名探偵ファイン ~消えたティアラの行方~    作:甘党むとう

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 学園内に設けられた小さなステージ。

 ステージの上空には『逃げ切りシスターズ 十七時スタート❤ (生徒会公認)』と書かれた横断幕が、風に揺られながら道行く人々の視線を集めていた。

 

「キタちゃん。今日は急なお願いだったのに来てくれてありがとう!」

 

 ライブ衣装で着飾ったスマートファルコンが、キタサンブラックに向かって手を合わせる。

 

「いえいえ。困ったときはいつでも言ってください! どんな場所でも駆けつけますから!!」

 

「ちょっとキタサン! アンタは魔法少女スイーピー5の一人、マジカルブラックなんだから、勝手にどっか行っちゃダメよ!!」

 

 スマートファルコンとキタサンブラックの間に割って入るウマ娘。

 彼女はキタサンブラックを咎めるように指さすと、つづけて返す暇もあたえずまくしたてる。

 

「今回だけ特別よ!! 偉大な魔法少女になるためにたくさん野菜を食べさせてあげたんだから、その成果を見せなさいよね!!!」

 

「任せてください、スイープさん!! 蓄えた力で、みんなを笑顔にしてきますね!!」

 

 やっぱりキタちゃんはウマドルの素質に溢れてる。

 明朗快活にこたえるキタサンブラックを見て、スマートファルコンは静かに確信した。

 

「よーし! それじゃあ二時間後のライブまで、気合いを入れて練習しよう!!」

 

 右手を前につきだすスマートファルコン。

 キタサンブラックは頷き、スマートファルコンの上に自分の手を重ねた。

 二人の視線は戸惑いの表情を続けるサイレンススズカへと注がれる。

 

「うそでしょ……。また、いつのまにか巻き込まれてる……」

 

 サイレンススズカはしぶしぶといった様子で二人の上に手を重ねた。

 

「「「ウマドルーー、ファイッ、オーーー!!!」」」

 

ーーーーーーーーーー

 

 時刻は午後四時を少しまわった頃。

 キング、カワカミと別れたファイン一行は、あるウマ娘と合流するため学園内を歩いていた。

 

「カワカミ先輩。まさか、犬を無許可で学園に入れてたなんて」

 

 ティアラ捜索の話が落ち着いた頃、カワカミはキングに愛犬のセバスチャンを紹介した。

「今はやんちゃな未熟者ですが、この子はわたくしの立派な相棒なんですの」と語るカワカミの目はキラキラと輝いており、そんなカワカミに、キングはあたたかい目を向けていた。しかし、セバスチャンの首輪に生徒会が発行する許可証がないことに気づくと、表情は一変。キングはカワカミとセバスチャンを連れて、生徒会室へと駆けだしていった。去り際、自分たちに何度も頭を下げるキングの姿は、まさに母親そのものだった。

 

「キングさんがいるから、きっと大丈夫だよ!」

 

「……そうですね」

 

 スカーレットが頷く。

 

 

 歩き始めてから十分。

 視界の先に、『逃げ切りシスターズ 十七時スタート❤ (生徒会公認)』と書かれた横断幕が見えてきた。

 

 小さなステージの前では、すでに何人かのウマ娘がライブ開催を楽しみに待っている。

 その中の一人。ペンライト、うちわ、タオル、法被と完全武装をほどこし、ファンの中で異彩を放つピンク髪のウマ娘。

 

「お~い! デジタルちゃん!!」

 

 ファインの呼びかけに彼女は振り返った。

 芝、ダート問わず、あらゆるレースで活躍するウマ娘オタクのウマ娘。アグネスデジタルだ。

 

「ファインさんっ! それに皆様もおそろいで」

 

 今日、ファインが言っていた頼りになるウマ娘とは、彼女のことだった。

 アグネスデジタルはウマ娘を近くで見たいという理由で、芝とダート、両方のレースに出走しているという話を聞いたことがある。たしかに彼女なら、多くのウマ娘のスケジュールを知っていても、不思議ではない。

 

「スイープちゃんとは話せそう?」

 

「いえ。ダメそうですね」

 

 アグネスデジタルが続ける。

 

「スイープさんは逃げシスに飛び入り参加となったキタサンブラックさんの指導に、熱が入っておりまして。今は何も話すことができない状況です。むりにいって機嫌を損ねるわけにはいきませんし、今は待つしかありませんね」

 

「……そっか」

 

 言葉が詰まるファイン。

 ファインも、スイープの機嫌を損ねるわけにはいかないと分かっているようだ。

 

「それならしょうがないですね。なら、今はライブを楽しみましょう!」

 

 黙っていたスカーレットが、唐突に前に出た。

 

「ティアラは見つかれば、遅くなっても大丈夫ですから」

 

 スカーレットの言葉に、頷く一同。

 彼女が言うのなら、だれも文句はない。

 

 そんななか一人、天を仰ぎながら倒れていくウマ娘がいた。

 

「なんて寛大な御心。……しゅき」

 

ーーーーーーーーーー

 

 ざわざわとした喧騒が、辺りから聞こえてくる午後四時五十分。

 小さな会場は、既に多くのウマ娘で溢れかえっていた。

 

「今日のライブはもともと、ファルコさん一人でパフォーマンスをする予定だったんです」

 

 復活したアグネスデジタルが、ファインとスカーレットに今日のライブの経緯を説明していた。

 

「ですが、そんな危機的状況のなか……いえ、ファルコさん一人のライブもとても素晴らしいのですが。……現れたウマ娘ちゃんがあの! みんなのお助け大将、キタサンブラックさんだったんです!! キタサンブラックさんはそれまで、スイープさんと共に偉大な魔女になる修行をしていたのですが、ライブに向けて一人、全力を尽くすファルコさんを見て、彼女のお助け魂に火がついたのでしょう。逃げシスに参加したことがある経験もあって急遽、今日のライブに参加が決まったのです! もう尊みが溢れ出てます!!」

 

 一人で全力を尽くすファルコさんで、もう充分エモいのに! と話すアグネスデジタルは、またもや昇天しそうな勢いで、天を仰いでいた。

 

「待ってください。では、スズカさんはどうしてライブに?」

 

 スカーレットの質問に、慌てて意識を肉体へと戻したアグネスデジタルが答える。

 

「それはですね。キタサンブラックさんの参加が決まったファルコさんが、逃げシスは二人より三人だよね、ということでスズカさんを誘ったんです。休日なのでスズカさんも予定が入っていたのですが、わざわざその予定を取りやめて、逃げシスに参加したんですよ!」

 

 ダメ! 尊すぎる!! 小さな声で叫ぶデジタル。

 

「それはすごいね! ちなみにスズカさんの予定って何だったの?」

 

 次にファインが問いかける。

 

「校内ランニングです」

 

 スズカさんもとても心が広いですねぇ。と呟くデジタル。

 

「……それは、予定なのでしょうか?」

 

 トレーナーの隣で不思議そうに首を傾げる隊長。

 トレーナーも同じく疑問に思ったが、ライブ直前の静かな雰囲気におされ、おとなしく口を閉じた。

 

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