チート転生者かと思ったが特にそんなことは無く、森に引き籠もってたら王様にスカウトされた 作:榊 樹
「ただ今帰りました。
「えぇ、宴の準備は着々と。舞踏会の招待状も今し方、皆様に・・・・・・って、ボロボロじゃないですか!? アナタともあろう人が一体なぜ・・・!?」
「あぁ、お気になさらず。少々、食後の運動をして来ただけですので。両腕に片足、それから頭も半分飛びましたが、この通り問題ありません」
「何がこの通りですか! 見たまんまの死にかけじゃないですか!? ほら、早く治療しますから! 無理しないで!」
「大丈夫だと言ってますのに・・・」
◇◇◇
だぁーっ! くっそぉ、逃げられたァー!
あともうちょいだったのに、瞬間移動とか卑怯だぞもー!
あの獣畜生、モルガン様の兵を食い散らかしやがって・・・!
次会ったらマジで跡形もなく消し飛ばしてやるからな・・・!
ほんま、お前覚えとけよ!?
「・・・・・・ふぅ」
・・・おっと、落ち着け俺。久しぶりだから、流石にちょっと張り切り過ぎた。
あの女狐はムカつくが、今はモルガン様への仕事を終えた報告が先だ。
ウッドワスさんの方もそろそろ終わってるだろうし、後は俺が撤退する合図を・・・・・・ん?
「・・・・・・なんか、負けてる・・・?」
崩壊したロンディニウムの城壁の前。
まるで戦に勝利したかのように盛り上がるその一団は、どう見ても牙の氏族に
武装した人間達と、何故か居る立香さん達。
いや考えてみれば、彼らが円卓軍と合流しているのはそこまで不思議なことではない。モルガン様との謁見だと、なんか交渉決裂したっぽいし、同じく敵対する円卓軍の傘下に付くのは理解出来る。
けれど、各々が喜びを分かち合っている集団、そこに混じって笑顔を見せているあの方は・・・・・・。
「英雄、様・・・?」
◇◇◇
ウッドワス軍を退けた翌日。
ムリアンから舞踏会の招待状を貰い、絶対に何か企んでいるであろう彼女の思惑に乗る形で、急遽ロンディニウムを出立することとなった予言の子一行。
なんせ、舞踏会の日時は今夜なので、かなり無理をしての強行軍となったが、なんとか間に合い会場へ。
大きな月が浮かぶ夜空の絶景をバックに、豪勢な料理や華やかな衣装に身を包んだ妖精達が踊る、正に妖精の舞踏会と呼ぶべき光景に一同は目を奪われる。
しかし、肝心の主催者であるムリアンの姿が何処にもなく、呼び出しておいて挨拶の一つも無いのかと探していると場内に放送が流れる。
どうやら、メインイベントは舞踏会とは別にあるようで、ムリアンはそれまで裏方に徹するようだった。
アルトリア達の目的はここにある巡礼の鐘を鳴らすことなので、領主が出て来ないのであれば、もうさっさと鐘撞堂に忍び込むかと考えていた所、新しい招待客に会場がどよめく。
どれ程の大物が来たのかとそちらを見れば、なんとそこに居たのはあの妖精騎士ガウェインこと、バーゲストだった。
「えっ゛・・・!?」
「バッ・・・!?」
それに続くようにして来たのはオーロラとそれに付き添う見知らぬ美しき妖精。そして、暫定モルガンのマスターであり、夫でもあるベリルと義娘の妖精騎士トリスタン。
まさかの人物達の登場に驚きが隠せなかったが、それも会場のざわめきと共に段々収まる。
今回の妖精騎士の襲来がムリアンの仕業だと察した一同は、程度は違えど彼女への悪態を吐いていると、そこへコーラルが挨拶にやって来た。
「さっきオーロラの隣にいた妖精。彼女が、オーロラの護衛をしているのかな? 右腕である君を差し置いて?」
「・・・最も輝ける妖精であるオーロラ様の隣には、最も美しい妖精が立つものです。・・・それが。暗い泥から這い出てきた、悍ましい生き物だとしても」
挨拶もそこそこに、何かと突っ込みすぎたダ・ヴィンチちゃんに気を悪くしたコーラルが足早に去っていく。
流石の天才と言えど思う所があったのか反省していると、今度は先程オーロラに付き添っていた美しき少女が歩み寄って来た。
「コーラルに何を言ったんだ、君たち。彼女、随分と動揺していたようだけど」
そうして、自身を妖精騎士ランスロットと名乗った彼女は、ダ・ヴィンチちゃんを無意識に誘惑したり、村正を無意識に煽ったり、こっちの話を聞いてるようでまるで聞いていなかったりと、そこそこのコミュ障っぷりを発揮しつつ、何故か敵対している筈の円卓軍団長パーシヴァルの容態を心配しだした。
「死んでないと聞いている。彼は無事? 何か、おかしな所は無い?」
「無事ですけど・・・パーシヴァルとはどんな関係なんですか?」
「姉だけど」
「そっか、お姉さんかー! そりゃあ心配にもなるよね・・・って、お姉さん!?」
「?」
驚く立香達の心境がまるで理解出来ていないのか、不思議そうに去って行く彼女を、立香達は呆然と見詰めるしか無かった。
それから少しして、漸く再起動した彼らは先の衝撃的過ぎる情報を整理しようと声を荒らげて話し出す。
「パーシヴァルは隠してた訳じゃなくて、言う必要が無かった、という所かな。アルトリア、これ、ブリテンでは有名な話なのかな?」
「いえ、全く・・・。ランスロット本人の口から出た言葉なので、信じるしかないくらいです」
「・・・なら、パーシヴァルは秘密にしたいんだろうな。団長がランスロットの弟だなんて広まれば、円卓軍の士気が落ちちまう。だってのに、あの空気を読まない妖精騎士があっさり自分からバラした、と。・・・・・・あー、なんだ。妖精騎士ってのは、どいつもこいつも自由過ぎねぇか?」
結局、彼らが姉弟と吹聴して回った所で信憑性が低いし、よしんば信じて貰えた所でこちらにメリットが無いので、このことは黙っているという結論に落ち着いた。
・・・だってのに、そこへ再びトコトコやって来た妖精騎士ランスロット。
今度は何事かと身構えていると、彼女の手には何やら四角くて平たい板とペンが握られていた。
「危ない危ない、忘れてた。えっと・・・多分、君で合ってるよね。サインくれない?」
「ひょ・・・? わ、私ですか・・・?」
サイン・・・サインである。
アルトリアが間抜けな顔をして受け取った四角い板は、立香達カルデア側からすれば凄く見覚えのある・・・所謂、色紙と言うヤツで。
当のアルトリアは、サインという文化にあまり詳しくないので、取り敢えずミミズがのたくったような字で"アルトリア・キャスター" と書いた。
「えっと・・・こんな感じで良いでしょうか?」
「ん、ありがとう。・・・うわっ、字汚っ。・・・本当にこんなのが欲しいのかな・・・?」
頼んでおいてボロクソに言うランスロットに、自覚はあったのか赤面するアルトリア。
そして、先程のパーシヴァルの姉宣言よりも、別ベクトルで想定外な行動を目の当たりにして、開いた口が塞がらないカルデア組。
散々、場を引っ掻き回しといて、受け取った色紙を物凄い不満そうに見詰めながら立ち去る妖精騎士ランスロットを、ダ・ヴィンチちゃん達はまたもや引き止めることが出来なかった。
◇◇◇
暗い洞窟。
妖精國でも数える程の者しか知らぬ秘密の通路で、低く唸るような、誰かが苦しむ声が響いていた。
「ぅぅ゛ぅぅ゛・・・ぁ゛ぁ・・・くそ、クソッ・・・!」
それは心臓を抉られ、血を流しながらも歩き続ける、かつての英雄だった。
「この、勇者ウッドワスがッ・・・! 排熱大公の
普通なら既に事切れてもおかしくない程の大怪我。
胸にはポッカリと開いた大きな穴。
本来、心臓があるべき場所には、文字通り何も無かった。
けれど、亜鈴返りと言われる常識外れの頑丈さで持って、なんとか生き延びたウッドワスはその心を憤怒に染め上げる。
「ぅぅ゛ぅグゥぅ゛・・・ぅぅ゛ぅ・・・!!」
なぜ負けたのか、なぜ己がこんな無様を晒しているのか。
勝てた筈だった。負ける要因など、一つとして無かった筈だった。
だが負けた。
完膚無きまでに追い詰められ、最後は味方・・・とは思っていないが、陛下の隣を奪った異邦の魔術師と、陛下の娘とか言うクソ羨ま・・・分不相応な立場に位置する小娘によって、心臓まで抜き取られた。
こんな事があっていいものか。
あのウッドワスが負けるなど、そんな巫山戯た話があって堪るものか。
でも、それ以上に・・・。
ずっと、心に引っ掛かっていた事がある。
「"予言の子" ・・・あれは、何処かで・・・」
そう、見覚えがあった。"予言の子" など、一度も見ていない筈なのに、どうしてか拭い切れぬ既視感がウッドワスを襲っていた。
「・・・・・・そうだ、思い出した。奴だ、あのクソガキが・・・昔、やたらとッ・・・!」
そう、そうだった。
己は"予言の子" の容姿を知っていた。
その姿を、ある妖精から散々見せられた記憶があった。
「・・・・・・」
ウッドワスの、足が止まる。
不可解だった部分が、次々と結び付く。
あの阿呆が城壁のみを壊し、
最初は、遂に陛下の援軍が来たから、もう不要と判断したのだと・・・そう思った。
だが違った。
陛下の援軍は来ることなく、やって来たのはあの糞生意気な
であれば、陛下の援軍は?
このウッドワスのために派遣された陛下の慈悲は、何処へ行った?
「・・・・・・」
湧いてくるのは怒りばかりだが、何故だか足は動こうとしない。
体に限界が来た、訳では無い。
誰かに縛られている、という訳でも無い。
ただ無意識下で、これ以上進むことを拒否しているだけ。
だが、それは許されない。
部下の不始末は己の失態。
例えそれがどれほど残酷な事実であろうと、千年来の友を、殺すことになろうとも・・・彼はそれを果たさねばならない。
「・・・貴様だけは、許さぬ・・・!」
亜鈴百種・排熱大公の名に賭けて。
何よりも、陛下に忠誠を誓った勇者ウッドワスとして。
女王に反旗を翻す不届き者を、必ず始末すると・・・。
開いた胸の空洞に、そう誓った。
ウッドワスは! 冷静さを! 欠いている!
死にかけなので!