【完結】チート転生者かと思ったが特にそんなことは無く、森に引き籠もってたら王様にスカウトされた 作:榊 樹
元々、遠距離からとは言え、千年以上もモース退治を続けてきたこともあり、モース人間の処理は数分と経たずに終わった。
悲鳴を上げることも無く、跡形もなく消滅したモース人間。後に残ったのは静寂に包まれた聖堂と、その中心で静かに佇む妖精騎士ベディヴィエールのみ。
無抵抗の敵を相手にしていたとは言え、一切触れることなく、時には魔力の斬撃を飛ばして次々と斬り刻んでいく姿は素人目に見ても洗練されており、妖精騎士の名に恥じぬ力を示した彼女に、立香達は呆然としていた。
「・・・ふん、所詮こんなもの―――ごふぅッ!」
「エーちゃん!?」
しかし、振り向いた妖精騎士ベディヴィエールが、攻撃を受けた様子も無いのに突然血を吐き出し、立香が悲鳴に近い声を上げる。
だが、膝を突く彼女に先に駆け寄ったのはペペロンチーノであり、様態を見て顔を青くした。
「ちょ、貴女、全然大丈夫じゃないじゃないの! めちゃくちゃ効いてるじゃない!」
「・・・は、はぁ? ま、全く、問題ありませんがぁ? か、勘違いしないでください。こ、これは、アレです。今朝飲んだ、ト、トマトジュース・・・です・・・かふっ」
「私が血の匂いを間違える訳無いでしょ! いいから、無理しないで!」
「いや、ホント違います。全然、無理なんかしてませんし。だって、妖精騎士ですよ。こ、この程度で、音を上げるとか・・・。・・・・・・さ、流石に数百人分は・・・キツかったか・・・」
「丸聞こえなんですけど! 」
なんやかんやで、痩せ我慢していたことが発覚したアホをペペロンチーノが背負い、出口を目指すことになった一行。
「降ーろーせー・・・!」と覇気の欠片も感じられない抗議の声を、ペペロンチーノが「はいはい」と聞き流し、漸く出口が見えた所に・・・それは居た。
「おいおい、なんで無事に辿り着いてんだ!? どうなってんだよ一体!? 一人か二人は減ってるもんだろ!? なにより、立香―――あ?」
唖然、そして驚愕。
世界を救った最後のマスターが、あのモース人間を倒したにも関わらず、平然としていたことへの身勝手な怒りが、ベリルを襲う。
立香たちからしてみれば、テメェ巫山戯んなと言ってやりたくなる程に理不尽なベリルの怒りは、けれどもペペロンチーノの背に背負われ、苦しそうにしながらもこちらを睨む見知った顔によって虚しく消えていった。
「・・・おい、おいおいおい・・・嘘だろ・・・」
表情が消え、青褪める。
何があったのか、何をしたのか。
それを理解してしまったから。
「・・・あー、そう・・・そういうこと・・・。それがお前達のやり方って訳ね・・・」
「・・・?」
「・・・見損なったよ、後輩」
先程までの
底冷えするような声と共に、ベリルの体が異形のモノへと変貌していく。
「―――アァ。―――ハァァアァ・・・。やっぱ、お前にマシュは相応しくねぇよ。悪いが他の連中は、ここで退場だ・・・」
「ウッドワス・・・! アレは"牙の氏族"、ウッドワスの霊基です・・・!」
「―――は?」
ウッドワス。
排熱大公と謳われ、その名に恥じぬ圧倒的な力で持って立香たちを全滅寸前まで追い込んだ強敵の名。
アルトリアの言葉に、誰もが予想外の事態に混乱する中で、ペペロンチーノの背中に居た彼女が目を見開き、瞬きすることなくベリルを凝視していた。
その目に宿るのは、何処までも純粋な―――怒りだった。
「・・・元々こういう家系でね。送り狼には気を付けろって、教わらなかっ―――おぐっふぉ!!?」
「・・・・・・え?」
吹き飛んだ。
偽物であったとしても、霊基の出力が本物に劣っていたとしても。
仮にもあの排熱大公の力を宿したベリル・ガットが、目にも止まらぬ速さで壁に激突した。
「ぐ、うぉ・・・なにが・・・?」
砂埃から、罅の入った壁を背に状況が理解出来ていないベリルが現れる。
その姿は既に黒いウッドワスのものになっていたため、ダメージこそなかったが、精神的動揺はかなりのものだった。
なにせ、ウッドワスである。
ロートルと嘲りつつも、その強さを間近で見たベリルにとって、まさか初手で吹き飛ばされるなんて思いもしなかった。
誰がこんな舐めた真似をしやがったと、イラ付きながらもついさっきまで自分が居た場所を見れば・・・。
そこにはペペロンチーノに背負われていた筈の妖精騎士ベディヴィエールが、足を蹴り抜いた姿勢のまま静止していた。
「・・・ホンッット、
ゆっくりと、振り抜いた足を下ろし、剣を抜く。
モース人間を倒した時と同じように、弓にすることはなく、剣の状態で魔力の刃が形成される。
だが形成され、ベリルへと向けたその刃は、まるで―――。
「ベリル・ガット、陛下の國を弄んだ大罪人よ。身の程を弁えず、
―――モースのように、黒く澱んでいた。
次回、ベリル死す!