チート転生者かと思ったが特にそんなことは無く、森に引き籠もってたら王様にスカウトされた   作:榊 樹

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数年分の記録を蓄えた"伝達の水"(ここ数日の記録は蓄えていない)



・・・別に書き忘れた訳ではありませんので。



超長距離狙撃

辛い、心から泣きたくなるくらい辛い。

 

モルガン様が人妻になったと知った同日、いつもの城壁の上で(すさ)み切った心のまま矢を引いて、けれどもその全てがモースに着弾していく。

久しぶりとは言え、これまで何百年もほぼ毎日弓を引き続けていたのだ。数年弓を引かなかっただけで腕が衰える俺ではない。

 

 

「・・・・・・」

 

 

少しくらい休憩すべきなのだろうが、こうして何かしてないとまた鬱になりそうなのでただ無心で弓を引き続ける。

 

別に、モルガン様が結婚したこと自体は、そこまで深刻に思ってる訳では無い。寧ろ、心から祝福したいくらいだ。

 

だが前に、バーヴァン・シーにモルガン様が喜ぶことを聞かれた時から、ずっと考えていたことがある。

妖精國を二千年も治め続けて来た女王とて、あの方も一人の女。であれば、いつしか理想の旦那様と出会い、愛し合って、女としての夢を掴む日が来ても良いではないのか、と。

 

本当に、色々と考えていた。

式場の準備から、友人代表の挨拶、お城もびっくりな大階層のウェディングケーキに、そして何より華やかで純白の美しいウェデングドレス。

一国の女王様の目出度い日なのだ。盛大に祝ってあげようと、そう思っていた・・・。

 

それが、それが・・・!

気付いたら結婚してて、式を挙げるタイミングも逃して、あまつさえ相手があんな軽薄そうな男などと・・・!

 

何故ですか、何故なのですかモルガン様!

貴女の旦那様は、もっとこう・・・バーテンダーが似合う、紳士的なダンディだと思っていたのにッ・・・!

あれですか、悪い男に騙されちゃった感じですか!?

仕事ばかりしてて疲れた所をちょっと優しくされて、心を許しちゃった感じなんですか!?

そしてそのまま悪い遊びを教えられちゃって、それから、それからッ・・・!

 

ぁ、ぁあ゛ぁあ゛ぁぁ゛・・・!

脳が、脳が破壊されるぅッ・・・!

 

何千年も磨き続けて来た妄想力が、ここぞとばかりに存在しない記憶を作り出していくぅ・・・!

 

いやぁ・・・いやだよぉ・・・!

行かないでモルガン様ぁ・・・!

玉座でそんな淫らな・・・あぁ、あぁ・・・バーヴァン・シーまでも・・・!

モルガン様、そいつは義理の娘にも手を出す悪い男なんです・・・! 女を道具としか思ってないヒトデナシなんですよぉ・・・!

 

いや、いや・・・! なんで二人揃って・・・!

ぁ、ぁぁ゛・・・ぁぁあ゛ぁぁ゛ぁあ゛ッ・・・!

 

 

「・・・はぁ・・・・・・死にたい・・・」

 

 

 

 

 

・・・で、まぁ。

心をぶっ殺して午前中の仕事を終わらせ、マジで鬱になりそうな精神状態で城に戻るとモルガン様から追加の任務を言い渡された。

珍しく午後も働くことになった訳だけど・・・別に働くことに何か不満がある訳では無い。寧ろ、今は趣味に走ると悲惨なことになるので大歓迎まである。

だけど、肝心の任務内容がウッドワスさんの護衛なんだよなぁ。

 

いや正確には、かの排熱大公様が指揮に専念するウッドワス軍の補助をしろってことなんだけど・・・あまりにも意味不明でポカーンとしてしまった。

 

だって、あのウッドワスさんだよ? こと近距離戦に於いては無類の強さを誇る排熱大公様だよ?

それを俺が護衛するって聞いた時は、シンプルになんで? と思ってしまった。

 

だってあの人、俺より強いし。

比喩抜きでマジで無敵だからな。

 

遠距離攻撃の手段がないからって油断してはいけない。遠ければ近付けばいいじゃないの脳筋理論で一直線に突っ込んで来るから。

俺の矢なんて全く効かないから。なんか無敵シールド貼られて防がれるから。

 

もうね、前に、彼の屋敷に毎晩忍び込んで、寝てる時にステーキの匂いを嗅がせてたのがバレた時は、マジで喰い殺されるかと思った。

夜空に逃げても、空間蹴って追い掛けて来るとか予想外過ぎるんですけど。モルガン様が仲裁に入ってくれなかったら本当に死んでた。

 

でも、本当にあともう少しだったんだよな、あの作戦。途中で俺の腹が鳴らなければ絶対に成功していた。

策士策に溺れるとはこのことかと、真夜中のブリテン全土を使ったリアル鬼ごっこをしながら、心から思ったものだ。

 

因みに後から知ったことなんだが、どうやらその時は普通に寝惚けてたらしい。

毎晩、極上のステーキに囲まれる悪夢を見続けて、夜中に目が覚めたら良い匂いを染みつかせた俺が居たものだから、色々と暴走しちゃったんだとか。

 

 

そんな冗談みたいな武勇伝を持つウッドワスさんだが、相手をするのが円卓軍とかいう、主に人間で構成された軍隊な訳だけど・・・。

 

負ける未来が全く想像出来ないんだよなぁ・・・。

オーロラさんに骨抜きにされるとか、そっち方面なら容易に想像出来るんだけど、大した策も無しに肉弾戦を挑もうとか、もしかしてお相手さんはアホなのかな?

 

遠くから見た感じ、挟み撃ちをするつもりらしいけど、そんなことでどうにか出来る相手じゃないだろうに。そもそもその挟み撃ちだって、モルガン様が派遣した援軍によってご破算になるし。

 

ウッドワスさんは戦闘を禁じられてるけど、他の牙の氏族だって普通に強者揃いだ。

仮にピンチになったとしても、なんやかんや言ってあの人、根は戦闘狂だから、どうせ自分で戦うだろうし・・・。

 

後方でヌクヌクするより、戦場で暴れる方がよほど似合ってるのに。ほんと、なんで前線退いたんだろ。

 

まぁでも・・・一応、仕事はするけどさ。命令拒否する理由も特に無いし。

俺なんかがウッドワスさんの役に立つかは分からないけど、最初は他の牙の氏族だけで戦うから・・・まぁ、城壁壊すくらいはやりますか。

 

 

 

 

 

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

 

 

 

 

ウェールズの森へと、パーシヴァルや予言の子などの戦力が向かったとの報告を受け、ロンディニウムに展開していたウッドワス軍は、戻ってきたパーシヴァル達による背後からの挟み撃ちを読んで、少し早めに攻撃を開始することに決めた。

 

これは、それより数分前のお話。

軍の展開がほぼ完了し、後は攻撃命令を出すだけとなった作戦室で起こった出来事。

 

 

「あ、あの・・・ウッドワス様。今回の作戦の(かなめ)でもある"予言の子"の捜索について、特徴は"邪悪な顔つきをした16歳ほどの女の妖精"とのことですが、それ以外に詳細はございますか? 流石にこれだけでは無理があるかと・・・」

「無い。私は"予言の子"の顔を知らぬ。女王陛下と"予言の子"の謁見では、参列を許されなかったからな」

「そ、そうですか・・・」

 

 

情けないことを堂々と言う主に、部下の妖精はちょっと失望しながらも、表面上は取り繕って早々に退出しようとした。

 

だがそこへ、突如として何かが着弾した音が響いた。

ちょうど、テントを出たすぐの所。ただの平原だったそこに、人間が寝ころべるほどの新鮮なクレーターが出来上がっていた。

 

 

「これは・・・なるほど、そういう事か。くくくっ、聞いて喜べ貴様ら。少し早いが、女王陛下からの援軍だ。たった今、億に一つ残っていた我らの負けの可能性が、完全に途絶えたのだからな」

 

 

突然の謎の攻撃に慌てふためく周囲を、ウッドワスが制する。

その様子に、こちらへ向けた攻撃ではないと察し始めたのか、ざわめきが徐々に静まっていき、それを気にすることも無く、ウッドワスは上機嫌になっていた。

 

 

「あの、ウッドワス様・・・今のは・・・」

「ん? お前達も少しは知っているだろう。奴だ。ここ数年、行方不明になっていた妖精騎士が戻って来たのだ」

「行方不明と言うと・・・ま、まさか、妖精騎士ベディヴィエール様ですか!?」

 

 

驚く部下にドヤ顔のまま肯定で返すと、それが周囲に伝播して今度は至る所から歓喜の声が上がってくる。

今まで予想外にも苦しめられて来た円卓軍を、これで漸く葬れると。

所詮は人間の軍隊、我ら牙の氏族の敵ではないと。

 

 

「全く、今まで何処をほっつき歩いていたのやら・・・だが、まぁ良い。此度の援軍で以って許してやる。精々しっかり働けよ、クソガキ」

 

 

口の悪さに反して、ウッドワスの顔はそれはそれは楽しそうに、三日月を描くように歪んでいた。

 

 

 

 

 

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

 

 

 

 

 

ウッドワス軍に強力な援軍が来たとは露知らず、城壁内に籠もっていた予言の子一行は、攻めてくるとしてももう少し後だろうと考え、割と呑気に過ごしていた。

 

だがそこへ響く見張りの声。ウッドワス軍の進軍を伝える声に、城内は慌ただしくなった。

 

 

「どうなってんで、アイツら正気か!? その程度の軍じゃロンディニウムは落ちないって、もう分かっただろうに・・・!」

「弓兵の矢はそう多くない、少しすれば弾無しになると思う!」

 

 

オベロンが生きていれば仕切っていたであろう所を、ダ・ヴィンチちゃんが素早く指示を飛ばす。

だがその直後、城内にまで響き渡るほどの振動がロンディニウムを襲った。

 

 

「な、何事だい!?」

「狙撃です! 遥か彼方から狙撃されています・・・! 方角は・・・キャメロットからです!」

「キャメロット!? ここから一体どれだけ離れていると・・・いや待って、まさかこれって・・・!?」

 

 

ダ・ヴィンチちゃんが推理している間も、狙撃は続く。

距離に反して、絶えず飛んで来ては巫山戯た威力で城壁を揺らす無数の光の矢。いくら魔術礼装で保護されている城壁とは言え、こうも好き放題されていてはそう長く持たないのは火を見るより明らかだった。

 

 

「考えるのは後だ! (オレ)が斬り落とすから、早く避難と迎撃の準備を急げ! 壁が破壊されりゃ、一気に攻め込まれるぞ! 」

 

 

正面に躍り出た村正が、両手に剣を作り出し、次々に斬り落としていく。

一振りすれば矢と共に壊れ、また作っては壊される。

 

そちらが手数で来るのであれば、こちらも手数で押し来るのみ。

斬って斬って斬り刻み、時には投げて、ほぼ全ての矢を撃墜していく。

 

 

「ちっ、話には聞いていたがこれほどまでに厄介とはな・・・! 強制的に防戦一方を強いられる上に、自分は遠い安全な地から高みの見物ってか・・・!」

 

 

こっちは汗だくで息も切れてるってのに、矢の勢いが全く衰えていないとくれば、愚痴の一つも吐きたくなる。

だがその声が届いたのかは定かではないが、狙撃の波が一瞬だけ()んだ。

 

 

「なんだ・・・? (やっこ)さん、弾切れか?」

 

 

淡い希望も、しかし、地平線の彼方(かなた)から空に打ち上げられた三条の光の柱に打ち砕かれる。

今度はなんだと身構えた村正に対して、光はただ空高く、高く上っていき、そして――――。

 

 

「なっ・・・!? そんなの有りかぁ!?」

 

 

上空で弾けるように分裂し、先程とは比べ物にならない、正に光の雨となってロンディニウムに降り始めた。

 

 

「くそったれェ・・・!!」

 

 

三方向からそれぞれ交わるように、けれども矢と矢は決して接触することなく。

入り乱れるようにして降り注ぐ無数の矢を前にして、村正に残された手は最早一つしか無い。

 

 

 

 

「其処に到るは数多の研鑚、築きに築いた刀塚」

 

 

 

 

瞬間、魔力が跳ね上がる。

 

霊基を燃やし、一本の刀へと収束していく。

 

 

 

 

「縁起を以て宿業を断つ。八重垣作るは千子の刃」

 

 

 

 

眼前に広がるは、視界を埋め尽くすほどの凶弾。

一発当たれば致命傷は避けられぬ、理不尽の権化。

 

かつてオベロンが"クソゲー"と地団駄を踏んだ、ブリテンの守護者の代名詞とも言える光の雨を前に、燃え上がる刀身を手にした村正は臆せず踏み込んだ。

 

 

 

 

「ちったぁ成仏していきなぁ! これが俺の"無元の剣製(つむかりむらまさ)"だぁぁ!!」

 

 

 

 

上空に向けられて放たれたその一振りが、全てを焼き尽くす。

 

一本残らず爆ぜる光の矢。

渾身の一振りで持って、危機を脱した村正に待ち受けていたのは・・・。

 

 

 

 

「なっ・・・!?」

 

 

先の数倍の魔力を一本の矢にして放たれる、無慈悲の一撃だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

 

 

 

よし、城壁壊せた。

なんか久しぶりに骨のある奴が居てかなり手こずったけど、まぁ、ざっとこんなもんよ。

年季が違うんですわ、年季が。取り敢えず、(あらかじ)め武器を無限に用意してから出直しておいで。

 

さてさて、こんだけやっとけば後はもう余裕でしょ。人間さん達には悪いけど・・・モルガン様に逆らったんだから、そこは自業自得ってことで。

せめての慈悲に、俺はこれ以上手を出さないでいてあげるからさ。

でもまぁ、そろそろ援軍も到着する頃だし、あんまり意味は・・・。

 

 

 

 

「・・・は?」

 

 

 

・・・・・・あの女狐、ぶっ殺す。





クソ虫「ただでさえ反撃不可能とか言う厄介極まりない攻撃だってのに、火力も出て無数に飛ばせて、おまけに弾数無制限とか勝てる訳無いだろいい加減にしろ!!」

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