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トレセン学園生徒会。
皇帝シンボリルドルフを筆頭に、シャドーロールの怪物ナリタブライアン、女帝エアグルーヴといったウマ娘たちが在籍する組織。彼女たちは生徒達の模範となること以外にも、備品の管理やイベントの運営など、多岐にわたってトレセン学園を支えている。
『Eclipse first,the rest nowhere.(唯一抜きん出て並ぶ者なし)』を掲げる生徒会には多くの噂があり、中でも、生徒会室に直訴に行ったあるウマ娘が、「無礼るなよ」と言われ、一蹴されたという話はとても有名だった。
ファインが生徒会室の扉をノックする。
数秒後、「どうぞ」と威厳ある声が返ってきた。
トレーナーは口の中にあふれ出る唾を飲み込み、ファイン、スカーレットに続いて生徒会室へ入る。多くの賞状や盾が視界の中に飛び込んでくる中、トレーナーの視線は正面に座していた皇帝シンボリルドルフに一瞬で奪われた。柔らかな笑みを見せているはずなのに、隠しきれない威圧感がこちらの自由を許さない。
ふと、トレーナーの脳裏にファインの父親と話した時の記憶が蘇る。トレーナーは心の中で苦笑した。
さすが、皇帝シンボリルドルフだ。
「失礼します。エアグルーヴさんはいらっしゃいますか?」
「今はいないが、もうすぐ帰ってくるだろう。何か彼女に用かな?」
「はい。実は……」
ファインがこれまでのことをかいつまんで説明する。
さすがファイン。シンボリルドルフと話しているのに、全く臆していない。隊長も同じく堂々とした立ち姿だった。やはりこの二人は、こうした状況に慣れてるのだろう。
スカーレットは見るからに緊張しており、少し可哀そうだった。
「ふむ。つまり、無くなったティアラの情報を集めている、ということだな」
「はい」
「分かった。生徒会でも可能な限り情報を集めてみるとしよう。
一陽来復、ティアラが見つかるといいな」
「お気遣いいただきありがとうございます」
二人の会話が終わり、ファインが上品に頭を下げる。
続いて隊長と俺、慌ててスカーレットが頭を下げた。
その時。
「会長、畑から盗まれた野菜ですが……」
生徒会室の扉が開いた。現れたのは、二枚の書類を手にした疲れた表情のエアグルーヴだった。
彼女は扉の近くにいた俺と隊長を一目見た後、奥にいるファインとスカーレットを見つけると、
「ファインにスカーレット!? スカーレット、その髪型は……。
これは、一体どういう状況だ??」
珍しく、戸惑いを露わにした。
いつも凛とした彼女からは、想像できない姿だった。
ファインとシンボリルドルフが、今の状況と無くなったティアラについて説明する。
エアグルーヴはすぐに落ち着くと、いきなり、スカーレットに向かって頭を下げた。
「「「えっ!?」」」
今度はこちらが驚く番だった。
ーーーーーーーーーー
「すまない、スカーレット」
「そんな、顔を上げてください! エアグルーヴ先輩!!」
スカーレットが慌ててエアグルーヴに声をかける。
トレーナーたちもよく分からないまま、頭を下げ続けるエアグルーヴを見る。
「説明してもらってもいいかな? グルーヴさん」
「む、そうだな」
ファインたちが当惑していることに気づき、やっと顔を上げたエアグルーヴ。
彼女はこれから話す内容を頭の中で整理するためか、数秒目をつむった後、口を開いた。
「私はドーベルとフラワーと共に坂路トレーニングを行っている最中、坂路コースの脇に置かれたティアラを見つけた。すぐに、先ほどまでここで練習をしていたスカーレットのティアラだと気づいた私は、練習を一時中断し、スカーレットの元へティアラを届けようとした。
だが、その時スカーレットはファインとスタートの練習をしていたこと、また、ゲートより荷物置き場のほうが近かったこともあり、私はティアラを荷物置き場においてしまったのだ。
もちろん、後でスカーレットに報告するつもりだった。だが、坂路コースでドーベルが想像以上にいい走りを見せてくれたことで、私は今の今までティアラの存在を忘れてしまっていた」
己の失態を悔やむように、眉を寄せるエアグルーヴ。
「私がすぐ、スカーレットにティアラを渡していれば。
本当にすまない。スカーレット」
彼女はもう一度、頭を下げた。
誰も、何も言わなかった。
エアグルーヴがしたことは、正しいことだ。
彼女はティアラに気づき、安全な場所へ移動させただけ。
たしかに、すぐにスカーレットへ渡していれば、ティアラがなくなるなんてことは起こらなかっただろう。
だが、練習を中断してまでティアラを渡そうとした彼女を、誰も責めることはできない。
唯一、できるとするならば。
「ううっ」
突然、スカーレットが両手で自分の顔を覆う。
困惑する一同。特にエアグルーヴは女帝らしからぬ慌てようで、スカーレットに声をかける。
そんな張り詰めた空気の中、スカーレットはその場に座り込むと、
「よ、よかったぁ~~!!」
安堵の息を漏らした。
「ティアラが壊れてなくて本当に良かった~!
ううっ。エアグルーヴ先輩、ありがとうございます~~!!」
スカーレットの言葉を聞いて、更に困惑するエアグルーヴ。
感謝されたことに違和感を感じているのだろう。スカーレットが謝意を述べるたびに「いや」「しかし」と口ごもっていた。
そんなエアグルーヴを見かねたのか、シンボリルドルフが立ち上がる。
「前途洋々。お茶を入れよう。
少し、ゆっくりしていくといい」
その言葉で、トレーナーたちはもう少し生徒会室にお邪魔することになった。
ーーーーーーーーーー
「ふむ。私は荷物置き場にティアラを置いて以降、そこを訪れてはいないな」
「私とファインさんもスタートの練習が終わった後、直接模擬レースに参加したので荷物置き場には行ってません」
「となると、他のメンバーに聞いてみるのが一番よさそうだね!」
スカーレットが落ち着いた後、エアグルーヴ、スカーレット、ファインの三人は荷物置き場に置かれたティアラがいつ無くなったのかを話し合っていた。
生憎、ここにいるメンバーは荷物置き場に置かれた後のティアラを見ていない。そして、最後の模擬レースが終わった後も、ティアラを見ていないという。
つまり、ティアラがなくなったのは、エアグルーヴがティアラを置いてから模擬レースが終わるまでの間、ということになる。
三人の記憶を頼りに、模擬レースを始めるときに他のメンバーが集まった順番を思い出していく。
「私とスカーレットちゃんが一番早くゲート前にいたよね」
頷くスカーレット。
「次に私だな。その後はドーベルだったと思う」
「私もそう思います。次にカワカミ先輩が来て、ゲートを少し壊しちゃって」
「ああ、そうだったな。そしてスイープが駄々をこねたんだ」
「確か、最後にゲートに入ったのはスイープちゃんだったけど、ゲート前に来たのはフラワーちゃんの方が遅かったよね?」
「はい。私はフラワーの隣だったので覚えてます。
スイープが暴れてる中、遅くなってすいませんって何度も謝ってました」
「ということは、ドーベル、カワカミ、スイープ、フラワーの順番でゲート前に来たのだな」
エアグルーヴの言葉にファインとスカーレットが頷く。
どうやら、話はまとまったみたいだ。
「それじゃあ、まずはドーベルに話を聞きに行こう!」
三人が立ち上がる。
ティアラの手がかりを掴んだからか、スカーレットの表情は明るい。ファインも、先ほどまでのような険しい表情はしていなかった。そんな中、エアグルーヴだけが一人、沈鬱な面持ちを浮かべていた。
「二人ともすまない。私はついていけない」
エアグルーヴの足が、止まる。
「私には生徒会の仕事がある。今はブライアンも練習でいない。
だから、もし私まで生徒会を出てしまっては、会長にかかる負担が多くなってしまうんだ。
私が原因だというのに、協力できなくて本当にすまない」
「そんな、謝らないでください。エアグルーヴ先輩のおかげでティアラは無事だったんです。
こちらこそ、お忙しいのに協力してもらってすいません。生徒会のお仕事頑張ってください」
「ああ。一段落ついたら、私もティアラを探してみるよ」
「はい、ありがとうございます!」
「うむ、事件があってもくじけんな、だな」
「ふふっ」
瞬間、全員の視線がシンボリルドルフ、そして隊長に注がれた。
「す、すいません」
周りの視線に気づいた隊長がすぐに頭を下げる。
だが、この時トレーナーは見逃さなかった。
あの皇帝シンボリルドルフが、あふれんばかりの笑顔を浮かべていたことを。