やはり筋肉。筋肉は全てを解決する。 作:あかう
ごめん!
UA10000突破感謝!
ミノタウロスとの筋肉バトルの翌日の早朝。
ベル君はいつも通りダンジョンへ潜るために通りを歩いていた。
昨日は十階層までいけなかったから今日は行きたいな、とかそんな呑気なことを考えていた。
そんな時、ベル君は異質な視線が自身に突き刺さるのを感じた。
粘りつくような、突き刺すような、あまりにも無遠慮な視線。
普段からその筋肉ゆえに多くの者から見られているベル君。
そのため視線にはかなりの耐性があるのだが、この視線は苦手のようで、逃げ出そうとバベルへ向かう足取りを速めた。
しかしその早まった歩行は四歩目で止められることになった
「あの……」
「!」
真横から突然の声。女性のものだ。
敵意、殺意は感じない。筋肉がそう言っている。
若干の恐怖を取り繕い、落ち着いた様子で横を向くベル君。
そこにいたのは薄鈍色の髪をしたヒューマンの少女だった。
白いブラウス、膝下まであるジャンパースカート。それとエプロン。
美少女と呼んで差し支えない容姿。
どうやら無害な一般市民のようだ。
知っている者からすれば話は別なのだろうが。
「えっと……何か僕に御用でしょうか?」
「あ、はい、これ、落としましたよ」
手渡されたのは紫紺色の水晶。
ベル君の親指の先ほどしかないそれは、淡い光を放っているようにも見える。
確実に魔石だ。
「えっ……アレェ?」
普段ベル君は魔石を腰につけた巾着にしまっている。
まぁ、巾着と言うにはそれはあまりにも大きすぎるのだが。
具体的にはサンタクロースの袋だ。
それはさておき、巾着の紐はキツく閉めたはずだし、魔石も昨日のうちに全て換金したはずだったのだが、どうやら残っていたものがあり、それが落ちたようだ。
そういう風にベル君は納得した。
「す、すみません! 有難うございます!」
頭を下げ、魔石を受け取るベル君。
「ッッッッッッ!!」
すると、急に少女が仰け反り、顔を背けた。
鼻のあたりを抑え、プルプルしている。
ベル君は混乱した。
「だ、大丈夫ですか!?」
「ウッッ!!」
少女から鼻血が出た。
ベル君はさらに混乱した。
道の真ん中でマッチョが鼻血を出す少女の前でわたわたしている非常にシュールな光景だ。
不思議と犯罪臭しかしない。
「え!? ……えっ!?」
「だ……大丈夫……大丈夫ですから……少々お時間を……」
数十秒の沈黙。
かなり気まずい時間が流れる。
「……はい、OKです。すいません驚かせてしまって……」
「いっ、いえいえ! とんでもない! 僕こそ魔石を拾ってくださり有難うございました!」
「ウクッ」
またも鼻を抑える少女。
ベル君は心配した。
「あの……大丈夫ですか? 鼻血」
「あ、いえ、すみません。私ちょっと鼻血がとても出やすい体質でして……」
「そ、そうなんですか」
「ところで……こんな朝早くからダンジョンですか?」
「はい! もっと筋肉を磨きたいので!」
「っっっ……そ、そうなんですか!」
今度は耐えた少女。
だがそれで会話は途切れてしまい、沈黙が場を襲う。
居た堪れなくなったベル君は別れの挨拶を告げようとしたものの、その瞬間グゥゥゥゥ……と、ベル君の腹の虫が叫んだ。
ベル君は朝食をまだ食べていなかったのだ。
最低限のタンパク質は牛乳で摂った。
目を丸くする少女。ベル君は赤面した。
耐えきれず吹き出す少女。ダメージを受けるベル君。
要塞のごとき鉄壁でも精神的ダメージは受けるようだ。
これで道の真ん中でマッチョが少女に撃沈させられた非常にシュールな光景。
これまた犯罪臭しかしない。
「うふふっ、お腹、すいてるんですか?」
「……はい」
「朝食、もしかして取られてないとか?」
「…………はい」
「じゃあ、ちょっと待っててくださいね」
とてとて、と。すぐ近くにあった店の中に入っていく少女。
その店の中に彼女と同じ服の女性達がいたので彼女はあそこの店員なのだろう。
と、そう理解したベル君。
すると少女が小さいバスケットを腕に抱えて扉から出てきた。
「これよかったら……今日の賄いですけど……」
「ええっ!? いやいや……流石にそれはちょっと……」
拒否しようとしたベル君。
しかし。
「このまま見逃してしまうと私の良心が痛んでしまいそうなんです。受け取ってもらえませんか?」
「うぐっ」
こんなこと言われてしまったら受け取るしかない。
しかし、少女の小柄な体が持つのであればちょうど良いサイズだったが、ベル君の巨体が持つととても小さく見える。
ベル君がしっかりとバスケットを受け取ったことを確認すると、少女はこう言った。
「冒険者さん。これは利害の一致です。私は今ちょっと損をしますが……あなたは腹ごしらえができる代わりに……」
「代わりに?」
「今日の夜。私の働くあの酒場でご飯を食べなければなりません」
「!?」
なるほど、うまい!
と、感心してしまったベル君。
感心していたので少女がその驚く顔を見て鼻血を流したのには気づかなかったようだ。
「ず、ずるい……」
「うふふっ、さあ、もらってください。私の今日のお給金は高くなること間違い無しなんですから!」
遠慮することはない、と。
少し悩んだが、外食はインドラに許可を取れば問題ないので、ベル君はこの話を受けることにした。
「それでは……今夜伺わせてもらいます!」
「はい! お待ちしております!」
バベルを目指し歩行を再開しようとして、まだ名前を聞いていなかったことに気づく。
「そういえば、お名前は? 僕はベル・クラネルと言います」
「シル・フローヴァです」
と、名前と笑顔を交換しあって、ベル君は今度こそバベルへ向かって歩き始めた。
ダンジョンであったこと
コボルト達「逃げろォォォォォォ!」
ゴブリン達「ヤメロー! シニタクナーイ! シニタクナーイ!」
ウォーシャドウ「攻撃したと思ったらダメージ反射されて死んだぜ!」
キラーアント「やめろ! 来るな皆! 皆殺しにされるぞ!」
オーク「俺達ワンパンで殺されるってマ?」
冒険者達「俺たちも筋肉つけようかな……」
以上!
そんなわけでダンジョンの敵を悉く瞬殺し、大量の魔石と返り血と共に帰還したベル君。
今現在ベル君は換金やシャワーを済ませ、インドラに外食の許可をもらい、今朝の店へと歩いている。
店の名前は確か「豊穣の女主人」だったな。と、考えながら歩いていると意外と早く着いた。
と、ここで唐突に“本当にここで合っているか不安になる症候群“を発症したベル君。
これは読者諸君も経験があるのではないだろうか。
確認するためにちょっと覗いてみると、中には料理する恰幅のいいおそらく女将だろうドワーフ、それと
そして客の注文を取るウェイトレス達。ウェイターはいない。
つまるところ全員女性である。
入店のレベルが恐ろしく高いことに戦慄するベル君。
撤退してしまおうかと入口の前で挙動不審になっていると────
「ベルさんっ!」
「!?」
いつの間にか隣にシルが立っていた。
普段はベル君の筋肉センサーが働くため近づかれる前に気づくのだが、今回ばかりは難しかったようだ。
声は出さなかったもののかなり驚いてしまった。
これで退路は絶たれた。
ベル君は観念し、引き攣った笑みを浮かべ、
「……やってきました」
「はい! いらっしゃいませ!」
そう、朝と変わらない服装でベル君を迎えた。
店に入ると、まずシルが
「一名様入りまーす!」
と、大声を上げた。
筋肉のおかげで注目されることは慣れたベル君は動じなかったが、その筋肉を見たウェイトレスや客がかなり動じ、酒場内は刹那、静寂に包まれた。
あ、念のため言っておくが福音の方の静寂ではない。彼女は今、天国で甥がマッチョになってしまったことを大いに嘆いている。(叔父は大いに喜びゴスペられた模様)
と、静寂に包まれたわけだがそれも一瞬。すぐさま元の喧騒を取り戻した。
ベル君はシルにカウンター席へと案内された。
角の席なので隣に人が座ってくることはないという特徴を持った席だ。
これなら他人に気を遣わず食事ができる、と安堵したベル君に声がかけられる。
「アンタがシルの言ってた客かい? ははっ、いい筋肉してるねぇ!」
「あ、有難うございます」
「何でもアタシ達に悲鳴を上げさせるほどの大食漢なんだそうじゃないか! じゃんじゃん料理を出すから、じゃんじゃん金を使ってってくれよぉ!」
「!?」
(なんで知ってるの!?)
と。ベル君は驚いた。
我々から言わせてもらうと逆に誰がその体で小食だと思うんだと言った具合であるが、本人からしたら大変衝撃的だったらしい。
「……頑張ります」
「はい! 頑張ってください!」
金に余裕はある。
一日に大体千から二千のモンスターを倒しているベル君には原作とは違い、金が大量にある。
せっかくだからいっぱい食べてお金を落としていこうかな、と考えたベル君はとりあえずメニューにある料理を全て頼むことにした。
「とりあえずこのメニューにある料理全部ください」
「「「!?」」」
色々なところから驚愕の反応が上がる。
勘違いしないでもらいたいのはその驚愕は“ベル君の声が思ったより高かった“ことであり、決して“全種料理を頼んでいること“ではない。
もう一度言うが、逆に誰がその体で小食だと思うんだと言った具合なのだ。
「ほ、本当にいいんですか!?」
「お! いいねぇ! 早速かい! 金はあるんだろうねぇ!?」
「あります!」
驚くシル、感心し、金の心配をする女将、金の詰まった袋をドンと置くベル君。
それをみた女将は満足そうに目を細める。
「よぉしきた! お前達! 気張りな! 料理の作りがいのある客をシルが連れてきたよ!」
「「「はい!」」」
どんどんと運ばれる料理、次々と積み重ねられる空の皿。
全料理の半分が丁度今ベル君の腹に消えたがそれでもまだベル君の腹は3分目と言ったところだ。
「す、すごいですね」
流れる鼻血を拭いながらシルが驚嘆を声に出す。
いや本当に大丈夫なのだろうか彼女。
いつか出血多量で死ぬんじゃないか?
「あ、そうだ、今朝のやつ有難うございました。助かりました。……ところでお仕事はいいんですか?」
今現在自分のせいで騒がしくなっている厨房を見ながら言うベル君。
厨房では様々な種族の女性達が忙しなく動き回っている。
「キッチンの方は忙しいですけど給仕は今ほとんどベルさん関連なのでここにいた方がいいんですよ」
と、女将の方を向くシル。
女将はベルに目配せをすることで同意した。
そんなわけでベルと君とシルが話し合っていると、店の扉が開いた。
(なっ!?)
流れる金髪が特徴的な少女をベル君の目が捉えたのだ。
あの筋肉少女だ、とベル君は戦々恐々とする。
人々は「ロキ・ファミリアだ」と囁き出し、ベル君はその時初めて彼女らの派閥がロキ・ファミリアなのかと知った。
今作ベル君は筋肉キチなのであまりそちらの方に明るくないのだ。
どうしたものか、とベル君が次々運ばれる料理を平らげながら考えていると
「よっしゃあ! ダンジョン遠征ご苦労さん! 今日は宴や! 飲めぇ!!」
と、一人が音頭をとり、それから一気にロキ・ファミリアの団員達は騒がしくなった。
ロキ・ファミリアの団員達が宴会一色になると、他の客も思い出したかのように酒を飲み始めた。
遠目から見ると随分と女性が多く見える。
彼らがドンチャンと騒いでいる中、一人の
「おいアイズ! それとガレス! 俺はいつまでこのクソ重いのつけてなきゃならねぇんだ!」
ソード・オラトリアは筋肉になります。(ほぼ確定)
ネタバレ防止のせいで書きづらい・・・