「ご迷惑をおかけしました」
キングヘイローが深々と頭を下げる。
カワカミと共にキングと合流したファインたち。
キングの横には、同じく行方不明になっていたスカーレットと、ファインのSPがいた。
「皆さんにはなんとお礼をいえばいいのか……」
「気にしないで。わたしたちもカワカミちゃんに聞きたいことがあったから」
「聞きたいこと……ですか?」
キングの言葉にファインが頷く。
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黄金色に輝くフィナンシェを囲むように置かれた、四つのティーカップ。「カワカミさんを見つけてくれたお礼もかねて、お菓子はどうですか?」というキングの提案を受け、ファインとスカーレットはお茶会に参加していた。
「これ、とってもおいしいです!」
「お茶ともよく合ってるね!」
「ありがとうございます。それで、カワカミさんに聞きたいこととは?」
キングの言葉で、スカーレットがカワカミに向き直る。
スカーレットの真剣な表情に、カワカミは背筋を伸ばす。
「カワカミ先輩、今日の合同練習中、わたしのティアラを見ませんでしたか?」
「スカーレットさんのティアラ……ですか?」
スカーレットが、これまでの経緯をカワカミとキングに説明する。
記憶を探るように眉をよせ、黙り込むカワカミ。
トレーナーには、期待を込めた眼差しをカワカミに向けるスカーレットと、厳しい表情をしたファインが見えた。
これまでティアラを探してきたが、今はこれといった手がかりがない。どんな情報でも欲しい現状において、スカーレットがカワカミに期待をよせる気持ちは十分に分かる。だが、初めに荷物置き場を訪れたドーベルがティアラを見ていないことから、カワカミも十中八九、ティアラを見ていないだろう。それは、スカーレットも分かっているはずだが……。
「見ましたわ」
「えっ!?」
「スカーレットさんのティアラなら、荷物置き場で見ましたわ」
「本当ですか!?」
机から身を乗り出すスカーレット。
トレーナーはカワカミから発せられた予想外の答えに、思わず驚きの声が漏れる。
「ええ。わたくしの鞄の上に置かれていたので、スカーレットさんの鞄の上に置き直しましたもの」
「まって。カワカミちゃんの鞄? グルーヴさんはスカーレットちゃんの荷物の上に置いたんじゃなかったっけ」
「いえ、名探偵ファイン様。グルーヴ様はティアラを荷物置き場に持って行ったとおっしゃいましたが、スカーレット様の荷物の上に置いたとは言っていなかったかと」
「それなら、どうしてグルーヴ先輩はカワカミ先輩の鞄の上に、わたしのティアラを?」
「わたくしも、それを不思議に思っていましたの。スカーレットさんの荷物はわたくしの荷物と離れていましたし、あのグルーヴさんが置き間違えるとは到底思えませんでしたから」
たしかに。あのエアグルーヴが置き間違える、というミスをするイメージはできない。
思わぬ展開に、トレーナーは思考を巡らせる。
ではなぜ、エアグルーヴはスカーレットのティアラをカワカミの鞄の上に置いたのか? まてよ。カワカミの前に荷物置き場に訪れたドーベルが、スカーレットの鞄の上にあったティアラを移動させた可能性もある。そのことを隠すために、視線を感じたというあいまいな証言をしたのか? いや違う。移動させただけなら、嘘をつく必要がない。カワカミがティアラを見たのなら、ドーベルがティアラを盗ることは不可能だ。そもそも、ティアラを盗るのではなく、移動させることにどんなメリットがあるんだ。
「あの、少しよろしいでしょうか?」
皆が移動したティアラについて話し合っているなか、唐突にキングが手をあげた。
「電話で直接、エアグルーヴさんに聞いてみては?」
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「はい、ありがとうございます。お忙しい中すいません」
スカーレットが電話越しに頭を下げる。
通話を切り、スカーレットはファインにスマホを返した。
ティアラがないことに焦り、彼女はスマホを部屋に置いてきてしまっていたらしい。
「エアグルーヴ先輩はわたしの鞄の上にティアラを置いたって言ってました」
「ということは、グルーヴさんがティアラを置いてから、カワカミちゃんが荷物置き場に訪れるまでの間にティアラは移動したってことだね」
「動かせるのは、ドーベル様しかいませんね」
「でも、ドーベルさんはティアラを見てないって」
「ならば、どうやってティアラはカワカミ様の鞄の上に?」
隊長が視線をカワカミに移す。
「カワカミ様。ティアラは本当にカワカミ様の鞄の上にあったのですか?」
「……は、はい」
詰問するような口調に、気圧されるカワカミ。
たまに忘れてしまうことがあるが、隊長はSPとしての訓練を受けたエリートの中のエリートだ。ファインが遠く離れた地で、ここまで自由に生活ができているのは、祖国から信頼されている隊長の存在が大きいと、ファインから聞いたことがある。
そんな隊長が、真剣な表情で詰め寄ってくるのだ。
気圧されるのも無理はない。
「自分の鞄とスカーレット様の鞄を間違えた、という可能性はありませんか?」
「……それは。……ない、と思います」
どんどん身を縮こませていくカワカミ。
「ふむ。では、最後の質問です。今までの証言に、一切嘘はありませんか?」
カワカミが口ごもる。
視線はとどまらず、動揺しているのは明らかだった。
このままでは、カワカミの意図しない形で本意とは違うことを言ってしまう。そうなってしまっては、なにが正しい情報なのか分からなくなり、ティアラの捜索がより困難になるだろう。
焦りを覚えたトレーナーが隊長を止めようとした、その時。
「失礼、ひとつよろしいでしょうか」
カワカミの隣に座っていたキングが立ち上がった。
鋭い視線が、カワカミからキングに移る。
しかし、キングは怯むことなく、その視線を真っ向から受け止めた。
「たしかに、カワカミさんは少しおっちょこちょいなところがあります。
ですが、彼女は嘘をつくようなウマ娘ではありません。まっすぐで、とても芯の強いウマ娘です!」
「キ、キングさん!!」
珍しく面を食らった顔をする隊長。
しかし、すぐさまいつもの真面目な表情に戻ると、一歩後ずさり、隊長はカワカミとキングにむかって頭を下げた。
「失礼しました。ティアラを見つけるという目的があったとはいえ、最後の質問は不躾でした」
軽く頷き、座り直すキング。
隊長とキング、二人のやりとりを見ていたファインが立ち上がる。
「気を取り直して、次はスイープちゃんに話を聞きにいこう!」