あなたは新人トレーナーである   作:語部創太

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2-0.お出かけ準備だミスターツルハシ

---ミスターツルハシ---

 

 

 

「それってつまり、デートじゃん!?」

 

「いや、だからそんなんじゃないって」

 

 美浦寮のとある一室。

 わたしが暮らし始めてまだ両手で数えるほどしか経っていないその部屋で、同居人が持ち前のロマンス脳を爆発させていた。

 

 今日、初めてトレーナーの前でわたしの走りを見せた。

 「すごい」「速い」「可愛い」とべた褒めだったトレーナーが言うには、どうやらわたしの履いている靴はわたしの走り方に合ってないらしい。

 

 この靴、お母さんが「いっぱい走るなら丈夫な靴の方が良いわね!」って買ってくれたやつでお気に入りだったんだけどなぁ。

 どうしてもこの靴を変えなきゃダメかって訊いたら、トレーナーは困り顔で「思い入れがあるなら無理に、とは言わない」と退いてくれた。

 

――でも、靴を変えたらキミはもっと速くなる。

 

 …………あんなキラキラした目で言われたら? そりゃまあわたしも満更でもないと言いますか?

 しょうがないなあ。わたしの素晴らしい走りをトレーナーに見せてあげちゃうか~なんて思ったりもしちゃったりしなかったり?

 それでまた「すごいすごい」なんて頭を撫でさせてあげることもやぶやめ――やぶさか? だったりしちゃったりなんかして…………。

 

「でへへへへへ」

 

「ほら鼻の下めっちゃ伸びてる! やっぱりデートじゃん!」

 

「いや、そういうんじゃないから」

 

 まったく何を言ってるんだこの同居人は。

 少女漫画ばっかり読んでる恋愛脳はこれだから。

 

「というか、デート云々の前にトレーナー見つける方が先じゃないの? 『ダイちゃん』は」

 

「うぐぅ!? 痛いところを突いてきたな……?」

 

「『アカちゃん』も『ブレイバー』もチームに入ったし、このままだと売れ残っちゃうんじゃない?」

 

「い、いいんだもん! ウチは大器晩成やもん!」

 

「それ、自分で言う言葉じゃないよね」

 

「じゃかあしい!」

 

 同居人のダイちゃん――『ミスターダイアナ』は、もう知らないと顔を真っ赤にしてそっぽを向いちゃった。

 

 

 

---ミスターダイアナ---

 

 

 

 同室の『ツルちゃん』にトレーナーが付いた。

 しかも専属。

 それは、入学して最初の1週間が過ぎたばかりの時だった。

 

 今日は初めてのトレーニングをしたそうだ。

 嬉しそうに話してくるツルちゃんは、どうやら明日トレーナーとデートするらしい。

 

 本人は否定しているが、間違いない。あれはデートだ。

 だって、トレーナーの話をする時は声のトーンが跳ね上がるし。

 頭を撫でられた時の話をした時なんて、フニャフニャに幸せそうな顔をしてるし。

 なんなら契約だってツルちゃんの方から押し切る形で逆スカウトしたらしいし。

 

 一目惚れしてるやんけお前。ガッツリ恋しちゃっとるやんけ。

 

「まだ会って数日だってのに、困っちゃうよね~」

 

 困っちゃうのはお前の無自覚な恋心だ。

 そうツッコミを入れたいけど、そうするとまたウチにトレーナーが付いていないことを言われるからやめておく。

 

 くっそぉ、自分に若くてかっこいいトレーナーが付いたからってさんざん自慢しやがって。

 ウチだって本気になれば男の1人や2人くらいチョチョイのチョイって引っかけられるんだからな!

 ………………まだ、本気出してないけど! 成長すればきっと!

 

 自分のツルツルストーンな体型を恨めしく思いながら、着々とデートの準備を進める友人の様子を眺める。

 …………でも、ツルちゃんもウチと同じような体型だけどなぁ。

 おっぱいないし、背もちっちゃいし。

 お尻はウチより大きいけど。

 

 ――は!? まさか、尻フェチ? ツルちゃんのトレーナーさんは尻フェチなのね!!

 じゃあツルちゃんは明日、自慢のお尻を強調するような服を着ていくのね!

 そしてあわよくば大興奮したトレーナーさんと、休憩と偽ってホテルに入ってウマがぴょいしてずきゅんぶきゅんな1日を過ごすつもりなんやな!! けしからん! 実にけしからんぞこの同居人!!

 

 ………………ってなんで学園指定のジャージを枕元にセットしてるんやこのボケェ!?

 

「よし! 明日の準備終わりー!」

 

「良いわけあるかぁ!!」

 

「えぇ!? どうしたのダイちゃn――って鼻血出てるよ! ティッシュ詰めないと!」

 

「そんなんどうでもええねん!」

 

「よくないよ!?」

 

 ええいティッシュを鼻にねじ込むな邪魔やねん!

 

「なんでジャージやねん! せっかくのデートやのにオシャレせんでどないすんねん!」

 

「だからデートじゃないって……」

 

「建前で取り繕うのも大概にせえよ!?」

 

「なんでそんなに怒ってんのさ……」

 

「というかせめて私服にせえや! なんでジャージやねん!」

 

「いや、わたし私服とか持ってないし」

 

「ファッキンジーザス!!」

 

「なんで急に外国かぶれになってんの!?」

 

 そうやった! コイツただ走ってるだけで人生大満足のキチ〇イやった! 恋心が芽吹いたことすら分からないガキンチョや!

 

 えぇい、もうコイツには任せておけん! ウチが持ってる中でツルちゃんに似合うとびっきりの衣装を着せてトレーナーさんを悩殺させなアカン!

 

「まずはコレやぁ!」

 

「もう遅いから寝ようよ~……」

 

「トレーナーさんから『可愛い』言われたいやろ!?」

 

「そ、それは~……」

 

 はい! 目が泳いだ!

 確定! これは確定で恋する乙女です!

 じゃけんこっちの服に着替えましょうね^~。

 

「ど、どうかな?」

 

「尻にでっかいメロン詰まってんのかい!!」

 

「ヒップドロップ!!」

 

「ひでぶぅ!!」

 

 

 

 2人のオシャレ品評会は、やがて消灯時間を過ぎて寮長が怒鳴り込んでくるまで続いた。

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