チート転生者かと思ったが特にそんなことは無く、森に引き籠もってたら王様にスカウトされた 作:榊 樹
この一周回ってハードボイルドな感じのベリル君好き。
少しえっちぃので見る時は気を付けて。
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「・・・酷い目にあった」
「ご、ごめんねエーちゃん・・・いてて・・・」
「す、すみません先輩、大丈夫ですか・・・!?」
気を失いかけながらも、ギリギリでマシュの盾を弾き、立香ごと後ろに飛ぶことで衝撃をいくらか逃がした妖精騎士ベディヴィエールのお陰で、なんとか最悪の事態は免れたカルデア組。
助けに来た筈がトドメを刺していたなんて笑い話にもならないので、攫われた立香と再会してテンション上げ上げだったマシュは今、テンション下げ下げになっていた。
「それで、そろそろ妖精騎士ベディヴィエールが立香ちゃん達と一緒に囚われていた理由を聞きたいのだけれど、その辺は話せたりするのかしら?」
グダりそうな空気をペペロンチーノが引き締める。
なにせここは敵地のど真ん中な訳だから、いつまでも悠長なことはしていられない。
しかも、そこへ親交があるとは言え、スパイのようなことをしていた敵側の最高幹部の一人が居るとなれば、事情だけでも知りたいと思うのは当然の事だった。
「・・・話すほどのことではありません。私が下手を打ち、奴に・・・ベリル・ガットに一杯喰わされただけのことです」
「ベリルって・・・え、貴女達って仲間じゃなかったの?」
「・・・・・・仲間?」
ペペロンチーノの尤もな言葉に心底不愉快そうに顔を歪めさせる妖精騎士ベディヴィエールが何かを言おうとして、洞窟内がまるで地震のように微かに揺れ動いた。
「・・・あまり話してる時間は無さそうですね」
「・・・そのようね。取り敢えず、利害の一致ってことで味方と見てもいいかしら?」
「・・・お好きにどうぞ」
空気こそ、初対面のペペロンチーノ相手だった事と妖精騎士ベディヴィエールが仕事モードで無口なのもあって険悪な感じになってしまったが、彼女に立香達を害する意思は無い。
しかし、それを知っているのは当人のみで、ペペロンチーノは表面上は穏やかにしながらも警戒を怠らず、立香達は自身の知っているエールと掛け離れた彼女の姿に戸惑いながらも、一行は地上を目指して洞窟を駆け出した。
◇
そうして通路を抜け出た先に、それは居た。
呻き声を上げ、ただノロノロと彷徨い歩く人の形をしたモース。
百年前、ダーリントンを襲った"厄災"、
「うぁぁ・・・ぁあぁぁ・・・・・・」
「この人たち、身体が腐ってる!? ダーリントンの屍です!」
彼らの存在にいち早く気付いたアルトリアがその正体を口にし、応戦する。
しかし、彼ら
そんな無抵抗な敵を立香たちが殺せる筈も無く。
そんな彼らを見て、この惨劇を作り出した張本人ことベリル・ガットは詰まらなさそうに姿を現した。
「なんだよ、手を出さないのかよ。ガッカリだぜ」
モース人間、と。
彼らをそう呼んだベリルによって、その正体が明かされる。
妖精を脅かすモースの呪い。それを人間に移したことで誕生した、あまりに非人道的な生物。
生きながら死に。
死にながら生きている。
素体が無力な人間なため、生きるのが苦し過ぎて、近くにいる者に助けを求めることしかできず・・・けれども、置き土産としてはあまりに最適な存在だった。
頑丈でなければ、生命力が高い訳でもない。
ただ無抵抗に殺されるだけのか弱い存在というのは、その精神が善性に近い者ほど効果的に作用する。
そんな厄介な代物を残してトンズラこいたベリルを、立香は迷う。
追い掛けるべきか、モース人間を助けるべきか。
しかし、そこは年長者のペペロンチーノに諭され、未だ自分たちの安全を確保出来ていない状況もあって、急いでベリルを追い掛ける。
そうして出た先は聖堂の中。
地上へ出るには一番端の通路を取らなければならないが・・・。
「っ!? 戻りなさい! 階段に戻って!」
突然、ペペロンチーノに蹴り飛ばれ、扉が閉められた。
「ぺぺさん!?」
「―――ふぅ、あっぶない。ギリギリ間に合ったわぁ」
扉の先から聞こえるのは、心底安堵したような声。
心配と蹴ったことによる謝罪。そして、驚く立香たちへ、部屋に散布されてる毒ガスをなんとかするためにガスの元栓を締めてくるからと、そこで待っているように伝える。
「大丈夫。私は
「
「んー、3分って所かしら。疲れてなければ、もっと早いのに。・・・立香ちゃん、マシュちゃん。それまで、私を信じて待ってられる?」
おどけた口調に反して、伝わって来る漢の覚悟。
全てが、こちらを安心させるための優しい嘘だと気付いた立香は、それでも・・・いや、だからこそ。
彼女の決意を、信じることにした。
「―――もちろん、待ってる」
「・・・ありがとう。じゃ、ひと仕事終わらせて―――」
「カッコつけてるとこ悪いんですけど、貴女も早く引っ込んでくれませんかね?」
「ぇ―――きゃっ!?」
そこへ、冷え切った声が横入りしたかと思えば、立香達を隔てていた扉が切り刻まれ、外からペペロンチーノが蹴り飛ばされて来た。
そして、見える扉の外。そこには夥しい数のモース人間が、聖堂の広場を埋め尽くしていた。
「なっ・・・!? これは・・・!」
「ちょ、何すんのよ!?」
ペペロンチーノが何を受け持とうとしていたのか、想像するより悲惨な現実を目の当たりにし、絶句する立香たち。
そして、折角の見せ場を台無しにされ、尻餅を
「わ、私達も・・・!」
彼女が今から何をしようとしているのか、容易に想像出来た立香たちは、こんなものを見せられて黙っていられるはずも無く、加勢しようとする。
しかし・・・。
「引っ込んでいろというのが聞こえなかったのですか? この英雄譚でも読んで静かにしてて下さい。気が散るので」
「え!? お、重っ・・・!?」
何処から取り出したのか、こちらへ投げて来た六法全書のような本によって制される。
何これ、とパラパラと捲ってみれば、そこには目が痛くなるほどビッシリと書き込まれた活字の数々。
それがただの時間稼ぎの名目だというのは明らかで、仮にも敵だと言うのにこちらを気遣う行動に困惑していると、その見当違いな考えを正すかのようにベディヴィエールが抜剣した。
「・・・勘違いしないで下さい。例え、妖精であろうと人間であろうと、関係ありません。アレらがモースであるなら、それを退治するは我ら妖精騎士の仕事。この妖精國を千年守って来た守護者の力を、あまり見くびらないで頂きたい」
「違う、そうじゃないわ!」
「・・・まだ何か?」
決まった、と内心浸っていた所に水を差されたものだから、アホが不機嫌そうにペペロンチーノを睨む。
なんだ、さっきの仕返しか? お、やんのか? といった具合に、機嫌が悪いのも相俟って殺意マシマシで。
でもそんな殺意なんて華麗に受け流し、ペペロンチーノは自身が見抜いた彼らモース人間の特性を口にした。
「そいつらは、殺した相手に呪いを移すわ! それを一人で受け持ったら、例え
「・・・・・・はぁぁ」
それを、心底どうでも良さそうに。
そんな事でわざわざ人の見せ場を取るなと言いたげに。
妖精騎士ベディヴィエールは溜め息を吐いて、背を向ける。
なんせ、アレらの特性については百も承知だから。
先程、立香たちが見逃したモースをこの手で皆殺しにして来たばかりなのだから。
「・・・それなら、貴女はどうするつもりだったんですか?」
「そ、それは・・・!」
「どうせ自己犠牲よろしく、全部自分だけで背負おうとか思ってたんでしょ。そういうの、ホント要らないんで」
「なっ・・・!?」
あまりにハッキリと切り捨てられたものだから、流石のペペロンチーノと言えど、絶句してしまう。
そんな彼女に言うことはもう無いとばかりに、抜剣した二本の剣を腰の辺りで左右に構える。
「それに・・・私も、あの男にはいい加減頭に来てるんですよ。知らぬ間に城の中で好き放題されるわ、人の妄想に割り込んで来るわ、挙句の果てには英雄様のあんな出来の悪い偽物まで見せられて、おまけにモース人間とか言う巫山戯た実験までしていただぁ・・・? やりたい放題にも程があるだろうが。人が記憶失って不在の間に好き放題しやがって。ただぶっ殺すだけじゃ足りねぇ。ケツの穴ぶっ刺して、内蔵引っ掻き回して、全身余すことなく斬り刻んだ後に、肉団子にして大穴に放り投げてやる・・・! マジで覚悟しろよベリル・ガット! 誰のモノに手ぇ出したか、その魂にまで刻み込んでやらぁッッ!!」
「え、エーちゃん・・・?」
突然豹変したベディヴィエールに立香が戸惑いの声を上げると、彼女は首だけ振り返ってニッコリと微笑んだ。
「そういう訳なので、そこで大人しくしてて下さい。分かりましたね?」
「あ、はい」
眼帯をしていない全く笑ってない片目に、これ以上呼び止めたらこっちに矛先向くわ、と察した立香たちは、ただそう返事をするしか無かった。
ペペさん、生存ルート。