やはり筋肉。筋肉は全てを解決する。   作:あかう

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筋肉万歳!
筋肉万歳!


1話 上層は筋肉でいける。

 さて、今現在ギルドにて手続きの順番待ちをしていたベル君。

 どこの窓口も冒険者達でごった返しており、これでも空いているところを選んだのだが、もう既に30分が経過している。

 が、いまだに窓口は遠い。渋滞が起きた高速道路のパーキングエリアくらい遠い。

 流石に暇になったベル君は、碌に動かずその場に居続けることに筋肉量低下の危機を感じ、その場でスクワットを始めた。

 そのスクワットは速度にして、なんと10回/毎秒。

 速い。ものすごく速い。周囲にかなり強い風が発生するくらいには速い。

 勿論そんな光景を見た周りの冒険者達はドン引きである。

 普段はベル君のような初めて見る顔に突っかかりにいくゴロツキのような冒険者達も、この異様な光景を見て流石に関わりたくなさそうにしている。

 

 ただでさえ筋肉だと言うのにこんな明らかにヤバい挙動をしているヤツには関わりたくないと思うのは至って普通のことなので何ら可笑しくはない。

 また、そのような考えからそんな奴の近くに居たくない。早く帰ってほしい。と思うのに繋がることも至って普通のことであるので、冒険者たちはできるだけ早く帰っていただけるようにした。

 

 つまり何が起こったかというと列が開いた。

 その冒険者達が窓口までの道を開けるその姿は、かつてモーゼが地中海を真っ二つに割ったときのようであったという。

 素晴らしい。筋肉は奇跡を呼ぶのだ。

 

 さて、そんなわけであと1、2時間はかかりそうだった待ち時間が一気に数秒に縮んだ。

 これにはベル君もニッコリ。嬉々として逆立ちで進んでいく。

 ベル君は移動の時低確率で逆立ちになるのだ。

 当然、ドン引きに拍車がかかった冒険者とベル君の距離が1Mは大きくなった。

 もうギルドの端の方がギュウギュウである。

 

 ところで諸君。君達が仕事で窓口係をしていたとして、『突如として人が左右に分かれたと思ったら筋肉が嬉々として逆立ちで迫ってきた』と言う状況になったとき、君達はどうする? 

 まぁ大体は恐怖を感じ、逃げるであろう。 

 しかしギルドの窓口は耐えた。耐えてベル君の到着を待った。

 かの勇気ある者に拍手を送って差し上げよう。

 

「よ、ようこそ冒険者ギルドへ。本日はどのようなご用件でしょうか?」

 

 しかもかの勇気ある者は、なんと圧倒的筋肉であるベル君の対応を始めた。

 素晴らしい。かの者に今一度万雷の喝采を送ろう。

 君こそが窓口の鑑だ。誇るといい。

 

「僕っ……冒険者になりたいんですけどっ……!」

 

 ここで勇気ある者が目を白黒させる。

 声が思ったより高かったし、オドオドとしている。

 ベル君が成長したのは見た目────とステイタス────だけなので見た目とのギャップがすごい。

 どうやら筋トレだけでは内面の成長と声変わりはあまり望めなかったようだ。

 

「……えー……新規の冒険者、登録でよろしいですか?」

「はいっ!」

 

 と、確認をとった勇気あるものはベル君に申請書を渡す。

 ベル君はその申請書に必要な事項を書き込んだ。

 その掌の中にあるペンは筋肉による万力の握力の前にミシミシと音を立てる。

 

 ベル君が申請書を書き終え、ペンを置き、勇気ある者へ受け渡す。

 おめでとう、ペン。君は筋肉に耐え、仕事を全うしたのだ。

 さぁ、安らかに眠れ。

 

 そんな感じで尊い犠牲を払い完成した申請書を受け取った勇気ある者。

 勇気ある者はそれにいつもの1.5倍くらいの速度で目を通し、異常がない事を確認した後また明日来るように伝え、駆けるようにして事務室に戻る。

 

「はぁぁぁぁっっ!!! 怖かったぁぁぁぁぁ!!!」

 

 と、扉を開け、転げるように入り、ありったけの声で叫んだ。

 まぁ当然である。

 アレで怖く無いのはせいぜい心臓に毛が生えた者だけである。

 

「エイナ! 大丈夫だった!?」

「うん……何とか……」

 

 と、ここで勇気ある者の名前が出た。

 かの勇気ある者はエイナと言うらしい。

 そんな恐怖で疲れ切ったエイナに同僚の女性達が駆け寄っていく。

 

「まぁあれは怖いわよねぇ……」

「私は無理。逃げる。ってか何でエイナは応対できたの?」

 

 心臓に毛が生えているのではないか? 

 

「……ところで、アドバイザーの要望は?」

 

 そう、彼女達はそれが気がかりだったのだ。

 冒険者には基本はアドバイザーがつく。

 アドバイザーとは冒険者の相談役であり、冒険者へダンジョンの知識を教える教師である。

 何故そのようなことに貴重な人材を割くのかというと、無闇矢鱈に迷宮に挑まれて死なれるより、生き残り、成長してもらう方がギルドとして利益になるからである。

 そしてアドバイザーは授業へ少しでもやる気を出してもらうため基本的には冒険者の意向に沿った人材が選ばれる。

 皆はあの筋肉が誰を選ぶのか非常に気になっているのである。

 

「……女性の……エルフです」

 

 女性職員達はホッと息をつく。

 自分がエルフでは無いからだ。

 だが反対にエイナは絶望した。

 自分がエルフで、なおかつ女性で、空いているのが自分のみだったからだ。

 

「じゃあ、アドバイザー頑張ってね〜!」

 

 と言う声とともに女性職員達は作業に戻っていく。

 実を言うとこのエイナ。不安しかなかったが、少しだけ安心していた。

 何故ならばあの筋肉が死ぬ姿を想像できないからだ。

 かつてアドバイザーを務めていた冒険者に何度も死なれたエイナは、彼ならば死なないんじゃないか、と淡い期待を抱いていた。

 まぁ実際死なないわけだが(圧倒的ネタバレ)

 圧倒的過ぎる筋肉の前には死神すら尻込みするのだ。

 

 と、言うわけで次の日。

 エイナはダンジョンに関する本を3冊ほど抱えながら廊下を歩いていた。

 もう不安しかない。

 襲われたらどうしようかなーとか思っているとすぐに扉についてしまった。

 着いたならば開けるしかない。

 と、意を決して扉を開ける。

 

「……あ」

「……ほ、本日から貴方のアドバイザーを務めることになりました、エイナ・チュールです。今日からよろしくお願いします」

 

 流石勇気ある者。

 この状況であまり動揺していない。

 ベル君が高速で腕立て伏せをしていたと言うのに。

 

「では、まず最初に──────

 

 と、授業が始まった。

 普通ならここから半月ほどかけて勉強をしていくのだが、このベル君。

 頭が良かった。

 普通に頭が良かった。

 こちらで言うなら全国模試で一桁台の順位を取れるほどだった。

 なので授業がとんでもないスピードで進み、一週間ほどで終わった。

 何故か。それは筋肉だからである。

 筋肉が多いから脳筋だろというのは違う。

 筋肉だからこそ頭がいいのだ。

 確かどっかの大学でも証明されていた(ハズ)

 

 そんなわけで、ベル君が初のダンジョンに臨むことになった。

 今から出発するというベル君に対し、エイナは、こう言った。

 

「いい!? ベル君!? 絶対に“冒険“をしちゃダメだからね!? 筋肉でもだよ!?」

「は、ハイっ! わかってます!」

 

 めっちゃ仲良くなっていた。

 まぁ中身は原作ベル君とほとんど同じなので当然といえば当然なのだが。

 と、まぁそんなわけでダンジョンに潜れるようになったベル君。

 ナイフも支給され、もう準備万端である。

 

「じゃあいってらっしゃい! 気をつけてね!」

「はい!」

 

 と、門番っぽい人に証明書を見せてダンジョンに入る。

 初日は一階層だけ、と釘を刺されているベル君は言いつけ通り一階層を探索していた。

 すると、横の急に壁が急にひび割れ始めたことにベル君は気づく。

 これがモンスターが出てくる瞬間か! と、ワクワクしながらそれを見つめるベル君。

 

 程なくして緑色の肌をしたベル君の膝ほどまでしかない人型モンスター、ゴブリンが五匹飛び出してきた。

 ゴブリン達はベル君を捕捉すると、襲い掛か────らずに逃げた。

 流石に知能の低いゴブリンとはいえ彼我の実力差を感じ取ったらしい。

 当然逃げられずにベル君の拳によってその頭部が破裂させられるわけだが。

 そして血まみれになった拳を見てベル君は早急に剣と頑丈なナイフを買わねばと思った。

 え? 支給されたナイフ? 握った瞬間に砕け散ったよそんなもん。

 なのでベル君は素手で魔石を取るところまでやらねばならないのだ。

 これは非常に面倒である。

 

 

 帰ってくるたび拳を真っ赤に染めて大量の魔石を持って帰ってくるという非常識なことを続け、数週間の時が流れた頃。

 十階層にもう行って良いとなり、とうとう二桁だ! 

 と意気揚々とダンジョンに血の花を咲かせつつ歩き、五階層に到達した、その時。

 もう五階層ということで察したと思うが────

 

「ヴモオオオオオオオオオオオオオオオオオオッッッッッッッ!!!!」

 

 

 原作開始である。

 

 




 普通にハイスペックなアイク風ベル君。
 
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