捏造あり
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美しい花にはトゲがあるというが、それにしてもこの男は極端すぎるのではないかとアインズは思った。
細い指がカップを掴み、窓から吹き込むサラサラとした春風が、男の艶やかな黒髪を揺らす。まっさらな雪肌が日の光に当たって煌めき、長い睫毛の下から灰色の瞳がジッッと不気味に虚空を見据えた。不快感をあらわにする眉間のシワまでもが、彼を芸術品の一つとしているよう。
人類とは思えない神秘的な美しさであった。
そう、あったのだ。
「ブエックショイッッ!!!」
かろうじて横を向いてはいるものの、中年のオジサンのような汚いくしゃみが全てを台無しにした。見る人を圧倒する華やかな顔はクシャリと歪み、男はもう一度大きなくしゃみをする。地を揺らす爆発音のようであったが、慣れているアインズは気にしない。
「ッはー、誰が俺の美貌を噂してるんだ?噂するまでもなく美しいのに……」
「お前の中身はただのオッサンって噂かもしれないな」
「ハハハ、冗談はよせよ」
男はカップに口をつけた。さっきまでくしゃみをしていたのが嘘みたいな、気品のある動作である。
彼の名は、リベラル・シャーデンフロイデ。
魔道国の一番大きな教会にいる司祭であり、ユグドラシル廃人プレイヤー。外見と中身に大きな差がある残念な人間。
そして、アインズ──鈴木悟の実兄である。
◆
ユグドラシルのサービス終了日。
リベラルはギルドホームである〝バベルの塔〟にいた。
バベルの塔はその名の通り、旧約聖書の中に登場する天高く伸びる大きな塔が元ネタである。攻略時は七階までしかなかったが、ギルドメンバー達があの施設が欲しいあの部屋が欲しいと言いまくったため、現在は五十階ほどある。そうなってくると移動が大変なので、エレベーターを設置していた。
しかし、今日はエレベーターの気分じゃない。
リベラルは一階ずつ階段を使って見回った。今日が最後なので、少しでも思い出を脳に残していたいのだ。
柔らかな赤いカーペットが敷いてある階段の壁には、著作権切れの絵画が飾ってある。リベラルは絵に詳しくないが、ギルドメンバーの一人が「絵画はロマンだ!」と一つ一つ飾っては力説していた。
この塔は、一階から二十階が対侵入者用のトラップが山ほど仕掛けてあり、二十一階から三十階までが娯楽施設となっている。
娯楽施設は、メイド喫茶、漫画喫茶、同人誌売り場、美術館など。圧縮した秋葉原と誰かが言っていた。こればっかりはギルドメンバーの趣味思考に合わせて作っているため、神秘さの欠片もない施設がバンバン出来上がるのである。
思えば、我がギルドは《神聖な教会》というテーマがあるにも関わらず、集まったのは悪ふざけと嫌がらせを主食とした傍迷惑なバカたれどもの集まりだった。
享楽主義しかいなかったので止める役がおらず、何度垢BANされかけたことか。
まぁ、三大DQNギルドに数えられるほど暴れていたのだから仕方ない。ギャンブル好きのメンバーが「このスリルがたまんねぇ……!」と涎を垂らして喜んでいたので悪いことばかりではなかった。
最上階に繋がる階段を上りきると、三人の男女がペコリと頭を下げるモーションした。その三人は見覚えがある。
「……君達、こんなところにいたのか」
ギルメンが作ったNPCだ。
彼らは天使戦士というチームに括られ、個性豊かな三人だと記憶している。名前は確か、三大天使から取って
「ミシェル、ガブ、ラファー……だったかな。最後まで警備ご苦労様」
リベラルはヒラリと手を振り、両開きの重厚感のあるドアを開けた。
最上階は真っ白な教会になっており、埃一つない空間であった。
リベラルはそのピカピカの床に意味もなく大の字で寝転んで、緻密に描かれた天井画をぼんやり見つめていた。
端から見れば駄々っ子のような図である。
「あと十秒か……」
プレイ歴は十年といくらか。飽き性を自覚しているリベラルにとっては、驚くほど長続きしたゲームだ。サービス終了が通知されたときから覚悟していたことであったが、やはり長年やっていれば心にポッカリと穴が空いたような気分になる。
寝返りをうって、睫毛を伏せた。
データの消滅を受け入れるその姿は、もう駄々っ子ではなく死体のようだ。
ほの暗い月光がステンドグラスを通してリベラルに当たる。ただでさえ色素の薄い肌が、さらに血の気のない色になった。
バカの集会所みたいなこの教会は、永遠に眠る。