【完結】チート転生者かと思ったが特にそんなことは無く、森に引き籠もってたら王様にスカウトされた 作:榊 樹
後悔、という言葉を生み出した人は偉大だと思う。
だって、そうだろう。この胸を掻きむしりたくなる衝動、あまりの羞恥で死にたくなる葛藤、けれど全ては後の祭りでどうすることも出来ない現実。
そんな複雑な激情を、たったの二文字で表現してしまうのだから、やはり言葉というものは奥が深い。
・・・・・・まぁ、そんな訳で。
ただ今絶賛記憶を取り戻し、自室にて身悶えている救世主トネリコ(笑)でございます。
もうね、思い出すだけで恥ずかしいのなんの。
それをモルガン様にずっと見られてたってのも、もうホント・・・マジで最悪。
なんと言うか・・・隠れて楽しんでたヒーローごっこを母親に見られて、生暖かい視線を向けられた時のあの感情。
もう恥ずかしいとか、そういうのじゃなく・・・こう、とにかく死にたぁい・・・。
「・・・・・・」
いや死ぬ気はありませんけども。冗談に決まっておりますけども。
それはそれとして今気になることと言えば、俺が記憶を失ってる時に出会ったアルトリア・キャスターなる妖精。あまりにも英雄様にくりそつでビックリした。
いや、英雄様と比べたら品格も知性も感じられない部分が多々見受けられるが、それでも外見に関しては脳内で着せ替えさせてみてもマジでそっくりだった。
ご本人様・・・では無いんだろうな。
ただのそっくりさんとかでもなく、恐らく次代の妖精。
俺とは全く無関係の英雄様の子孫だろう。
・・・・・・サイン、貰えたりしないかな。
いやぁ、別人だし、モルガン様の敵であることは分かってるんだけどさぁ・・・。折角だし、やっぱ欲しいじゃん?
十中八九、サインとは無縁な生活をして来ただろうから、大した物はもらえないだろうけどさ。それでも欲しくなっちゃうのがオタクの性と言いますか。
あー・・・でも俺って、一応裏切った立場になるのか。その上でサイン下さいとか、ちょっと無いな・・・。
悪気とか全くなかったし、なんなら何もかも偶然な訳だけど。それでもモルガン様に心配掛けちゃったし、それでずっと見守られてて、結果的に立香さん達の情報は筒抜けで・・・。
いや、でもさ? 仕方なく無いっすかね?
俺はただ、故郷が恋しくなっただけなんすよ。昔描いた丘の景色を頼りに漸くそれっぽい所を見付け出して、かと思ったら霧に覆われてる森があったから何事かと思ってそこに入ったら記憶失うとか・・・初見殺しにも程があるっての。
あんな激ヤバ地域があるとか聞いてないって。なんなら故郷の名前がコーンウォールだったってのもその時に知ったばかりだし。
しかも俺、休日のラフ姿だぞ? 知ってれば、ガチガチのフル装備で行ってたし、そうすればモルガン様の加護が盛り盛りだから多少の呪いは跳ね除けれたっての。
だから俺は悪く・・・いやちょっと待って、コーンウォール?
「・・・・・・・・・あ」
・・・は、ははは。い、いやー、なんと言いますかね。
あー、ははは・・・笑うしかねえっすわ。
いやー、ね。もう、ホントにね。
なんと言ったらいいか、とても言葉につまる訳ですけれども。・・・あー、そのー、なんだ。
コーンウォールの主を殺したの、俺やんけ。
「〜〜〜〜〜っ!!」
あー! もう、ばか! 本当にばか! このあんぽんたん!
そらモルガン様からあんまり忠告されない訳だ!
そらそうだよな! だって俺が殺したんだから!
いや、正確にはバーゲストが殺りに行って、瀕死になったコーンウォールの主が呪いを発動してモース化しちゃったから、俺が呪いの範囲外から狙撃でトドメを刺した形になる訳だけど・・・。
あー、そう言えば言ってたなー、モルガン様。
記憶が無くなって、最悪、存在まで消えるから絶対に近付くなって。
当時は、あんな危険な場所に誰が近付くかって思って、割と聞き流しちゃってたけど・・・バリバリやらかしてるやんけ。
「・・・・・・あー・・・マジかー・・・やべーなー・・・」
女王一の騎士が聞いて呆れる。
モルガン様の信頼を地に落として、これでは忠義の騎士と謳われたベディヴィエールにも、その名を与えて下さったモルガン様にも顔向けできない。
謝った所で許されるとは到底思えんが、悪いことをすれば謝るのは当たり前。最低限の筋を通さねば、妖精騎士どころか人として終わりだ。
・・・とは言え、俺って謹慎言い渡されてんだよな。反省しろって意味なんだけど、謝るために言い付け破って部屋から出ました、では本末転倒である。
そもそも入り口には視覚化出来るレベルで何重にも、部屋には赤外線の如く張り巡らされた結界があって、部屋を出ようにもベッドから動いた瞬間、速攻でこちらの動向がバレてジ・エンドである。
モルガン様の俺への怒りと信用の低さが如実に現れてて、ちょっと泣きたくなってきた。
それに謝るにしても、なんと謝るべきか。そこが重要である。いくら反省してても、それが伝わらなければ意味が無いし、自己満足の謝罪など論外である。
ただごめんなさい、と言うだけでは何に対して謝ってるのか分からず、馬鹿正直に"自分が殺した奴の所為で記憶無くなるの忘れて故郷へ帰ったら、まんまと記憶を無くして放浪してました" とか言って謝れば、舐めてんのかテメェと思われる。
こ、これはマジで考えないと本格的に怒らせてしまう奴では・・・?
◇
そうしてウダウダ考えてから・・・結構な時間が過ぎた。
マジでかなりの時間が過ぎた。
いや、確かに十割俺が悪かったけどさ、何十日も閉じ込められるとは思わないじゃん。
ここまで一切の音沙汰が無いとか、予想外にも程があるって。
最初の二、三日は考える時間がもらえるのが有難かったけど、それから数日はいつモルガン様が来るのかビクビク怯えて、十日が過ぎた辺りからなんかちょっと変だなって思い始めて、そこから更に数日が経過した辺りから、あっこれマジでヤバい奴だわと察して、そんで今に至る。
・・・も、もしかしなくてもさ、俺が思ってる以上にモルガン様ってばブチ切れてたりします?
そ、それとも既に俺の事なんか忘れてたり・・・あ、やば。想像してたら涙が出て来た。
「ぅぁ゛・・・・・・ぁぁ゛・・・」
やばい、事の重大さに今更気付いてきた。
今の今まで、なんやかんや許してくれるだろうって、甘い考えを持ってた。
でも違った。モルガン様、本気で怒ってるんだ。
ちゃんと忠告してくれたのに、ダメって言われてたのに。話を聞きもせず、言いつけを破って、心配掛けちゃったから・・・もう要らないって、思われちゃった。
「いやぁ゛・・・・・・やだぁ・・・!」
ホント・・・後悔って言葉を生み出した人は、偉大だと思う。
こんなに胸が締め付けられる気持ちを、こんなにも死にたくなる気持ちを、たったの二文字で表してしまうのだから。
あーぁ、何処で間違えちゃったのかな。
自分なりに、結構頑張って来たつもりだったんだけどなぁ・・・。
そりゃ、布教禁止されるのはちょっと不満に思ってるけどさ・・・。
それ以上に、モルガン様と一緒に居るの楽しかったんだよな。
なんて事のない話でもいつも嬉しそうに聞いてくれて、欲しい物があったら、こっちの想像以上の物をいつもくれて、なんだかんだ言いつつも、英雄様の話も聞いてくれてさ・・・。
本当に、楽しくて、幸せだったんだ・・・。
「ぐすっ・・・」
あぁ、いやだなぁ・・・。
嫌われたく、ないなぁ・・・。
もっと、モルガン様と一緒に居たかったなぁ・・・。
◇◇◇
扉を開く。
ノックもせず、部屋の主の了解を得ることもせずに。
「・・・っ!?」
部屋を見渡して、盛り上がってる布団がビクリと動いた。
驚かせてしまった、と申し訳無い気持ちになるが、今はそれどころではない。
足早に近寄り、無理矢理布団を剥がせば、そこには痛ましいまでに目を腫らし、うるうると涙を溜めた愛すべき妖精の姿があった。
「・・・モル、ガン・・・様・・・」
名を呼ばれ、どうすべきか悩む。
聞きたいことも、言いたいことも山ほどある。
けれど、それ以上に今は何故泣いているのかを問い詰めるべき・・・いや違う、慰めるのだ。
彼女が帰って来てから数十日。
"名なしの森" へ行った理由を聞くかどうかで散々悩み、そうしてふと部屋を覗けば、泣いているあの子がいた。
それを見た瞬間、悩みや恐れが吹き飛び、体が勝手に動いた。私の愛しい英雄を泣かせた奴は何処のどいつだと、身を焼き尽くすような殺意が湧いた。
けれど、いざこうして顔を合わせると、頭が真っ白になる。本当は、私なんかもう嫌いになってるんじゃないかと、足が竦む。
彼女の心を見るのが恐ろしくて、目を逸らす。
そんなことある筈無いのに、絶対有り得ない話なのに、恐怖が信用を上回ってしまった。
「ぁ・・・」
ベッドに蹲りこちらを見上げる彼女と、俯いて目を合わせようとしない私の耳に、か細い声が届いた。
凄くショックを受けた、今まで聞いたことのない悲しそうな声だった。
身をギュッと握り潰されたかのような悪寒が、私の体を駆け巡り、ほぼ反射的にそちらを向いた。
「やだ、やだ・・・あぁ、あぁ゛・・・ごめ、ごめん、なざぃ゛っ・・・! もう、しまぜんがらぁ゛ッ・・・!」
それはまるで、悪さをした幼子のようだった。
捨てないで、と嗚咽混じりに泣き叫ぶ声、私のドレスに皺を作り、何処へも行かせないように縋る小さな両手。
それらがどうしようもなく、危うげで、今にも壊れてしまいそうで・・・。
「こ、殺した゛のに、俺が・・・殺し゛て゛、それ、なのに゛ッ・・・!」
「違う、あれはお前の所為では・・・!」
あぁ、それで泣いていたのかと胸が締め付けられる。
あの少女のことは、仕方の無いことだった。
二千年統治してきた魔女とて、そこまで万能ではない。
既に終わっていたモノを、再び甦らせることなんて出来ない。
だから、あれは仕方の無いことだった。寧ろ、彼女はよくやった方だ。
確かに、結末は酷かったけれど、それでもそれを悔いるのは、感謝してくれたあの子にとっても本意では無い筈だ。
その友情は偽りだったかもしれないけれど・・・。
あの時の感謝の気持ちは、確かに本物だったのだから。
◇◇◇
泣き疲れて眠ったのを確認して、モルガンは静かに部屋を後にする。
その顔に宿るは"無"。さっきまでの慈愛の気持ちなど欠片も無く、あるのは燃え盛り、荒れ狂うばかりの怒りだけ。
なぜなら、ずっと知りたかった、あの森へ向かった理由を知ることが出来たから。
己の怠惰が招いた結果だと、知ってしまったから。
「・・・・・・秋の森、そうか。やはり、あそこか」
コツ、コツ、と廊下に響くヒールの音がヤケに反響した。
泣いてぐちゃぐちゃだったが、その心には森に入るまでの経緯や記憶をなくした後のことが、僅かながらに思い描かれていた。
偶然、偶然、全てが偶然。
あの子がヴォーティガーンの気配が最も濃い秋の森を気に入ったのも、そこで故郷が恋しくなったのも、コーンウォールの呪いを忘れていたのも、武装せずに森へ入ったのも、全てが偶然だった。
全く無関係に思える数々の偶然が、奇跡的なまでに重なり合って、そうして彼女は記憶を失い、何年も何年もモルガンの下から離れることとなった。
不安だったろうに、記憶が徐々に消え、存在まで消えていく恐怖に怯えることすら出来ず、一人寂しく嘗ての家で過ごすこととなった。
神の悪戯とでも言うべき馬鹿げたことの連続で、彼女とモルガンは永遠に引き裂かれる所だった。
そう、偶然だったのだ。
別に彼女がモルガンに愛想を尽かした訳でもなく、誰かしらの介入があった訳でもなく、本当にたまたまあの子が故郷に帰ろうとしただけ。
ただ、それだけのお話。
・・・・・・巫山戯るな。
「・・・・・・随分と、舐め腐ったことをしてくれたものだ」
そんな都合の良すぎる偶然が、あってたまるものか。
こんな馬鹿みたいな話が、あってたまるものか。
確かに、あの子の行動はあの子自身が考え、自分の意思で実行したのだろう。
だが、本当にそれだけだろうか?
一から十まで全てあの子だけしか関わらなかったのか?
違うだろ。あった筈だ。
誰かの入れ知恵が。誰かの囁き声が。
何者かによって、思考が誘導されていたのだ。
そんなことが出来る奴など・・・居る 、一人だけ。
夏に飛び回る羽虫のごとく、耳元で鬱陶しく騒ぐクソ虫が。
「・・・やはり、早めに駆除しておくべきだった」
灯りを着ければ居なくなって、消せばまた現れる真夏の害虫。耳元で騒ぐだけなら、手で払い除ける程度に収めてやったものを。
宝物を傷付けられれば、話は別だ。
よほど死にたいらしいあのクソ虫を、モルガンは本気で潰すことに決めたのだった。
オベロン「え、ちょ」