White Xmas (PSYCHO-PASS)   作:鈴夢

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White Xmas

 

 

 

 

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「―――遅い。」

 

 

 

 

―12月24日 午前10時過ぎ―

クリスマスイブで浮き足立つ人々を横目に、待ち合わせ場所の時計塔で時間をしきりに気にする男が居た。

 

その人物は厚生省公安局刑事課 監視官 宜野座伸元。

 

 

「((全く……あいつはどれだけ遅刻魔なんだ……何度目だ?))」

 

 

腕を組み、怪訝そうに表情を歪める宜野座。―――狡噛慎也の妹、狡噛舞白が時間通りに現れたことは今まで一度もない(尚、理由は毎回不明)。

 

 

師走の忙しいこの時期に急に連絡が来たと思えば……

 

"お兄ちゃんのクリスマスプレゼント選びに付き合ってほしい!"

 

との舞白からのメッセージ。

仕方なく貴重な非番を今日のこの日に費やすことに決めた宜野座。しかし相変わらず現れない……

 

 

時計塔の近くで立ち尽くし続ける。

しかし今日はやけに視線が気になる。ただでさえ身長も高く、やけに目立つのは仕方の無いことなのだが……何か変だろうか?

 

宜野座はふと自分の格好を再確認する。

 

 

シンプルな白のニットに黒い細身のパンツ。最近購入したばかりの長いチェスターコートを羽織り、黒いマフラーを巻いていた。そしていつもの黒縁メガネ。どうせアイツには"また真っ黒!"と文句を言われるのは目に見えている。

 

 

なんらおかしな格好はしていない。他人の視線を浴びる理由は不明だがとにかく早くこの場所から移動したい。冷たい風は吹き抜けるし、動いていない分体は冷えるし―――

 

 

 

 

 

 

「―――全く、待ち合わせ時間20分も過ぎ……」

 

「ノブ兄〜!!ごめーーーん!!遅刻!」

 

背後から聞き覚えのある声。それは周りの視線を一気に集めるほどに大きな声で、その声の持ち主に宜野座は不機嫌そうに視線を向けた。

 

 

「おい、いい加減……」

 

現れた少女の姿に何故か視線を奪われてしまう宜野座。いつもの制服姿や部屋着姿とは違い、まるで別人を見ているようだった。

 

 

 

 

 

兄と全く同じ黒髪。普段はひとつに結われているのに今日は綺麗に巻かれ、手入れが行き届いている美しい黒髪が靡いていた。

 

白い短いニットワンピースに赤いAラインのコート。ブラウンのニーハイブーツを履いて現れた彼女。どちらかと言うと普段ははボーイッシュなイメージの方が強い。しかしよく見ると今日は化粧も施されており、実年齢よりも大人びて見える。

 

 

 

「舞白。20分遅刻だ。」

 

宜野座の台詞にパチンっと両手を合わせ、頭を勢いよく下げる。

 

 

「ごめんなさい!上手くアイラインが引けなくて、何回もやり直してたらこんな時間になってて…、それでね!走って駅まで行ったんだけどまさか遅延してるし…それで―――」

 

「言い訳はいい。とにかく…ほら、行くぞ?」

「もー!怒んないでよー!!」

「怒ってない。」

「怒ってる!」

「怒ってない。」

「怒ってるよ!」

「…お前なあ………」

 

 

 

ふんっと口を尖らせる舞白。足早に歩みを進める宜野座を追いかけるようについて行くと小声で文句を口にしていた。せっかくいつもより気合を入れて準備したのに……と1番の本心を口にしたかったのだが……。

 

内心、宜野座は見慣れない舞白の姿を凝視することができず、ぶっきらぼうな対応をしてしまっているだけだった。

 

 

 

 

 

 

 

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駅前の大きな百貨店。クリスマスの装飾が豪華に施されており煌びやかな景観がそこら中に広がっていた。街を歩くだけで浮き足立ってしまうほどにワクワクと気分が高まる。

 

 

 

 

 

 

「……うーーん。」

「…………」

 

 

そもそも何を贈ろうか決めていなかった舞白。

入る店入る店で頭を抱え、それを静かに隣で宜野座は見守っていた。

 

 

 

「マフラーは絶対使わないだろうし。でも寒い日の事件捜査の時に使えるかな……?……マグカップ……あっ!靴下は?……いや、もっと使わなさそう―――」

「…………」

 

 

「オシャレなシルクとかのルームウェア?……あー、でもお兄ちゃんだったらパンツ一丁とかで寝てそうだし。いっその事タバコは?それともライター?でもせっかくなら可愛いもの渡したいし〜」

「…………」

 

 

「思い切ってメンタルケアのサプリ?ラクーゼ?……ていうか潜在犯に意味あるのかな……。」

「…………」

 

 

 

ありとあらゆる店舗に入店し、その度に迷いを見せる舞白。宜野座は静かにそれを見守り、密かに楽しんでいた。

 

 

 

┈┈┈

 

 

 

 

 

 

「ねぇねぇ、お兄ちゃんって仕事とかでいつも使ってるものとか……何か知ってる?」

「とくに何かを愛用してるような姿は見たことは無いな。」

 

ストレートな返事。

せめて少しくらいアドバイス的なものを言ってくれると期待したのに……なんて甘い考えを持っていた舞白。

 

 

「えーーーっ!!!」

「……うるさい。」

 

 

宜野座の言葉にガクッとあからさまに肩を落とす。せっかく1番兄を知る人物が居るというのに――

 

 

「…1番近くにいるノブ兄なら絶対何か分かるだろうなと思ってたのに…」

「役に立てなくて悪かったな。」

「むー…」

「そもそもお前の兄が物に無頓着なのは知ってるだろ?」

「…そうだけど……だからこそ何か贈りたいんだよね。」

 

「誕生日は何を贈ったんだ?」

「スピネルを2カートン。」

「…………」

「ちょっと引かないでよ、てか予想通りのその反応!だからこそ今回はちゃんとしたものを贈りたいの!」

 

狡噛が愛煙している"スピネル"。

まさかカートンでそれを贈るとは……まあ、狡噛の妹らしいと言えば妹らしいのだが……

 

 

 

 

顎に指を添え考え込む仕草を見せる舞白。

するとその時、時計塔から正午を知らせるチャイムが鳴り響く。同時に舞白のお腹も鳴り響くと恥ずかしそうに腹部を隠す。

 

 

 

 

「……うー……お腹空いちゃったなあ……」

「もう昼か。店が混む前に動いた方が良さそうだな。」

「………………」

「何だ、その顔は。」

 

懇願するように宜野座を見上げる舞白。

身長差は約10数cmのはずだが今日はやけに顔が近い気がする。……ああ、ヒールのせいか……

 

 

「ランチ。ご馳走して??」

 

ふふふん、と無邪気な笑顔を向けられると宜野座も仕方ない、と微かに笑みをこぼす。2人は昼食を摂る為、地下のレストラン街へと歩みを進める。

 

 

 

「舞白。本当の目的はそれだな?」

「え〜、そんな事ないよ〜」

「そもそもお前に払わせたことなんて無いだろ。」

「ご馳走様です、お兄様。」

「調子いいな、相変わらず。」

「ふふんっ」

 

 

嬉しそうに脚元を弾ませ、宜野座の横をピョンピョンと跳ね回る。まだまだお子様な彼女の姿は見ているだけで面白い。

こんな可愛い妹が居るのにあいつは大損している、なんて思う程にその姿は愛おしかった。

 

 

 

 

 

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「いっただっきまーす!」

 

 

 

 

注文したオムライスをパクパクと頬張る舞白。その姿に宜野座は片肘を立ててクスクスと笑っていた。

 

「お前はいつまで経ってもお子様だな」

「好物なんだからいいでしょ?ノブ兄こそ、また何も食べてないし……体に悪いよ?」

「いつも少食なんだ、お前と違ってな。」

「私は成長期なんです〜」

 

コーヒーを口に運び、一息つく宜野座。

そして相変わらずのガミガミとした言葉に口を尖らせる舞白。

 

これがいつもの2人の光景だった。

 

 

 

 

「私。あと数年したら職能適性ももらって立派な大人になってるんだよ?」

「まともな職をシビュラはお前に与えるか否か…」

「何それ、どういう意味?」

「何でもない。……ほら、冷めるぞ。」

 

 

 

シビュラシステムの職業適性――

サイコパスとして数値化、それを元に精神の健康状態・個人の能力を最大限生かした職業適性を示し、人々が最適で充実した人生を送れるように支援を行う包括的生涯福祉支援システム――

 

 

 

「この前の考査。お兄ちゃんと同じく国内トップの700ポイント越えだよ?厚生省公安局に適性出たらよろしくお願いします」

「万が一、刑事課に配属されたら毎日鬼のように俺が鍛えてやる。」

「余裕余裕!そしたら秀星と脱走するから。」

「そんな事したら執行対象だぞ?」

「大丈夫。私はクリアカラーだし、私が盾になって逃げるから。」

「……どこが秀才なんだか……」

 

 

 

名門校に通う舞白。そんな彼女の学力は常に学年トップ。かつて、兄も日本で1番になるほどの実力を持っていた。遺伝子というものは恐ろしい。兄妹揃って日本一の秀才だ。

……妹に関しては少し心配な面もあるが……

 

 

「職業適性か〜……私は何を進められるのかな〜」

「…………」

「厚生省公安局刑事課に最年少で適性が出たとして……そこからキャリアを積んでいけば何れ厚生省の本部長にまたまた最年少で任命されたり?」

「そんな事が上手く運ぶとは思えないが。」

「かといって外務省も捨て難いな〜……ほら!私元々トリリンガルで色んな国の言葉勉強してるし。語学なら外務省だよね?」

「鎖国してるんだぞ?それに今は高性能の翻訳機もある。必要ないだろう。」

「……じゃあノブ兄のオススメは?」

「環境省。」

「悪くないけどせっかくならもっと――」

 

 

キラキラと瞳を輝かせ、未来に期待を抱く少女。宜野座はコーヒーを口に運び、ふと脳内で考えを巡らせていた。

 

舞白の実力から考えてそれなりのキャリアを目指せる事は間違いないだろう。兄とは正反対で天真爛漫過ぎるところは否めないが、勘の良さや地頭の良さ、時たま見せる冷静沈着な姿勢は兄と全く同じだ。

 

"素晴らしい職能適性"をシビュラは提示するに違いない。宜野座は確証をもっていた。

 

 

 

 

「だから!その前にやりたいこと一気にやりたくて……まずは髪の毛を真っ白に染める事と、ボクシングのライセンスをとることと……」

「どれもこれもアイツが反対するようなことばかりだな。」

「別にいいの!――」

 

 

自信に満ちた若々しい顔。

笑顔の裏の微細な真剣な瞳、それは正に兄と同じ目をしていた。

 

 

「――だって、私の人生なんだから。」

 

 

 

不思議と彼女を見ているとこちらも明るくなる。色相が濁っていても昔から彼女に会えば何故か好転する。

 

この天真爛漫な、無碍な笑顔がそうさせているのかもしれない。

 

 

 

 

 

 

 

 

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「ふぅ〜ご馳走様でした!」

「よくあれだけ食べて太らないな?」

「だって美味しかったんだもん。それに1人じゃないし、不思議と食欲も唆るんだよね。」

「……そうか。」

 

 

食後のデザートに、クリスマス限定の特大パフェ。

どう見ても3人分はあったであろう量をペロリと完食。

 

そして本人はそんなつもりで口にしたのでは無いのだろう。"1人じゃない"という言葉に宜野座は引っ掛かりを覚えた。

 

その笑顔からは微塵も感じさせない微かな"孤独"。1番近くにいるからこそ宜野座は理解していた。しかしそれを安易に口にする気は無い。彼女も彼女なりにプライドがある。それも狡噛の妹ならではの心情だろう。

 

 

 

 

「さてと…プレゼント探し――」

 

兄の為にと再び気合を入れ直す舞白。その時、ふと人で賑わうアクセサリーショップが目に入る。何やら、そのショップのウィンドウに惹かれるものがあったらしい。

 

「ノブ兄。見てきていい?」

「勿論だ。気になるなら見てこい。」

「うん。ありがとう。」

 

店内にはカップルたちがお揃いの指輪を購入したり、クリスマスならではの繁盛を見せていた。舞白はその人々を横目に一目散にウィンドウへと向かう。

そこに展示されていたのは小さい華奢な、赤いハートが施されたネックレス。"赤いハート"のモチーフなんて子供っぽいだなんて思ってしまうが、小さな宝石は子供らしさを感じさせず上品なデザイン。

 

眼もさめるような、ガーネットの真紅の輝き。それは"女性らしい"と例えるのがベストかもしれない。

 

 

「((……綺麗。))」

 

兄と同じく、そこまで物には拘りは無い。しかし年頃ということもあるのかやけに目を引くのだった。

 

 

「((……って……さすがにこの値段は手が届かない。バイトしてる訳じゃないし、てかお兄ちゃんに禁止されてるし。貯めてたお小遣いを使うのもな……。でも全国トップ取ったご褒美に……ってダメダメ!!))」

 

 

"そもそも私のキャラじゃない"なんて心の中で呟くと小さくため息を漏らした。

 

 

 

 

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「…………」

 

 

ウィンドウに魅入る赤いコートの少女の後ろ姿。

そんな姿を見ていると"大きくなったな"なんてお決まりの親心を感じさせる台詞が脳裏に浮かぶ。

 

 

一昔前まで自分の手を握り、ずっと後を着いてくるような子だった。実の兄では無いものの、まるで本当の兄のように慕ってくれるその姿は愛らしく、自分も兄だと錯覚してしまうほどだった。

 

 

「((……あいつも子供じゃなくなる。それはそれで嬉しいような寂しいような――))」

 

 

立派な職に就いて、いつか最愛の相手が出来て――俺や狡噛に会うことも少なくなるのだろう。

というより"そうなって欲しい"と切に願う。舞白の言う通り"自分の人生"なのだから。自由に好きなように選択をして人生を謳歌して欲しい。

 

 

――なんて、そんなことを考えながら彼女を見つめていた。

 

 

 

 

 

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「――お待たせ〜。ごめんね?ついでにちょっとお店の中も見てきちゃった。」

 

数分後、舞白はニコニコと満面の笑みを浮かべながら宜野座へと駆け寄る。どうやら先程見ていた物は購入しなかったらしい。めずらしく食い入るように見ていたものだから購入するのだろうと予想していたが。

 

 

「何も買わなかったのか?」

「うん。そもそもハートのネックレスなんて私の趣味じゃないし……」

「別にそうとは思わないが……俺も見……」

「いいのいいの!ていうか時間もないしプレゼント探し再開!」

 

 

"ナシナシ"と呟き宜野座の腕を引く舞白。兄のプレゼントを探す為に他の店へと目を向ける。

 

しかし先程の舞白の様子が忘れられなかった。何らほかの同世代の少女たちと変わらない、キラキラとした目を向けていた事に宜野座は気づいていたのだから。

 

 

 

「((――きっと狡噛はこういう物が好きだとは知らないんだろうな))」

 

兄が潜在犯になってからというもの、簡単に会うことはもちろん出来ず面会できたとしても短時間だ。いつも心配をかけまいと強がる舞白。兄の狡噛はその事実を多少は感じているだろうが微細な本音は分からないだろう。

 

それは宜野座のような第三者の視点でしか気づけない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…ノブ兄。私ずっと思ってたんだけど…」

「ん?何だ?」

 

急に改まる舞白。一体何だ?と不思議そうに彼女を見下ろしたその時、勢いよく人差し指を宜野座に向け舞白は堂々と声を上げた。

 

 

「真っ黒!いつもと同じ!」

「…服装なんてTPOに合っていれば…」

「本当に頭堅いなあー。そんなんじゃいつまで経っても年齢=彼女ナシ歴だよ?……そうだ!いいこと考えた!」

「サラッと人が傷つくことをお前は―――」

 

まあ、彼女の言っていることは間違っていない。

年齢=彼女いない歴。まさか一回りも離れている少女に言われるとここまで胸に突き刺さるのか……と。

 

 

「プレゼントと並行してノブ兄の服も探そう!」

「そんなに私服を着る機会も無いからな。必要ないさ。」

「でも……これからこうやって外に出る時――」

 

 

刹那、宜野座のデバイスが鳴り響く。

手首上に映し出されるモニター。そこには"青柳璃彩"の文字。恐らく仕事の連絡だろう。

 

舞白は直ぐにそれを察知すると口を紡ぐ。

 

「……すまない舞白。仕事だ、ちょっと待っててくれ。」

「うん、勿論だよ?」

「悪いな――」

 

 

そそくさとその場から立ち去る宜野座。離れていく背を見つめ、舞白は閃いたように笑みを浮かべ"ポンッ"と掌に拳を落とすジェスチャーを見せる。

 

「…こっちとしては好都合。」

 

 

 

 

舞白は何かを企んでいたのか予め決めておいた雑貨店へと走り向かう。とあるアイテムを2つ選び、直ぐに店員にラッピングをお願いするのであった。

 

袋は2つ、宜野座と狡噛に向けての贈り物。

何を贈るか決めていない、なんて真っ赤な嘘だった。

 

 

 

 

 

 

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人気がまばらな場所に移動した宜野座。周辺の一般人に警戒しつつ、直ぐに応答した。

 

 

 

「――青柳。どうした?」

『休みなのにごめんなさい。宜野座くん、今どこ?』

「六本木だ。」

『六本木?……あー、クリスマスだし……余計に申し訳ないわ』

 

クリスマスに六本木。明らかに休日を楽しんでいるだろうと察した青柳。その声色からは申し訳なさが伺える。

 

「気にするな、別に構わない。相手は舞白だ。」

『舞白ちゃん?なら尚更申し訳無いんだけど……』

「気にするな。…で?要件は何だ?緊急か?」

『…まあそんなところよ。渋谷区松濤一丁目で強盗殺人。』

「松濤か。すぐに向かう。」

『本当にごめんなさい。三係は出払ってるし……知っての通り一係の監視官は今は宜野座君だけ。……私も向かうんだけど人手が足りないの。犯人も逃走中。』

「分かってるさ。すぐに車両の手配――」

 

 

 

その時、青柳の背後から男性たちの声が聞こえ始める。

 

 

『ちょっ……狡噛………』

 

青柳に割り込むように一係の執行官たちが声を上げる。

 

 

『ギノ。事件は俺たちで十分だ。邪魔したな。』

「狡噛!?」

『宜野座監視官。久しぶりの休暇なんだ。こっちの事は任せておけ。』

「…………」

 

狡噛、そして征陸。

それだけでなく縢と六合塚の声もデバイスから漏れる。

 

 

『話は聞かせてもらったぜ〜?ギノさんは大事なクリスマスデート中なんだし?ごゆっくりごゆっくり〜♪』

「ちょっ……待て!そういう意味じゃ……」

『クリスマスに女の子を放置するなんて罪深いですよ。宜野座監視官。』

「だから違うと言ってるだろう!?」

 

必死に声を上げるも残念ながら彼らには届いていない。そして宜野座が頭を抱え、俯いたその時。別の人物の声も現れた。

 

 

 

 

 

『青柳監視官だけで十分十分。余計にその話を聞いたからには俺らも無理やり引っ張れないです。――ね?青柳監視官?』

『神月君…』

『その代わり。俺と"青柳さん"がデートの時は何があっても呼び出ししないでくださいね?』

『何言ってんのよ!』

『んじゃ!そゆことで。こっちは任せてくださーい。』

「なっ……!おい!神月!!」

 

 

まさか、二係の執行官。神月凌吾まで現れるとは――

 

 

宜野座は建物の壁に持たれ、深いため息を吐き出す。皆に様々な誤解を生んでしまった気がして堪らない。そもそも舞白との関係はただの幼馴染だ。

 

……いや、違う。

アイツらは俺を気遣ってるんじゃない。

 

 

 

 

刹那、デバイスの通知音が鳴り響く。

今度は通話ではなくメッセージだった。相手は狡噛。

 

 

 

"こっちは任せろ。事件のひとつやふたつ、お前がいなくとも何とかなる――"

 

 

 

"今は舞白の側にいてやってくれ。頼む。"

 

 

 

「……どいつもこいつも舞白、舞白…か。」

 

 

不思議と頬から口尻にかけて曖昧な凹凸に輪郭の崩れる顔。全員が狡噛の妹を按じるその様が宜野座にとっては悦びだった。

 

 

 

 

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宜野座は足早に先程別れた場所へ向かう。赤いコートの舞白は探し易く、簡単に見つけることが出来た。

 

「――まし…」

 

名前を呼ぼうと声を出すが咄嗟に止める。

何やら友人らしき人物と楽しげに会話をしていた。

 

栗色の髪をふわふわと跳ねさせ、正に"女の子"らしい少女。身なりも整っており"いいところのお嬢さん"という言葉が似合う。その隣で優しく微笑む両親、そして弟らしき少年。

 

幸せな家族、そのものの姿だった。

 

 

 

「((少し様子を伺うか…))」

 

 

楽しそうな空気に水を指す訳にもいかないだろう。宜野座は物陰へと体を隠し、ふと周辺を見回す。

 

 

街を歩く人々の幸せそうな光景。カップルや夫婦、そして子供を連れた家族。クリスマスという一大イベントをそれぞれが大切な人ともに過ごしていた。

 

再び物陰から舞白の姿を見据える。

 

 

舞白には唯一兄以外に親族が居た。それは母方の祖母。しかし病弱で遠方の病院に長く入院していた。

そして生活を長く共にしてきた実の兄。しかし潜在犯――執行官となり舞白は早くから孤独だった。

 

楽しそうに友人とその家族と談笑をしている姿を見ると、何故だかどこか寂しそうに感じてしまう。本人はさほど気にしていないかもしれないが…幼馴染の宜野座はそれを心の底から心配していた。

 

そもそも狡噛を潜在犯へと変えてしまったのは自分の責任もある。贖罪では無いが、その分狡噛の代わりに舞白を見ていこうと決めているのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

不意に視線を上へと向けるとひとつの広告が目に入る。それは先程、舞白が見入っていたネックレスだった。

 

綺麗な女性モデル――確か人気アイドルの小宮カリナ…なんて名前だったはずだ。美しい陶器のような白い肌に赤い宝石が煌めく。彼女が身につけているだけで爆発的に売れそうなものだった。

 

 

「――大切な人に、か――」

 

広告に映し出された言葉。

"大切な人に"――

 

そのワードが目に入ったその時、宜野座は舞白達から離れ踵を返す。

 

 

 

 

 

 

 

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「ねぇねぇ舞白。例の"お兄さん"、まだ戻ってこないの〜?」

 

 

偶然出会ったのは親友の花橋咲良。そして両親と弟の裕翔。家族で楽しいクリスマスを過ごしていた咲良は赤いコートの舞白を見つけると一目散に呼び止めたのだった。

 

 

「仕事絡みだし、まだ戻ってこないと思うよ?」

「え〜!会ってみたいのに!舞白の"カ・レ・シ"♪」

 

トントントンとリズムを刻むように舞白の肩を叩く咲良。その表情は面白がるようにニヤニヤと笑みを浮かべていた。

 

「ち、違うよ!そんなわけないじゃない!」

「そうじゃないならこんなに可愛い格好しないでしょ?いつもはデニムにTシャツ、スニーカーみたいな無頓着な子がニットのミニワンピ、しかも白…」

「ちょっ!たまにはそーいう気分なの!」

「しかもその赤いコート、この前私に相談してきたやつでしょ?ブラウンか赤か…あんな必死に服のことで悩むなんて怪しい〜」

「たまたまだよ!それに!その人は私よりひと回りも上だからね?」

「舞白、歳なんて関係ないわよ?そんなの言い訳だから。」

 

 

盛り上がる女子特有の恋愛トーク。年頃の子達らしい様子に咲良の両親も面白そうに笑顔を浮かべていた。

 

 

「せっかく楽しそうなところ悪いんだけど…そろそろカフェの予約時間も近いから。…咲良?」

「それに舞白さんも買い物途中だ。邪魔したら悪いだろう?」

「お姉ちゃん!ケーキ!早く食べに行こうよ!」

 

ぐいぐいと姉の腕を引く弟。

両親も半ば申し訳なさそうな雰囲気を漂わせ、そろそろ行こうと促す。

 

 

「…もー…分かったよ…。残念。――じゃあね舞白!メリークリスマス!!」

「うん!咲良も!お父さんもお母さんも裕翔君も!」

 

「またいつでも遊びに来てね?舞白ちゃん。」

「こんな娘だがこれからも頼むよ?」

 

優しい両親の言葉。舞白は嬉しそうに頷くとめいっぱい手を振るう。そして花橋一家は目的地へと向かうため歩き始める。

 

 

 

「咲良の家族。相変わらず皆仲良いな〜。楽しそう。」

 

 

家族で楽しそうに団欒する姿に舞白は少しだけ"羨ましいな"という感情が垣間見える。4人揃って歩く後ろ姿は舞白にとっては理想でもある姿だった。

 

もし…両親が生きていて、お兄ちゃんも今この場所にいたら?

 

きっとあんな風に皆で楽しく歩いてるのだろうか。お父さんとお母さんの事はほとんど覚えてないし、顔も写真でしか分からない。だけど想像出来る。

 

気が強そうなお母さんが生意気なお兄ちゃんの手を引いて大きな口を開けて笑ってる。お兄ちゃんによく似たお父さんは静かにそれを優しく見守ってて…私の手を握ってる。

 

 

そんな夢のような光景が嘘のように脳裏に浮かんだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「――まだかな、ノブ兄」

 

目の前を通っていく幸せそうな人達を前に寂しい気持ちが湧き出る。

 

 

 

 

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2人が別行動になって気づけば30分ほど経過していた。

待ち合わせをしていた場所は更に人で溢れ返る。窮屈に感じた舞白は屋外の大きなクリスマスツリーが飾られた中央広場へと移動する。

 

宜野座には"ここで待ってるよ"と連絡したもののまだ返事はない。もしかして緊急の仕事で連絡をする暇もないまま向かってしまったのかもしれない。ただでさえクリスマスに年末年始、忙しいのは当たり前だ。毎日のようにエリアストレス警報は報道されてるし…仕方ない。

 

 

「ふー…寒っ…」

 

屋外ということもあり冷たい風が吹き付ける。舞白はマフラーに顔を埋め、ふと足元に視線を落とした。

 

 

「――"歳なんて関係ない"か」

 

 

咲良の言葉が蘇る。

 

昔から可愛がってくれていた宜野座。幼馴染といえど家族のように、本当の妹のように接してくれている。とくに兄が潜在犯になってからは頻繁に連絡をくれるようにもなった。

 

1人で暮らしている自分を心配し、時には仕事が終わり次第自宅に来てくれたり。なかなか仕事が忙しく会えない時もこまめに連絡を入れてくれるような優しい人だ。

 

「((たまにお兄ちゃん以上にガミガミうるさい時もあるけど……嫌いになれないんだよなあ。何でだろ。))」

 

 

 

舞白は一緒に過ごす中で宜野座伸元がどういう人物が分析していた。

 

たまに嫌味な事も口にするが根は優しい事は百も承知だ。物事を常に他者に振り回されることなく平均的に捉えることができる人。兄と同じく、胸に確かな正義を秘める信念ある人。

 

いつかシビュラシステムを統治している厚生省の本部に入局したいと口にしていたこともあった。

 

自分もいつか追いつきたい。舞白にとって宜野座が目標地点だった。

 

 

 

「((――早く大人になりたい。))」

 

 

 

 

 

 

ため息混じりの白い息を吐くと視線を空へ向ける。真っ青な空には雲ひとつなく、最高のクリスマス日和だ。

 

しかし今日はここまで。家に帰って本でも読もう――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「――舞白。」

 

 

 

空を見上げていたその時、背後から優しい声が聞こえた。

 

「へっ!?」

「…なんだその間抜けな顔は…」

 

 

まさか現れるとは思いもしなかった舞白は呆気に取られていた。ぽかんと口を開け、まるで怪物を見るような――

 

 

「びっくりした…」

「悪い、待たせたな」

 

 

声の主は宜野座。急いで走ってきたのか呼吸が若干乱れており、前髪を鬱陶しそうに手で払っていた。

 

 

 

「さすが公安局のエリート、休む間もないね。」

 

舞白は大袈裟に宜野座の背中を叩き笑顔を見せる。

 

"実は少し寂しくて感傷的に"…なんて言えるはずもなかった。

 

「お前…狡噛へのプレゼント…」

「あ…ああ!コレね!お兄ちゃんへのプレゼント。思いついたから買っちゃったんだ?次会うのは年明けだし、代わりに渡しておいてよ」

 

綺麗にラッピングされた袋の入った紙袋を手渡す。

そして、その袋には何故か2つ入っていることを確認した。

 

「こっちの星柄の包みの方はノブ兄に。今日付き合ってくれたお礼だよ。貴重なお休みに、しかもクリスマスイブに。それに仕事もあって大変なのに本当にありがとうございました。」

 

屈託のない笑顔を向ける舞白。律儀に礼儀正しく深々と頭を下げる姿。年相応とは思えない舞白の言動に宜野座は袋を受け取り小さく笑みを零していた。

 

「自分で選べたんだな。」

「うん。いい物たまたま見つけたから。」

 

 

 

 

 

――嘘だ。

"お兄ちゃんへのクリスマスプレゼントを一緒に選んで欲しい"

 

それは舞白が宜野座についた大嘘だった。

 

ただ、久しぶりに一緒に過ごしたかった。そんなワガママをそのまま言えない舞白は嘘を頼りに宜野座を呼び出した。

 

公安局が大忙しなのは分かりきっていたこと。だけど宜野座は自分の誘いに嫌な顔ひとつせず、快く一緒に過ごすことを選んでくれた。

 

たった数時間でも構わない、1時間でも、数分でも。

"一緒に居たかった"

 

 

 

 

 

 

 

 

「無事渡すことが出来て良かったよ。…ちょっと早いけど、今日はもう…」

 

"もう帰ろう"と言おうとしたその時。

宜野座は高級感のあるショッピングバッグを舞白に差し出す。

 

 

「――何…これ?」

 

恐る恐るそれに手を伸ばす舞白。しかし未だに一体これが何なのか理解できず首を傾げる。

 

 

「――ッ……」

 

宜野座は恥ずかしいのか顔を逸らしたまま口を開く。

 

 

「ほら、アレだ。――小宮なんとかとかいうアイドル。お前好きだったろ。」

「え?」

「さっき街頭の広告で見つけた。お前と同年代の女性に人気なネックレスだとか…いいから受け取れ。700ポイント越えの祝いだ。」

 

そっと舞白は袋の中身を確認する。

 

中には白い包みに赤いリボンが巻かれている小さな箱が入っていた。ショッピングバッグに印字されたブランドの名前を見て、先程自分が目を惹かれたアクセサリーショップのものだと気づく。

 

 

「これ…私がさっき見てたやつ。」

「そ…、そうか。」

「すごい!エスパーだ!ノブ兄!」

「………」

 

 

ギュッと袋を抱き締め笑みを浮かばせる舞白。満面に偽りのない愛嬌のあるその姿は子供らしくも愛おしい。

 

 

そんな舞白に目をやれば宜野座は思わず相手の表情に胸が昂る。

 

幼馴染、妹――そして微細に感じる"女性"としての魅力。

 

 

 

「((…相手は舞白だぞ。…俺は何を――))」

 

 

 

2人が様々な感情を思い浮かべていたその時――

 

 

 

 

 

 

「…わっ!すごい!」

 

 

中央の大きなクリスマスツリーが突如点灯したのだ。まだ昼間と言えどツリーの光はキラキラと美しく輝きを放つ。ホログラム特有の煌びやかさもハッキリと見て取れる。

 

 

「………」

「ねえねえ!凄いね!」

「――ああ。」

 

 

幼子のように飛び跳ねる彼女の姿は昔から変わらない、彼女の天真爛漫さがハッキリと伺えた。

 

 

 

 

 

┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈

┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈

 

 

 

 

 

┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈

 

 

 

 

 

 

人々で賑わうツリーの周り。

舞白は帰る気満々だったのだが突然の宜野座の言葉に目を見開く。

 

 

「…え!?皆が…」

「俺が休みを返上してまで出る幕は無さそうだ。」

「ということは――」

 

 

チラッと斜め上を見上げる舞白。なにかに期待するようなその瞳はしっかりと宜野座を捉える。

 

 

 

「……俺が事件現場に行けばドミネーターで執行されかねん。」

「………」

「だ…だからだな……休みは継続だ。」

 

まだ一緒に過ごせるという事実に舞白は心の中で思いっきりガッツポーズを見せる。

 

 

「((皆さん…本当にありがとうございます!))」

 

 

 

隠しきれない嬉しさがじわじわと表情に滲み出る。思わず顔を両手で覆い、興奮を隠す舞白。その様子に宜野座も微かに笑みを零す。

 

 

 

 

「ただし。お前の兄に門限を突きつけられたからな。」

「うわー…お兄ちゃん本当に抜かりない、そういう所。別に私たちに門限なんて関係ないのに?」

「…お前な。"もう子供じゃない"んだろう?例え相手が俺だからって自由奔放に行動するなって事だ。」

「むー…」

 

どこか納得いかないような顔。

せっかくなら2人で夜な夜な好きなだけ喋って、夜はダイムと一緒に眠りたい…だなんて思っていたがそうはいかないらしい。

一昔前までは泊まりに行ったり泊まりに来たりが当たり前だったのに。それが簡単に出来なくなって正直寂しさを感じていた。

 

 

「何だ。もしかしてまだ1人で眠れないのか?」

「はっ、はぁ!?違います!別にノブ兄が居なくたって別に…」

「"大人になったら"、俺との添い寝は出来ないぞ。」

「ちがっ、そういう意味じゃないから!」

 

 

まるで舞白を茶化すように言葉を放つ宜野座。垣間見える舞白の本音が面白くてたまらない。

またまだ"お子様"だと、改めて実感した。

 

 

 

「ほら、時間が無くなるぞ?――残り数時間だが…せっかくのクリスマスイブだ。お互い1人で過ごすくらいなら、一緒にいた方が良いだろう」

「…うん、そうだね!」

 

"ほら、行くぞ"と踵を返す宜野座。

そんな背中を舞白は見つめると、勇気を振り絞ってある行動に走る。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「!?」

「"コレ"はこの前の空手の試合で優勝したご褒美ね?」

「………」

「腕くらいいいでしょ!ノブ兄歩くの早いし、ついていけないんだもん。」

 

ぎゅっと腕を抱きしめるように掴む。

それは舞白の精一杯の勇気だった。

 

 

「…………」

「あ!私、クレープ食べたい!」

「………」

「え……なんで固まるの…」

 

思わず足を止めて体を硬直させる宜野座。理由は全く分からない。だが宜野座は固まっていた。

 

 

 

「さ……さっさと行くぞ…」

「ちょ!だから歩くの早いから――」

 

 

ぎこちない歩き方をする宜野座の腕をしっかりと掴み、必死に足を動かす。

 

胸に密かな恋心を秘めている少女の柔い表情。

宜野座はそれに気づかないまま、ひたすらに歩き続ける。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そして不意に、舞白の目に飛び込んできたあの広告。人気アイドル、小宮カリナが身につけているあのネックレス。

 

 

――"大切な人に"

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ノブ兄。」

「……な、…なんだ?」

 

 

腕を掴んだまま離さない舞白。

そんな彼女が宜野座を呼び止める。

 

 

 

 

 

 

 

「ありがとう。」

 

 

 

舞白は嬉しそうに笑みを浮かべるのだった――

 

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

 

 

 

 

 

 

――後日

公安局ビル 刑事課一係オフィス――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あーーあ。マジでギノさん羨ましー」

 

 

気だるそうに椅子から手足を投げ出し、クルクルと椅子を回転させる縢。クリスマスに舞白と――女の子と過ごせるなんて狡いなんて永遠にボヤいているとその張本人が現れる。

 

 

 

「縢。仕事。」

「ねーねー、くにっちもそう思うっしょ?あの舞白ちゃんとデートなんてマジでどんだけ徳積んだら叶うワケ?」

 

 

真面目に仕事に取り組む六合塚の腕を引っ張り嘆き続ける縢。本気で羨ましがる彼の絡みに一係の執行官たちは振り回され続けていた。

 

 

 

 

するとその時、オフィスの扉が開くと出勤する宜野座が現れる。外はかなり冷えているのか厚手のコートに赤いマフラー――

 

 

 

 

 

「お、噂のギノさんご出勤――」

 

刹那、縢は宜野座の姿を見た瞬間言葉を失う。そしてその空気感に気づいた六合塚、征陸も同じく宜野座へと視線を向けた。

 

 

 

 

「朝っぱらから何だ?…そういえば狡噛、この前の報告――」

 

同じく宜野座もその場で言葉を失い、体を固まらせる。

 

タバコを片手にモニターを見据えていた狡噛もようやく視線を宜野座へと移すと、なにかに気づいた様子で手にしていた煙草がデスクへと落下した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ぶっっはははははははははっ!!!最高!」

笑いを堪えきれない縢は仰け反るほど大笑いし、2人を交互に指さす。

 

 

「仲が良くて何よりです。」

キョトンとした表情で宜野座を見据える六合塚、

 

「いいな〜ペアルックか?なかなかの趣味してるぜ?」

嬉しそうに呑気に笑みを浮かべる征陸。

 

 

 

そんな3人を目の前にして硬直する2人。

 

 

 

そう、2人の首に巻かれていたもの――

お揃いの赤いマフラーだったのだ。

 

舞白は意図的に、あえてお揃いのマフラーを選んでいたのだった。

 

 

「ちょっと待て…そもそも何故狡噛は今マフラーを巻いてるんだ?屋内だぞ?」

「別に構わんだろ?執行官が外に出るのは事件現場に行く時だけだ。舞白から貰ったマフラーを汚す訳にはいかないだろ。」

 

くだらない論争。

それもまた執行官3人に笑いを生み出した。

 

 

「いやいや…っ…ククッ……論点そこじゃないっての!」

「舞白ちゃん。やっぱり分かってますね。」

「最高の妹だな、コウ?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「「(…舞白――)」」

 

 

2人は心の中で1人の少女の名前を呟いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

┈┈┈┈┈┈

┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「へーーっくしゅん!!」

 

ズズズズっと鼻水を啜る舞白。

風邪をひいている訳でもないのに何故か嫌な寒気も感じる。

 

 

 

 

「大丈夫?風邪?」

「…いや…なんか変な寒気が…」

「何言ってんのよ?――ほらティッシュ」

「ありがと。咲良…」

 

 

 

教室で謎の寒気に襲われる舞白。

 

 

そしてふと手元のデバイスに視線を向ける。

 

 

 

 

 

 

 

「…ふふっ…作戦成功――」

 

 

縢から送られてきた画像。そして彼らしいメッセージ。

 

"最高なホワイトクリスマスになりました〜☆"

 

そこにはお揃いのマフラーを身につけ、啀み合う2人の姿が映し出されていた。

 

 

 

 

 

舞白はそっと外を見つめる。

明るく照り輝く雪が静かに舞っていた。

 

 

 

 

 

 

 White Xmas ――

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

 

 

 

 

 

あとがき▷▶︎▷

 

 

書いてみたかったギノさんと舞白ちゃんの

ちょっとしたデート物語!

 

みんなに愛される舞白ちゃん、羨ましい…

 

2023.5.31

内容を1部変更――

 

 

 

 

 

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