それなりに平凡な鎮守府の事故聴取結果報告書   作:垂直離着陸式扇風機

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深海側報告書 報告者:軽巡ヘ級

 軽巡(けいじゅん)ヘ級(きゅう)です――こんな感(かん)じでいいんですか? 

 ああ、すんません。よくわからないんで――

 

 艦娘(かんむすめ)たちがいなくなったんで、オレらも引(ひ)きあげることにしたんです。

 で、途中(とちゅう)までは問題(もんだい)なかったです。

 

 そりゃ、ル級(きゅう)の――ル級(きゅう)さんは時々(ときどき)ケツさすってたし、チ級(きゅう)ね――チ級(きゅう)さんはチ級(きゅう)さんで頭(あたま)さすってましたけど――

 あ、それとル級(きゅう)――さんは2、3日(にち)くらい前(まえ)から機嫌(きげん)悪(わる)かったです。ほら、あの、食(た)べたモノが出(で)ずにつまる――いや、他(ほか)の誰(だれ)かがそう言(い)ってたのを聞(き)いたもんで。

 

 で、帰(かえ)っている途中(とちゅう)でだんだん速度(そくど)が落(お)ちてきて――ケツさすってたル級(きゅう)さ――んが腹(はら)押(お)さえるようになって――顔(かお)つきはコワくなるし、顔色(かおいろ)は普段(ふだん)より悪(わる)くなってたし、汗(あせ)も浮(う)かべてたような――

 

 そんで、しまいには、

「止(と)まれ!」

 そう叫(さけ)んだんです。とても苦(くる)しそうな声(こえ)で。

 止(と)まったら今度(こんど)は、

「ワタシの周(まわ)りを囲(かこ)め!」

 きつい口調(くちょう)で言(い)いだして。

 

 言(い)っていることわかんなくて互(たが)いに顔(かお)見合(みあ)わせていたら、もう一度(いちど)周(まわ)りを囲(かこ)めって言(い)うもんですから、とりあえずル級(きゅう)さんの周(まわ)りに立(た)ったんです。

 そしたら次(つぎ)には、

「ワタシの反対側(はんたいがわ)を向(む)いて周(まわ)りを見張(みは)れ!」

 

 怒(おこ)っているというか、すっげえ焦(あせ)ってました。

 その時(とき)はまだ何(なに)したいのかわかんないけど、しょうがないから言(い)うとおりにしたんですよ。

 

 周(まわ)りは――全部(ぜんぶ)海(うみ)でしたね――陸(りく)なんかどこにも見(み)えませんでした。

 一度(いちど)ル級(きゅう)さんのほうに向(む)こうとしたんですけど、すぐに、

「こっち向(む)くな! ゼッタイ見(み)るな!」

 いや、もう――

 

 まあ、言(い)われたとおりに――あー、オレはル級(きゅう)さんの後(うし)ろにいました。

 右(みぎ)にチ級(きゅう)さん、左(ひだり)と背中(せなか)がイ級(きゅう)です。

 チ級(きゅう)さんと左(ひだり)にいたイ級(きゅう)を、ル級(きゅう)さんを見(み)ないようにしながらチラチラと見(み)てたんですけど、どちらも何(なに)しようとしているかはわかっていないようでした。

 そしたら、ル級(きゅう)さんのほうから金属(きんぞく)の鳴(な)る音(おと)がして――って言(い)うか、ゴソゴソと何(なに)かしているような音(おと)がし始(はじ)めたんですよ。

 

 チ級(きゅう)さんの表情(ひょうじょう)が変(か)わりました――いや、消(き)えた、のほうかな? 

 いや、確(たし)かに普段(ふだん)から表情(ひょうじょう)消(き)えてるみたいな感(かん)じですけど、それよりもっと消(き)えてました。

「え? ――は? ――やるの? ――それ、ここでやるの? ――ねえ?」

 そんなことをブツブツつぶやき始(はじ)めたんです

 

 オレと左(ひだり)にいたイ級(きゅう)はまだわからなかったです。たぶん、背中(せなか)のほうにいたイ級(きゅう)も――そこまでカンのいいヤツじゃなかったはず。

 そうしているうちに、ル級(きゅう)さんの――あー――ノドの奥(おく)から出(だ)しているような声(こえ)って言(い)ったらいいんですかね。

 つまり――(記録者注(きろくしゃちゅう):ここでへ級(きゅう)は“ん”に“ ゛ ”をつけたような声(こえ)を数秒(すうびょう)ほど出(だ)した)って感(かん)じの声(こえ)でした。

 

 ところで、その――オレだけなんですかね――聞(き)いたらいけないと思(おも)えば思(おも)うほど、かえって集中(しゅうちゅう)して小(ちい)さい音(おと)が気(き)になるのって。

 いや、あの時(とき)のオレだったら、見(み)えないくらい遠(とお)くの鳥(とり)の鳴(な)き声(ごえ)も聞(き)き分(わ)けができたんじゃないかと思(おも)うんですよ。いや、ホントに。

 

 もうこうなってしまうと、この後(あと)どうなるかは誰(だれ)でもわかることじゃないですか。

 どんな音(おと)が聞(き)こえるかなんて想像(そうぞう)つくじゃないですか。

 嫌(いや)ですよ。そういう趣味(しゅみ)ないんですから――ないです。そう言(い)われてもないです。いつかお前(まえ)もその良(よ)さに気(き)づくとか、そういうのいいですから――いや、そういう趣味(しゅみ)持(も)ってるんですか? 

 あ、ああ。いるんですか、そういうの――はあ――そうなんだ。

 

 ま、まあそういうのはともかくとして。

 もう雰囲気(ふんいき)というか、空気(くうき)というか。そういうのがマズイ状況(じょうきょう)になってきていて。

 逃(に)げたいとは思(おも)いましたけど、逃(に)げたら逃(に)げたでそれもマズイことになりそうだし。

 何(なん)とかしなきゃというか、どうなってもいいやというか――

 音(おと)聞(き)きたくないから、大声(おおごえ)出(だ)すことにしたんです。

 

 歌(うた)ったかどうかは覚(おぼ)えてないです。

 けど、チ級(きゅう)さんとイ級(きゅう)らがオレと同(おな)じように声(こえ)出(だ)したのは知(し)ってます。

 

 そりゃあ――どっからどう見(み)ても変(へん)な光景(こうけい)だったろうなとは思(おも)いますよ。ええ。

 履(は)いているもの全部(ぜんぶ)降(お)ろして座(すわ)り込(こ)んでるル級(きゅう)さんの周(まわ)りにオレらが立(た)って大声(おおごえ)出(だ)しているんですから、変(へん)じゃないと思(おも)うほうがどうかしているくらいはわかりますよ。

 誰(だれ)も来(こ)なかったし、見(み)てなかったからいいですけど――そうなっていたら、ですか? 

 あー――考(かんが)えたくないですねー

 特(とく)に真(ま)っ最中(さいちゅう)の時(とき)は――

 

 あの、話(はなし)の続(つづ)きしていいですか? 

 

 しばらくしてル級(きゅう)さんがオレらの背中(せなか)たたいて、言(い)ったんです。はい。

「もうやめていいぞ」

 その時(とき)の表情(ひょうじょう)は、さっきまでがウソみたいに晴(は)れ晴(ば)れとしていて――

 いや、解放(かいほう)されたというか、やり遂(と)げたというか――

 そんな気(き)にはなりましたですね。ええ――




トイレ擬音装置(ぎおんそうち)(人(じん)(?)力(りき))
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