投稿遅れてすいませんでした。
七海椎名の頭部の傷は、出血こそしたものの入院する必要がある程重症ではなかった。負傷した前後の記憶を無くした事で、定期的な検査の為通院する事になったものの、翌日には頭に包帯を巻いた状態で登校していた。
「ウォーキングで階段からフォールして、その怪我ってワケ…」
「らしい、まあ俺はあまり覚えていないんだかな!」
授業を終えてアリナと美術室に向かっている途中、椎名は昨日の出来事を彼女に話す。
魔女や魔法少女の存在は一般人が知るべきでは無い。椎名が記憶を無くしたと判明した後、その場にいたレナとかえでは必死にももこの発言を誤魔化した。かなり無理のある誤魔化しだったが、椎名は頭の傷が痛んだため、正常な判断ができず二人の話を事実だと認識した。
「アナタが変なタイミングでケガするから、アリナが疑われたんですケド」
「なぜだ?………ああ、この前賞を取った作品の制作過程が話題になってたな。木材壊してキャンパス折ろうとして…さてはかりんが話したな」
アリナ・グレイの新しい作品「争いのない完成品」、生徒の話題はこれで持ちきりだ。コンクールで金賞を受賞したそれは、アリナ自身の写真を油絵にしたものだ。賞への作品がなかなか完成せず腹が立って暴れた結果完成したものなので、それが原因で椎名が怪我したと勘違いした生徒がいたのだろう。アリナは濡れ衣を着せられていた。
「悪かったな」
素直にアリナへ謝罪する。考えてみれば悪いところなどない気もするが、彼女が不満を抱いている以上素直に謝って損することはない。
「はあ…もういいワケ。それより問題は、人のことをペラペラ喋るフールガール……これは、ペナルティが必要だヨネ」
「ほ、ほどほどにな」
そんな会話をしながら歩いている今も、周囲からアリナの噂をする声が聞こえてくる。それを聞きますます不機嫌になるアリナ。その雰囲気を感じ取った椎名は、この話題は避けて美術室へ向かおうと判断する。
「そういえば最近姉さんの元気がなくてな、女性目線からどう接したらいいか聞きたいんだが…」
「………」
「ア、アリナ……?」
椎名の話題転換も虚しくアリナの機嫌は良くならない、それどころかますます悪くなっている気さえする。このままではかりんが危ない、しかし話題をそらそうにも既に美術室は目前。せめてかりんがまだ美術室にいないことを祈るが、
「椎名先輩とアリナ先輩!!」
後方からかけられる聞き慣れた元気な声、アリナの不機嫌の原因、御園かりんが手を振って駆け寄ってきた。
まずいと思ったのも束の間、笑顔で駆け寄ってきたかりんにアリナが無表情で近づく。かりんはアリナが自分を出迎えてくれたのかと思い、その笑顔が満面に変わる。だがそんなことはもちろんなくアリナはかりんが手に持っていたイチゴ牛乳を素早く奪い取った。
「あ、わたしのイチゴ牛乳!」
ちゅー、ズゾゾゾ
「あー…」
一気に飲み干すアリナ、それをただ見ることしかできないかりん。少し可哀想だが自業自得な気もしないので止めるのは辞めておく。
「ひどいの、アリナ先輩………」
「人のことをペラペラ話してる方がひどいんですケド」
「だ、だって、アリナ先輩が賞を取って嬉しかったから…それに、わたしが撮った写真だったから余計になの」
言い訳をするかりん、正直気持ちは分からなくもない。自分の撮った写真を絵にした作品が賞を取ったのだ、言いふらしたくもなるだろう。椎名自身もアリナが賞を取った時自分のサポートが少しでも力になっていたと思うと誇らしくなる。
「って、わたし椎名先輩の自慢もしたの!アリナ先輩程じゃないけど……話題になってるはず」
「あー…それな…」
実のところ椎名もコンクールに作品を出して賞を貰っていた。
というより今回のコンクールはもともと椎名だけが作品を出展する予定で、アリナの作品は美術部顧問の教師が勝手に出したものだ。結果はアリナが金賞で椎名が銀賞、栄総合から二人の受賞者しかも金賞と銀賞ということで教師陣はかなり喜んでいた、しかし本人たちの反応はそこまでだった。
アリナはただ彼女自身が作りたいものを彼女の感性で彼女が気に入るものを彼女の手で創っている。勝手にコンクールに出され、例え賞を取ったとしてもそこに喜びの感情などない。むしろ面倒だと思うまであった。そして椎名が喜ばないのは、
「燃やされた…」
「え?」
「…そういえばアナタのアート掲示板で見かけなかったワケ」
椎名の発言に驚く二人。当然だ、コンクールに出した作品が燃やされたなんて聞いたことがない。そんな二人の反応に彼は少し気まずさを覚えるが説明する。
「俺がコンクールに出した作品は見せたよな」
「あの怖いやつ………」
かりんは数日前に椎名から見せてもらった絵を思い出した。彼女自身怖いものに耐性があるわけではないが、ホラー漫画を読むこともあるので少しは大丈夫だと思っていた。しかしそんな慢心は彼の絵を見て吹き飛んだ。見たこともない化け物の絵、恐怖という概念をそのまま描いたようなそれは彼女に感じたことのない恐怖を与えた。思わずアリナの後ろに隠れたのを覚えている。
「そうだ、結局あのまま出したんだが、思った以上に怖かったらしくてな。審査中に何人も精神を病んだ人がいたとかで審査後すぐに燃やされた。パーマネントコレクションを狙ってたのに……まさかその逆で、世界から永久追放されるとはな…」
遠い目をしながら事情を説明する椎名。
椎名が作りたい作品は自然と引き込まれ、彼がアリナの作品を始めて見た時のような衝撃を与えられるものだ。どれほど気に入った作品が完成したとしても、誰にも見せられないなら意味がない。
「審査員さんの気持ちは分かるけど、さすがにかわいそうなの……せめてわたしが皆に椎名先輩の自慢をするの!」
「ありがとう、かりん…」
「……人の自慢をする前に、アナタはやることがあると思うワケ」
そんな二人のやり取りを見ていたアリナは、大きなため息をついた。
「クロッキー、デッサン、色彩構成ずっとプアーなんですケド?」
「あぅ…えっと…ご、ごめんなさいなの」
痛いところを突かれ、バツの悪い表情をするかりん。しかし直ぐに切り替え、
「で、でも。本当にすごいと思ったの!だって、アリナ先輩の作品、パーマネントコレクションなの!パーマネント!」
「…意味分かっていってるワケ?」
「あの、パーマなの…あ、ライオンさん⁉」
「フールガール…」
かりんの返答に呆れたアリナは、二人を放置して一人美術室に入ってしまった。かりんが名前を呼ぶが完全に無視されている。
かりんは後を追って美術室に入ろうとするが、椎名が止めた。
「椎名先輩?」
「今日のアリナは機嫌が悪い、少し一人にした方がいいだろう」
「…わかったの」
アリナを気遣う椎名の言葉に、かりんは大人しく従う。
椎名は気を落としているかりんを見て少し考えた後、笑みを向け言葉をかけた。
「アリナに飲まれたイチゴ牛乳、買ってやろうか?」
「………うん!ありがとうございますなの、椎名先輩!」
かりんの表情が笑顔に戻ったのを見て椎名は安心する。
学校でアリナばかり気にかけているように見える椎名だが、後輩であり自分のことを慕ってくれているかりんのことも大切に思っている。だからこの行動は、アリナを一人にするためのものではなくかりんへの純粋な善意だ。
「……そういえば、椎名先輩その頭の包帯どうしたの?」
改めて椎名を見たかりんは、あえて触れなかった彼の頭に巻かれている包帯について質問する。
「ああ、やっと気づいたか」
「気づいてたけど、椎名先輩もアリナ先輩も全然触れないから、聞いていいのか分からなかったの…」
「まあ大した話ではないんだがな、ジュースでも飲みながら話そう」
そう言って、椎名は歩き出した。
***
放課後の食堂は人が少なく、ガラス張りの壁から入る夕日の光が、昼休みに訪れる時とは違った雰囲気を醸し出している。自販機から一番近い席に座り、椎名とかりんは話していた。
「で、起きたら病院だったわけだ。たまたま友達が通りかからなかったら危なかったかもな」
椎名の話を一通り聞いたかりんは、呆気に取られた。階段から落ちて気を失ったうえ、記憶が混乱していたのに、今目の前にいる椎名は笑いながら話している。少し心配になったかりんは椎名が本当になんともないか色々質問してみることにする。
「…椎名先輩、自分の誕生日覚えてる?」
「4月21日だが、それがどうかしたのか?」
「好きな食べ物は?」
「お茶漬けだ、だからそれがどうかしたのか!?」
「大丈夫そうなの…」
特に間違えずに質問に答えた椎名にかりんはひとまず安堵する。
その様子に椎名は彼女の意図を察して、
「俺の記憶が無くなったと思ったか?安心しろ記憶力には自信があるんだ!」
「でも実際、落ちた前後を忘れてるの」
「う……そ、そういう時もある!!」
無駄に大きな声でごまかす椎名、そんな彼を見て通常運転だとかりんは思う。
いつも通りの椎名なら、後数日もすれば包帯も取れてアリナのパシリを始めるだろう。椎名の怪我が問題ない事を確認したかりんは話題を変えることにする。
「そういえば椎名先輩、アリナ先輩以外にも友達いたの」
「失敬な!?こう見えても俺顔広いんだぞ!!」
「本当なの?」
椎名はかりんの発言に反論するがかりんは疑う。しかし実際椎名の顔が広いのは事実だ。神浜市立時代、彼は様々な分野で結果を残している。それに伴った人間関係は少なくない。七海椎名は神浜ではちょっとした有名人なのだ。
「顔が広いのと、友達なのは別なの」
「な……そういわれると、…まさかももこ達のことを友達と思ってたのは俺だけであっちは知り合い程度にしか…でも確かにあの時………」
ブツブツ言いながら悩みだす椎名、かりんは彼が出した名前に聞き覚えがあった。
「ももこ達って、かえでちゃんとかのことなの?」
「ああ、そうだが、あいつらのことを知ってるのか?」
「かえでちゃんたちとは友達なの」
当然のように答えるかりんに椎名は少し呆れを覚える。さっき自分で顔が広いのと友達とでは別と言っていたのに、よく言いきれたなと思った。
「……知り合いかもしれないぞ」
「そ、そんなことないの!!」
「じゃあ俺もそんなことない」
そんな会話を続けていると、食堂のスピーカーから校内放送が掛かる。一旦会話をやめ耳を傾けてみれば、どうやらアリナが呼び出されたようだった。
「そういえば、今日は審査員の一人がアリナに会いに来る日だったな…」
椎名は先日顧問がアリナに言っていたことを思い出した、審査員直々に賞状を渡しに来て話をするとのことだったがアリナがあの様子ならおそらく無視されるだろう。またアリナに翻弄される顧問を思い浮かべ会話に戻ろうとした時、スマホからトークアプリの通知音が鳴った。
アリナからだ、内容を見れば簡潔に「代わりに行って」、とだけ送られてきている。
そのメールを見た椎名は、話しながら飲んでいたジュースを一気に飲み干す。
「アリナから代わりに行ってほしいと連絡がきた、今から向かうがかりんも来るか?」
かりんは少し考えるが、すぐに顔を上げ、
「帰るのはまだ早い気もするから、一緒に行くの」
人の少ない食堂を出て、二人は審査員のいる教室へ向かった。
かりんちゃんの時々出る敬語が好きです。
かりんちゃんはパシリをしている椎名の事をキモイと思う時もありますが基本的には慕っています