駆逐艦白雪、入ります……あれ? ……戸が……あ、あれ?
あ、そうだった。上に持ち上げるようにして……よしと……
駆逐艦白雪です。
あ、座っていいんですね。ありがとうございます。
はい? 戦闘の詳細ですか?
あー……皆さんに聞いているんですか……うーん……
あの、怒らないでくださいね。皆さん頑張ろうとしてやったことですから。
あ、はい。それでは……戦艦を含む艦隊を発見した私たちは全速力で接近することにしました。
こちらは複縦陣で左列の先頭が五十鈴さん、後ろが私。右列の先頭が名取さんでその後ろが菊月ちゃん。
むこうは戦艦を先頭にした単縦陣で雷巡、軽巡、駆逐艦2隻の順に並んでいました。
この海域で戦艦のいる深海棲艦隊に出会ったのは久しぶりだったので、皆さん気合がすごく入っていて……
司令官もご存じだと思いますけれど……私たち最近、途中で被害を受けて撤退することが多くなってますよね?
私たちが未熟だからなのもあるかもしれませんが、むこうも私たちとの戦い方に慣れてきたんじゃないかって皆さんと話していたんです。
それで、出撃するたびにいろいろな方法を試していたんですけど、どうにもうまくいかなくて困っていた時、漣ちゃんの……ええと……「すまほ」?
手のひらくらい小さくて、映像を見る……とにかく、それを借りて見ていた皐月ちゃんが突然、叫んだんです。
「ねえ、これ試してみようよ!」
って、言って指さしたのが……
ええと、「ヤッセン・しのビイ☆彡」さんのニンジャ解説動画……「やっせん」がカタカナでその後ろの点は真ん中です。
うーんと……「しの」はひらがなで、「びい」はカタカナ……白い星印……カタカナの「ノ」が三つ縦に並んだような……
はい、そうです。 (記録者注:記録側が空間に人差し指で書いた様子を見ての返答)
あと、神通さんが解説動画を見て……ええと……コーギーあんみつ? ……おみつ? (記録者注:公儀隠密のことだと神通に確認済み)
とにかく、その動きに似ているって言ってました……
それで、軽巡の皆さんとも相談して動画から考えた戦い方を練習していたんです。損害をほとんど受けずに戦艦のいる部隊と出会ったらやってみようって。
そんなわけで、戦艦のいる部隊を発見してすぐに、菊月ちゃんが名取さんに、
「名取さん。アレいくよ!」
って声をかけて、斜め右に……えっと、五十鈴さんと私の進む方向から手のひらを横にして2つから3つくらい右のほうですね。
はい、それくらいの方向に進んでいきました。
私たちの動きを見て雷巡と駆逐艦の1隻が、単縦陣から離れて名取さんと菊月ちゃんを追う進路をとりました。
そして、魚雷の射程に入るくらいのところで名取さんが後ろを向いて菊月ちゃんに、
「よし、来い!」
って、言ってかがみこんで……
ええと……カッター……で、あってますよね? 船体に載せている屋根のないボート。
そこに海水を入れて両手で持って……
はい……出撃する時に足につけている艤装は、水の上でないと使えませんから……
それで、速度を上げた菊月ちゃんが名取さんの持ったカッターに向かってジャンプして……
練習のとおりだとまっすぐ上に飛べるはずだったんです……
深海棲艦を倒すことに気を取られたのかも……勢いがつき過ぎたのかもしれませんけど、まっすぐ上ではなく前に飛ぶような角度になって……
あと、名取さんが持ったカッターに乗せた足を伸ばすところを、間違えてもう1歩踏み込むように反対側の足を上げてしまって……
菊月ちゃんが、「しまった」の「し」まで叫んだところで、上げた足のヒザが名取さんのアゴを下から……
ええと、本当はカッターを持ち上げた勢いで上に飛んでから主砲を撃つ予定でした。そのつもりで練習していたんです。
でも、アゴにぶつかったから菊月ちゃんのバランスが崩れて……名取さんはカッターを持ち上げていましたから、斜め前に飛ぶような感じになって……
はい。ええと……鉄棒から足を伸ばしたまま、前回りして降りるように雷巡に向かって飛んでいきました。
雷巡は名取さんに近寄っていましたから、正面から菊月ちゃんを受け止めるように……と、言うか、止める時間もないまま菊月ちゃんのカカトに吸いこまれるように向かって行って……
その……金づちを鉄の床に落としたような大きな音が響きました……
はい。深海棲艦も含めた皆さんが、戦っていることも忘れて顔を向けるくらい大きな音でした。
菊月ちゃんは背中から海に落ちて無言で倒れたままでしたし、雷巡は叫びながら頭を押さえてうずくまってました……
私は……頭の中がまっしろになって立ちつくしていたんだと思います。
しばらくして、五十鈴さんが、
「白雪ちゃん、菊月ちゃんをお願い!」
って、叫んでいることに気がつきました。
はい、その声で戦っている途中なのを思い出したんです。
時間にして……うーん……何秒くらい経っていたんでしょうか……
ええと、それで……私は大急ぎで菊月ちゃんのところに走り寄りました。右手で抱きかかえて……五十鈴さんは名取さんを肩に担いで、戦っているところから離れようとしていました。
私も名取さんの後を追おうして……深海棲艦を牽制するつもりで回りながら主砲を撃って、反撃される前に脱出するつもりでした……
ですが、その最中に私のほうに近寄っていた戦艦が視界に飛び込んできて……五十鈴さんを追いかけようとしていたんだと思います。
私に気がついていなかったようでしたし、私も気がついていませんでしたし。
それで、私が伸ばしていた左腕の先が戦艦の体にぶつかって……振り回された私は、ぐるりとその場で回転してしまったんです。
抱えていた菊月ちゃんの右腕が、その勢いで前のほうに振られました。それで……
狙ったわけではないと思います。菊月ちゃんがうめき声を出したのは、撤退している途中でしたから……無意識で体が反応したのかも。
菊月ちゃんの撃った弾は、戦艦の……その……お尻のまんなかに至近距離から撃ち込まれました……
は、はい。その……斜め下のほうから……えっと……あ……
あ……なにですっ! (記録者注:“に”より前の言葉は小声で聞き取り難かったため、推測で補完した)
す……すぐ近くだったので、爆風で倒れそうになりました。
煙がおさまった時に見えたのは、戦艦が正座してお辞儀をしているように座り込んでいる姿でした……
ずっと頭の中に大きな音が鳴り響いているみたいでしたが、なんとか菊月ちゃんを抱えたまま五十鈴さんに合流して……
その後は戦いもなく、鎮守府にたどり着くことができました。
そうです……はい……
あ、あの……こう言うとおかしいのかもしれませんけど。慌てていて戦艦……さんでいいんでしょうか? 謝れていないのが申し訳なくて……
あ、はい……お願いします……