チート転生者かと思ったが特にそんなことは無く、森に引き籠もってたら王様にスカウトされた 作:榊 樹
そんな訳でグロ注意です。
みんなが寝静まった夜の村。
焚き火が燃える広場で一人、佇む少女。
何をしようとしたのか、何をすべきだったのか。
頼まれたのはついさっきの事だったのにそれすら思い出せず、ただ立ってることしか出来ない、ボロボロな翅の少女。
そんな少女が居る広場の陰で、コソコソと動く影が一つ。
少女にバレないように、ひっそりと。
布団を被ったそのシルエットが物陰に隠れては隙を見て、宴会で散らばった広場を片付けて行く。
そうして粗方片付くと、影は少し離れた所で再び隠れ潜み、広場で未だにオロオロと戸惑う少女をジッと見守っていた。
もう片付け終わったと言うのに、少女が回りの状況を見てもそれに気付かないのは、そもそもなんの為に広場に留まっていたかを思い出せないから。
結局、少女は朝日が昇り、みんなが起きて来るまでずっとその場に居て、それを見届けた影はそそくさと家の方へと帰って行った。
その後を追えば、影が向かったのは私達がいつも使ってる家の方向。当たり前のように中へと入り、それから暫くして・・・。
先の広場の少女が戻って来ると、再び出て来ていつものように笑顔で出迎えた。
「おかえり! ホーちゃん、怪我は無い・・・?」
「う、うん、大丈夫だよ、エーちゃん・・・心配してくれて、ありがとね・・・」
それは、見慣れた光景だった。
毎日のように見ていた、朝の景色だった。
違うのは、私がその景色の裏側を知ってしまったことだけ。
(・・・凄いなぁ)
どうしてそこまで出来るのかと、私には理解出来なかった。
いや、友達を助けたい、という感情ならそれなりに分かってるつもりだった。
けれど、なんの対価も必要とせず、自分が頑張っていたことすら気付いてもらえず、ただずっと陰ながらに支え続けるその気持ちだけは・・・どうしても、理解出来なかった。
(私には、無理だなぁ・・・)
心の声が見えるから、尚更そう思う。
なんの思惑も、なんの下心もない。
何処までも純粋な、役に立てたという無邪気な喜び。
ホーちゃんが無事だった、ホーちゃんが元気だった、ホーちゃんが喜んでくれた。
心の奥底からそう信じてやまないエールちゃんと、それとは真逆の―――。
(・・・・・・あー・・・キッツ・・・)
見え過ぎる目があったって、何も嬉しくない。
見たくないものまで、見えてしまうから。
見えた所で、どうにも出来ないから。
だから私は・・・ただ、目を逸らすことしか、出来なかった。
◇◇◇
ハーミア達がエール達の家へ来てからは、頻繁にそちら側で遊ぶようになった。
ハーミアはチビッ子組をエラく気に入ったのか、その抜群のコミュ力を活かしてグングンと距離を縮め、今では猫吸いならぬ妖精吸いを許してもらえるほどにまで仲良くなった。
トリストラムは波長でも合ったのか、エールと一緒にいる時間が増え、作成した枕の意見を聞いたり、自身の持つハープの弾き方を教えたりと、最初の険悪な雰囲気からは考えられない程に打ち解けていた。
それと言うのも、未だにエールから感じる気配は強大なままだが、当のエールが力を無闇に振るうような性格ではないと分かったため、別に怯える必要は無いと知ったからだ。
・・・まぁ、それでも最初はどうしても警戒を無くしきることは出来なかったが、同じ時間を過ごす内に自然と前のような気さくな感じに戻っていた。
(・・・・・・あれ? 私、また蚊帳の外?)
そして、いつの間にか仲間外れにされていたことに焦るナナシ。
いや別に、そこまで露骨な感じでもなければ、実際の所、仲間外れにされてる訳でも無いのだが・・・。
下手に記憶喪失を装っている分、どうにも踏み込んだ話が難しいと言うか。仮に踏み込めてもそこまで盛り上がるような話題なんて持っていないと言うか・・・。
それなりに親しくはなれているものの、どうしても疎外感を感じずにはいられなかった。
(私、やっぱりそういうの・・・向いてないのかな・・・)
なんて、いつものようにボッチを拗らせたナナシが気落ちしたりしつつも、誰もが思い思いの日々を過ごしていた。
だが、そんな楽しい時間もいつかは終わりがやって来る。
それはいつものようにハーミア達がエール達の家に行っていた時のことだ。
いつもは呑気に歌いながら、好きなように遊んでいる村の妖精が、一人広場へ来ていたホーちゃんを囲むように集まっていた。
切っ掛けは、人気者を独占していた村の嫌われ者への鬱憤だった。
いつもいつもエール達の家の方へ行くから、全く遊べない妖精達が不満を持ち、その矛先がホーちゃんへと向いてしまったのだ。
「おい、なんとか言えよ! "名なし" の癖によ!」
「ご、ごめんな、さい・・・ごめん、なさい・・・!」
「いつもそればっかじゃねぇか、他に喋れねぇのかよ!」
「ご、ごめんなさい・・・ごめんなさい・・・・・・!」
「・・・はぁ、もういいや。お前がいてもウザイだけだし、楽しくもねぇし・・・さっさと殺そうぜ」
「そーだ、そーだ! 殺せ殺せ!」
「こーろーせ!」
「こーろーせ!」
「ひぅ・・・うぅ・・・うぅぅ゛・・・ご、ごめ゛ん、なざぃ゛・・・」
みんなで囲んで一斉合唱。
頭を抱え、泣きながら懇願しようともその声は、みんなの声に掻き消される。
蹲るホーちゃんへと、ジワジワと寄ってくる村のみんなに、ただ泣きながら謝ることしか出来なくて・・・。
そんな時、声がした。よく知る妖精の、聞いたことも無い怒りに満ちた声だった。
「ホーちゃんを虐めるなぁーー!!」
妖精の間を掻き分け、布団を広げてホーちゃんの前に立つ。怒りに顔を染め、泣きそうになるのを必死に我慢して、怖いだろうに一歩も引くことなく、彼らの前に立ちはだかった。
「・・・誰コイツ?」
「さぁ・・・?」
「見た事ない妖精」
「風の氏族?」
「でも翅無いよ」
「落ちこぼれですよ。偶に、翅無しの妖精が生まれると聞いた事があります。私も見るのは初めてですけどね、こんなに醜いとは」
「そっか、役立たずか。なら居ても意味無いし、ついでに殺そっか」
「うん、そうしようそうしよう」
「ひっ・・・!」
けれど、その無邪気な殺意には流石に耐え切れなかったのか、或いは小物の如き闘争本能がこのままではマズいと察したのか、それとも・・・後ろのホーちゃんを守るためか。
布団を広げたままホーちゃんへと覆い被さり、それと同時に石や木、食器など、そこら辺にあったものが次々と投げ付けられた。
「いっ゛・・・! ぐぅ・・・!」
「え、エーちゃん・・・何してるの? ね、ねぇ、エーちゃんってば!」
布団に覆われて真っ暗な中に居るホーちゃんは状況を上手く認識出来ない。
ただ聞こえるのは、痛みに悶えるエールと鈍い打撃音、そして外からの罵倒の嵐。
良くないことが起こっていることは、なんとなく理解出来た。友達が、自分を守るために傷付いていることはハッキリと理解出来た。
だから、やめさせようとした。
私なんか守らず、早く逃げて、と。
だがそう言っても、エールは決して逃げようとはしなかった。
「うぐっ・・・、あがっ・・・! ぃぎッ・・・!」
「や、やめて・・・ねぇ、やめて、やめてよ・・・!」
「ぐぅ・・・! う゛っ・・・ぅぅ!」
結局、エールは投げる物が無くなるまで離れることはなく、布団もボロボロになって、それでも生きていたエール達に妖精が歩み寄る。
しつこい邪魔者を殺すために、確実に仕留めるために。
各々が武器を手に近付いて来て、一歩、また一歩と踏み出して・・・・・・彼らの体から無数の槍が飛び出した。
「がふっ・・・!?」
「あ゛っ・・・ギャッ・・・!」
槍は、その場に居たエール達を除く全ての妖精から生えて来て、内側から身体をぶち破り、赤黒い大輪の華を咲かせた。
「ひっ!? な、なにが・・・ひぎゃぁ!!?」
「や、やめ・・・ぷげぇらっ!!」
逃げようとしたものまで一人残らず、徹底的に。
既に絶命した者だろうと、貫かれずに無事な肉片から更に槍が飛び出してきてミンチに変えていく。
「・・・、・・・・・・?」
そうして静かになって、エール達は漸く外が静かになっていることに気が付いた。
一面見渡す限りの血と肉片の海。自分達の周りだけ、何故か異様に綺麗なその状況は、まるで血の海に浮かぶ孤島のようだった。
「う、うっぷ・・・!」
「え、エーちゃん・・・?」
「だ、駄目・・・! 見ちゃ駄目!」
自分が気持ち悪くなるのを必死に我慢して、もう一度ホーちゃんへと覆い被さる。
けれど、それで外の惨劇が何か変わることはなく、どうしたものかと悩んでいた所へ、ハーミア達の声がした。
「エールちゃん、どうしたの! 急に走り出して・・・って、これは!?」
「凄まじいまでの血の匂い・・・ここで、一体何が・・・」
「あ、あれってエールちゃんの布団では・・・? と、取り敢えず回収しましょう!」
そうして、目をバッチリ閉じたエールと、エールに目を塞がれたホーちゃんは、ハーミア達に運ばれたまま、元の住処に戻るのだった。
激おこプンプン丸。