やはり筋肉。筋肉は全てを解決する。 作:あかう
筋肉最強!
な、話です。
どうしてもシリアスになる……
都市の中心に聳える塔バベル、その三十階。
神々の観戦席であるそこは、今や阿鼻叫喚の地獄と化していた。
とある神は狂乱し、とある神は倒れ伏し、とある神は茫然自失となる。
入り乱れる絶叫の合間から聞こえる哄笑は、罪人が苦しむ様を嗤う獄卒を連想させる。
おっと、1柱の神が笑い続けるインドラへと襲いかかった。
何を血迷ったのか、どうやらインドラを送還すれば良いなどと考えたようだ。
その考えは、悪いが愚か極まりないと言わざるを得ない。
神とは基本『全知零能』である。
頭には数万年、あるいは数億年にも及ぶ経験と知識が詰まっている。
だが、下界において神力を封印したその体は、そこらの一般人と同レベル。
ゆえに一般人ですら隙を突かずとも容易に殺害できる。
しかし、それは普通の神に限定された話であり、インドラはその範疇外に居る。
黒光りする肌、鋼の如き硬度を誇る筋肉。
幹のような首、大岩のような胴、丸太のような腕、柱のような脚。
天界にて磨かれた、正しく『神の肉体』。
逆にコレで非力で、容易く殺せる存在である方がおかしい。
なんならその辺のLv3くらいまでなら勝てるまである。
そんなインドラが錯乱した神を拳による一撃の下、床の一部にして差し上げる。
その際に起こった衝撃と振動、それと短い断末魔は、絶叫に満ちた三十階を一瞬にして黙らせた。
想像してほしいのは学校の先生の急な台パンだ。
あの一気に静かになる感じがこの三十階で再現される。
「ハハハッ、まだ遊戯は終わっていないだろう? しっかり座って、ハハッ、静かに見ようじゃあないか」
もはや恐喝。
命令と言っても過言でもないそれに、恐怖に支配された神々は従う他なかった。
□
戦場に佇むベル君。
その足元には冒険者達が死屍累々に積み重なっている。
自暴自棄になった冒険者達が無謀な突貫を行い、倒れる。
その繰り返しによりできた人の山は、その標高を二桁に届かせようとしている。
もう一人のLv5、『男殺し』も、既に山の一部と化していた。
『戦場の聖女』も既に精神疲弊で意識を喪失。
その他の治癒士も同様だ。
そんなだから、逃亡を目論む者も勿論居た。
まぁ、「居た」とあるように過去形なのだが。
ベル君は、遠距離への攻撃手段がほぼ無い。
巨人は遠距離というより遠隔操作だし、投擲を行おうにもベル君の握力に耐え得る物体などそうそう無い。
しかし、今は足元を見ればいくらでも丈夫な弾が転がっている。
ベル君の筋肉ならば視界内にさえ居れば十分届くので、逃亡はほぼ不可能だ。
ならば魔法で攻めればどうだ、という考えの者もいたが、魔法も詠唱中に人間弾で潰される上、魔力爆発で更に被害が出る。
だからこそ退路無し、大砲無しの冒険者達は無謀にも突貫する他ないのだ。
□
「……ッ、なん、なんスか。コレ」
戦争遊戯中ということで、例に漏れず昼間から経営を始めていた『豊穣の女主人』。
例に漏れず、ということで当然賭け事も行われていたし、冒険者達で賑わっていた。
ちなみに『豊穣の女主人』としてはベル君へ賭けているらしい。
非常に良い判断である。
で、そんな冒険者達の中には『ロキ・ファミリア』の姿も────剣姫はいないが────あった。
「なんなんスか! なんなんですかコレは!」
あまりにも圧倒的。
あまりにも冒涜的。
過剰な『暴力』に彩られた『窓』の向こうの景色に、『
「ガッハッハ! よく見ておれぇ! アレが純粋なる『力』、『筋肉』じゃあ!」
「そういうことじゃないっス! なんなんスかアレはァ! 彼はLv2なんスよね!? なのになんで! なんであんな『強すぎる』んスかァ!?」
そう、『強すぎる』。
彼、彼らにとって、ベル・クラネルは『強すぎる』のだ。
『Lv2の冒険者』というものは正直言って、このオラリオ内に於いて『弱い』。
上級冒険者は、都市内の冒険者全体の半分。
その内の殆どがLv2。
まぁ、つまるところ、割とLv2は『掃いて捨てるほど』いるのだ。
そんな存在が、第二級冒険者────『かなり少ない』第一級冒険者────『たった一握り』を、真っ向から、余裕で、容易く打ち破る。
そんなものは、『ステイタス』というわかりやすい『力の絶対値』の枠組みの中で生きた彼ら、彼女らにとって、それは到底受け入れられるものではなかった。
「なんで! なんでな「落ち着け、ラウル」……ッ!」
ロキ・ファミリア団長、フィン・ディムナ。
意外にも、暴走した凡夫を押し留めたのは彼だった。
「ラウル。よーく考えるんだ。『古代』の人間達は、一体どうやって恩恵も無しに迫り来るモンスターと戦ったと思う?」
「ハッ、道具、技、そんで
「…………ッ!! でも、だからって!」
正論を突きつけられつつも、未だ認めることはできない。
『常識』の否定というのは、それ相応の『狂気』がいるものだ。
具体的には1d10/1d100くらいの正気度を失った程度の狂気。
「ハァ……ラウル。認めたくないのは私も同じだが、これが『現実』だ。受け入れる他なかろう」
「リヴェリアさんまで……」
リヴェリアがいいこと言った。
そう、仕方ないことなのだ。
リヴェリアも言った通り、これが『現実』なのだから。
「わかっとるんならお主も筋肉をつけ「絶対に断る」ぬぅ……」
□
で、戦場の方へ戻ってきたわけだが。
あいも変わらず無謀な突撃を絶えず繰り返し繰り返し……
そんな調子なので、数にも限りのある連合の冒険者は減りに減り。
戦場に立っている者は、もはや二人のみ。
大きなバックパックを背負い、深淵を宿した小人の少女。
巨大な筋肉をその身に讃える少年。
二人は、高く聳える人の山の上で対話していた。
「あー、ま、こーなりますよねー」
「まぁ、そうだね」
「じゃあ、あんまりいたくないかんじでおねがいしますよ」
「あ、うん」
とん、と。
凄まじく軽い力でリリを押すベル君。
「あー」
清々しいくらいの棒読みで後ろに倒れるリリ。
結構な高度があったのだが、バックパックがボヨンと跳ね、クッションになったのでダメージは0だろう。
さて、これで立っているのはベル君一人。
戦場にはためくは一筋の雷のみ。
示す意味は、インドラ・ファミリアの勝利。
□
街の様相は、様変わりしていた。
道は荒れ、建物は崩れ、広げられていた露店は踏み潰されている。
人の気配も消え失せ、まるで幽霊街。
あれ程までに活気に溢れていた都市の影は、もう見る影もない。
大音量の解説も、無数に浮かぶ窓も、賭けに勤しんでいた冒険者も、どこかに消えた。
で、人々がどこに消えたのかというと、ギルドの前である。
そんなギルドの前にはチョモランマ級の人の山(物理)があった。
まぁ、理由はお察しだろう。
そういうことだ。
「うわぁー……さ、流石エイナ……よくわかったね……」
「ま、ベル君だからね」
エイナにとってベル君の勝利は確実で、揺るぎないもの。
だからエイナは、ソーマ・ファミリアへ賭けられた多額すぎる金を見てこうなることを予見しており、予めフレイヤ・ファミリア、ガネーシャ・ファミリア、へファイストス・ファミリアにギルド前の警備を頼んでいたのだ。
その判断は実に正しく、現に突進してきた連中を容易く一蹴。
倒れた人々と少しの神を縛り上げ、積み上げている。
「ぬぅ……まさかヴェル吉に助けられることになるとは思わなんだ……」
「ああ、こちらも勝手に主神がインドラ・ファミリアに賭けたと聞いた時は、本当に殺してやろうかと思ったが、こうなってみると感謝の念しか出んな」
山の前で話し合うのはへファイストス・ファミリア団長、椿・コルブランドとガネーシャ・ファミリア団長のシャクティ・ヴァルマ。
互いに意外な相手に助けられたことに衝撃を受けているようだ。
「さて……これからどうなるのだ、このオラリオは……」
「わからん、わからんが……ギルドの対応次第では……覚悟がいるかもしれん」
あまりに酷すぎるその光景に、この先を案じずにはいられなかったようだ。
少なくとも、先に待っているのは混沌の他にないだろう。
※この小説はギャグです