やはり筋肉。筋肉は全てを解決する。   作:あかう

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プロローグ そして、筋肉になった。

 あるところに、今年で14になる少年がいた。

 少年は一つの夢を心に抱いていた。

 その夢とは、『英雄になる』こと。

 14歳になってまだ、というくらい子供らしい夢だ。

 

 少年は天涯孤独だった。

 いや、正確には数日前に天涯孤独になったと言うべきか。

 少年は元々両親を亡くしており、祖父が男手一つで育てていたが、その祖父も数日前にモンスターに襲われて死んだのだ。

 

 祖父は好々爺だった。

 女好きで、だらしなく、どうしようもない碌でなし。

 

 でも、誰も知らないような英雄譚を多く知っていた。

 彼が少年に英雄を教えた。だから少年は英雄を志した。

 

 そんな祖父は英雄譚を語る時にとある都市の名が出ると、いつもこう言っていた。

『あそこにはなんでもある』と、『行きたきゃ行け』と。

 だから少年は、祖父が生前から言っていた言葉に従い、祖父が謳った都市へ向かった。

 

 その都市の名は迷宮都市オラリオ。

 天を突くような巨大な塔を中心として栄えるその都市には、“迷宮“都市とあるように広大なダンジョンが地下に存在した。

 

 かつてダンジョンは人間の世界に突如として現れた。

 ぽっかりと地上に空いた大穴はモンスターを地上へと排出し、多くの人間を死に追いやった。

 だからこそ、人間達は戦うことにした。

 

 そして、血で血を洗う、悲惨な戦いが始まった。

 これこそが、歴史に語られる「暗黒期」である。

 

 暗黒期の人間は元凶たるダンジョンを塞ぎ、この地獄に終止符を打とうと躍起になった。

 逆も然り。穴より出たモンスターは穴を塞がれまい、と必死に抵抗した。

 戦いは苛烈を極め、暗黒期は永遠に続くかと思われた。

 

 しかし、終わりは万物へ絶対に訪れるもの。

 人間達には『知識』と『技術』があった。

『知識』は積み重なり、『技術』は進化を続け、徐々にモンスターを追い込んでいった。

 

 そして、遂に人間は大穴に辿り着き、塞いだ。

 人々は、長く、苦しく、地獄のような戦争の終わりに歓喜した。

 抱き合い、叫び、それぞれがそれぞれ、全身全霊で喜びを表した。

 

 その次の瞬間のことだった。

 夜空の星が瞬き、人間達の眼前へ降り注いだ。

 

 天より神々が下界に降臨したのだ。

 やっと完成させかけた蓋をぶっ壊しながら。

 

 神々は爆笑した。

 阿呆面を晒した人間たちを指差しながら大いに爆笑した。

 

 人間達は当然激怒した。

 いくら神とてやっていい事と悪い事があるのではないか、と。

 神々は笑いの余韻を残しつつ「詫びだ」などと言いながら、とある人間の背に自らの血を一滴垂らした。

 

 神々の“恩恵“である。

 それは人間に神の血を一滴混ぜ、器を昇華させるもの。

 昇華した人間の力は凄まじかった。最早モンスターなど敵ではなかった。

 再び蓋を作り直した人間は、こう思った。

『一体、この中には何があるのだろう』と。

 

 昇華された人間達は迷宮に易々と侵入に成功した。

 そして、彼らは大穴の下に眠っていた物を発見した。

 

 迷宮は希少な鉱物や素材を無尽蔵に内包していたのだ。

 それを聞いた多くの人間はこぞって恩恵を刻み、一攫千金せんと迷宮に潜っていった。

 そして、迷宮を調べ、未だ見ぬ金の種を探して、迷宮をより深く潜らんと画策し、工夫を凝らしているうちに、彼らはいつしか“冒険者“と呼ばれるようになった。

 

 一方で神々は、冒険者達が迷宮に潜っている間に成長し、恩恵を更に昇華させ、自らに未知を、娯楽を与えてくれると気づいた。

 人間とは、眷属とは、少し可能性を与えてやるだけで無限にある暇を潰せる玩具箱だったのだ。

 神々は自らの恩恵を刻んでくれる眷属を血眼になって探した。

 

 恩恵を刻んで欲しい人間、恩恵を刻ませて欲しい神。

 人々と神々の利害が一致したのだ。

 神は人間に恩恵を刻み、人間は冒険者となって迷宮に潜り金を得て、神は彼らの成長によりもたらされる未知と娯楽を得る。

 人も神も彼らの営みを羨み、迷宮に集まった。

 そしてこの都市が発展したのだ。

 

 

 さて、ここに訪れた一人の夢を持つ少年。

 彼の名はベル・クラネル。

 彼は今、この都市を目指し、辿り着いたは良いものの、どこの神も幼い見た目の自分に恩恵を刻んでくれずに路地で泣きべそをかいていた。

 もはや路銀も尽き、このまま野垂れ死ぬのか、と考えていた時のことだった。

 

「そこの少年。どうしたのかな?」

 

 静寂が支配していた路地に重低音が響く。

 優げな男の声だ。

 一体誰なのだろう、といきなり声をかけられたことに驚きつつ顔を上げると──────

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

筋肉モリモリ、マッチョマンの変態がポージングを取りながらこちらに笑いかけていた。

 

 

 一応言っておくが服は着ている。

 ただ筋肉が大きすぎてパッツパツになっているが。

 

 露出している褐色の肌は薄暗い路地なのにも関わらず金属のような光沢を纏っており、その双眸は柔らかな光を灯しつつ、どこか苛烈な雰囲気が渦巻いている。

 しかもその体躯は隣の二階建の民家の三分の一ほどもある。

 

 そんな存在を目にしたベル君。当然びっくりする。

 

「ええええぇぇぇぇぇええ!? だっ誰ですかぁぁぁぁぁぁぁ!?」

「HAHAHA。あまり驚かないでくれたまえ。私はインドラ。見た通りの神だ」

 

 決して見た通りではないが確かに神特有の神威が放たれていた。

 神威とは神が無意識のうちに放つ覇気のようなもので、人間が神を殺せない理由の大部分を占めている。

 また、これを完全に放出しないようにできる神もいるが、基本は出来ない。

 

 あまりの衝撃に軽いパニック状態に陥ってしまったベル君。

 わけもわからず数分間顔色が信号機の如く変化したり立ったり座ったりを繰り返す。

 そして、ある程度落ち着いたベル君はなぜ神が自分に声をかけてくれたのか問うてみることにした。

 

「あ、はい……ベル・クラネルです……えっと……何か御用でしょうか?」

「うむ、君からは筋肉(マッスル)の大いなる素質を感じたのでな。君さえ良ければ私の眷属になってくれないかと勧誘に来たのだ」

 

 まさかのファミリアへの勧誘だった。

 ちなみにファミリアとは同一の神に恩恵を刻んでもらった者同士の集まり。

 つまり血を分けた家族である。

 さて、勧誘されたベル君であるが、彼は今もう色々なところからファミリア加入を断られており、『もう誰でもいいから入れて状態』であったため、一も二も無く即座にこの誘いに乗った。

 

「いいんですかっ!? 入れてください! お願いします!」

「私のファミリアには今の所誰もいないがそれでも良いかね?」

「大丈夫です! 全然大丈夫です!」

「うむ、うむ。では早速恩恵を刻むとしよう。私の……いや、我々のホームまで行こうじゃないか」

 

 と、ホイホイついて行ってしまったベル君。

 インドラの後ろについて行っている感じなのだが、体格差がエグすぎる。

 例えるならば、そう。クリリンと範馬勇一郎だ。

 そんなことはさておき、人気のない路地を歩き、連れて行かれたのはかなり立派な一軒家だった。

 

「これは私が1から作り上げたものなんだ。少々ガタつきがあるかもしれないが容赦してくれ」

「いっいえいえ! とてもご立派です!」

「そう言ってもらえると嬉しいね。有難う」

 

 どうやらそんな会話があったようだ。

 しかしインドラに建築を司る力などあっただろうか? 

 と思った人もいるだろうがそう言うところはあまりツッコまないでいただきたい。

 筋肉だから大丈夫なのだ。異論は受け付けない。

 

 と、ベッドのある部屋まで連れ込まれたベル君。

 インドラは扉を閉めると早速ベル君に対してこう言った。

 

「さぁ、服を脱いで君の筋肉を見せてくれたまえ」

 

 と。

 これは完全に変態である。

 だがこの男、神だ。

 そう、この世界、神なら意外と許されるなんてこともあるのである。

 それは何故か、それは『神は無限を生きる知性体なので滅茶苦茶頭が良い』ので、『神には我々に考え付きもしないような凄まじい考えがあるのではないか』と勝手に人間が思っちゃうからである。

 実際はほとんどその場の娯楽欲しさにやってる事が殆どなのだが、それを見抜けるのは普段から神々に振り回されている者だけである。

 

「は……はい!」

 

 何の疑いも無く服を脱ぐベル君。

 その肉体は年相応のもので、あまり筋肉は見られない。

 正しく平均的、という言葉が似合うその肉体。

 これのどこに筋肉の素質があるのかと問いたくなる体であるが、この神にとっては────

 

「…………素晴らしい」

 

 どうやら宝石の原石のように見えたようだ。

 

「やはり私の目に狂いはなかった! これ程までとは……良い、良いぞ……!」

「え……えっと……」

 

 穴が開くほどベル君の身体を見つめるインドラ。

 どうやらベル君は恥ずかしがっているようだ。

 

「ぼ……僕はこれからどうすれば……」

「む、そうだったな。ではそこのベッドにうつ伏せになって寝てくれ」

「はっはい。わかりました」

 

 と、言われるがままに行動するベル君。

 マッチョマンと、二人きりで、ベッドにうつ伏せとなれば我々ならば警戒するのだろうがベル君は純粋無垢なので何も知らない。

 むしろここで変な事を考えついちゃった人の心が穢れ過ぎているのだ。

 

「では恩恵を刻むとしよう」

「お、お願いします!」

 

 あらかじめ用意していた針で指の腹を突くインドラ。

 徐々に膨らむ血の玉をベル君の背中の真上に固定し、垂らす。

 するとベル君の背中が水面のように波紋を立てた。

 そしてその背中に雷を模した紋章と、神々の文字、神聖文字で書かれた文字列。

 『ステイタス』が浮かび上がる。

 インドラは素早くステイタスを羊皮紙に書き写した。

 

「よし、できたぞ。ベル君。これが君の最初のステイタスだ。ここから君の冒険が始まるぞ」

 

 と、羊皮紙を手渡すインドラ。

 そこには

 

 ベル・クラネル

 

 Lv,1

 

 力:I0

 耐久:I0

 器用:i0

 敏捷:I0

 魔力:I0

 

 魔法

【】

 

 スキル

【】

 

 と書かれていた。

 

「えっと……これは……」

「これはステイタス。私達の恩恵がどれだけ成長したか表すものだ。最初は誰もがこのI0から始まる。“恩恵がどれだけ成長したか“なのに最初からA850とかLv3とかになってるわけがないからな!」

「へぇ〜……」

 

 興味深そうにステイタスを眺めるベル君。

 その瞳には溢れんばかりの期待が満ち満ちていた。

 ここから少年、ベル・クラネルの冒険が……まだ始まらない。

 

「うむ、ではベル君! まずは腕立て伏せからだ! 手首は良く回してからやるんだよ!」

「あっは、はい!」

 

 そう、まずは体づくりである。

 何? ダンジョンに潜らないのかって? 

 何を言っているんだ? 

 そんな体づくりをまともにせずに行ったところで死ぬだけだろう? 

 

 と、言うわけで一ヶ月の間筋トレをインドラの指導のもと行っていたベル君。

 とうとうインドラからの許可が出てダンジョンを潜ることになった。

 が、ギルドでファミリアの登録が必要だと知り、今現在ギルドにて手続きをしようと順番待ちをしている。

 周囲の視線を一身に集めながら。

 そう、視線を一身に集めながら。だ。

 何を隠そう、このベル・クラネル。一ヶ月の間に────

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ムキムキになっていた。

 

 

 

 





ちなみに見た目は小顔になったアイク(暁)
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