼女なら簡単に振り解ける力だが、彼の真剣な表情を見て、足を止めた。

 

「離せよ」

「断る」

 

拒否と共に椎名の腕を掴む力が強まった。ももこは頑なに自分の意志を曲げない彼を睨みつけた。

 

「死ぬよ」

「俺は死なん」

「…………はァー…」

 

睨み続けても一向に諦めない椎名に対してももこはため息をつく。そして彼を待機させておくのは無理だと判断して、

 

「一度言い出したら聞かないのは、昔からの悪い癖だな」

 

思わす彼に悪態を着いた。

ももこは椎名が急に転校すると言い出した時のことを思い出す。

 

「別に聞く時は聞くぞ?ただ、譲れない事は絶対に引かないがな!!」

「今回はその譲れない事ってやつか…でも、どうしても一緒に戦うって言うんだから、何か考えがあるんだよな?」

「ハッハッハ!!よく聞いてくれた!もちろんだ、今から言う作戦なら二人であの魔女を倒すことが出来る!!」

 

そう言いながら一緒に戦える事を喜ぶ椎名を見て、ももこはいつもの彼の暑苦しさが、今回は少し頼もしく思えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 





ナイフの魔女
オリジナル魔女、巨大なナイフを持ったクマのような犬のようなぬいぐるみの見た目をした魔女。巨大なナイフを使った大ぶりの攻撃と結界内にあるナイフを操り攻撃する。しかし装甲は椎名の蹴りでよろける程脆い。それなりに強い魔女でももこクラスの魔法少女でも苦戦するレベル。ぬいぐるみがナイフを持ってるから、最初はひとりかくれんぼの魔女にしようと思ったけど、長いからやめた。

椎名のナイフ術
昔習ったことがある剣術とテレビで見た自衛隊のナイフ技術の応用。見たことあるからできる。

あとがき
おいおいこいつプロローグからパシリしてねーじゃねーか
ということで十咎ももこ登場です。
あと椎名の魔女耐性の理由は当分後に明かします。
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