チート転生者かと思ったが特にそんなことは無く、森に引き籠もってたら王様にスカウトされた   作:榊 樹

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アホの子、終了のお時間です。


すぱい

ホーちゃんが消えてから数時間後。

彼らが心に負った傷は大きかったものの、今生きている大切な仲間のために、いつまでも消えた仲間のことを心配してもいられない。

 

マシュ救出のために宿を出発するのは同日の夜。

準備を済ませ、宿の前に集まった彼らの中に・・・トネリコの姿は無かった。

 

 

「立香ちゃん、彼女は・・・」

「部屋に篭ってる。一人にして欲しいって言って、それっきり・・・」

「そっか。・・・まぁ、元よりこれは私達の問題だ。無理に連れ出す理由は無い」

 

 

大切な友達が居なくなって、最後のお別れもアレでは・・・当分、立ち直ることは難しいだろう。

一人にさせるのは心苦しいが、こちらもこちらで付き添いのために誰かを留守番させておく余裕は無い。

 

最終確認を済ませ、静かに宿を発とうとして・・・宿屋の玄関が勢いよく開いた。

 

 

「おー待たせしました! 救世主トネリコ、復活!」

「―――。」

「―――。」

 

 

一同、唖然。

 

無風状態にも関わらず何故か靡くマントに、片手を帽子に添え、もう片手に杖を持ったまま、バーンッ!という風に出てきたアホに、少しだけ理解が遅れた。

 

しかし、それがさっきまで部屋に篭り、友達を失った悲しみで今も目を腫らしているトネリコであると気付くと、立香が慌てて近付いた。

 

 

「え、と、トネリコちゃん? え、ぁ・・・だ、大丈夫、なの・・・? 」

「いえ、全く! 今でも凄く悲しいですし、まだまだ泣き足りません! ですが、俺はトネリコ! 救世主トネリコなんです! 困ってる人が居るのに、見逃すことは出来ません! ですので泣くのは後から思う存分に、今はトネリコとしての使命を果たさねば!」

 

 

フンスッ! と息巻くトネリコの強さに言葉を失うが、けれどもその気持ちを立香は少しだけ理解出来た。

 

 

「うん・・・うん、後で、たくさん・・・泣こうね・・・」

「っ!? え、あ・・・は、はい! ・・・い、いえ、それは・・・そうなのですが・・・何故、立香さんが泣かれるので? な、何か、やってしまいましたか?」

「ううん、大丈夫・・・大丈夫だから」

 

 

自分の事だったらいつも通り我慢出来たのに・・・。

どうしてか、立香は胸の内から溢れるモノが止められず・・・。

 

結局、トネリコが立香を慰めるのに数分を要して、それから予言の子一行はコーラルから教えてもらった場所へと出発したのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

オーロラに仕える兵士に案内されて辿り着いた"西の人間牧場"。

アルトリアの解析によって中の構造を把握し、目の前に聳える城壁を立香とアルトリア、そしてトネリコの三人はトリスタンに抱えられて、ダ・ヴィンチちゃんはローラーでそれぞれ乗り越え、牧場の中へと侵入した。

 

中は牧場と言うにはあまりにも人間の街そのものであり、そうした理由は全て妖精が人間に求めているものが"創造性"だからだ。だがここはあくまでも牧場、生産工場であり、人間たちはここで暮らす自由が一定期間約束されているだけで、時期が来れば出荷される。

 

そんなアルトリアの説明を聞いていた予言の子一行に、襲いかかる複数の不気味な影。

 

それは監視用の使い魔。灯りの火に擬態して、アルトリア達を排除しようと起動した牧場の防御システム。

 

次から次へと増えていく使い魔たちに応戦するも、全く減らないことに痺れを切らしたダ・ヴィンチちゃんと立香により、使い魔を生成している本体の騎士を見つけ出し、これに苦戦しながらもなんとか勝利。

 

しかし、喜ぶのも束の間。似たような格好の騎士が数体現れ、流石に不利だと撤退しようとした所で、城門の方から大きな歓声が聞こえてきた。

それは円卓軍が城門を抜いた喜びの声であり、そして牧場へ囚われている同志を助けんとする者達の雄叫びであった。

 

一人ひとりの実力は、立香たちと対峙していた騎士の足元にも及ばないが、驚くべきはその数と統率の取れた連携力。瞬く間に応戦していた騎士たちを撃破し、そうして障害の無くなった牧場を次々と開放していった。

 

 

「・・・いやぁ、さっすが女王直下の施設と言いますか・・・魔力錠も超一流で・・・ちっくしょう・・・」

「そう落ち込まなくていいよアルトリア。いや、技術者としては気持ちは分かるけどね?」

「いえ、それもそうなんですが・・・」

 

 

ダ・ヴィンチちゃんに慰められていたアルトリアだが、なんだか凄く言いにくそうな、納得のいかないような表情でボーッとしているトネリコへと視線を向けた。

 

 

「な、何か・・・?」

「私としては、兵士さん達のように物理で鍵の周辺を破壊するのではなく、普通に正攻法で開けていた彼女の方が・・・その、なんというか・・・心にグサッと来たというか、私の存在意義ってなんだろーってなったっていうか・・・」

「あー、うん・・・それは私も思ってたんだけど・・・。トネリコちゃん、一応聞くけど、どんな感じで開けた?」

「え、え・・・? えっと・・・開けゴマって、言ったら・・・開きましたけど・・・」

「だよね~・・・聞き間違いでも見間違いでもないよね~、あれだけの魔力錠をね~、一詠唱の言葉だけでね~・・・・・・となると考えられるのは・・・でも、それだと色々と辻褄が合わなく・・・・・・、いや寧ろそっちの方が合うのかぁ・・・? むむむ・・・」

「・・・?」

 

 

眉間にシワを寄せ、全く整合性が無いようでその実ありそうな推理をしては思考がドロ沼にハマって頭を抱えるダ・ヴィンチちゃんに、頭大丈夫かな、と心配するトネリコであったが、そこへ円卓軍の兵士の一人が近寄ってきた。

 

彼は感謝を伝えると同時に立香たちを勧誘しようとしたが、今はそれよりもマシュを探さなければならないので丁重にお断りすることにした。

兵士は残念そうにしていたが、けれども立香の意志を尊重するように別れの挨拶を済まし、足早に作業へ戻っていった。

 

 

「円卓軍に興味がないと言えば嘘になりますが、我々の最優先事項はマシュとの合流です。今はまだ縁がなかった、ということでしょう」

「うん、その通り! さっすがオリジナル円卓、紳士的ー!」

「フッ・・・私は嘆きのトリスタン、大義にのみ生きる騎士ではありませんので・・・・・・とは言え、もしここにベディヴィエール卿がいたのなら、卿の手前、厳粛な選択も―――」

 

 

なんて会話をしつつも、ボーッとしているトネリコをチラチラ見ていた二人だったが、そこへ地獄の如き業火が牧場を焼き尽くすほどの規模で放たれた。

 

 

「警備の隙をついての襲撃とはな。小賢しい知恵だけは回る」

 

 

周囲を覆う炎の壁から悠々と歩いてきたのは、人が四つん這いになったかのような黒い犬を引き連れた一人の女騎士。

 

黒い炎の大剣と白銀の甲冑。

妖精國では知らぬ者はいない妖精食いの黒犬公。

 

妖精騎士ガウェイン。

女王の懐刀が、立香たちの前に立ちはだかった。

 

 

「女王陛下から聞いている。娘、お前が汎人類史のマスターか」

「・・・!?」

「驚くことはない。外の世界・・・汎人類史という異界の情報を、我ら妖精騎士はみな陛下より賜っている。―――機会があれば捕らえよ、とな」

 

 

尤も、ヤツは知らんがな・・・、と何かを吐き捨てるように言うと、鼻を鳴らした。

 

 

「・・・ふん。捕らえよ、とはまこと陛下らしくない」

 

 

そう言うと、妖精騎士ガウェインから魔力が一気に湧き上がり、その顔には憤怒の表情に染まっていた。

 

 

「恥知らずな侵入者共。(まれびと)であれば歓迎するのが、お前たちの世界での礼節なのだろう? 良いだろう、剣を取れ! 望み通り、存分に歓迎してくれる! 私の名はガウェイン! 妖精円卓のひとり、ブリテンを守護するもの! 陛下より与えられたこの名で、貴様らを蹂躙する!」

 

 

そうして始まった妖精騎士ガウェイン戦であったが、その実力差は圧倒的。何より、こちらの切り札とも言える令呪を食べられたことにより、人間である立香がダウン。

 

このままでは全員共倒れだと判断し、素早く決断したトリスタンが殿を務め出て、ダ・ヴィンチちゃんたちは急いでその場から逃げ出した。

 

 

「・・・察するに、貴公は自ら捨て石になったのだな。・・・マスターのために自ら命を捨てる木偶人形。貴様らサーヴァントというのは、みなそういうものなのか?」

「・・・さて、それはどうでしょう。我々は既に"死" の感覚を知っています。一度味わったから耐えられるものでは無いのです。生命にとって、死とは一度しか耐えられないもの。ですので、正直に言うと見逃して欲しい」

「それは貴公の自由だ。私が殺すのはマスターである、あの人間ただ一人。退くのであれば見逃そう。貴公であれば、妖精國でも他に生き方が・・・」

 

「いいえ。その上で私は貴女を止めるのです、妖精騎士ガウェイン。・・・かつて、弱きに走った私と戦っておきながら、なお私を"騎士" として信頼した者のために。私は私が愛する者のために命を使う。このように、誰よりも、冷酷に」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

想像以上に苦戦を強いられた騎士が、黄金の粒子となって目の前から消え去った。

体中に、僅かな痺れが残っているものの、心配してくる部下に逃げた者達の後を追わせ、もう一仕事しようとした所で聞こえてくる、誰かが何かを引いて走り去る音に眉を顰めるが、今考えた所で仕方のないこと。

 

戻ってきた部下によって音の正体が馬車だと分かったものの、それが誰のものかまでは分からなかった。

 

 

「お役に立てず、申し訳ありません」

「よい。兵士を呼び戻せ、キャメロットへ帰還する」

「彼らはよろしいのですか?」

「ブリテンは女王陛下の庭園。虫の一匹や二匹、どこにでも居るものだ。今回は私が短気を起こしただけ。次に相対する時があれば、確実に潰す。・・・まぁ、尤も。私の出番があるかは怪しいがな」

「おお、麗しのランスロットに隻眼のベディヴィエール! ブリテンで最も強き妖精騎士と最も陛下に信頼されている妖精騎士! あの方々であれば、ブリテンの何処に逃げようとも瞬きの間に仕留められますな!」

「お、おいバカ! ガウェイン様の前であのお二方の話をするとか、お前死にたいのか!」

「!? も、申し訳ありませんガウェイン様! どうかお許しを!」

 

 

「構わん、その評価は正しい。だが間違えるな。妖精騎士ランスロット、アレは妖精國で最も強き生き物だ。我々と同じ分類ではない。それを肝に銘じておけ」

「は、はは―!」

「・・・収容していた人間どもを連れてこい。帰還する前に処理する」

 

 

興奮する部下の失言を別の部下が窘め、それを訂正し、続けて何かを言おうとした妖精騎士ガウェインだったが、それをやめ、本来の職務に戻る。

 

部下に連れてこられて命乞いする人間を、再調教のために腕の鎖に繋がれている黒犬と同じ姿に変えていき、妖精騎士ガウェインはキャメロットへ帰還しようとした。

 

しかし、そこでふと気付く。

建物の隅。ちょうど死角になっている場所から感じる魔力の存在に。

 

 

(これは・・・いや、しかし何故このような場所に・・・?)

 

 

その魔力は女王モルガンの魔力。確かに、女王モルガンの魔力であった。

 

しかし、今の今まで一切感じなかった筈の場所から・・・いや、そもそもどうしてそんな魔力がここにあるのか、疑問が尽きることはないが、少なくともまずそこに陛下自らがいることは有り得ない。

 

であれば、残るは女王を騙る不届き者のみ。

一切の躊躇なく、妖精騎士ガウェインは炎を纏った剣で薙ぎ払った。

 

 

「が、ガウェイン様・・・!? い、一体何を!?」

「・・・ふむ、やはり防いだか」

 

 

振るった炎が建物を破壊し、魔力の反応があった場所を通過しかけた所で、業火の炎が青黒い波によって呑み込まれた。

けれども、それを織り込み済みで振るったので、その建物の周囲は既に妖精騎士ガウェインの炎によって囲まれていた。

 

感じるは相変わらず主君と同じ魔力。建物の倒壊により砂煙に紛れ、自身の技をものの見事に相殺してみせたその使い手へと声を荒げる。

 

隠れてないで出て来い、と。

 

侮ること無く、魔力を滾らせ、そうして砂煙が晴れた先には・・・。

 

 

 

 

 

「きゅう・・・」

 

 

 

なんかめっちゃ見覚えのある、行方不明中の同僚が気絶した姿だった。

 

 

 

 

「・・・・・・は?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

 

 

トリスタンの決死の覚悟と救出に来たオベロンが乗る馬車により脱出を成功した予言の子一行は・・・けれども、重苦しい雰囲気に包まれていた。

それはトリスタンとの魔力パスが消えたこともそうだが、それ以上に、立香が途中でトネリコが居ないことに気付いて探しに戻ろうとした時に発したダ・ヴィンチちゃんの言葉。

 

"トネリコちゃんなら大丈夫" 、一見信頼しているように見えて、その実、見捨てたかのようなその発言はずっと立香の胸の中に引っ掛かっていた。

 

 

「・・・ねぇ、ダ・ヴィンチちゃん・・・さっきの言葉って、どういう意味・・・?」

 

 

追手を撒いて、ある程度落ち着いた所で、立香がそう質問する。馬車の中、本当は聞きたくないけど、それでも見て見ぬ振りはできないから。

膝を抱えて唇を噛み締める立香へと、彼女の気持ちを知ってか知らずか、ダ・ヴィンチちゃんの声は軽いものだった。

 

 

「そう心配すること無いよ、立香ちゃん。言ったろ? 彼女なら大丈夫さ。・・・そうだよね、オベロン?」

「・・・え?」

 

 

思わぬ人物に呼び掛けたダ・ヴィンチちゃんへと立香が顔を上げる。

そこには自分達をベストタイミングで助けてくれた白馬の王子様・・・もといオベロンがこちらに背を向け手綱を手にしていた。

 

 

「・・・すまない、騙すつもりはなかった」

「いいよ、そういうのは後だ。それより、君がそう言うってことは・・・やはり、そうなんだね」

「え・・・え?」

 

 

二人の会話に全くついて行けない立香へと、ダ・ヴィンチちゃんが顔を向ける。

そして、真剣な表情で先の言葉の真意を話した。

 

 

「いいかい、よく聞いて。私達が行動を共にしていた彼女、救世主トネリコの正体は・・・女王一の騎士と謳われる、妖精騎士ベディヴィエールだ」

「・・・!?」

 

 

絶句とは、正にこのこと。

思わぬ・・・とも言い切れないが、突拍子もないダ・ヴィンチちゃんの言葉に目を見開く立香だったが・・・次の瞬間には、思わず吹き出してしまった。

 

 

「ぷっ、ふふっ・・・そ、そんな訳無いじゃん・・・! だって、あのトネリコちゃんだよ? それがさっきのガウェインと同じ妖精騎士とか」

「いや・・・うん、その気持ちも分からなくは無いんだけどね? でも、これは別に立香ちゃんを元気付けるためのジョークとか、私が彼女を見捨てた言い訳をしてるとか、そういうのじゃなくて、至って真面目な話なんだ」

 

 

確かにあの時、逃げ遅れた者に構っていられる余裕はなかった。けれども、あそこまでハッキリと割り切れたのは、救世主トネリコが元々あちら側の妖精であり、自分達のスパイをしていた可能性が極めて高かったから。

 

 

「そ、そんな・・・でも証拠なんて・・・」

「妖精騎士ガウェインが言っていただろ、モルガンが私達のことは既に知っていたって。神代の魔術師でもあり、マーリンとも肩を並べた魔女のことだ。こちらに全く悟られずに監視するなんて訳ないだろうが、それでも怪しい者が自分の近くにいれば、疑うには充分じゃないかい?」

 

「え、じゃあ・・・あの森での出来事も、この数日間のことも・・・ホーちゃんのことも、全部・・・嘘ってこと・・・?」

 

 

立香も、本当は察していた。だって普通に怪しいもん。

伊達に世界を一度救い、いくつもの世界を滅ぼしてきた人類最後のマスターではない。

でも、あまりにも無邪気で、友達が大好きで、無害な妖精だったから、そう考えないようにしていた。

 

けれど、現実はいつだって非情で、無慈悲なまでに自分に牙を剥く。

モルガンとは成り行きで敵対してしまっているが、本来カルデア側にモルガンと戦う必要なんて無い。

そう思っていても、万が一そうなった場合を考えると、目を背けたくなる。

 

 

「いえ、それは本当です」

 

 

だが、そこにアルトリアの声が割って入った。

今までに無いくらい、凛とした声で、立香の勘違いを許さないかのように。

 

 

「彼女は結果的に私達を騙していたことになりますが、それでもホーちゃんを、友達を思っていた気持ちだけは紛れもない真実です。それが例え、一方通行の感情だったとしても、独りよがりな思い込みだったとしても・・・どうか、彼女の想いを否定しないであげてください」

 

 

なんせ、日が昇り始めているとは言え、ホーちゃんが居なくなってからまだ一日すら経っていない。

あの時のトネリコ改め、妖精騎士ベディヴィエールの涙が、悲しみが、嘘だったなんて、そんなの信じたくはないのは誰もが同じ。

あんな悲しい声が演技だったなんて、そんなの・・・あまりにも、あんまりだ・・・。

 

 

「でも、そうなると色々と疑問が残るんだよね」

 

 

重くなった空気を払拭するかのように、ダ・ヴィンチちゃんが話を続ける。

 

 

「疑問って・・・?」

「ほら、彼女ってさ。記憶を失う森にいたんだろ?」

「う、うん・・・」

「それって、態々森に入る必要があったのかなって思っちゃってさ」

「どういう・・・?」

 

 

空間転移や極僅かであるが時間跳躍すら可能と言われる神代の魔術師であるモルガンなら、呪い程度の干渉くらい跳ね除けるなんて訳無いことだろう。

仮に記憶を失わせた方がスパイを送り込むのに都合が良いと言うならば、不確定要素が多い呪いに頼らずとも、ちょっとした催眠や暗示とかでもして、ソールズベリーで立香たちと合流するように仕向ければいい。

 

何より、妖精騎士ベディヴィエールはモルガン(いち)の騎士。情報源がアレなので信憑性は薄いが、そうでなくとも妖精騎士という最上位の立場に位置するであろう妖精を、記憶を失ったという無防備な状態でそんな危険な任務に就かせるというのも考えづらい。

 

 

「オベロン、君は何か知らないのかい?」

「・・・すまない。実は僕もそこで行き詰まってるんだ」

「・・・と言うと?」

「ブリテン中を飛び回って結構な情報を集めたんだけどね。彼女が"名なしの森" へ行った理由だけが、どうしても分からないんだ」

 

 

つまり、それはオベロンの情報網を掻い潜り、モルガンの目すらも欺き、妖精騎士ベディヴィエールを"名なしの森" に誘導した謎の第三者が居るかもしれないということ。

 

 

「単にモルガンが妖精騎士ベディヴィエールを切り捨てるつもりだったってなら、それまでの話だけど・・・。でも、そうじゃない場合。記憶を失ったことがモルガンすらも予想外の事態であった場合・・・。どうやら君たちの旅路は、君たちが思ってる以上に今回も一筋縄ではいかないようだね」

 

 

オベロンがそう締め括ると、馬車の中に沈黙が流れる。

 

朝日が昇り始める丘を駆ける中、出番はいつだろうかとソワソワしていた馬妖精の背中が、心なしか少しションボリしていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

 

 

 

一方その頃、正体がバレた妖精騎士ベディヴィエールは・・・。

 

 

「すぴ~・・・」

「全く、どうして私がこんなことを・・・」

 

 

鎧を脱いだ妖精騎士ガウェインに背負われ、キャメロットへと強制帰還していた。

 

 





モル様(あ、焦ったー・・・!)

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