チート転生者かと思ったが特にそんなことは無く、森に引き籠もってたら王様にスカウトされた   作:榊 樹

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前回の最後の一文、ここ好き者数が70を超えてらァ。
みんな催眠おじさんが好きなんですねぇ。



失意の庭

「・・・よし、殺すか」

 

ベリル・ガットが催眠おじさんと分かった今、懸念していた黒幕の線も無くなり、最早、奴を生かしておく価値は無くなった。

いい加減、心の傷を創作物にして吐き出すのも飽き飽きしてきた所だし。

 

だが、あまり公に動く訳にもいかない。

なんせ、奴は無敵の催眠おじさん。

 

モルガン様や他の臣下達も催眠に掛かってる可能性が高く、下手すれば俺の行動が奴にバレて、記憶を改竄されてしまうかもしれない。

 

だから、行動は最小限に。

手始めに、いつも一緒に行動しているバーヴァン・シーの部屋でも覗いてみるか、と廊下を歩いていたら・・・・・・居たよ、ベリル・ガット。

 

てか、ちょうどタイミング良く部屋から出て来た彼と目が合ったので、今度は一切の躊躇無く、剣を抜いて襲い掛かる。

 

 

「死ねぇ、ベリル・ガットォッ!!」

「オラッ、失意の庭(ロストウィル)!」

 

 

しかし、奴が手にしていた、中々に厨二心くすぐられるフォルムの壺によって、俺の意識は闇に落ちた。

 

 

 

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

 

 

 

胸の奥、心臓に重なった"心"を削っていく音で、アルトリアは目が覚めた。

 

 

「ここは・・・」

 

 

辺りは暗く、先程まで居た平原ではない。

気を失う前の記憶は、バーヴァン・シーに襲われた所で途切れており、であれば今いる場所も自ずと答えが出る。

 

 

「多分、これが噂の"(ガーデン)"・・・」

 

 

地上にあるブリテンと星の内海の中間に存在する、"何処でもない何処か"。

そこに幾つか存在する"庭"の内の一つ、その特性はーーー。

 

 

「・・・やっぱり、これは"失意の庭(ロストウィル)"」

 

 

目の前に現れた、過去の記憶にアルトリアは確信を抱く。

 

訪れた者の心を削り、無くしていく自傷の責め苦。

暖かな欺瞞を剥がす冷たいガーデン。

 

こちらからは何かする必要もなく、最後まで耐えられれば出られるようになっているが、その前に心が無くなるようになっている。

 

 

「・・・まぁ、いいや」

 

 

だがそんな悪辣な罠であろうと、裏道は存在する。

単純な話、ガーデンと心の回線を切れば、夢のように追憶する状態から、テレビのように傍観する状態へと変わり、心が砕けることは避けられる。

 

しかし、それは同時に諸刃の剣でもあり、ガーデンから脱出できなくなってしまうのだが、今回ばかりは勝手が違った。

 

なんせ、この"庭"を維持しているのは、着名(ギフト)を失ったバーヴァン・シー。三流の妖精にすら劣る魔力量では、"庭" なんて維持できる筈もない。

 

どの道、時間が経てば解放される。

だから、それまでこうしてーーー。

 

 

「・・・こうして、見たくもないものを見るだけだ」

 

 

 

 

「・・・・・・」

 

 

無理。

 

 

「もういいや、もういいでしょ。回線切って、出口への道をシャットアウト」

 

 

けれども映像は続く。

 

予言の子が育った村であるティンタジェルを後にし、その後は大した出来事もなく、"名なしの森"へ。

 

そこで、出会ったのだ。

今目の前で、"失意の庭"の仕掛けで心挫ける寸前の立香と、どこまでも純粋で、残酷なまでに澄み切った心を持つ小さな妖精に。

 

 

「ばーかばーか!」

「馬鹿って言う方が馬鹿なんだぞ!」

「じゃあ、そっちも馬鹿じゃん!」

「はぁ!? 先に言ったのはそっちだろ!」

 

 

そうそう、こんな感じであのアホの子はいつもホーちゃんと二人一緒に、騒がしく・・・・・・ん?

 

 

「このぉ!」

「このこの!」

 

 

・・・見覚えのあるテントの中で。

何故だか、エールちゃんそっくりな二人がポカポカし合いながら、すっごい低レベルな争いを繰り広げていた。

 

 

「・・・ちょっと知らない記憶()ですねぇ」

 

 

 

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

 

 

くそっ、どこに消えた、俺のそっくりさんめ!

何より腹立つのが、容姿だけ似せて中身がまるで違うってことだ!パクるにしても、もう少し真面目にパクれっての!

無断転載した挙げ句、質が悪いってどういうことだオラァ!!

 

まだ話は終わってないんだからな!

隠れてないで出て来いや! シュッシュッ!

 

 

「・・・変わりませんね」

「へ・・・? あ、モルガン様!」

 

 

あれ? なんでこんな所にモルガン様がいるんだ?

・・・ま、いっか。

 

 

「聞いて下さい、さっき俺のそっくりさん・・・じゃなくて、見た目だけそっくりな偽物が居たんです! いきなり出て来て人のこと馬鹿呼ばわりするわ、意地になって殴ってくるわで、ホント失礼な奴でしたよ。馬鹿はどっちだっつーの。だって言動からして頭の悪さが滲み出てましたもん。馬鹿の一つ覚えみたいに馬鹿馬鹿って連呼して、あれで俺を真似たつもりとか頭が悪いにも程がありますよね」

「・・・・・・」

「・・・あの、えっと、モルガン、様?」

 

 

いつもなら抱き寄せられて、膝の上に乗せられるのに、モルガン様は無表情でこちらを見下ろして微動だにしなかった。

表情は変わらないけど、長年見て来たので分かる。多分これ、凄く怒ってらっしゃる。

 

・・・や、ヤバい。心当たりが多すぎて原因がまるで分からない。

あれかな、前に振る舞った特製スープが、虫をミキサーにして作ったものだってバレたのかな。

いやでも、きちんと味見したし。なんなら、一度我を忘れて完食しちゃったくらいには美味しかったし。

そこまで怒られるようなことではないと思うんですけど・・・。

 

なら、またウッドワスさんに英雄様の布教をしてたのがバレたとか・・・。いや、でもあの件に関してはもう叱られたしな・・・。

 

 

「なぜお前はいつもそうなのだ」

「・・・え」

 

 

あ、待って。

これ本当にヤバい奴だわ・・・。

 

 

「あれほど勝手なことはするなと言ったはずだ。何かする時は必ず報告するようにと、何度も言ったはずだ。なのになんだ、この体たらくは」

「あ、あの・・・いえ、これは、その・・・」

「いつも勝手なことばかりして、また私の手を(わずら)わせるのですか。そんなに私を困らせて楽しいですか?」

「いや、えっと・・・その・・・」

「やめろと言った布教とやらは、何度言ってもやめようとしない。全ては貴女のためを思って言っているのに、どうしてそれが分からないのですか?」

「・・・・・・」

「どうしました、いつもの減らず口はどうしたのですか? 黙っていては何も分かりませんよ。言いたいことがあるなら口で・・・」

「う、うぅ・・・」

「ん?」

 

「うぅ・・・うえええぇぇぇん!! ごべんなざぁあぁぁあぁぁい!!」

「・・・・・・」

 

「だって、だってぇ゛ぇ! 全部良かれと思ってぇぇ゛えぇ・・・! 悪気は無かったんですぅ゛う゛!!」

「・・・・・・」

 

「もう゛やりまぜんから゛ぁ! 許してくださぁ゛いい゛い・・・!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

「うぅ、ぐずっ・・・! ひっぐ・・・!」

 

 

 

気付けば、そこは懐かしの我が家。

一番安心できる布団の中。

 

どうして泣いているのか、それすらも思い出せず、見えない何かに怯える日々。

 

でも、これじゃいけないと勇気を振り絞って外に出れば、そこには見知った妖精の姿。

 

 

━━━誰、貴女? まぁいいわ。ねぇ、家が壊れたから明日までに直しといてね。

 

 

その妖精はそう言って背を向けると、皆の所に行って楽しそうに遊びだした。

本当は混ぜて欲しかったけど、頼まれたから投げ出すことも出来なくて。

 

頑張って工具を魔力で生成して、近場の木を切って、そしたらまた別の妖精が来て。

 

 

━━━あ、なにそれ面白そう。良いもの見っけー。

 

 

こちらの返事も聞かずに工具を持っていかれて、仕方なしに同じ物をまた作って作業を再開して。

 

それから少しして聞こえた悲鳴。

誰かが痛がるような声。

 

様子を見に行くと、人混みの中に蹲る妖精が一人、腕から血を流していて、近くには俺の工具を持って行った妖精が血の滴るノコギリを手に呆然としていた。

 

 

━━━ち、違う、僕じゃない。あ、あいつだ。あいつがこうやれって!

━━━なにそれ、酷いよね。

━━━てか、あれ誰?

━━━あんな妖精居たっけ?

 

「ひ、ひぃっ・・・!?」

 

 

一斉に、こちらへ向く視線の数々。

ぞろぞろとこちらへやって来て、頭を抱えて蹲る俺を囲んで口々に責め立てられる。

 

 

━━━ねぇ、なんで危ないって知ってて黙ってたの?

━━━すっごく痛いんだよ。こんな危ないもの作って何しようとしてたの?

 

「ひぐ、ごめんない・・・許してください・・・」

 

━━━謝るってことは、自分が悪いって認めるんだね。

━━━なら、きちんと罰を与えなきゃ。

 

 

「え、い、いや、ごめんない、ごめんないごめなさい! やめて、それだけは━━━!」

 

 

 

・・・。

 

・・・。

 

 

無くなった腕で這いずって、無くなった目玉で必死に前を見て。

光すら見えない暗闇の中で、ただ一人孤独に消えていく。

 

 

そして気付けば、全部忘れて家の中。

 

また俺は、理由も分からず何かに怯え、家の隅で蹲る。

 

 

 

 

そんな、今の俺が知りもしない過去を繰り返しては全て忘れ、懲りずに誰かのためになろうと藻掻いては挫けていたある日のこと。

 

あの人と出会った。

 

 

「━━━━!」

 

 

村を襲うモース。

逃げ惑う村のみんな。

 

そこへ現れた一人の英雄。

身の丈以上の杖を振るい、綺麗な金髪を靡かせながら、まるで物語の勇者のように次々とモースを倒していくその背中が。

 

どうしてか、見たこともない景色。ここではない何処か。

何もない平原で、光の中心に佇む銀色の魔女様と・・・重なって見えた。

 

 

だからか、居ても立っても居られなくなって、俺はあの人の元へと向かった。

大したものは返せないけど、せめてお礼だけでもと、感謝の気持ちを伝えようとして・・・。

 

 

「あぁ、貴女でしたか。村のみなさんを見捨てて、一人逃げた卑怯者は」

「・・・・・・え?」

 

 

・・・あ、え。

 

 

「自分だけ安全な場所に隠れて、嵐が過ぎ去れば被害者面ですか。モースを村に招き寄せ、彼らを殺したのは、他ならぬ貴女だというのに」

 

 

英雄、様・・・?

 

 

「誰もが死にそうで、助けを求めていたのに。みんな必死に逃げ惑って、泣き叫んでいたのに。貴女は我が身可愛さのあまりに見捨てたのですね。そして助かれば、弱者のフリをして強き者に媚びを売る」

「・・・・・・」

「大した悪知恵です。魔女よりよっぽど悪辣で恐ろしい」

「・・・・・・」

「一体どの面下げて感謝を言えるのでしょうね。全部、貴女の自業自得なのに」

 

 

 

・・・確かに、そうだ。

全部、英雄様の言う通りだ。

 

英雄様には感謝している。心の底からお礼を言いたかった。

だがそこに、保身が無かったと言えば、嘘になる。

 

あれだけ鮮烈な姿を魅せられて、その武力を目の前で見せ付けられて。

自分では敵わない存在を、ああも容易く葬られては。

この人なら、どんな脅威だろうと守ってくれるのでは、と下心を抱いた。

 

 

でも、なんだろう。この拭い切れない違和感は。

叫んでいる。心の奥底で、何かを叫んでいる自分が居る。

 

 

「・・・・・・」

 

 

あぁ、そうだ。そうだった・・・。

 

俺が憧れた英雄様は。

 

ずっと、追い求め続けていた理想の貴女は・・・。

 

 

 

「・・・・・・違う」

「・・・?」

 

 

「英雄様が、そんなこと言う訳ねぇだろ!! 解釈違いじゃボケェェ!!」

 

 

完成度が低過ぎるその偽物に向かって、俺はありったけの怒りを込めてぶん殴った。

 

 

 

 

 

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

 

 

 

 

 

そして、そんな冗談みたいな場面を目の前で見ていたアルトリアはと言うと・・・。

 

 

「えぇ、そんなのってありぃ・・・?」

 

 

自力で立ち上がった立香に対して、意味不明過ぎる理由で失意の庭を乗り越えたアホに・・・結構本気でドン引きしていた。

 




アホは学ばないからアホなのです。

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