パシリレコード   作:Ringseiran

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く・も・ら・せ・か・も


第五話 手紙

アリナの代わりに審査員のもとへ向かった椎名とかりんは、手紙を預かった。今は学校から逃亡したアリナを探して、栄区で彼女が訪れそうなところを手あたり次第に探している。携帯の電源を切っているのか、いくら連絡しても返事がないアリナの捜索は難航していた。

 

「いないの……」

 

本屋を探すがアリナの姿は無し、また宛が外れたとかりんは肩を落とす。もうかれこれ3軒目の場所だったが一向にアリナは見つからない。椎名が見つけていることを願い彼のもとへ向かおうとすると、

 

「来てくれかりん!」

「ど、どうしたの椎名先輩!?」

 

椎名が深刻な表情をして雑誌を見ている。かりんもその雑誌を覗いてみると、ページ全体に七海やちよの写真が掲載されていた。なんとなく椎名の思考を察したかりんは、呆れて冷たい視線を彼に向けた。

 

「こんな写真……俺知らないぞ!…く、最近みかづき荘に帰れてなかった影響がこんな所で出るとは!」

「えい!」

「痛あああ!?」

 

やちよの写真を見て自分の世界を展開している椎名に、かりんは足を踏みつけて現実に引き戻した。加減を忘れたかりんの踏みつけに椎名は悶絶する。変身していないとはいえ魔法少女の踏みつけ、それなりの威力のはずだが直ぐに復活した椎名はかりんに文句を言う。

 

「かりんお前、何使って踏んだ!?」

「別に何でもいいの、それより早くアリナ先輩をみつけないとなの!」

 

かりんに一括された椎名は我に返る。もう少し姉の写真を見ていたい衝動を抑えて雑誌を棚に戻すと、アリナから連絡が来ていないかスマホを取り出し確認する。

 

画面に表示されるのは椎名が送った一方通行のメッセージのみ。既読さえついていないそれを見て少し落ち込むが、気を取り直して次の店に向かう。

 

アリナの自宅、画材店、本屋と訪れていなかった彼女がいそうなところを、椎名は少しづつ絞り込み始めていた、そして機嫌の悪い彼女がいそうなところは、

 

「ハンバーガーショップ、だな」

「なんでなの?」

「経験則だ。一年ほど前にアリナが美術部の部長と口喧嘩になったことがあってな。その時キレて今日みたいに学校からいなくなったんだが、探していたのがそこだったわけだ」

「……そんなことがあったなら、最初からここにこればよかったの」

「機嫌が悪い時毎回来るわけじゃないんだよ、大体は帰るかさっき探した店にいる。ここに来るのは、アリナにとって気分転換なのかもな」

 

扉を開けて店の中に入る二人。店内には放課後のティータイムと言わんばかりに多くの学生たちが居座っている。店の中を一通り見渡してみると、不機嫌そうな少女が四人用のテーブルを占領していた。

 

「あ、アリナ先輩いたの!」

 

素早くアリナのもとに駆けるかりん、椎名もそれに続く。二人に気づいた彼女は、

 

「げ、アナタ、何しに来たワケ?学校には戻らないから」

「その必要はない、これを渡しに来ただけだ」

 

露骨にめんどくさそうな表情を向けるアリナに、遅れてやってきた椎名は手紙を見せた。

 

「……まさか、それを届けるためだけに、ずっとアリナを探してたワケ?」

「まあな」

「アリナ先輩全然メッセージ返してくれないから、探すの苦労したの」

「…………ソーリー」

 

自分が行く気のない事を代わりに伝えてもらうだけのつもりが、想像よりも苦労させてしまったことをアリナは申し訳ないと思い謝った。

 

「はい、確かに渡したの」

「…センキュー」

 

「………………帰らないワケ?」

 

手紙を渡したのに向かいに座って自分を眺めている椎名とかりん。

一向に帰らない二人にアリナは訊いた。

 

「アリナ先輩が読み終わったら一緒に画材屋さんにいくの、色々と教えて欲しいの」

「ああ、たまには三人で買い物に行くのもいいだろう」

「フールコンビっていうかフリーコンビ過ぎるんですケド………ま…巻き込んだワケだし、ちょっと待って」

 

そう言って手紙に視線を落とすアリナ。椎名とかりんは一仕事終えたと思いながら椅子に体重を預ける。アリナの捜索はそれなりの時間を要したが、それも彼女と一緒に買い物に行けるなら御の字だ。

 

椎名は暫く待っていたがふとアリナに目を向けた時、その異変に気付いた。明らかに彼女の表情が機嫌の悪い時のそれに戻っている。手元を見ればさっきまで読んでいた手紙が握り潰されていた。

 

「アリナ先輩?」

 

かりんもアリナの様子がおかしいことに気付き心配するが、

 

「ごめんやっぱりアリナ帰る」

「え、アリナ!」

 

さっきとは比べ物にならない不機嫌オーラをまとわせて席を立つアリナ、椎名は咄嗟に彼女の名前を呼ぶが無視されてしまう。アリナはそのまま店を出て一人で帰ってしまった。またしてもアリナに取り残されてしまった椎名とかりん。

 

突然の出来事に思考がフリーズするが、改めて現状を認識するとアリナが帰ってしまった損失感が襲ってくる。

 

急いで追いかけることもできるが今行った所で一蹴されてしまうだろう、直ぐに帰る気にもなれずテーブルに戻ってうなだれる。

 

どうしてこうなる、と愚痴をこぼす椎名は、一緒に画材店に行けなくなったことを悲しんでいるかりんを励ます言葉さえ思い浮かばなかった。

 

きっと原因はあの手紙だろう、大方アリナの地雷を踏みぬく内容でも書いてあったに違いない。なんせ人の作品を燃やす審査員が書いた手紙だ絶対そうだ。椎名はやりようのない気持ちを審査員への恨みに変えた、そうでもしないとやってられなかった。

 

椎名は暫く落ち込んでいたが、喉が乾いていること気づく。そういえば、アリナを探している間何も飲んでいなかった。栄区を駆け回ったのだから喉も乾くだろう。椎名は一番小さいサイズのドリンクを二つ買ってきて一つをかりんに渡した。

 

「ありがとうなの…」

 

かりんは小さな声で礼を言ってそれを受け取る。

 

「今日はこれ飲んで帰ろう」

 

アリナ無しで画材店に行く気はない椎名の提案にかりんは無言でうなずく。

 

口にしたオレンジジュースの味は、買ってすぐのはずなのに、どうにも水っぽく感じた。

 

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 

椎名が学生寮に帰った頃には日はすっかり落ちて、中庭に設置さえたオブジェが綺麗にライトアップされていた。クリスマスでもないのに年中無休で光り続けているそれを見るたび電気代が心配になるが、昔先輩が栄総合の伝統と言っていたのでたぶん大丈夫なのだろう。

 

栄区中を駆け回り空腹になった椎名は、寮監に軽く挨拶した後、自分の部屋には戻らずそのまま食堂へ向かう。

 

「あ、七海先輩今帰ったんですね」

 

椎名が廊下を歩いていると、彼より一回り程身長の低い少年に声をかけられた。この寮に住む中等部の生徒だ。

栄総合の寮に住む生徒の数はそんなに多くない、そのため大体の生徒とは顔見知りだ。

 

「そう言えば、聞きましたよ神浜現代美術賞で銀賞とたって。……後その怪我のことも、グレイ先輩にやられたって……」

 

心配そうな様子の後輩、その視線は椎名の頭に巻かれた包帯に向いていた。

どうやらアリナが自分に怪我を負わせたという間違った情報はそれなりに広がってるらしい。椎名はため息をついた。近いうちに対策を打たなければアリナが他の生徒から怖がられてしまう、明日にでも新聞部に行って真実を記事にしてもらえないだろうか。そう思う椎名だが、まずは目の前にいる後輩の誤解を解くことにする。

 

「この傷はアリナにやられたものじゃないぞ、俺が一人で階段から落ちた時にできたんだ」

「え、でもグレイ先輩が暴れた時止めようとして巻き込まれたって聞きましたけど」

「確かにその場にはいたが、アリナが暴れ始めた時は急いで離れた」

 

アリナと怪我は一切関係ないと説明する椎名は、当時のことを思い出しながら語り始める。

いつも通りアリナの作業を見ながら時々言いつけられる要望に応えていた時のことだ。急に作業を止めたアリナはついさっきまで描いていた油絵を蹴り上げた。一度始まったアリナの暴走は簡単には止まらない、まだ乾いていない油絵を掴み床にたたきつける。それをさんざん踏みつけた後キャンバスを折ろうとしてやっと止まった。思い返してみると間近にいてよく巻き込まれなかったなと思う椎名。とはいえ巻き込まれていないものは巻き込まれていない。

 

椎名は一通りの怪我の経緯と誤解されたであろう原因を説明した。

 

「そ、そうだったんですね、七海先輩いつもグレイ先輩にこき使われてたので、俺てっきり…」

「あれも俺がアリナに頼んでやらせてもらってるだけなんだがな………」

 

話してみるとどうやら他にも誤解がありそうだ。ひとまず話を止めて後は夕食を食べた後に説明することにする。

 

「まあいい、後は食後に話そう、今日の夕食はトンカツだったか」

「そうですね、俺一緒に盛られてるレタス苦手なんですよ、七海先輩にあげます」

「む、好き嫌いは良くない、自分で食べろ」

 

食堂へ向かう途中。面倒なことになったなと、椎名は内心思う。

日頃話す機会が多い後輩でさえ誤解しているのが現状だ、他の生徒の間ではもっと変な誤解をされていてもおかしくない。

 

これは本格的に新聞部に記事の依頼を頼んだ方がいいかもしれない。とはいえアリナのことも心配だ、不機嫌になるのは日常茶飯事だが、どうにもいつもとは少し違った様子だった。明日は忙しくなりそうだと椎名は覚悟する。

 

頭が痛い、怪我をした次に日に走り回るのは少し無理をし過ぎたかもしれない。やっぱり今日は早く寝て体を休めよう、そう思った椎名は、振り返ろうとして、

 

 

 

 

 

 

……平衡感覚が無くなり、意識を失った。

 

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 

神浜市新西区の住宅街。周りに建つ家々よりも大きな屋敷、みかづき荘の縁側に一人の女性が座っていた。

この屋敷に一人で住む、クールな雰囲気をまとった女性―

 

七海やちよである。

 

一人で黄昏ている姿は、とても綺麗で絵になっており、その姿を誰かが見ていたらきっと見入っていただろう。

 

夜風がやちよの髪を揺らす、彼女はそれを気にせずされるがままにただ夜空を眺めていた。

今日は雲一つなく月明かりがよくともっている。星も新興都市の神浜にしては良く見えるほうだ。

七海やちよはただ静かに星を見ている。

 

そんな儚さをまとう彼女は、魔法少女だ。

 

その証拠に、彼女の指には魔法少女の印である指輪、ソウルジェムリングがはめられていた。

 

7年間、彼女は神浜市で魔女と戦ってきたベテラン魔法少女であり、普通の魔法少女よりも強く経験豊富だ。しかし、今の彼女は強い無力感に苛まれていた。

 

弟……七海椎名が魔女と交戦したのち負傷した。

 

ももこからそれを聞かされたのはつい数時間前だ。

昨日椎名が階段から落ちて、病院に搬送されたことは両親から聞いていた。しかし、大した怪我ではないとのことでそこまで心配はしていなかった。

 

だが実際は違う。椎名の怪我は階段から落ちてできたものではなく、魔女にやられたものだった。

 

本来、普通の人間は魔女を視認することはできない。それどころか魔女に操られるはずだ。それなのに椎名は魔法少女と同じように魔女と戦ったという。

 

やちよが感じる無力感は、魔法少女でもない椎名が自分たちと同じように魔女と戦って勝ったという結果から、自分と彼を比べて生じたものではない。確かに椎名は強いが魔女に生身で勝てる程のものではないことは姉としてよくわかっている。

 

ただし、一般人よりははるかに強い。実際使い魔程度なら容易に殲滅できるだろう、そして男の身で魔女を視認する規格外の能力。今回は偶然記憶を無くしたが、もし負傷することもなくももこと魔女を倒して、魔法少女の存在を知っていたら、彼は今まで通りの生活を送ろうとはしないだろう。椎名の周りには魔法少女が多すぎる。きっと自分たちと一緒に魔女を狩ると言い出す、自分の弟はそういう人間だとやちよは知っていた。

 

だから、今回の出来事はやちよに大きな危機感と無力感を与えた。

 

魔法少女でもない弟を魔女と戦わせてしまった無力感。

平穏な日常を捨てさせてしまいそうになった危機感。

 

それが、どうしようもなくやちよを苛む。

 

このことを誰かに言ってもその場に居なかったからしょうがないと言われるかもしれない。

 

「それじゃ、だめなのよ……」

 

その場にいなかったとしても、知らなかったとしても、全てが終わってからでは遅すぎる。彼が戦う選択をしてからでは……

 

……RRR

 

暫くセンチメンタルな気分に浸っていたやちよの思考は、静寂を切り裂く甲高い着信音にかき消された。一度気持ちを整理してスマホの画面をみてみると、そこには「栄総合学園」と表示されている。一気に嫌な汗が出る。このタイミングでの椎名が通う学校からの着信は嫌でも悪い予感が抑えられない。震えた手で電話に出て、耳元にスマホを近づける。

 

「はい」

「栄総合学園の鈴木です、こ、こちらは七海やちよさんの携帯で間違いないでしょうか」

「…そうです」

 

電話口で鈴木と名乗った男は、どうも冷静な様子ではないのが声だけで伝わってくる。嫌な予感は加速する、

 

「椎名君が……」

 

その先の言葉を聞きたくない、しかしそれは当然伝えられた。

 

 

 

 

 

 

「寮で意識を失って、……今は里見メディカルセンターに搬送されています」

 

 




椎名の目
一般人には不可能な魔女の視認を可能にした目。別に特殊な能力があるわけではない。後に彼が出会うある魔法少女はこう結論付けた、
「五感が鋭すぎて、魔女やキュゥべえが見える…とか……?」

魔女に操られなかった椎名
後に彼が出会うある魔法少女はこう結論付けた、
「気合としか……」



要するに二つとも原理は不明である


あとがき
椎名と寮が同じ中等部の生徒の名前は山本です、もう出す予定はありません。
さらば山本
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