やはり筋肉。筋肉は全てを解決する。 作:あかう
筋肉万歳!
な、話です。
「おや? 何をされているんですか?」
と、リリルカ・アーデの周りに群がっているソーマ・ファミリアの冒険者達に、白髪の筋肉ことベル・クラネルの声が差し込まれた。
声の方向に恐る恐る振り向く団員達。
ベル君の姿を視界に収めたソーマ・ファミリアの団員達は即座に顔を青く変色させる。
酒に飲まれ、理性を失った愚か者でもベル君のことは知っているようだった。
それもそのはず、彼らはいつもベル君が山のように魔石を持ち帰るのを羨ましそうに、その焦点の合わない目を欲望に染め上げながら見つめていたのだから。
勿論、ベル君の魔石を奪わんとベル君を襲った無知蒙昧な阿呆は数人いたのだ。
最初の頃は。今ではその影すら見ることはないが。
何故、無知蒙昧な阿呆が消えたかはこの小説をプロローグから22話分読んだ諸君ならば想像出来ただろうが、悉く返り討ちにあったのだ。
それも無惨な末路のおまけ付きで。
馬鹿正直に正面から挑んだ気持ちの良い馬鹿はまだ良かった。
サクッと捕まれ、サクッと気絶させられ、魔石と一緒にギルドに提出されるだけだった。
魔石と一緒にカウンターへと横倒しにされ、ドンと置かれた様子は競りに出されるマグロを彷彿とさせた。
では、背後から不意打ちした者はどうなったか。
ある程度察しはつくだろうが、その大半は死んだ。
彼らは正面からだと敵わぬと判断し、ベル君をダンジョンの内の複雑な地形の死角から、その無防備な背中に刃を突き立ててしまったのだ。
反応出来なかったわけではない。
ベル君は背後からだろうと、何かの接近は筋肉で感知できる。
だが、場所が悪かった。ベル君は基本的に、ダンジョン内での筋肉センサーの反応は全てモンスターのものだと判断し、防ぐことはしないのだ。
更に言うと、気づいていないことをアピールすることで確実に殺しに来る一撃を誘っているというのも理由の一つに挙げられる。
そんなベル君の思惑通り刃は確実にベル君に直撃し、当然の如く反射される。
急所を狙った人間は全て死んだ。
助かったのは魔石を持つ腕を狙った1人だけだ。
死んだ彼らはベル君によってしっかりとドロップアイテムと一緒にギルドへ提出された。
こちらの方が目が濁っていると言う部分でマグロに似ている。
流石に多すぎる死体の持ち込みから職員達は初め、ベル君による犯行を疑ったが、とある職員が「彼が殺したのなら原型を残していることがおかしい」と提言したことにより晴れて無罪放免となった。
ちなみにとある職員は瞳の中に深淵を飼っていたらしい。
一体、誰エイナなのだろうか。皆目見当もつかない。
まぁ、そんな感じでベル君に殺されるからマグロされるまでの一幕をソーマ・ファミリアの団員達はしっかりと見ていた。
そこからそれを見た愚か者達は、ベル君は『禁忌』であると言う共通認識を持ったのだ。
話を戻すが、そんなベル君に遭遇したソーマ・ファミリアの団員達。
諸君らの中には『じゃあそんなベル君と組んでたリリに手を出すなよ!』と思った人もいるだろう。
それは少し違う。彼らはリリがベル君と組んでいたことは知っていたのだ。
しかし、酒に飢えた彼らは多少のリスクを伴うとしてもその膨大な金が欲しかった。
だからこそリリがベル君と別れた後、この路地裏で事に及んだのだ。
及んだのだが、そこをベル君に見つかってしまった。
これは単純にベル君のホームへの帰り道の一つがこの道だからである。
よく見てみれば舗装された地面に逆立ちで移動した形跡があるのがわかるだろう。
狭い路地裏に逃げ道はない。
逃げ道は巨大な筋肉と、狂った小人によって塞がれている。
団員達はみっともなく震え上がり、どうにか逃げようと右往左往する。
光景としてはトム&ジェリーの慌てふためく猫たちを想像してもらえるとわかりやすいだろう。
(参考:トム&ジェリー『ごきげんないとこ』)
「……ねぇリリ。この人達、誰?」
「あははー。彼らはソーマ・ファミリアの団員ですねー。私が今回稼いだお金が欲しいんでしょうねー」
「ちょっとその話詳しく」
と、そんな感じでわちゃわちゃしてる団員達を無視して、色々とソーマ・ファミリアの詳しい事情を聞き出すベル君。
主神がヤベェ酒造りに執心していること、団長が金の亡者なこと、団員がアル中なこと、その他諸々……。
そんなとんでもねぇソーマ・ファミリアの実態を聞いたベル君。
流石のベル君もこれにはドン引き。
とりあえずそんなアル中たちの輪の中にリリを置いて行ったら絶対にヤベェと判断したベル君はリリをお持ち帰りする事にした。
今ちょっと深い意味でこれを捉えた人間は心が穢れているので早急に心を筋肉に染めるように。
そんなわけでアル中どもをお片付けした後、リリをホームに連れ帰ってきたベル君。
「おかえりベル君……おや? その子はどうしたんだい?」
「はい、神様。この子は────」
と、インドラにリリの現状を説明するベル君。
途中からシヴァも混ざって来て話を聞いていた。
話を聞き終えた二柱は神妙な顔をして話し合い始める。
それはそれとして筋肉が支配したこの空間でリリが浮きまくっている。
しかし諸君、安心してほしい。流石にリリをムキムキにはしない。
で、神々は何やら中々に物騒な話をしている様子。
ナイルと極東の神々がどうの死の神がどうのと、天界の神々のことを心配しているようだ。
何やら今回の話、神々の間でも結構な問題になるらしい。
ある程度の話が終わった後、インドラはこう結論を出した。
「リリちゃん? だっけ? 今からソーマ・ファミリアに喧嘩売りに行くけど、良い?」
「はい! もう滅ぼしちゃっていただいて!」
「いや待って待って待ってください」
と、今からソーマ・ファミリアに殴り込みに行くらしい。
リリはもうすっごい勢いで賛成した。
ベル君はあまりの急展開について行けていない。
コレについて行けないとは。未だ筋肉が足りていないようだ。
もっと精進するように。
「一体何がどうなってそうなったんですか?」
「それはね、ベル君。ソーマ・ファミリアに
「は!?」
戦争遊戯とは、ファミリア間に行われる勝負で、勝った方が負けた方になんでも要求できるとかいうとんでもないゲームである。
なんでも、というのは文字通りなんでも、であり、あんなことやこんなこと、そんなことまでさせることができる。
そんなトンデモルールなので開催には双方の同意が必要なのだが、今回インドラには考えがあるようだ。
流石筋肉神様である。
筋肉を崇めよ。
「な、何故!?」
「いや、それがね……神酒って割と洒落にならなくてね……」
「はぁ……」
「折角だし神酒造をやめさせると同時にちょっと支配下に置いておきたいなーってね?」
「は、はぁ……」
「支配下に置いたらプロテインでも作らせようかな?」
「プロテインとは?」
「うーん……筋肉増強促進剤?」
「やりましょう」
と、そんな感じでベル君の同意は得たインドラ。
流石にチョロすぎるかもしれないがプロテインだから仕方がない。
それほどまでにプロテインとは魅力的なのだ。
早速ソーマ・ファミリアのホームに全速全身を開始する。
同伴はベル君とリリである。
風を浴びながら街道を駆け抜ける3人。
正確には走っているのは二人でリリは担がれているのだがこの際気にしないで良い。
で、ソーマ・ファミリアのホームに到達したベル君とインドラ。
インドラは大きく息を吸い、叫んだ。
「ソーマァ! 出てこォい!」
と。
とんでもない声の大きさで叫んだ。
その声は辺りの空気を大きく振るわせ、窓ガラスは割れそうになった。
割れなかったのはインドラの気遣いである。
そして何事かとソーマ・ファミリアの団員体がわらわらと外に出てくるが、
出オチもいいところであるが、圧倒的筋肉の前には仕方がないとも言える。
そんな出オチ祭りがしばらく続くと、メガネを掛けた、いかにも「私、腹黒いです」という男が出てきた。
「ふむ、一体何事でしょうか」
「突然の訪問申し訳ない。私はインドラ、神だ。そしてこっちがベル・クラネル。ウチの団長をやってもらっている」
「成程、御噂はかねがね、私はザニス・ルストラ。ソーマ・ファミリアの団長を務めさせていただいております。それで、一体何の御用でしょう?」
いきなり団長のお出ましである。
ソーマ・ファミリア団長のザニスはベル君のことを良く知らないか、人並外れて肝が据わっているようだ。
見上げなければ顔も見えない二人相手に物怖じせずに応対している。
「いや何、ちょっと戦争遊戯の申し込みをね」
「ほう? 戦争遊戯ですか。こちらとしては構いませんが、一体何故?」
どうやらザニスはベル君のことは知らないようだった。
知っているのならば一も二もなく断るはずだ。
「それはね……ベル君」
「はい」
担いでいたリリを下ろすベル君。
ザニスはそれを見て理由に検討をつけたようだった。
「彼女は……リリルカ・アーデですね。我々の団員が何を?」
「ああ、彼女はベル君とパーティを組んでダンジョンに潜ったそうなんだけどね。その時に君の所の他の団員に嵌められたそうでね」
嘘は言っていない。
色々と言葉が足りない部分があったりするが嘘は言っていない。
「それで?」
「そんな仲間すら嵌めるような場所にこの子を置いてはいけない、と思ったんだよ。だから戦争遊戯だ」
そんなインドラの言葉に、顎に手を当て考え込む仕草を見せるザニス。
「ふむ……
「……リリの時は1000万だったのに」
と、早速金の亡者の部分を露呈させるザニス。
リリの言葉を聞き逃さなかったインドラとベル君は完全に黒だと判断する。
二人レベルの筋肉になると筋肉の振動で音を感じ取れるので聴覚が敏感なのだ。
「あ〜……残念ながらこちらにそれほどの金は無いんだ。戦争遊戯にしようじゃないか」
「良いでしょう。先ほども申し上げた通りこちらとしては構いませんのでね」
嘘である。
総資産は1億くらいある。
筋肉は金をも呼び寄せるのだ。
「有難う。種目は一騎打ちでいいかい?」
「いえいえ。その辺りは数日後に開かれる神会にて決めると致しましょう」
インドラの一騎打ちの提案に目を光らせるザニス。
インドラ・ファミリアを格下だと見做したのだろう。
実際にはソーマ・ファミリアの方が圧倒的に下なのだが。
「成程、ではソーマに合わせてもらえないか? そういう話ならば意地でもあいつを神会に参加させなくては」
「そうですね。案内いたしましょう」
ホームの中に筋肉二人を案内するザニス。
階段を上がり、神室に二人を上げる。
むせ返るようなアルコールの匂いが立ち込めるその部屋に入り込んだ四人。
部屋は暗く、神の姿は見えない。
「ソーマ様。御身にお客人が参られましたよ」
「……ザニス。お前が応対しろ」
「まぁそう言うなソーマ。久々に話をしようじゃあないか」
「!!?」
ソーマは奥で酒造りに励んでいた。
ザニスの呼びかけにも顔すら向けずに酒の原料を調合していたが、インドラが声を掛けた瞬間に凄まじい速度で顔をそちらに向けた。
「……ッ! 何の用だッ……!」
「HAHAHA。落ち着けよ、なぁ? ただちょっと戦争遊戯の誘いに来ただけさ」
「……貴様、眷属を得たか……」
「ああ、ちょっと前に、やっと初めての眷属を作ってな」
ザニスは普段は寡黙なその神の突然の饒舌に瞼を瞬かせる。
「……初めての眷属……ソイツ一人か?」
「ああ、そうだ」
「……成程……フンッ!」
と、棚に置いてあった瓢箪の中身をベル君にぶちまけるソーマ。
中身は言わずもがな神酒である。
流石にコレにはインドラも大焦り。
「貴様ッ!何をするだぁッ!」
「ハ……貴様のその焦燥に駆られる顔が見たかったぞ」
ソーマに詰め寄るインドラ。
インドラを嘲笑するソーマ。
流石にこのままだとソーマが嫌なやつに見えてしまうので補足するが、ソーマはインドラが超大嫌いだからこうなっているだけで、ちゃんと原作と同じような優しさは持ち合わせている。
「あ、すごい。美味しいですねコレ」
「……ハッ」
「………ッ!?」
当然だが、ベル君の筋肉による最強の対異常の前にソーマの目論見は敗れた。
ベル君には酒より肉を出すべきである。
それでも無理だろうが。
そしてインドラはソーマを鼻で笑った後、ソーマを滅茶苦茶に煽った。
「ウェエエエエェェェェェエェイッッッッ!!! ねぇ、今どんな気持ち!? 今どんな気持ち!? NDK? NDK? いやぁー! 馬鹿ですねぇー! ベル君にそんなん聞くわけないジャーン! ヘェイ! ザァァァァコォォォォォォ! お前の酒ゲロマズゥゥゥゥゥゥ!」
「ええい! 餓鬼か貴様ァッ!! そもそも貴様俺の酒を美味いと言いながら飲んでいただろうがァッ! どうぞ! 自分の過去の発言振り返ってどうぞ! んでもってとっとと死に晒せ! 主にお前の妻の手によって!」
「あー! あー! 何言ってんのか全然分からん! お前の声が小さすぎて全ッッッッ然分からん! もっとデケェ声出せよ声帯ゴミカス陰キャ野郎がよォ!」
「貴様ァァァァァァァァァッッッッ!!!」
と、大方神々とかいう悠久を生きる全知の知性体がやるようなものではない超低レベルな喧嘩が起こる。
ソーマの神室はもうどったんばったん大騒ぎ。
その辺にいる眷属たちはそんな神々の姿を冷ややかな目で見ている。
そして1時間弱が経過し、お互いに落ち着いた頃。
「……ンクッ、で、戦争遊戯、の、要求は、なんだ」
「ん……ああ、それなんだが……お前らのファミリアを我々の支配下に置く。隷従だ」
「ほ、ゲフ……ほぅ……?」
「ッ!? 待っていただきたい神インドラ。先程と話が違うが!?」
「気が変わったんだ。神は気まぐれ、常識だろう」
「ぐっ……」
と、完全に嫌なやつと化したインドラ。
先程の喧嘩と言いこの神本質はかなり餓鬼なのだろうか。
ベル君はその辺でリリと喋っている。
それはそれとして一応ここシリアスなのだがソーマがずっとゼェゼェ言っていてそれどころではなかった。
「……良い、だろう、受けてやる。ガフ、貴様が、負けた、時は容赦なく貴様を、天界に還して、やるからなァ……!」
「HAHAHA。威勢がいいな。では細かいことは後の神会で決めるので、確実に出席しろ。……まァ貴様のような貧弱にはそもそもバベルまで到達することすら叶わんだろうがなァ!」
と、帰ってゆくベル君とインドラ。
一体ソーマ・ファミリアはどうなってしまうのだろうか。
……多分筋肉になるんだろうなぁ……(悟り)
インドラが完全に嫌な奴。
でも仕方ないじゃん。神話のインドラは実際に嫌な奴なんだからさ・・・
次回は神会!
過去編どれにする?
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幸せな世界線√(ハッピーエンド)
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不可避の悲劇√(ノーマルエンド)
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平和の礎√(バッドエンド)
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粉微塵の星√(XKクラスシナリオ)
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そもそもいらん。