人間と燐葉石の輓歌   作:サンサーラ

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朝餉

 

 人間の家屋、その居間。フォスフォフィライトは白装束を纏い、眠たげな目のままでやって来た。

 畳が敷かれた床に、重厚な色の机が置かれた趣深い部屋。ここには刀に弓、掛け軸に盆栽。多種多様な調度品が鎮座する。

 

 そんな部屋に、紙障子を通して降り注ぐ柔らかな陽光。それを浴びつつ、人間は一枚の白いパンを齧り、機械の板を神妙そうな顔で弄っていた。

 しかし、フォスがやって来たことにいち早く気づき、パンを素早く飲み込み機械の板を置く。

 

「おはよう、眠れた?」

「………」

 

 朝の挨拶に返事なく、燐葉石は床に座り込んだ。

 

「…幻覚じゃないんだ」

「同じ感想だね、気が合いそうだ」

 

 お互いが昨日のことを幻だと思いたかったようだ。

 力を抜くようなため息のあと、人間は座り込んでしまった石に手を差し伸べる。

 

「不安?」

「まぁね」

 

 薄荷色の少年はその手をとって立ち上がった。

 

「…石って何食べるの? 水?」

「光だよ。だから曇りとか雨が続くと、

 ちょっとしんどいんだ。冬場は冬眠するし」

「光ねぇ……」

 

 がたり、と障子を開き、その奥のガラス戸を開く。

 天気は快晴。澄み渡る青空と、伸びた木々の枝から差し込む木漏れ日が心を落ち着かせる。

 庭の至る所に生えた植物。陽の光を浴びる緑の彩り。青々しいそれを見る人間の目は、何処か鋭い。

 

「……〝さつき〟なら何か知ってるかな…」

 

 そう呟く人間の声は聞こえていなかったのか、フォスは日光を浴びながら気の緩みきった顔を見せていた。

 

 

 

 

 

 


 

 

「朝餉」

 

 


 

 

 

 

 

 

「さて、今後についてお話をしたいと思います」

「はい」

 

 朝餉の終わり、時刻は10時と少し。

 周囲の環境が自然ばかりなのもあるが、平日ということも重なって、鳥の声しか聞こえない穏やかなひと時だ。

 人間はセミフォーマルな服を身に付けており、どことなく教師のような雰囲気を放っている。

 

「フォスの目的は?」

「元いたところに帰る! …だと思う!」

 

 だと思うって、と人間は少し戸惑う。

 それを見た石は苦笑してこう返した。

 

「なんかあんまり焦ってないんだよね…実感が湧いてないからかも」

「ああ…なるほど…無理もないか」

 

 人間は事情が事情だし、と思いつつ昨日の会話を振り返る。どうもこの石が元々いたところは、石達を装飾品にしようとする月人なるものと戦争をしていたらしい。

 なんとも空想的な話だが、絵に描いたような空想が目の前の現実に存在している以上、それもまた本当のことなのだろうと人間は受け入れていた。

 

 ───まぁ、他の宇宙に関する論文はあったしな。

 

 そんなことを考えてから、一つ思案する。居場所は提供したが、それだけでは不十分だと考える。

 どんなコミュニティにも、身を置く以上『仕事』は必要だ。仕事とはすなわち『役割』であり、それを持たない者は強く心を苛むし、滅私の在り方を育みかねない。

 どうにか硬度三半の体に合った仕事を与えなければ。

 

「とりあえず帰還について(そっち)は自分が調べる。

 …あんまり期待はしないでね」

「うん、相当な無茶なのはその顔からなんとなくわかる」

「で、その間でフォスには気晴らしに一つ仕事を頼みたい。仕事がないと人って自暴自棄になるから」

「!」

 

 目を見開く燐葉石。

 つぶらな瞳が、朧げな期待と不安を帯びる。

 しかし人間はそれに気づかないまま。

 

「まぁ簡単な家事手伝いだよ。そっちのいう戦争みたいなやつも、こっち…というかこの国にはなくてね。地味な仕事で悪いけど、ともかく慣らしってことで」

「日常業務?」

「まぁそんなところ、やり方はちゃんと教える」

「…つまり君の生活を助ける仕事?」

「いいや、正確には〝自分と君〟

 いつからやろっか、とりあえず七日くらい様子を」

「今日!」

 

 はい? と驚く人間の声。

 フォスフォフィライトはやる気をみなぎらせた顔で、人間の黒い目に迫る。

 

「早く慣れた方がいいと思うんだよね。それに、こんな広い所でただ待ってるなんて暇すぎるし…あと、単純に申し訳なさがすごいと言いますか…」

「……」

「……駄目か?」

「駄目じゃないけど…君は意外と活発というか、元気というか何というか…」

 

 その底の無さそうな明るさが、羨ましい。そう出かかった言葉を、人間は必死に飲み込んだ。

 今自分が見ている「元気」が「虚勢」の可能性も否めない。

 不用意な発言は慎もうと気を引き締めて、人間は言葉をやり直す。

 

「ううん、やる気があるのは良いことだ。

 じゃあ、取り敢えず…家の中の把握から始めようか」

 

 ついて来て、と人間が立ち上がる。

 当然フォスもその後ろに続いたが、人間の背中を眺めつつ、彼は思う。

 ───どうして、 昨日出会ったばかりの他人を、ここまで気にかけるのか。

 その疑問を口に出すことはなく、石は黙って人間の後ろについていった。

 

 

 

 




開幕の終わり。
次回から生活をしっかり書く

人間:だだっ広い屋敷に一人暮らし。不用意な発言を避けようと頑張ってるね、なんでかな。
宝石:今の状況に実感がない。無理もないね。仕事を与えられたので少し気分がマシになった。
さつき:名前だけ登場。宝石の国作者の作品の一つである短編集「虫と歌」収録の「星の恋人」主人公。非人間。

赤バー感謝 番外編

  • 生身の国(現パロ的な)
  • 白粉を塗る話(白粉無き体)
  • 夜更かしの日(深夜まで遊戯)
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