チート転生者かと思ったが特にそんなことは無く、森に引き籠もってたら王様にスカウトされた   作:榊 樹

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ちょっとした答え合わせ。


俺の名は。

家に戻り、ボロボロになった布団を纏ったままのエールを手当てしながら、何があったかを聞き、大方の事情を把握したハーミア達。

だが、事情は分かっても何故、あのような惨劇になったのかまではエール自身すらも分からなかった。

 

そこでハーミア達の脳裏に過ったのは、当初トリストラムが警戒していた強大な気配を漂わせるエールの力。

だがそのエールがこの有り様では、どうにもあの惨劇と結び付けることが出来なかった。

 

原因を探るべきか、探るにしても何処から手を付けるべきか。八方塞がりになり掛けた所で、トリストラムが森の外へ行かないかと提案した。

 

 

「あの惨劇を作り出したのが誰であれ、ここが危険な場所であることに変わりはありません。それに、私とハーミアにはなんらかの使命があった筈。もしかすれば、その使命こそが、この惨劇に繋がるヒントになるかもしれません」

 

 

そうして、外へ出ることを決意した一行は、エールとホーちゃんを先頭に、偶に道に迷いかけながらもナナシが補助をしつつ、遂に森を抜け出したのだった。

 

 

「ほわぁぁ・・・!!」

「凄い綺麗・・・!」

「本当だねー」

 

 

抜け出した先の丘、そこから見える夕暮れに染まる空と大地の景色。

その光景に一同が目を奪われていると、何やら聞き慣れない声に違和感を覚えた。

 

全員の視線がそちらへ向けば、そこに笑顔で手を振っている王様の姿があった。

 

 

「やぁ、出迎えが遅れてごめんね。王として従者が居ないのは自分でもどうかと思うけど、居ない者は仕方ないから自分で名乗ろう。・・・僕はオベロン、人呼んで妖精王オベロン。人理に呼び出され、この異聞帯で君達を助ける任を担った、ただひとりのサーヴァントだ」

 

 

マントに王冠を被り、背中からアゲハ蝶のような大きな翅を生やした妖精王オベロン。その名乗りに、ハーミアとトリストラムは眠っていた記憶が蘇った。

 

 

「そうだ・・・私は、藤丸立香」

「はい、その通りと申しましょう。貴女はカルデアのマスターで、そして私は円卓の騎士トリスタン。嘆きのトリスタン」

 

「オベロン・・・マーリンではなく?」

 

 

ナナシの呟きに首を傾げるオベロンに、人違いだと気付いたナナシは照れ隠しのように咳払いをする。

 

 

「すみません、あまりにもイメージ通りというか・・・こほん、いえなんでもありません。それより、私も思い出しました。私はアルトリア、アルトリア・キャスターです。キャスターは故郷の村で呼ばれていた名で・・・少し長いですがアルトリアと呼んで下さい」

 

 

ナナシ改めアルトリアの言葉の後、視線が残りの二人へと集まる。

別に何か確証がある訳でもなく、単に流れと言うか・・・。

 

しかし、そう上手くいかないのが現実な訳で。

"名なしの森" に入る前から名を失っていたホーちゃんと、立香達よりも長い間、森の中に居たエールは元の名も役割も思い出すことが出来なかった。

 

 

「大丈夫、落ち着いて。君は名を捨ててはいない。まだ間に合う。ゆっくりと思い出すんだ」

 

 

俯く二人、その内のエールの方へとオベロンが声を掛けた。

 

自ら名を失うことを選んだホーちゃんはともかく、"名なしの森" に入ってから名を忘れたエールであれば、まだ思い出すことができるだろうから。

 

思い出してもらわねば、困るから。

 

 

「君がそのままでは、多くの者が悲しむ。君には、果たさねばならない使命があった筈だ」

「俺の・・・使命・・・」

 

 

肩を掴み、目を合わせ、必死にそう問い掛けるオベロンの言葉に、エールは呆然と答える。

みんなが心配そうに見守る中、俯いたエールはゆっくりと顔を上げた。

 

 

「そうだ・・・俺には、使命があった・・・」

 

 

その様子にもう大丈夫だと、オベロンが距離を取る。

 

 

「あぁ、そうだ・・・思い出した」

 

 

今まで着ていた村娘のような質素な服とボロボロな布団が光となり、ほぼ全裸となったエールを包み込む。

その光が、消えた服の代わりに各部位へと収束していく。それは帽子となり、マントとなり、服となり、杖となり・・・。

 

そうして、光が消えると同時に新しい衣装となったエールは声高らかに宣言する。

自身の名を。そして、その身に課せられた宿命を。

 

 

「我が名はトネリコ! このブリテンを守る、救世主なり!」

 

 

オベロンが、ズッコケた。

 

 

 

 

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

ソールズベリーへとやって来た立香達一行は、酒場で働いていたレオナルド・ダ・ヴィンチ(幼女) との合流を果たした。

 

そして、酒場に併設された宿屋に集まったカルデア組はそのまま近況報告や情報の交換などをして、他のチビッ子組(+アルトリア)は初めての宿泊施設に大興奮。

 

そんな彼女達とは別に、情報収集へと旅立ったオベロンは、夜風に吹かれながら思考する。

 

あのアンポンタンのことを。

勝手に居なくなって、のほほんと戻って来たかと思えば、頓珍漢なことを言い出したアホのことを。

 

 

(想定外・・・いや、何年も森に居たのなら、それも当然か。寧ろ、あの程度でよく済んだって話だ)

 

 

急に"秋の森" に来なくなり、虫達が寂しがってオベロンが彼女を探す羽目になったのが、今から数年前の話。

ブリテン中を飛び回り、丸一年かけて漸く"名なしの森" で見付けたかと思えば、当の本人はバッチリ記憶を無くしており、なぜ森に入ったのかすら覚えていない始末。それを知った時は、本気でキレそうになった。

 

最初は、引き摺ってでも連れ出そうと考えた。

なんせ、彼女は己の目的を確実に達成させるための大事な大事な駒だったから。

 

過去に起こした厄災で、これでもかと煮え湯を飲まされた妖精騎士ベディヴィエールの十八番である超長距離狙撃。

射程距離がブリテン島全土とかいう理不尽で厄介極まりない攻撃に、このクソチートが、と何度吠えそうになったことか。

 

しかし、反撃不可能、百発百中、当たればほぼ即死な、女王が最も信頼する妖精騎士の攻撃も、その特性を知ってしまえば恐れることは何もない。

 

今まで散々好き放題してくれやがった代わりに、今度はこっちが使い潰してやろうと考えていたのだが・・・まぁ、それがご覧の有り様である。

人が折角、暗躍する時間を削ってまで探してやったというのに、本人は呑気にお友達ごっこ。おまけに力も失ってはいないが、扱い方を忘れていると来た。

 

お前マジで巫山戯んなよ、と。

オベロンは、彼女を見付けた時にそう叫ばなかった自分を褒めてやりたかった。

 

しかも、カルデアというオベロンにとって、とても心強い味方を引き連れて自ら森を出て来たかと思えば、力の源とも言える与えられた名を中々思い出せず、こっちが慣れないことをして必死に思い出させようとすれば、まさかの思い出した名前はトネリコ。

 

オベロンはマジで挫けそうになった。

 

 

(でもまぁ、これはこれで良しとしよう。ベディヴィエールの名を言って無理矢理思い出させるってのも考えたけど・・・それはそれで納得がいかない)

 

 

アホをさっさと回収させようと、危険を犯してまで衛兵に証言したというのに、モルガンは一向に助けに来る気配を見せない。

 

着名(ギフト)があるから安心とでも思っているのか、それとも生きていようが死んでいようがどっちでもいいのか。

いや、後者の可能性は限りなく低いとしても、ソールズベリーにすら一人も寄越さないというのはまるで意図が読めなかった。

 

本当に妖精騎士ベディヴィエールを見限ったのか。

あれだけ大切にしていた癖に、そんなアッサリ捨てるのか。

 

そう思っていながらも、何か別の思惑があるのではと探りを入れ続け、遂に今日、"名なしの森" の広場での惨劇を目にして、その真意を理解した。

 

 

(ずっと監視していた。恐らく、あのアホが眠ってる間も、起きてる間も、ずっと・・・)

 

 

モルガンも、アホが何故あの森に入ったのかは分からないのだろう。その理由を探る意味も含め、ずっと監視していたのだ。

 

もしかしたら、自分の存在が危うくなってまで忘れたい何かがあったのではないか。

もしかしたら、私には言えない悩みを抱えているのではないか。

そ、それとも・・・単に、私のことが嫌いに・・・?

 

そんな感じで、クソ忙しいだろうに常に分身ではなく本体直々に脳のリソースの半分を割いて日々の仕事をこなしつつ、一日たりとも休むことなく、大切な騎士のことを何年も見守り続けていた。

 

オベロンは思った。拗らせ過ぎだろ、と。

 

無論、これはオベロンの妄想の域を出ないが、あながち間違っていないのが悲しい現実であった。

そして、友達を守るために木っ端な妖精共に襲われた時も、本当は手を出す気など無かった。

 

いや勿論、彼女が見てない所でモルガンは徹底的に始末するつもりではあったが、それはそれとして記憶を失っているとは言え、誰かに監視されていると分かれば心が休まらないだろうと考え、自身の存在を察知されるのは極力避けたかった。

まぁ、結果はご存知の通り、我慢出来ずに皆殺しにした訳だが。

 

しかし、今問題なのはそこではない。

森から抜け出た後、記憶が戻ると思っていたモルガンは期待と不安でハラハラドキドキであったことだろう。

 

だが、実際はモルガンの予想とは無関係の、明後日の方向へと突っ走るかのような展開となってしまった。

 

まさかの最愛の騎士が、自分の真似事を始めたのである。

 

これには流石のモルガンも、ベディヴィエールのベッドの上でゴロゴロと悶絶してしまった。

早く止めやがれクソ虫! と色々と察しているであろうオベロンに殺気を送ろうとも、彼は何処吹く風。

 

少しは痛い目見て反省しやがれこの魔女が、と。

それはそれはとても良い笑顔をしていたのだとか。

 




この作品での妖精騎士制度は"実際に力を与える着名" と"民に周知するための任命" とで分けています。
つまり、自分が妖精騎士だと周りに知られる前から、既にその力を与えられ、扱うことができるという訳です。

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