あなたは新人トレーナーである   作:語部創太

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1-0.テコテコ走るぞミスターツルハシ(追憶)

 ミスターツルハシは、走ることが大好きである。

 

 いったい何時から走っていたのか分からないくらいには、走ることが大好きである。

 物心ついた時には、近所の公園で両親に見守られながらあっちへこっちへ走り回っていた。

 

 母親は当時を語る。

「幼稚園の時に出たちびっこレースで一番速かったのよ~」

 

 父親は当時を語る。

「カーブで曲がらずどこかに走り去って失格になってたけどな」

 

 いったいどこのハリボテエレジーだろうか。

 

 ともかく、ミスターツルハシはたくさん走ることが大好きであった。

 やがて、ミスターツルハシの目的は、「速く」走ることよりも「長く」走ることに移り変わっていった。

 

 最初は数百メートルしか走れなかったので、毎日学校から帰ったら近所の河川敷で走り込みを行った。

 東にちびっこマラソン大会があると聞けば、出場用紙を持って走り。

 西にちびっこウマ娘レース大会があると聞けば、決まって1番長いレースに出場した。

 

 そしてミスターツルハシが高学年に上がったある日。

 その日も、ちびっこウマ娘レース大会への出場登録のため、家から川を3つほど越えたところにあるレース会場まで走ってやってきていた。

 そして受付で、どのレースに出場するかの登録を行う。

 もちろん1番距離が長いレースの受付に並ぶ。

 そこでミスターツルハシは、見ず知らずの年寄りの男性に声をかけられる。

 

「お嬢ちゃん、そんな長い距離走るよりも、短距離(こっち)の方がお嬢ちゃんに向いてると思うぜ」

 

 話しかけられた男性の方を向いて、ミスターツルハシはこう言った。

 

 

「なんだこのおっさん!?」

 

 

 そういうのは声に出しちゃいけません。

 

 

 

---とある元トレーナー---

 

 

 

 男は、かつてトレセン学園でトレーナーとして勤めていた。

 年齢による体力の衰えが気になり始めた頃、待望の孫娘が産まれた。

 それを機にトレーナー業を引退したのだが、それでもウマ娘が走る姿が好きだった男は、ごく稀にこうして近所のレース大会の観戦に訪れていた。

 

 今日も、孫娘と娘夫婦を連れて、近所のレース大会の観戦に来ていたのだ。

 まだ立てるようになったばかりの孫娘もいつか、こうしてレースで走る日が来るのかと想いを馳せつつ、レースに参加するウマ娘たちを見ていた、そんな時だった。

 

 ある1人のウマ娘に目が留まる。

 そのウマ娘は、明らかにスプリンターの才能に恵まれた体躯をしていた。

 太い足腰、周囲の同年代と比べてもガッシリした身体。

 それなのに、彼女が並んでいる列は、本日開催されるレースの中で1番距離が長いレースだったのだ。

 

 ――もったいない。

 

 素晴らしい才能を秘めている。

 輝けばいくらでも光る原石。

 それなのに、自分に合わないレースを走ろうとしている。

 

 それが余計なおせっかいだと分かっていつつも。

 才能を発掘し磨き上げてきた男は、ついそのウマ娘に声をかけてしまったのだ。

 

「なんだこのおっさん!?」

 

 おっさん呼ばわりされたのはひどく傷付いたが。

 いや、孫娘から「じいじ」呼びされるのは昇天するほど嬉しいというのに、この違いは何だろうか。

 

 とにはかくとも。

 

 男は少女に、彼女自身の距離適性と秘められた才能の素晴らしさを力説する。

 いやだいやだわたしはたくさん走るんだと首を振る少女を必死になだめすかし、褒めちぎり、おだてて調子に乗せる。

 

 思春期のウマ娘たちを相手取ってきた元トレーナーとしての手腕を如何なく発揮し、男はとうとう少女の首を縦に振らせることに成功した。

 

「!! 分かった!」

 

 何かをひらめいたように、少女はパァッと笑顔を見せる。

 分かってくれたか。男はホッと安堵のため息をついた。

 

「短いのも走る!」

 

 ………………も?

 

「長いのも走る!」

 

 つまるところ?

 

「どっちも走る!」

 

 どうしてそうなった。

 男は頭を抱えて唸った。

 

 

 

---ミスターツルハシ---

 

 

 

 通りすがりの不審者に助言をもらったミスターツルハシは、思い付いた。

 たくさんレースに出れば、その分いっぱい走れるじゃん!

 わたしは天才か? ミスターツルハシは自分の才覚に恐怖した。

 

 というわけで、ミスターツルハシはその日出場できるすべてのレースに出場した。

 

 いつもより多めに走っております!

 いつもより楽しく走っております!

 

 そうしてその日の終わり、たくさんの金メダル(メッキ製)を首にかけたミスターツルハシは、朝に出会ったおっさんに再び声をかけられた。

 

 

「お嬢ちゃん、トレセン学園に興味ないかい?」

 

「そこに行ったら、いっぱい走れるの?」

 

 もちろんだとも。

 その言葉を聞いたミスターツルハシは、トレセン学園への受験を決めた。

 

「キミは天才だ!」

「こんなことは大会史上初めてだ!」

 

 それとついでに、周りの人からたくさん褒められたことも少女の記憶に焼き付いた。

 鼻の穴をプクーッと膨らませ、ミスターツルハシは勝つことの快感を覚えた。

 

 

 

 

---あなた---

 

 

 

「G1勝てばいっぱい褒めてもらえるんでしょ!? わたし頑張る! 全部勝っていっぱい褒めてもらうんだ!」

 

 めちゃくちゃな理論で自らの身の上話を締めくくった担当ウマ娘に、あなたは苦笑いで返す。

 欲望に忠実な、ほんの十数歳の少女。

 しかし、彼女を担当すると決まった以上、あなたにはミスターツルハシの夢が叶うように手助けをする責務がある。

 

――まずは、長い距離を走れるようにしよう。

 

「? わたし、2000mまで走れるんだよ?」

 

 地元のアマチュア――それも小学生までを対象にしたレースならそれで十分かもしれない。

 しかしトゥインクルシリーズにおいて長距離は2401m以上の距離を指すし、中距離でも2400mまでは走れないといけない。

 ミスターツルハシの夢を叶えるには、最低でも長距離のG1レース――最短でも2500mの『有馬記念』を全力で走り切れるだけのスタミナが必要になる。

 

 つまり、少なくともあと500m。

 距離適性を伸ばしていかなければならない。

 

 もちろん、いかに素晴らしい『洞察力』を持つあなたといえどミスターツルハシの距離適性を1m単位で推し量ることなど出来るはずもない。

 また、スタミナをつけるのは言うまでもなく他にも鍛えなければならない能力はある。

 

 まずは最初の数週間。

 ミスターツルハシはいったいどのトレーニングを軸にするべきだろうか。

 あなたは――




ミスターツルハシ

成長率
スピード+20%   スタミナ+10%   パワー+0%   根性+0%   賢さ+0%

どうする?

  • 芝で走る
  • プール
  • ダートで走る
  • 坂路
  • 勉強
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