仕方ないよね、物語が組上がっちゃったんだもの
LC二次創作のくせにアブノーマリティが出ないのも仕方ない、だって導入だもの!
何も変わるところのない日だった。
青い薄明かり、音のない部屋。男が一人だけ、机に向かって椅子に座っている。
いつものように唐突に現れた彼女は、いつものように一方的に業務連絡をし、
『......』
いつものように、結びに入る一句がこない。
いかがわしげに見やれば時が止まったかのように微動だにしない姿。
ぎぃ、と椅子を軋ませ、座ったままに体の向きを変える。彼女の正面を向くように。
『......』
「......」
束の間。
『あなたは』
迷うように。
『あなたはどう思いますか?』
問い。先程までのこととは別を指しているのは分かる。だがそれだけ。
「何を?」
問いかけに問いを重ねる。
結局。問いの意味が分からぬまま。彼女はいつものように唐突に姿を消した。
「うーし、各区チームリーダーへ通達。これからTT2プロトコルの解除処理を行う。担当区画に異常はないな?」
毎日の業務、その始まりを告げる定句。
肯定の返事を聞き終えれば管理人室からのみ行えるコマンドを実行する。
さぁ、一日を始めよう。
”Lobotomy Corporation”通称L社は本社を頂点としてその下に横並びの支部で構成される。
それぞれの支部は独立しており、本社によって定められたガイドラインを除けば支部長にあたる”管理人”の裁量で運営されている。その裁量範囲は広く、故に支部ごとに特徴も強く出ていた。
「全エージェントへ通達。TT2解除処理完了。各員はマニュアルに沿って収容対象への作業を開始せよ。異常が発生すれば即座にチームリーダーへ報告すること。」
この第3支部の特徴は当支部の管理人を除く全職員が評して”理想”。当支部を知る他支部からの評価も同じく。
「今朝のミーティング通り今日は何もないはずだ。大規模収容違反もこの前あったばかりだしな。ただしいつも通り、緊張を持って職務にあたること」
徹底される社内規定。高度化されたマニュアルは社内力学を無視してあらゆる物事を高速で処理する。
人情みのある労働環境。義務を果たす限りはある程度の自由裁量すら認められる。
厳格に行われる人事。純然なる能力だけを評価するそれは当たり前であるはずの他者への妨害、蹴落としを許さず、人間性を回復すらさせた。
そしてなにより、矛盾するようであるが。命を削る現場にあって保証される生命。
「言うまでもないだろうが負傷したならば程度によらず専属医にかかること。お前らの代わりはいくらでも居るからな?それを忘れるな。以上だ、通達を終了する」
つまりはそう、僅かな隙を見せればエリートすらも次の日には職を失うことが珍しくないこの都市においては極めて稀な”職務にのみ専念できる、夢にすら見れない理想的な職場”であった。
マイクをoffにする。壁一面を覆うモニター群に目を向ければ各区に備えつけられらたカメラの映像を遅延なく映している。どれもエージェント達が通路を歩いて収容室に向かう姿ばかりだ。
異常がないことを確認すれば手元のサブモニターに映るメールリストに目を通していく。
緊急の案件はなし。本日中の処理を求めるものがいくつか。タスクも午後まではない。なら次の支部間会議へ向けた資料からとウィンドウを切り替えようとすればピコンと、メールの通知音が鳴った。タイミングの良いことでと送信者をみれば本社の表記に目を見開く。本社とは上下の関係にあるが殆ど放任だ。定期を除けば滅多なことでは連絡もない。タイトルからは嫌な雰囲気が漂うが見なかったことになどできない。南無三とメールを開いて本文を読めば、案の定だった。
『支部の拡張命令ですか?』
そう訪ねるのは第4区チームリーダーのベンジャミン。紫色の髪を跳ねさせた彼の疑問はグループチャットに映る皆を代表したものだ。
本社から届いたメールの本文を読んだ管理人は暫く固まった後、各区のリーダー達に召集をかけた。
訝しげにする各々の顔がサブモニターに映し出されるのを待って説明されたそれは、誰をも困惑させるのに十分な内容だった。
「あぁそうだ。ちなみに当支部限定実施、拒否権もないそうだ。あくまで決定の通知だな」
管理人の顔も困惑に歪んでいる。なにせ一切の予告なく通達されたのだ。添付されていた指令書のどこを読んでも本社の意向のみで作成されたことしか分からず、当支部のみを対象とする理由も不明だった。
『具体的な内容を教えて貰えるのか?管理人』
「いいぞ。まず本件の情報レベルは4。他支部への展開は不許可。計画内容は現在6区画で構成される下層収容物管理領域を追加で後3つ、つまり9区画に拡張する。また、区画の拡張に伴い中央本部なるものの設置。これは本会議で詳細を話すが他区画の二倍の規模になる」
一息を入れる。
「実行日は約1カ月後。それまでに人員整理とアブノーマリティ受入準備を実施。拡張工事自体はT社の技術支援を受けた建築会社の超短期プランで施工される。見積りでは1時間で完了。工事完了の翌々日から5営業日のスパンでアブノーマリティを順次収容、現在のアブノーマリティ収容数の上限24を40に拡大する。以上だ」
あまりの内容にざわつく。内部の人間であればそれが如何に無理難題かを考えるまでもない。
『管理人さん、あの...冗談ですよね?』
そうだよね?そんなバカな話ないよね?と可愛らしい顔にデカデカと書かれているが渋面の管理人からの回答は現実逃避を許さない。
「残念ながら全て事実だ」
天を仰ぐ者、俯く者、乾いた笑いを得る者、反応は様々だ。
まずは、と管理人は言葉を繋げる。
「5分間のディスカッションを行え。その後20分間の質疑応答を行う。本格的な会議は全員の予定を合わせて開催する」
それぞれ話し合えと管理人のマイクとスピーカーがミュートに切り替わる。
表情を変えないまま、ぎぃと椅子を軋ませ考えるのは昨日の出来事。直近の変化はあれしか浮かばない。
「アンジェラ...」
何が目的だ?予想しようにも情報が全くない。たったあれだけのやり取りから何を掴めというのだ。
状況が掴めない。定かではない時系列を掴もうと都市に網を張っているが今のところ有意な情報は得られていない。”図書館”の物語、その主演男優の動向から現在時点がどこにあるのかを探ろうとしているが現状目立った動きはなく。”企業”の物語、その終わりがまだまだ先だと知れるばかり。
”巣”の治安向上を名目に有名な”事務所”や”フィクサー”の情報を仕入れさせているが、それもどこまで意味があるか。
接触は意味がない。むしろ有害だ。ストーリーラインが切り換わればより致命的な結末もある。
私は端役ですらない。舞台に立つどころか、小道具に触れることすら...?
「まさか?」
毎日の、たった数分の、一方的なあれが?
影響を与えたというのか。独り善がりなあの問いが?
物語に僅かの影響も与えたくないというなら、そもそもL社に所属すべきでないとの意見はそう。
だがあの苛酷に過ぎる学歴競争を抜けた先の選択肢の内、最も有情だったのがこの地位なのだ。
多くの”翼”からオファーはあった。自身の価値は間違いなく高かった。しかしどの企業にも上層部に流動がなかった。つまりは”羽”の末端として使い潰される未来が濃厚で。一人の人間として人並みの生活を願って何が悪い?使い捨てられ”路地裏”に落ちぶれることなど...
乱れる思考に錠をかける。そも出口のない思索は今すべきでない。
タイマーを見る。もう少しで時間だ。想定される質問への回答を組みつつ、改めてサブモニターに顔を向けた。
始まった質疑応答。交わされる問いと回答。やはり多いのは何故?だ。誰もが疑問を抱いている。稼働率が悪いというならテコ入れも理解できた。だが第3支部は全支部中の最高益を常に出している。わざわざそれを崩すような真似を何故?そも本社は支部の動向に殆ど干渉してこない。提示されるノルマを満たしていれば尚更。そう尚更。だからこそ困惑に拍車をかける。
実務的な質問もなくなり、残りは会議でと管理人が発言しようとすれば6区チームリーダーのチャーリーから。
『管理人。本当に、本当に心当たりがないんだな?』
真意を覗こうと向けられる瞳。そこに疑念はない。長い付き合いだ。人となりは十分に理解しあっていた。
「断言する。俺にとっても青天の霹靂だ。本社からの定期便にも一度たりともこれを匂わせる情報はなかった」
『ならば本社は何故...』
「やめろ。不用意な発言は慎め。盗聴などないだろうが断言できん。無用な干渉を招こうとするな」
『......』
常ならばいい。雑談の範疇に収められる。だが今は臨時とはいえ正式な場だ。本社に痛くもない腹を探られたくなかった。
沈黙の中にも不本意は見て取れる。だが現状、確度の高い情報など何もないのだ。憶測でものを言うことすら憚かられた。
「もうないな?正式な会議日程は今日中に俺から展開する。以上で臨時集会を終わる」
解散、と一方的に告げてグループチャットを終了させる。
胸元から煙草を一本、口にくわえて火を着けぬまま思考を巡らせる。
何が起こった?何が起こる?不用意な発言は自分も同じだったか。物語への影響を考えればただ仕事を熟すだけでよかった。刺激するかのような発言はすべきでなかった。
だが、だが、だがーーーーー
私は人間だ。感情があるのだ。例え自身にも定かではないものだとしても。
私は機械ではない。いくら安全だろうがロジカルな思考ばかりに生きたくなどない。
例えそれが、この醜悪極まる都市にあっては過ぎた願望だとしても。
アブノーマリティの登場上限数をほぼ倍に拡大!
全枠は使わないけど余裕があるのはいいことだあ!
あの子が、いやあの子も......ううん!やっぱり君に決めた!!
やったね!今からここに、地獄ができるよ!!!