やはり筋肉。筋肉は全てを解決する。   作:あかう

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 筋肉は神

 な、話です。


5話 狼は筋肉になった。

「おいアイズ! それとガレス! 俺はいつまでこのクソ重いのつけてなきゃならねぇんだ!」

 

 と、酒場、『豊穣の女主人』に狼人の怒号が響く。

 その狼人はよく見ると四肢に金属の(おもり)のようなものをつけていた。

 え、いいなー、欲しいなー、とベル君は羨んだ。

 

「……? ……筋肉が……つくまで」

「そうじゃ、筋肉がつくまでそれを外すでないぞ」

 

 金髪の美少女、アイズは「今更何を聞いているの?」と言いたげに、

 筋肉のドワーフ、ガレスはそれがさも当然かのようにそう言い放った。

 

「ふざけんじゃねぇ! 俺はもう十分筋肉ついてるじゃねぇか!」

 

 白髪の狼人、ベート・ローガはそう反論する。

 確かにその謎に縦に空いた服からは割れた腹筋と発達した大胸筋が覗いている。

 しかし、二人はそれでも足りないと思っているらしい。

 

「大きさが……足りない……」

「そうじゃ、儂ほどの大きさがなければな!」

 

 これにはベル君も同意見である。

 確かにあのドワーフくらい筋肉があればちょうどいいかな、とベートの体を見て判断した。

 ベートは所謂「細マッチョ」なのだが、3人には解釈違いだったようだ。

 

 そんなわけで“もう十分筋肉がある理論“で錘を外そうと目論んだベートの策は簡単に真っ向から破壊されてしまった。

 何とかする術はないかと模索するベート。

 そこでベートはそもそも何で自分が筋肉をつけなければいけないのか、と言う根本的理由を聞いていなかったこと、それとアイズがおかしくなる直前に逃げていったマッチョの存在を言及することを思いついた。

 アレが理由ならば、その根本を崩せばこの地獄も終わるかもしれない。

 

「ぐっ……ってか! 何で急に俺に筋肉をつけさせたがるんだ! アイツか!? あの白髪の筋肉野郎か!?」

「「「!?」」」」

 

 ロキ・ファミリアの面々とベル君が反応する。

 ベル君はいきなりの事に口に含んだ料理を吹き出しそうになりかけたが耐えた。

 あまりに心当たりがありすぎる。

 

「おお、そういえば急じゃのう。儂としては元からお主に筋肉をつけさせたかったからよかったんじゃが……何でじゃ? その白髪の筋肉野郎とやらが関係しておるのか?」

 

 と、指摘されたことによって気づいたガレス。

 今更になって気になったガレスはアイズに問いかけた。

 アイズの急激な変化を気にかけていたロキ・ファミリアの主神と団員達はアイズの返答を待つ。

 

 白髪の筋肉野郎にピッタリ合致するベル君は冷や汗を流した。

 それでも食事は止めないところに何かしらの意志を感じる。

 

 その場にいた殆どの者が耳を傾ける中、アイズの答えは────

 

「……うん」

 

 肯定。

 

「筋肉同士の戦い……凄く良い」

「ほう? 筋肉同士の戦いとな?」

「ちょっ! それどう言うことなんや!? アイズたん!」

 

 ガレスと先程音頭をとった女性が反応した。

 同じ反応とは言っても「興味」と「焦燥」で中身は全く違うが。

 団員達も彼女の問いと同じ焦燥を感じたようで、全員が食事と飲酒を中断。聞く姿勢に入る。

 

「ミノタウロスと……彼の戦いを見て……気づいた。筋肉は、凄く良い」

 

 ロキ・ファミリアの面々は心中にある圧倒的心当たりを嘆いた。

 アイズが変な性癖持っちまった、と。

 何であの時ミノタウロスを逃してしまったんだ、と。

 

 酒場内の一角が阿鼻地獄に変容した。

 特に先程の女性とピンク色をしたエルフの女性はすごかった。

 エルフの方に至っては血涙すら流している。

 血涙は回復魔法で治るのだろうか。

 

 ベル君はなんか気づかぬうちに、いたいけな少女を筋肉に染めていたことに対して最初に思ったことは納得だった。

 あの時のアレは周囲を筋肉にするためだったのか、と。

 

 そして筋肉信者が増えることは大いに大歓迎なベル君。

 筋肉信者が増えることは良いことである。嘆く意味がわからない。

 

 そんな折、緑色の髪をしたエルフが、

「その白髪の筋肉野郎とは、アイツか?」

 と。ベル君を指差しながら。

 

 一斉に凄まじい速度でベル君の方を向くロキ・ファミリア。

 どこぞのホラーゲームに出れるレベルのそれに、流石にベル君も恐怖を覚えた。

 

 ワンテンポ遅れて少女がベル君を視界に収める。

 そして────

 

「うん」

 

 肯定。

 ロキ・ファミリアからとんでもない殺気が放たれる。

 

「「「お前かァァァァァァァァァァァァ!!!!」」」

 

 女性、ベート、ピンク色エルフがベル君に向かって鬼のような形相で突進する。

 カウンター席に突撃し、角を曲がったところで、

 

「「「!!!!?」」」

 

 時が止まった。

 一度見たことはあるベートでも改めて見たその筋肉に時を止めた。

 

 何も知らないロキ・ファミリアの面々は訝しんだ。

 その疑問はベル君が席を立った瞬間に氷解する事になったが。

 

 

 

 それは、酒場の天井ですら窮屈そうに背を丸める程の巨躯を持ち、

 柱程の太さを誇る腕、大木を連想させる脚、切り株の如き首、大岩を荒削りにしたような胴体。

 ロキ・ファミリアは信じ難い筋肉の怪物を目撃した。

 SAN値減少1d10です。

 

 

 

「えっと……なんかすいません」

 

 それはその巨体に見合わぬ高い声を放った。

 団員達はあまりに不釣り合いな音域にショックを受けた。

 追加でSAN値減少1d2です。

 

「筋肉!」

 

 アイズが嬉々として駆け寄る。

 可愛い(重要)

 

「ほう、これは良い筋肉しとるのぉ……」

 

 ガレスが感心しながら近づき、その巨体を吟味する。

 変態だ(通報)

 

「筋肉! 筋肉!」

 

 アイズがベル君の体をペタペタと触る。ベル君は満更でもなさそうにしている。

 その光景を見て女性の硬直が解ける。

 

「おうコラ筋肉ダルマ! なァにアイズたんに変な性癖植え付けとるんや!」

「えぇ……? いや、そんなこと言われましても……」

 

 実際にベル君からしたら「そんなこと言われても」なのである。

 今回の件で悪いのはロキ・ファミリアだ。

 ミノタウロスを逃しさえしなければこうはならなかったのだから。

 

 難癖もいいところ、と言った感じなのだが、そこはロキ・ファミリア側も十分わかっていたらしい。

 

「ロキ、やめないか。非があったのはこちらだ」

 

 小人(パルゥム)の男性が女性を嗜める。

 彼がそう呼んだことから、どうやら女性はこのファミリアの主神、ロキだったようだ。

 ロキが歯軋りをして引き下がったことを確認した小人の男性がベル君に話しかける。

 

「すまないね。皆、彼女……アイズの変化があまりにも大きすぎてピリピリしていたんだ……っと、初めまして。僕はフィン・ディムナ。ロキ・ファミリアの団長さ」

「あ、どうも、僕はインドラ・ファミリアの……一応団長をしています、ベル・クラネルです」

 

 どうやら小人はこのファミリアの団長だったらしい。

 ベル君は会釈をし、自己紹介をする。

 インドラの名前が出たあたりでロキが考え込む仕草をしたのは誰も気づかなかったようだ。

 

 ……しかし。

 ムキムキマッチョマンの巨人が小人と自己紹介をし合い、巨人の周りを少女が駆け回り、その傍でドワーフが筋肉を凝視している。

 そして見事に固まったエルフと狼人。

 これまた固まっている客達、料理を作り続ける従業員。

 

 うむ、なかなかにカオス。アザトースが召喚出来そうだ。

 まぁそんなことは置いておいて。

 

「いや申し訳ない。今回の件は何から何まで僕達の責任だ。巻き込んでしまったことと、ウチの主神の暴走を謝罪したい」

「いっ、いえいえ! おかげで僕も良い筋肉と戦えたので!」

「……あー……そ、そうかい」

 

 フィンはあまりその感性が理解できなかったがとりあえず同意した。

 この会話において優位にいるのは被害者であるベル君なのだから。

 側から見れば被害者には到底見えないが。

 というかむしろフィンが被害者に見えるまである。

 

「ま、まぁ、何。とにかく、今回の不祥事、流石にお咎めなしで終わるわけにはいかない。一応これでも都市最強を張っているから、僕達にも面目がある。何か形のあるものとして詫びがしたいんだが……」

 

 そういう話であった。

 しかしあんまり物欲がないベル君。

 回復薬などの消耗品はスキルでいらないし、自分の武器は自分で用意したいな、とも思っているのでいよいよ頼むものがなかったベル君は、“形あるもの“なら良いんだよな? 

 と、良いことを思いついた。

 

「じゃあそこの狼人を筋肉にしたいです」

 

「「「「??????????」」」」

 

 もう意味不明だった。

 筋肉にしたいとは? 

 他派閥であるベートを? 

 何故? 

 

「いいよ、やって」

 

 アイズは即決だった。

 

「まぁ良いんじゃないかのう」

 

 ガレスも即決だった。

 

「「「「「「「「「」」」」」」」」

 

 他の者達は宇宙だった。

 まぁ、一応『形』はある……あるか?

 ……あるな、うん。 

 

 と、ファミリアの幹部二人の許可を得たベル君は、残っていた料理を一瞬にして平らげると、金を払い、Lv5でも重いと感じるレベルの錘をつけているはずのベートを軽々担ぎ、

 

「ごちそうさまでしたー!」

「おう! また来るんだよ!」

「お元気にー!」

 

 と、店員と会話し、帰っていった。

 ロキ・ファミリアが再起動したのは数分後だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ちなみにベートは翌日帰って来た。

 ああ、諸君、安心していただきたい。

 別にムッキムキになって帰って来たわけではない。

 そう一日でそんな大惨事になることはない。

 ただ……

 

「445ォ! 446ゥ! 447ァ! 448ィ! 449ゥ!」

「ベートさん! もう終わりにしましょう! 皆もう脚が持たないっス!」

「あぁ!? 脚がダメになったんなら腕を鍛えやがれぇ!」

「「「「ウワァァァァァァァァァァ!!!!!」」」」

 

 ヤバいくらいの筋トレ人間になってしまったが。

 

 

 

 




洗脳風景

「「筋肉!筋肉!筋肉!筋肉!筋肉!筋肉!筋肉!筋肉!筋肉!筋肉!筋肉!筋肉!筋肉!筋肉!筋肉!筋肉!筋肉!筋肉!筋肉!筋肉!筋肉!筋肉!筋肉!筋肉!」」シュバババババババババババババ

「うお、うおあアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!!!」
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